From 藤井聡@京都大学大学院教授
先週は、本紙にて『内閣支持率の急落は、「反緊縮」を求める国民の声でもある。』を配信しましたが、
https://38news.jp/economy/10768
同内容について改めてブルームバーグ紙より取材があり、それをご紹介いただく形で下記のような記事が配信されました。
『安倍政権の支持率低迷で積極財政求める声-財政再建とのジレンマも』
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-12/OSYMMQ6KLVR501
(英語はこちら https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-07-12/talk-of-looser-fiscal-policy-grows-within-japan-s-ruling-party)
冒頭の見出しには、「財政拡大は国民の評価得て支持率回復につながる-藤井内閣官房参与」とも記載いただき、下記のように記事が纏められています。
「内閣官房参与の藤井聡京都大学大学院教授は10日の取材で「財政拡大は必ず国民の評価を得る。景気の回復を通して結果的に支持率回復にもつながっていく」と主張した。10兆円超の大型経済対策が「効果的だ」とし、補正予算の必要性を指摘。財源は国債発行で補うとの考えを示した。」
ここで重要なのは、今の日本経済が、大変に厳しい状況にあり、「再デフレ化」の道を歩み始めている、という状況認識です。
例えば、下記記事「「再デフレ化」につき進む日本:専門家達の「デマ」に騙されるな!」でも記述しましたが―――
https://38news.jp/economy/10509
メディア上では、「GDP1─3月期年率+2 .2%、5期連続のプラス成長」「コラム:アベノミクス景気、いざなみ超えは可能か=岩下真理氏」等と、まさに「景気の良い話」の報道が繰り返されていますが、それは完全なる間違い。
そもそも、景気判断を「実質成長率」だけを見て行うから、こうした間違った判断が下されるのであり、それ以外の尺度である「名目成長率」や「デフレータ(物価)」に着目すれば、今の景気は大変に厳しい状況であることがクッキリと浮かび上がります。
なんと言っても、現状は、最新の統計によれば、名目成長率もデフレータ(物価)も共に下落中だからです。これで景気が良いと判断できるはずもありません。ただ、両者の落ち込みを比べると、デフレータ(物価)の落ち込みの方が激しいから、結果的に「実質成長率がプラス」になってしまったに過ぎないのです。
だから支持率が高かろうが低かろうが、とにかく、大型の景気対策が必要な状況にある――という現状認識が、上記のような筆者の主張のベースにあるわけです。
支持率の回復は、あくまでも「副次的な意味」を持つに過ぎません。実際、インタビューにおいても当方は、「景気の回復を通して結果的に支持率回復にもつながっていく」と主張したに過ぎないのです。
ところでこの記事では、筆者のこの主張と同方向の動きとして、次のような与党内の動きも報告されています。
「積極財政を求める意見は自民党の若手議員からも出ている。衆院2回生らによる「日本の未来を考える勉強会」は5日、萩生田光一官房副長官に財政拡張を求める提言を提出し、消費増税凍結か税率5%への引き下げ、20年度基礎的財政収支(PB)黒字化目標撤廃などを求めた。
同会呼び掛け人代表の安藤裕衆院議員は7日の取材で「まだデフレから抜けきっていない。今は積極財政の時期だ」と語り、国債を財源に10兆円規模の補正予算を編成する必要性を訴えた。」
この主張で画期的なのは、消費税の「税率5%への引き下げ」が主張されていること。ここまで経済状況が悪ければ、筆者もまた、単なる消費税増税の「凍結」だけでなく、「5%への減税」論もまた、大いに賛同するところです。
それは決して政治的に不可能なことでも何でもなく、ただ政治決断がなされれば、それが可能となるからです。
しかし―――この記事では、上記のような動きを疑問視する専門家の声も紹介されています。
それは、「景気も良く理由付け難しく、「財源もない」-第一生命・星野氏」というもの。
以下、紹介いたしましょう。
「足元の景気状況は悪くはない。1-3月期の実質国内総生産(GDP)は、輸出が堅調な中で消費が持ち直し、5期連続のプラス成長となった。5期連続はリーマンショック前の06年4-6月期以来約11年ぶりだ。3日発表の日銀短観(6月調査)の大企業・製造業の業況判断指数(DI)も3期連続で改善した。
第一生命経済研究所の星野卓也副主任エコノミストは6日の取材で、「景気も良い状況。財政出動の理由付けが難しい」と述べ、補正予算を編成しても前年の経済対策の剥落による影響を抑える程度のインパクトにとどまるとの見通しを示した。人手不足の状況で、公共投資の上積みはしづらいこともあり、「大規模にするにしてもやることがない。効果が見込みにくい」と指摘した。
財源も悩みの種だ。財務省が5日公表した16年度決算概要によると、税収総額は7年ぶりに前年度を下回り、補正予算の財源に充てられる純剰余金は3782億円にとどまった。国債発行に頼らざるを得ないとの見方もあり、財政健全化は遠のく。
第一生命経済研究所の星野氏は「財源がない。財政健全化の中間目標も来年には控えている。そこにジレンマがある」と述べた。国債費の使い残しなど、今年度予算の不用額1兆円弱を想定しても補正予算の規模は「3兆出すのもしんどい」とし、前年度第2次補正(3兆2869億円)を下回るとの見通しを示した。
政府は財政健全化のため、20年度までの基礎的財政収支(PB)の黒字化を掲げる。中間目標として、18年度に収支の赤字を国内総生産(GDP)比で1%程度に抑える方針も示している。自民党内には、財政規律を重んじる意見もある。
「日本の政治が一番やらなければいけないことは財政と金融の立て直しだ」と自民党の村上誠一郎元行政改革担当相は強調する。「財政も金融も社会保障も全部、次世代へのツケでやっている」とし、安倍政権が消費税率引き上げを2度にわたり延期したことを「何も分かっていない」と批判した。」
以上の筆者らの主張に対する反対論に対する、筆者の再反論は、以下の通りです。
(1)景気が良い、というが景気は実際は悪い(詳細は先に述べましたので、ここでは繰り返しません)
(2)公共投資の人手不足と言われるが、客観データを見れば、不足状況はおおむね解消しつつある(例えば、こちらの記事を参照
http://www.garbagenews.net/archives/2155784.html)
(3)財源はない、大型補正は無理、というが、デフレ脱却期においては「プライマリーバランス制約」を考慮しなければ、国債を発行すれば、十二分以上の財源を確保できる。(詳細は、こちらを参照。 https://www.amazon.co.jp/dp/4594077323)
以上の藤井からの反論は、これまで様々なところで繰り返し指摘してきたところですが、まだまだ、エコノミスト、メディア、政界官界、そして世論に浸透していないのが現状の様です。だとするなら、これからも繰り返し主張し続けていく他、ありません。
そしてその上で、「消費税5%への減税」も見据えた、大型景気対策の断行を議論していく他に、我が国のデフレを完全に終わらせ、日本の後進国化(https://38news.jp/economy/07893)を防ぐ道はありません。
我が国を護るためにも、イメージではなく、客観的な事実に基づく、適正、構成な議論が展開されんことを、心から祈念いたします。
PS 必要な経済対策についてはこちらを、
https://goo.gl/xkQukg
そのために求められる財政規律のあり方についてはこちらをご参照ください。
https://www.amazon.co.jp/dp/4594077323)
【藤井聡】日本の再デフレ化を防ぐために、「5%への消費減税」を見据えた大型経済対策をへの3件のコメント
2017年7月18日 2:18 PM
緊縮派って、法学者ばっかりやねんけど…..何で?
私が物作りにこだわるには理由が御座います。
それは物作りをする人は全て工学者(理数系)であり現実的未来を常に考えているからです。
例えば、米を作るのは来年の食料の為に今を生きています。今生きているのは去年に作った米があるからです。(歴史の積み重ね)しかしながら今米を作っているからと行って米が出来る保証はありません。干ばつ、台風、病気、様々な不確実性がそこに存在しています。それを現実的に乗り越えようと常に考え、戦っているのが現場の物作りをしている人たちです。ファンタジーの世界で生きていません。
しかし法学者は今ある法の中だけで生きています。謂わば今しか考えられない生き物なのです。つまり今ある米をどれだけ長く維持出来るかを考えているのです。
別に悪い事では無いのですがバランスの問題です。未来ばかり考えれば今を疎かに考える危険性もあり、今ばかり考えれば未来が疎かになります。しかし、現状を見ると政治家、学者、コメンテイターなど、法学、経済学、など文系ばかりです!又昨今、日本の産業構造も物作りが減少する事により、現実的未来を考える国民が減少し、その結果ポピリズム政治が台頭する羽目になった事で一段と日本の未来を考える能力が減少し、日本の未来が破滅に……そして!一番の輩が!根本的に物作りを知らないボンクラが『今あるものを壊せば新しいものが出来るんだ』とファンタジーの中で生きている人々です!
政治家の皆様、お願いです。かけ算は入りません。足し算だけ覚えてくださいます様、心からお願い申し上げます。
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2017年8月1日 7:20 AM
[…] しかし、これはあくまでも「実質」GDPの成長率だけに基づく論調。しかもこのプラス成長は、このとき0.6%(年率で言えば実に2.4%!)も、「物価」(デフレータ)が下落した帰結として得られた「単なる見せかけだけ」の数字だったことは、これまでに何度も指摘してきた通りです。 (例えば、https://38news.jp/economy/10796) […]
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