政治

日本経済

2017年7月11日

【藤井聡】内閣支持率の急落は、「反緊縮」を求める国民の声でもある。

From 藤井聡@京都大学大学院教授

(1)内閣支持率の下落の背景に、不景気がある

今、内閣支持率が急落し、30%代前半の水準に達しています。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-10/OSUQM26S972801

その背景にはもちろん、森友・加計学園問題や、
自民党議員や内閣メンバー達の度重なる失言やスキャンダル、
そしてそれらを受けた都議選惨敗があることは間違いありません。

しかし、今回の支持率下落は、そうした「短期要因」だけでなく「長期的なトレンド要因」が、
ボディーブローのように大きく効いていることを見逃してはなりません。

もし仮に今の日本で完全にデフレが終わり、
ここ数か年間、実質的な「賃金」も国内の「投資」も増え、
「消費」も企業「業績」も皆上向きになるという、
好景気のインフレ状況が訪れていたとするなら、
世論状況は今とは全く違うものとなっていたことは間違いありません。

何といっても、「失われた20年」の中で、
「日本にはもう、ホントの好景気なんて訪れやしないだろう」という危惧を
潜在的に抱き始めた今の日本で、「本物の希望」を国民に見せることができるのですからーーー。

(2)「戦後三番目に長い好景気」は、見せかけのものである

しかし、どういうわけか日経新聞では「アベノミクス景気、戦後3位の52カ月」と報道され、
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO14972180W7A400C1MM8000/

先月開催された政府の有識者研究会でも
「2012年12月(第二次安倍内閣誕生時)に日本経済は景気回復を始め、
今月までで4年7か月にわたって回復を続けている・・・
このアベノミクス景気は戦後三番目だ。」という結果をとりまとめています。
https://www3.nhk.or.jp/news/business_tokushu/2017_0622.html

とはいえこうした報道を受けて、「確かに今は素晴らしい好景気だ!」と
納得する国民はほとんどいないでしょう。

何といっても、この5年近くの景気拡大期に、GDPも実質消費は伸び悩み、
賃金に至ってはトータルで「マイナス」になってるんですから無理もありません。
https://www3.nhk.or.jp/news/business_tokushu/2017_0622.html

なぜこういう「違和感」ある景気判断がなされているのかといえば、
それは、消費や賃金でなく、単に「実質GDPの成長率」によって
景気が判断されてしまっているからです。

そもそも「実質GDPの成長率」は、実際上の景気が冷え込んで
物価が下落していけば「上がる」代物

つまり、(少なくともデフレ下では)本当の景気が冷え込めば冷え込むほどに
「好景気」と判断されてしまい、結果、実感とかい離した景気判断がなされてしまうーー
という次第です。

つまり、今言われている「戦後三番目の好景気」は、
見せかけのものに過ぎないわけです。

(3)「緊縮財政」が景気を後退させ、内閣支持率を凋落させた

ではなぜ、こんなにも経済が低迷しているのかといえばーー
我が国には未だ「プライマリーバランスの2020年度黒字化目標」が存在し、
そのために「2014年の消費税増税」と「政府支出抑制」を軸とした
「緊縮財政」が繰り返されてきたからに他なりません。

そもそも増税前の2013年度には、
10兆円を上回る「大型補正予算」が執行され、
実際に景気は大いに拡大しました。

この時政府は確かに、「緊縮」ではなかったのです。

これが、アベノミクスに対する好印象を世論に与え、
安倍内閣の高い内閣支持率の基盤を形成させたのです。

ところがその翌年から「緊縮」財政が展開され、消費税が増税され、
大型の財政政策は休止されてしまいました。

ただしその間もしばらくは、
「アベノミクスに対するファースト・インプレッション(第一印象)」の良さもあり、
内閣支持率は一定水準を保っていました。

しかし緊縮に転じて3年間、一向に実際上の景気が改善しない中、
遂に世論において「アベノミクスによる好景気」という
イメージが消え去ってしまったのです。

これこそ、現在の内閣支持率の急激な下落の重大な背景要因にほかなりません。

今回の内閣支持率の急落はもちろん、
一面において冒頭で言及した加計・森友学園をはじめとした
現内閣・現与党の様々な問題に対する「国民の不満」を意味しているのですが、
もう一面において一向に回復しない日本経済に対する「失望」を意味しているのです。

(4)内閣支持率の急落は「反緊縮」の国民の声である

そして、「緊縮」こそが景気を低迷させている
根源的な原因であるという一点を踏まえるなら、内閣支持率の急落は、
今、全世界の歴史を動かし始めている「反緊縮」(アンチ・オーステリティ)
を求める「日本国民の声」と捉えることもできるのです!

だからこそ、政府が今、支持率下落という現実を
謙虚に受け止めるとするのなら、この「反緊縮の国民の声」に応えるべく、
「2013年の様な10兆円超の大規模財政政策」を
断行することが求められているのです。

安倍内閣の未来は、これができるか否かにかかっているということができるでしょう──
というよりも、デフレ下の日本では、如何なる内閣も
「反緊縮」の姿勢が取れるか否かが、その内閣の安定性を決するのです。

「緊縮」である限り景気は伸び悩み、支持率は下落する一方、
「反緊縮」の積極財政が展開できるなら、景気は回復し、
支持率は安定化していくのです。

繰り返しますが、それこそが、これまでの安倍内閣の高支持率の「秘密」だったのです。

(5)小渕内閣の「反緊縮による高支持率」経験にこそ、ヒントがある。

ただし、「積極財政で高支持率」を経験したのは、
現安倍内閣だけではありません。かの「小渕内閣」もそうでした。

そもそも、支持率が30%を割り込む程に落ち込んだ内閣が、
その後安定的に支持率を回復した事例というのは、ほとんどありません。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/j005.html

しかし、小渕内閣だけは、支持率30%を割り込んだ状態から、
徐々に支持率を回復させ、安定的な支持を得ることに成功したのです。
http://www.crs.or.jp/backno/old/No506/5062.htm

この支持率回復は、「大型補正予算」によって景気が浮揚していったことが原因でした。

小渕内閣は、98年(平成10年)に、景気対策としての大型補正予算を断行。
例えば、補正予算における公共投資は、前年から一気に「5兆円以上」も拡大されました。

その結果、「97年消費増税」という「緊縮財政」によって
低迷していた日経株価平均は上昇し、
まさに大型補正予算の執行が盛んに進められた1999年7月には、
1年9カ月ぶりに18,000円台に到達したのです。
http://www.crs.or.jp/backno/old/No506/5062.htm

それと並行して内閣支持率は上昇。
株価が18,000円台に到達した1999年7月には、
内閣支持率は40%を突破したのです。

そしてその後、 (小渕元総理が他界されるまでの間)高い支持率を保ったのです。

以上の小渕内閣の経験は、2013年のアベノミクスの経験と同様、
「反緊縮の積極財政→景気回復→支持率上昇」というプロセスの存在を、
実証的に示す重要な証拠となっています。

単に、美辞麗句を並べ立てて高い支持率を得ようとするのではなく、
国民の幸福と安寧をただひたすらに希求し、
国民を苦しめる緊縮路線と決別する「反緊縮」の姿勢で
経済対策・財政政策に取り組めば、景気は確実に回復するのです。

そしてそうやって景気が回復できれば、さながら「ご褒美」のように、
内閣は高い国民支持を受けることができるのです。

我が国政府が、本格的な経済対策を熱望する
「反緊縮」の国民の声に真摯に耳を傾け、これまでの緊縮路線と決別し、
2013年のアベノミクスのような、
あるいは小渕政権のような果敢な財政政策が断行されんことを、心から祈念したいと思います。

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【藤井聡】内閣支持率の急落は、「反緊縮」を求める国民の声でもある。への9件のコメント

  1. 神奈川県skatou より

    もしかすると国民、勤労世代、あるいは有権者の一定数は、ことばで理解し選択しているのでなく、もうすこし己の体験からくる肌感覚で観ているのかもしれない、

    いや、高学歴で難解な言葉に抵抗ない方々は、新聞・テレビで高名な先生が用語をたくさん並べて実体験に結びつかない抽象的な結論を出されても、それが定理だと呑み込んで信じてしまう、

    表層的な言論と裏腹に、たしかな世論?というのも、あるのかもしれません。そんな勤労者の肌感覚に直結しうるのが、実質賃金、設備投資動向、かもしれませんですね。
    計算しなくても一人一人がひしひしと感じている。

    小渕内閣、、お亡くなりになったのが日本にとって実に惜しいと思ってました。。。
    感傷的に振り返れば、日本の未来はそんなに簡単に許してもらえなかったのかな、とも思います。もっと祖先の声を聞け、でしょうか。

    もう少し理屈っぽくいえば、まだまだ日本の言語空間は過去からの連続性という意味で、取り戻すべきものがある、宿題が片付いてなかった、ということでしょうか。
    ならば今は?

    もしかすると、憲法改正の結果がどんなにチープでも扉が開く、凍結された歴史が動き出すのならば、許されるのでしょうか。
    すでに我々が、その大きな動きになっているのならば、きっとものの見方も、実に自然に神髄を射る洞察になるのかもしれないかなと。

    藤井先生のご活躍を熱く応援しております。

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  2. 赤城 より

    小渕総理が急逝されなかったらデフレにならず失われた20年どころか10年さえ無かったのかもしれません。
    そう考えると日本の運命は本当に悪い方へ動いたのでしょう。
    急逝が自然死であったならもう不運としか言いようが無い。

    騙された緊縮財政支持の大多数国民も景気回復だけは心底望んでいるでしょうね。

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  3. たかゆき より

    マツリごと は まつり ごと ♪

    政治は祭事、、

    毎日が 楽しく 幸せで カネの使い道に困る
    この国に 生まれてきて 良かった
    日本最高 と
    民草に実感させるのが マツリごとでせうに、、

    あのていどの アタマで 小賢しい面した(失礼)
    悪霊どもが 景気を20年も
    天岩戸に閉じ込めたままで しらんぷり
    (この国の景気は イザナギを 超えたとか アホか)

    どうせ
    総理は 裸 なんですから
    景気を閉じ込めた 岩戸の前で
    神々に心の底から 笑っていただくように
    アメノウズメノミコトに ならって
    裸踊りでも して ミナ ハレ ♪

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  4. 通りすがり より

    今日の某ラジオで田中秀○さんが喋っていましたが、
    見事に「私の専門は経済政策。とりわけ金融政策」
    と言っていてアチャーと思いました。
    彼らはいつ財政政策のことを言うのでしょうか。

    金融政策という「ひもでは押せない」という言葉を贈りたいと思います。
    「ひもでは引っ張れる」(景気の足を)という意味です。

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  5. 今日のタイトルは私らおばちゃんには「なるほど、そうや、そうや」とはならんような気がします。
    そうやのうて、「内閣支持率の急落は、『反緊縮』を求める国民の声でもある、と受け止めよう」という意味にとったらええんかなあ、と思いました。
    せやから意図としては、安倍ちゃん、いよいよ景気浮揚していかんと、もうヤバいんちゃんますか?てな感じで。
    大胆な財政出動、消費税増税凍結(減税!?)に持っていきたいとこやけど、最近のマスゴミのなりふり構わぬ安倍降ろしを見てると、まあた財務省が徹底的にゴミと結託して妨害してくるような気がします。アタマ痛いわ。
    敢然と正論を発し続ける藤井先生、頑張ってください!

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  6. はっちゃん より

    小渕総理は当初どこかの外国人に「冷めたピザ」などと揶揄され、テレビなどがそれを面白がっているようでした。ある本(鈴木宗男氏)によるとそのイメージとはちがいかなりの熱血漢で、ミスか何かした官僚の方を上州弁で怒鳴りつけて卒倒させたというエピソードもみ読んだことがあります。当時宮沢喜一大蔵大臣が「ハマの大魔神を一回から登板させるようなものだ」と言いながら大規模な財政出動をしていましたが、テレビでは割と批判的に取り上げられていたように思います。就任後1年ほどして景気が良くなったのか、なんか世の中ちょっと明るくなったような気がしました。そこには私たちの見えないところで批判に屈せず国民を思う情熱があったのだろうと、今では思います。

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  7. ななし より

    国民は貧困を体感しているのでしょうね。
    であれば、脱貧困、豊かさを体感すれば、自ずと支持率は上がる。そういう事だと思います。

    政治に興味を持っていない人は「風が吹けば桶屋が儲かる」の、間の部分に興味を持ちません。結果を出すしかないのでしょうね。

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