日本経済

2017年11月7日

【藤井聡】米国からの「貿易赤字」是正圧力に応えるためには、大規模「財政政策」が最善の策である。

トランプ大統領が来日し、「対日貿易赤字」について強い不満を表明しています。そして今までの日本のマーケットは閉鎖的で、不公平な状況が続いてきた、だからこれからは「より公正な貿易関係」に是正していかなければならない、と主張しています。
http://www.bbc.com/japanese/41881905

こうした発言はこれまでにも繰り返されており、米国からは「二国間FTA」を締結し、さらなる改革、自由化を進めるよう、激しく圧力をかけられています。

これについて、今の所政府は一貫して「二国間FTAはやらない」と主張しています。
http://www.asahi.com/articles/ASKC73G9SKC7ULFA007.html

しかし、日米間で今、二国間FTAの方向へと向けた「日米経済対話」が進められており、10月16日の麻生・ペンス会談では「経済対話の枠組み」を作ることに同意。そして次のような共同声明を公表しています。

「アメリカのTPP離脱に留意し、共有された目的の達成へ最善の方法を探求する。これには日米2国間の枠組みの議論を含む。両首脳は課題を議論するための経済対話に従事すると決定した」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53351

つまり今後の日米経済対話では、「日米2国間の枠組みの議論を含む」という事が、共同声明分に明記される状況に至ったわけです。

これから日本政府はどんな要求をアメリカ側から突きつけられ、どれだけ譲歩していくのか――一日本国民として、とても心配です。

ただし、アメリカの「対日貿易赤字」を、日本の国益を毀損することなく、むしろ日本の国力を増進させる事を通して「解消」していく素晴らしい妙案があります。

財政政策を通した、日本の内需拡大、です。

この件については既に、トランプ大統領就任後の本年2月に、下記記事にて解説していますが、要するに、日本の「内需」が拡大し、日本人の消費や投資が旺盛となれば、「アメリカからの輸入」が増加するため、貿易赤字が縮小していくことが期待されるのです。
https://38news.jp/america/08201

同時に、内需が拡大し、日本人の消費、投資が旺盛となれば、日本企業がアメリカ人相手に商売しなくても、日本人相手の商売が容易となるので、「日本からの輸出」も縮小し、これもまた貿易赤字を縮小させることとなります。

つまり、内需の拡大は、「日本からの輸出」を減らし、「アメリカからの輸入」を増やし、これらのダブルの効果で貿易赤字を大きく縮小させるのです。

だからこそ、1990年頃、対日貿易赤字を減らすために始まった「日米構造協議」においても、日本のマーケットの自由化を進めることに加えて、日本の内需拡大を進める圧力がアメリカからかけられ、600兆円を超える公共投資を、日本政府はアメリカに確約されるに至ったわけです。

一方で、今、日本が「デフレ」に陥ったため、内需が縮小し、その必然的な帰結として、アメリカから日本への輸入が減り、日本からアメリカへの輸出が増え、これが、アメリカの対日貿易赤字を拡大させたのです。

つまり、今日の対日貿易赤字の拡大は、日米間の「システムの不公平さ」によってもたらされているのではなく、「日本のデフレ」によってもたらされているのであり、日米間の「内需の勢いの不公平さ」によってもたらされているのです!

さて、この筆者の主張が、実証的に正しいのかどうか――ということを確認するため、この度改めて、「対日貿易赤字」と「デフレ」との関係を改めて分析することにしてみました。

その結果を、この記事の「付録」として文末に紹介しますが、結論から申しますと、上記の議論はデータによってハッキリと裏付けられる結果となりました。

つまり、デフレが深刻化すればする程に、対日貿易赤字は拡大し、その逆に、デフレが緩和されればされるほどに対日貿易赤字が縮小することが示されました。

もう少し具体的に言うなら、デフレが緩和して、デフレータ、つまり物価が1%上昇すれば、アメリカの対日貿易赤字は「0.62兆円」縮小し、現状の赤字はおおよそ1割弱減少するという事が示されました。

なお、デフレータは、10兆円程度の財政政策を行えば1%程度上昇することが別の計量分析でも示されていますから、10兆円の補正予算を組めば、貿易赤字が1割弱低下する、ということになります。

言うまでも無くデフレ脱却は、日本国民の貧困化を阻止し、所得を上げ、国力を増進させるものですが、「貿易赤字の縮小」というプレゼントをトランプに提供することすら可能となるのです!

これぞまさにWin Win。日米互恵関係そのもの。

大型の財政政策は、日本のみならず、アメリカ国民をも豊かにする、極めて優れた政策なのです。

アメリカからの対日圧力をどう「かわす」のかに頭を悩ませている関係者は是非、この誰も損しない、誰もが得をする最良の策を選択し、「内需拡大を通した日米両国の繁栄の道」を選択されんことを、心から祈念いたします。

PS1 良好な日米関係を導く「日本の内需拡大」―――そのために求められている対策については、是非、下記をご一読ください。
https://www.amazon.co.jp/dp/4594077323
https://goo.gl/xkQukg

PS2 先日来、当方が主張しているアルゼンチンにおけるPB黒字化による財政破綻プロセスについて、改めて下記にて詳細な解説を加えました。ご関心の方はぜひ、下記をご参照下さい。
https://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII/posts/1180576402043301

PS3
「土木チャンネル」が再開しました!是非、ご試聴下さい!!
http://doboku-ch.jp/

付録:「デフレが貿易黒字を拡大させている」ことの実証分析結果
―――――――――――――――――――――――――――――
デフレータ       ―1.09  (t=2.00、p=0.058)
デフレータ変化率(%) ―0.068 (t=2.47、p=0.022)
円ドルレート       0.008 (t= 2.73、p=0.012)
――――――――――――――――――――――――――――――
定数           2.06  (t= 4.33、p<.001)
――――――――――――――――――――――――――――――
・従属変数:日本の対米輸出(対輸入比率)
・対象年次:1990年~2015年
・重相関係数R=0.558
・解釈:上記の3つの説明変数はいずれも有意、あるいは、有意傾向あり。つまり、日本のアメリカからの輸入に対する輸出の比率(つまり、アメリカの対日貿易赤字の程度)は、デフレータ(つまり物価)の水準と変化率、並びに、為替に統計的に意味ある水準の影響を受けていることが示された。
具体的に言うなら、デフレータ(物価)が1%上昇すれば、日本の対米輸出は、「輸入額」に比して(6.8%+1.09%=)7.89%減少する。(2015年時点の対米輸入額は7.87兆円であるから)、デフレータが1%上昇すれば、アメリカの対日貿易赤字は「0.62兆円」も縮小することとなる。2015年時点での対日貿易赤字は7.22兆円だから、デフレータの1%の上昇は、対日貿易赤字を8.6%(=0.62兆円)圧縮させる事になる。
なお、以上の議論は、デフレータが下落すれば、これと正反対の現象が生ずることを意味している。つまり、デフレが深刻化してデフレータが1%下落すれば、対日貿易赤字は7.22兆円、現状の8.6%拡大することとなる。
また、こうした計量分析にはVARという統計手法が活用されることがしばしばであるが、構造化の方法によって検定結果が大きく変化し、検証結果に安定性が乏しい問題がある。ここでの検定においては独立変数から従属変数への因果プロセスが比較的明瞭であることから、この方式を採用している。

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【藤井聡】米国からの「貿易赤字」是正圧力に応えるためには、大規模「財政政策」が最善の策である。への2件のコメント

  1. 神奈川県skatou より

    先生のご提示された、内需拡大を前面とした貿易不均衡是正の重要性と相関の証明、とても素晴らしい話で心強く感じられました。

    さいきん同僚と経済を話したとき、公共投資という自分の発言に、公共事業=悪のイメージをまだ抱いているのか、即座に「投資しても無駄かも」という反応、「投資しても回収できないだろう」という、投資という用語を使った反応をうけました。

    会話のような言葉が流れ去る場においては、単に公共投資と言わず、公的資本形成と言うだけで、そのような反応も抑制できそうだと、ふと思いついたことがあります。

    書き言葉としゃべり言葉は違う、音声認識技術でもそうなのですが、その点を操作すると面白いのかなと、ちょっと技術チックに思いました。

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  2. 反孫・フォード より

    >日本の「内需」が拡大し、日本人の消費や投資が旺盛となれば、「アメリカからの輸入」が増加

     トランプ氏は別にクリントン時代(?)のようにハンマーで日本車を叩き壊すぞ!と言っているわけではないのでしょう
       ね。
    内需拡大で経済成長に導けば自ずと貿易も拡大する、保護主義を唱えたトランプ氏の本心であってほしいものです。
    法人税減税を言っているのは、日本の場合の経団連の要求を呑んでいる面、と同じようなモノを否定出来ないでいるのでしょう    か。

    トランプと総理は仲がいいとマスメディアは伝えて(?)いますが、
    しかぁーしっ!
    安倍総理は自由貿易が繁栄の道だと国際公言し、瑞穂のフレーズは使わなくなってしまいました。しかもTPP11などに赤き血のイレブンの如くイレこんでいます。
    間違ったプロフェッサー・ブレイン達を解雇することはあり得ない気がしてならないのです。

     やっぱりケムンパスなオイラのコメントは冗談混じりで、叩き壊されそうな表現しか出来ません。失礼しました。

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