From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授
この連休の間に完成させようと思っています。
小説といっても、一風変わっていて、ふつうの小説のように個人どうしのかかわりの展開がストーリーの中心になっているというよりは(それもあるのですが)、一対の男女のモノローグを交替で進行させながら、そこに、近年の政治・経済・社会問題を織り込んでいくという形を取っています。中に、LGBT問題をはじめとした、ポリコレブームについて、ふたりの主人公が会話を交わす場面があります。
今回、その部分を取り出してここに転載します。*************************************それから私たちは、お茶を飲みながらLGBTやセクハラについて話した。
「LGBTが騒がれるのって、権力を倒したいサヨク勢力が、マイノリティをそのための道具として利用している面もあるって前に言ったよね。
世界中で、こんなに、サベツ、人権って騒がれるのって、それを受け入れるマジョリティの側の心理にも原因があると思うんだ」
「ポリコレってやつね」
「そう、これこそが政治的に正しい原則だって固執して、あらゆるところにサベツやセクハラの兆候を嗅ぎだしては、レッテル貼りをする傾向」
「わたしも、男の人が女の人に何か言うと、いちいちセクハラ、セクハラって騒ぎ立てるのって、男の人が委縮しちゃって、よくないんじゃないかしらって思ってたの。出会いの機会を奪ってるでしょう」
「流行現象みたいになっちゃってるね。
もちろん中には、ほんとにそういうこと言ったりしたりする連中がいることはたしかだけど、一度そういうのがニュースになったりすると、言葉が独り歩きして、どんどん拡散するよね。
それで、ポリコレがこんなにブームになるのも、現代人のほとんどが生きるよりどころをなくしているせいじゃないかと思うんだよ」
「生きるよりどころ?」
「うん。たぶん宗教的な権威が衰えたんで、どこかに『正しさ』の絶対的な基準を立てておかないと、生きていくのに不安で仕方がないんじゃないかな。そうしないと、自分の存在の確かさが確認できない。
そういう下地があるんで、一部の政治勢力が、ポリコレに少しでも引っかかる言動に対して「差別主義」とか「排外主義」のレッテルを貼って、魔女裁判みたいに糾弾する」
「ああ、なるほど。そのことで、自分は『正しい人だ』って確信が得られるわけね」
「うん、そう。すごく脆弱な確信だけどね。
でもそれは裏を返すと、自分たちがリア充の実感を持てないからじゃないか。つまり相手の否定によって、自分がアイデンティティを確保しているかのような気になれる」
「それって、韓国の一部の人たちが何でも反日、反日って騒ぐのと似てるわね」
「ああ、ほんとだね。あの半島には、ずっと大国に挟まれてきたために、もともとそうなってしまう悲しい歴史があるんだよね」
「そういうことを、あの国の人たちってどこまで自覚してるのかしら」
「さあ、あんまり自覚してないから、恨みや被害妄想でいっぱいになっちゃうんじゃないか」
「自分の中身が空虚であることの証拠ね」
「うん。韓国の人がみんなそうだってわけじゃないけどね。
話を戻すと、ポリコレブームを作り出したのは欧米人だよね。その深層意識には、自分の存在の基盤が失われていて、『関係の空虚』を生きてるっていう実態があるような気がする。
だから、これはポリコレ・コードに引っかかるんじゃないか、こんなことを言ったら『差別主義者』とか『排外主義者』とか『セクハラ』呼ばわりされるんじゃないか、と絶えず恐れていなくちゃならない。
しかも、そのことが自覚できないようにさせられているということでもあると思う」
「そこに反権力的な政治団体がつけ込むわけね」
「うん。ただ、ヨーロッパの場合、古くから、宗教対立や他民族の混交の問題があったでしょう。ナチスみたいなこともあったしね。
だから、きっとアイデンティティ不安とか、緊張感とかがすごく強い。それで、反権力団体だけじゃなくて、むしろ中枢権力が、そういう正義の建前を率先して掲げてきたんだと思うのね。
でもいま、イスラム系移民なんかがどっと押し寄せて、かえってその建前が仇になってるんじゃないかな」
「そうね。日本の場合は、そういう緊張感ってないわね。LGBTと普通の人たちって適当に棲み分けてるし」
「イスラム教じゃ、同性愛は死罪だからね。そういう宗教対立がない日本じゃ、LGBT問題なんてそんなに切実じゃないはずなんだけど、なんか、アチラから<問題>として輸入されると、すぐマネするんだよね」
「でも、いま移民受け入れ拡大の方向に向かってるでしょう。そうすると、東南アジアのイスラム系移民が大量に入ってきたら、そういうことも問題になってくるんじゃないかしら。
だって豚肉食べちゃいけないとか、一夫多妻認めてる人たちとの間で摩擦が起きるんじゃない?」
「うん。たしかにこれからはその可能性はあるね。でも日本人はのんきだから、そういうこと、いままで考えてこなかったんだよね」
それから玲子は、じっと思いを巡らすふうにしてから、ひとりごとのように言った。
「正しさとか、正義って何だろう」
哲学者みたいだ。私も同じようなことを考えていたけれど、この疑問に答えを出すことはすごく難しい。
「文化によってすごく違うからね。Aの正義、Bの正義、Cの正義がぶつかり合ったりまじりあったりした時に、それが問題になるんだよね。
リベラルな人たちって、特に学者に多いけど、よく『いろんな価値観があっていい。多様性を受け入れるべきだ』なんていうでしょう。でもそれは、自分がそういうぶつかり合いの場面に立たされてないから、そんな軽薄なきれいごとを言っていられるんだと思う」
「ヨーロッパは、それで失敗したのよね」
「そうだね。やっぱり相手の価値観を否定するんじゃなくて、それはそれとして認めた上で、でもこっちにはこっちの価値観があるんだから、お互いに侵入しないで棲み分けられるような境界線をうまく引くことが大事なんじゃないかな」
「それって、国を守るってことに関係ある?」
「大いに関係あるね。日本人は西洋のマネばっかしてないで、むしろヨーロッパの失敗を他山の石として学ぶべきなんだ。でも一向にその気配がない」
「困ったわね」
それきりふたりの間では、言葉が続かなかった。*************************************この会話は、2018年12月4日に行われたものという設定で書かれています。このあと、12月10日に第197臨時国会が終了し、「改正入国管理法」(移民受け入れ拡大法)、「水道法改正」(水道民営化法)、「改正漁業法」(漁協解体法)が、ろくな審議もないままに、矢継ぎ早に国会を通過しました。
平成の最後に至って、国境と国家主権と国民生活を自ら破壊するグローバリズム・ジャパンが完成したのです。
また、12月27日には、ダグラス・マレーの『西洋の自死』(東洋経済新報社)が発行されています。
ここには、ヨーロッパ諸国の中枢が、人道主義的な理想を実現させようとして、移民受け入れを奨励したために、どんなに惨めな結果を引き起こしたかが、赤裸々に語られています。
新しい令和の御代が始まりましたが、私たちは、平成時代に犯した失敗から何とか脱却しなくてはなりません。
しかし現実には、すでに法制度が敷かれてしまったのですから、この失敗の克服は困難を極めるでしょう。
それでも絶望せず、一歩一歩、克服への道を歩みましょう。
令和の政策ピボット
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【小浜逸郎からのお知らせ】
●私と由紀草一氏が主宰する「思想塾・日曜会」の体制が
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一度、以下のURLにアクセスしてみてください。
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「安倍政権の『新自由主義』をどう超えるか」
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「消費増税の是非を問う世論調査を実行せよ」
●『「新」経世済民新聞』
・消費税制度そのものが金融資本主義の歪んだ姿
https://38news.jp/economy/12512
・消費増税に関するフェイクニュースを許すな
https://38news.jp/economy/12559
・先生は「働き方改革」の視野の外
https://38news.jp/economy/12617
・水道民営化に見る安倍政権の正体
https://38news.jp/economy/12751
・みぎひだりで政治を判断する時代の終わり
https://38news.jp/default/12904
・急激な格差社会化が進んだ平成時代
https://38news.jp/economy/12983
・給料が上がらない理由
https://38news.jp/economy/13053
・「自由」は価値ではない
https://38news.jp/economy/13224
・日経記事に見る思考停止のパターン
https://38news.jp/economy/13382
・優れた民間人のほうが主流派経済学者などより
ずっとマシ
https://38news.jp/economy/13506
●『Voice』2019年2月号
「国民生活を脅かす水道民営化
—発行者より—
総理「政権中にこれを破棄できなければ、日本はオシマイ」
三橋貴明と総理との会談時で明かされた真実。
●総理が、三橋との会食をオープンに
(世に公開)してまで国民に伝えたかった事とは…?
●この会食で明らかになった、
私たちの邪魔をする”3つの敵の正体”とは?
●2020年に訪れるかもしれない
日本の危機的状況とは一体何なのか?
日本が発端となり、
2008年のリーマンショックが再来する?
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「安倍総理の告白」と「日本経済2020年危機」
について解説した書籍を出版致しました。
こちらから詳しい内容をご覧ください。
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【小浜逸郎】まもなく小説を完成させますへの6件のコメント
2019年5月2日 8:21 PM
今回の文を読んで小説が楽しみになりました
期待して待ってます!
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2019年5月3日 1:38 AM
アイデンティティの危機
結局その国のアイデンティティって何だろうか?
興味深い話でした。
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2019年5月3日 1:40 AM
先生の小説、楽しみです。表現手段が小説という、「語り」であることも、さらに興味深いです。正しさの説明の記述でないという手法ですね。ますます興味深いです。
自分で読むだけでなく、ある程度ものを考えることのできる友人にも勧めたいです。
ただ・・・最近、とある友人、物理学者(天文学者)の大学教授と男系天皇の話題について議論したのですが、とても残念なことに、彼の話法について、3点ほど本質的齟齬があることが、直後に分かりました。
(自分の経験が小浜先生のなにかに貢献できれば・・・)
一つは、まず政治の問題が、コトであり、モノでないことについての誤解があるようで、先生の小説の話でもきっとくっきり現されるであろう「正しい、正しくない」という、どちらかと言えばモノを扱うときの話と、そもそも政治の原点である「すりあわせ」という姿勢の区別がつかない、という問題です。
自分を論破する正しい案を出せなければダメ、という要求は自分にはお子様に見えてしまい、「政治はすり合わせです」という切り上げにしかなりませんでした。
二つ目は、もっと深刻で、なにかを考えるときに、手段の議論をするのか、目的の話し合いをするのか、ということです。そして、目的(WHY)が定まらない、あるいは共有できていない関係性において、手段(HOW)を議論するのが愚劣なことが分からないのは、手段が目的を上書きしないという原則が身についてない証左、ということです。これにも辟易しました。
もっともモノの学問でしかない自然科学の信奉者にとっては、コトの最たる世界、政治的な課題も単なる仮説にすぎず、証明手段が興味の中心でしかない、のかもしれませんが・・・
なので、「文化は継承と克己」と伝えても反応してもらえない(理解できない)点で、相手として厳しいという点もありました。
でも「自分は論破されないから正しい」と、今でも信じているのでしょう。仕方がありません。
三つ目は、小さなことですが、物理学の教授であるのに、「保守主義の〇〇さんは・・」とか「安倍首相の好きな対案とか無いのか」という、レッテル張りやストローマンのような手法を平気でやってしまうダーディさです。これは劣勢の手段を択ばない討論手法だと考えれば、なんだかもう、余計に残念に思うしかなくなってしまいます。
そもそも、地域土着の関係性よりも、学者同士の国際交流が盛んのようすであり、つまりはインテリ階層の結びつきからコスモポリタン的視座であろうことはうかがえるので、
「安倍?安倍首相はインテリに閉じた階層主義者で浅はかな左翼かつ権威主義者であり、国家国民と同義の民主主義を信じる自分のような人間には、理解できない」とは言えましたが、あなたも構造的にそれと同類ですね、とはまでは、伝えられませんでした。
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2019年5月3日 9:37 PM
国民 共生
1%の upper いわゆる 上級国民
いだの某 りんぽう某 ちぢもと某 の 特殊国民
上級奴隷 下級奴隷 の 一般国民
そして
特殊奴隷 移民という名の 国民予備軍
さまざまな 国民の坩堝
日本って とてもとても 素敵な
国家ですね ♪
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