日本経済

2017年5月23日

【藤井聡】「再デフレ化」につき進む日本:専門家達の「デマ」に騙されるな!

From 藤井聡@内閣官房参与(京都大学大学院教授)

(1)アベノミクス景気、いざなみ超え?
先週は、政府から最新のマクロ経済統計が公表され、それを受けて、次の様な見出しの記事がメディア上で踊りました。

「GDP1─3月期年率+2 .2%、5期連続のプラス成長」
http://jp.reuters.com/article/gdp-4q-idJPKCN18E01O?il=0

さらには、エコノミストの中にはこんな事を言う方も居られるようです。
「コラム:アベノミクス景気、いざなみ超えは可能か=岩下真理氏」
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-mari-iwashita-idJPKCN18E0UO

この中で岩下氏は、「2018年をうまく乗り切ることができれば、アベノミクス景気が戦後最長となるのも決して夢ではない。」と極めて楽観的な見通しを専門家の立場から表明しています。その根拠となっているのもはやり、「5期連続プラス成長」という上記のポイント。彼女曰く、「約11年ぶりの快挙」だそうです。

こういう記事を見ると、なんだか日本経済は、とても調子がいいように思えてきます。結果、もう去年やったような大型景気対策なんて何もいらない、という風に思えてきます。

ですが残念ながら、そういう印象は完全な間違いです。

なぜそれが「間違い」なのか、そしてなぜそんな「間違い」を経済紙からエコノミストまで冒しているのかといえば、日本には「実質GDP成長率」で景気動向を見るのが当たり前だという「常識」があるからです。

以下、その点を説明いたしましょう。

(2)エコノミストたちの常識が間違えている
GDPというのは、「実質」と「名目」があります。その成長率である「名目成長率」と「実質成長率」は、物価の変動を示す「デフレータ」変化率と呼ばれる数値分だけ、ズレています。つまり、

  名目成長率=実質成長率+デフレータ変化率   (式1)

これはつまり、「名目成長した分は、実質成長と物価上昇の両者に配分されている」と解釈することができます。あるいは、次のように変形することもできます。

  実質成長率=名目成長率―デフレータ変化率   (式2)

つまり「実質の成長率は、名目成長率から物価上昇分を差し引いたものだ」と解釈できます。別の言い方をすると、実質成長率というのは、名目成長率を物価変動を加味して調整したものだ、というものです。

いずれにせよ「言葉」のイメージから言って、「名目」というと単なる見かけだけのもので、「実質」の方が本質的だ、という印象を持つのは当然でしょう。だから、景気動向を図るのには、「実質」の成長率こそが相応しく、「名目」の成長率なんて見る必要はない、というのが「常識」になっています。実際、ロイター記事も、岩下記事もその「常識」に基づいて書かれています。

たしかにこの「常識」は、物価が上昇していく「インフレ」の時には正しい認識です。

しかし、物価が下落していく「デフレ」の時には、まったく間違った認識なのです!

そもそも、デフレの時には、物価は下がっています。これはつまり、デフレータの変化率が「マイナスだ」ということです。

そして、(式2)に示したように、実質成長率は、名目成長率から「デフレータ変化率」を差し引いて求めますから、この差し引くものである「デフレータ変化率」が「マイナス」であれば、「プラス」になってしまうのです!

つまり、デフレの時には、デフレが激しく進行すればするほどに、実質成長率は大きくなっていくのです!!

(3)物価下落中のデフレ下では、「実質成長率」は景気判断に使えない!
・・・少しややこしいかもしれませんね。例を使って説明しましょう。

最新のGDP統計では、

『名目成長率はマイナス0.03%』

つまり、私たちの額面上の給料は「減って」いたのです!物価はどうだったかというと、

『デフレータ変化率はマイナス0.56%』

つまり、「物価は下落」していたのです!要するにこの二つの指標を見れば、我が国経済は、かなり最悪の状態になりつつある、つまり「再デフレ化しつつある」ということが明確に見えてくることになります。

ですが「実質成長率」がどうなるかと言えば( (式1)で説明したように )、

『実質成長率=名目成長率―デフレータ変化率』

ですから、

実質成長率 = -0.03%-(-0.56%)

となって、

『プラス0.53%』

となるのです!これが、ロイターで「プラス0.5%成長!」と報道されていた数字の実態なのです。

つまり、給料の額面も減ってるし物価も下がってるけど、物価の下がり方の方が激しいから、「見かけ上」0.5%も実質成長しているように見えている、というだけのことなのです!

・・・ただし中には、「いやぁ、物価が下がってたくさんモノが買える様になったんだから、いいじゃないか」という人も居るでしょう。これは典型的な「デフレは有り難い論」なのですが、これは完全な間違い。なぜなら、物価が下がれば、企業収益は確実に下落し、消費も投資も冷え込むのからです!そうなると、人々や会社の「貯蓄率」はさらに上がり、さらに激しく、消費と投資が冷え込むという最悪の悪循環となるのです!

実際、こちらのグラフをご覧ください。

https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1052967254804217&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=3&theater

ご覧の様に、名目成長率もデフレータ(物価)も、消費増税以後、急激に下落していることがわかります。それでも去年までは何とか、少なくとも一方は「プラス」という状況を保ってきたのですが――遂に今年に入って、両者ともに「マイナス」の領域に入ってしまったのです!

上のグラフは、四半期データを用いたものですが、年次データを用いてもう少し長期で見ると、そのトレンドがさらにハッキリと分かります。

https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1054922897941986&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=3&theater

折角、2011年から景気はよくなり、名目成長率もデフレータ(物価)も上がってきていたのですが、2013年の消費増税以後、その伸びは「鈍化」し、「下落」し始めたことが明確に分かります。

ちなみに、「実質成長率」を見てると、あまりそのトレンドは明確ではありません。景気が良くなって物価が上がると下がり、景気が悪くなって物価が下がると上がる、という「実質成長率」は景気に逆行した振る舞いをするからです。だからやはり、物価が下落するデフレ下では、実質成長率は景気判断には使えないのです。

(※ というよりもより正確に言うなら、デフレであろうがインフレであろうが、景気は名目成長率、実質成長率、デフレータ変化率の三者で常に判断する必要があるのです)

(4)当初予算の拡充と大規模な補正予算の断行を

この様に、これまでのエコノミストの常識に囚われて、何も考えずに漫然とデータを見ていれば、景気判断を見誤るのです。それがロイター記事であり、岩下記事だったのであり、そうした記事が今、メディア、ネット上を駆け巡っています。

これは大変に危険な状況です。

そもそも当方は、2016年頃、こうした危機的な経済状況が訪れることを、かねてから繰り返し主張して参りました。例えば・・・

『やはり実在、幻の秘技「消費税・三年殺し」』
https://38news.jp/economy/07999

特に、『経済対策「20兆円」の実証的根拠~「負債」こそが成長の源泉である』で紹介したデータから見れば、今日の状況は以前から明確かつ容易に予期される状況でした。
http://www.mag2.com/p/money/18814/2

この記事の中ではまず、下記の「ネットの資金需要」のグラフを紹介。

https://www.facebook.com/photo.php?fbid=825161460918132&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=3&theater

このグラフは要するに、政府と民間がどれだけ「カネを借りて使ったのか」を示すものですが、このグラフからは、「政府も民間も今、貯金(=PB改善)ばかりしていて、カネを使っていない、ついに2015年からは過剰貯蓄状態(=官民のPBが黒字化=カネを使わず、貯金してばかりの状態)となった!」という状況が明確に読み取れます。

当方はこのグラフを見て、一年前から、超大型景気対策をやらねば景気は確実に後退する、と主張していたのですが。。。残念ながら実際にそうなってしまいました。

もちろん、政府は景気対策をしてはいますが、そもそも、「真水」の支出が小ぶりで、あれでは十分ではない、と申し上げてきましたが、実際その事が今、内閣府のマクロ統計データで「証明」される恰好となってしまいました。

ほとんど誰も気付いていない、静かに進行するこの「再デフレ化」――この恐ろしい現実を冷静に認識し、阻止し、デフレ脱却を果たすためにも、大規模な補正予算編成と当初予算の拡充が今、強く求められています。

政府の英断を心より祈念いたしたいと思います。

追伸1:この度出版した『プライマリーバランス亡国論 ~日本を滅ぼす「国の借金」を巡るウソ~』では、ここで論じた内容をさらに詳しく論じています。日本を救うためにも――ぜひ、ご一読ください。
https://www.amazon.co.jp/dp/4594077323

追伸2:「プライマリーバランス問題」について、三橋さんとたっぷりと対談いたしました。ご関心の方は是非、下記ページをご参照ください。
http://www.38news.jp/sp/amazoncp_fujii/index.php

関連記事

日本経済

【三橋貴明】国を家計に例えるのはやめよう

日本経済

【三橋貴明】国難をもたらしたのは、誰なのか?

日本経済

【藤井聡】内閣府データが示す、10~15兆円規模の大型補正予算の必要性

日本経済

【三橋貴明】失われた30年が確定的になった年

日本経済

【三橋貴明】デフレとの戦い

【藤井聡】「再デフレ化」につき進む日本:専門家達の「デマ」に騙されるな!への4件のコメント

  1. たかゆき より

    デフレを 楽しむ♪

    あるいは
    デフレで 儲ける方々は
    己の尾を食む ウロボロスを連想させます。。。

    死と再生の象徴のようですが、、
    この国も死を経験しなければ 再生は望めないのかも、、、

    神社庁のポスターの文言
    「私、日本人でよかった」 が

    ワタシ ニホン シン テ ’’ ヨカッタ 
    (ホッペに五星紅旗の支那女)に
    見えてしまう 今日この頃なのだ ♪

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

  2. 網走のじいちゃん より

    藤井先生のお話を聞いて、安倍首相はじめ上層部の方々はなぜ理解できないのか、理解できませんね。そういえば中野剛志先生が講義する勉強会にも参加していましたが、効果はありませんでしたね。
    頭が絶望的に悪いのか、わざと日本を貶めているのか。

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

  3. 日本晴れ より

    藤井先生がずっと指摘してた。消費税増税による影響は単年度じゃなくて徐々に影響が出て来るって指摘が正に1-3月期のGDPに出たと思います。実質はプラスだけど名目ではマイナスっていうのは
    正にそうだと思いますし、この失われた20年は正にこれだと思います。安倍総理には財政出動とともにPBという愚かな基準は止めてもらいたいと思います。

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です

名前

メールアドレス

ウェブサイト

コメント

メルマガ会員登録はこちら

まだデータがありません。

累計ランキング

  1. 1

    1

    【藤井聡】大阪都構想:知っていてほしい7つの事実

  2. 2

    2

    【藤井聡】「公明党・大阪市議団が日本を破壊する」というリスク...

  3. 3

    3

    【藤井聡】「橋下入閣」は、日本に巨大被害をもたらします。

  4. 4

    4

    【三橋貴明】人間の屑たち

  5. 5

    5

    【藤井聡】「日本が再び、被爆国となる」という、今そこに在る危...

最新記事

  1. コラム

    【上島嘉郎】西郷どんってどんな人

  2. 日本経済

    【島倉原】緊縮財政が招いた製造業の綻び

  3. 政治

    【佐藤健志】天高く総崩れの秋

  4. 日本経済

    【藤井聡】クルマを捨ててこそ地方は甦る

  5. 日本経済

    【三橋貴明】財務省が日本を滅ぼす」刊行間近!

  6. 日本経済

    【三橋貴明】道州制

  7. 日本経済

    【青木泰樹】国債発行は将来世代の負担ではない

  8. 日本経済

    【施光恒】国民経済を重視したエコノミストの迫力

  9. 日本経済

    【小浜逸郎】日本からはもうノーベル賞受賞者は出ない?

  10. 日本経済

    【佐藤健志】感情的貨幣論と風水的財政政策

MORE

タグクラウド