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日本経済

2017年4月18日

【藤井聡】「プライマリー・バランス目標は国際公約だから撤廃できない」というデマ

From 藤井聡@京都大学大学院教授

日本の「財政」を巡っては、夥しい数のデマやウソがはびこっています。

筆者はそれらを一つずつこれまでも指摘して参りましたが、今日はこれまであまり指摘されてこなかった、とても重要な「新しいタイプのデマ」を一つ、ご紹介したいと思います。

まず筆者は、政府が、日本のデフレを終わらせ、国益に資する諸活動を展開していく「自由」を確保するためにも、2020年までのプライマリー・バランス黒字化という目標を、「撤廃」することが必要不可欠だと考えています。

しかし、こういう主張をするとすぐに、

「それは無理だ。そもそも国際公約なのだから、今更変えられない!」
「そんな事をしてしまったら、国債の信認が低下して、国債市場が混乱する!」

という反論がかえってきます。そして、そう反論されれば、多くの人々は「それなら仕方ないかも……」と怯んでしまいます。

しかし、これらの「PB国際公約論」もまた激しいデマなのです。

以下、その「デマの構造」を解説したいと思います。

(1)PB黒字化は「目標」でなく「手段」である。

彼らが「国際公約」と呼んでいるのは、2013年のG20で採択された「G20サンクトペテルブルク共同首脳宣言」(以下、「G20首脳宣言」と略記します)です。日本政府は確かにこの時に採択された宣言文書に、「2020年までにPB黒字を達成する」という文言を「挿入」しています。

しかし、それは「目標」として書かれているのではありません。それが記載されているのは、

「b. 債務対GDP比目標」

という欄なのです。そもそも「G20首脳宣言」は、各国に「財政目標」を立てることを要請していますが、要請されているのは、プライマリー・バランスや財政収支についての目標でなく、

「債務対GDP比の安定化」

なのです(実際には、「債務対GDP比を持続可能な軌道に乗せる」と表現されています)。

だから、「G20首脳宣言」では、「債務対GDP比の安定化」を実現していくのかの、「財政戦略」(Fiscal Strategy)を、この「b. 債務対GDP比目標」の欄に記述することを要請している、という次第です。

そして日本は、「政務対GDP比を安定化」するための戦略、つまり

「手段」

として、「2020年までにPB黒字を達成する」と記述したのです。

ここに第一の「ウソ」があります。

つまり、「2020年PB黒字化」は国際公約における「目標」だと言う言説それ自身が、「ウソ」ないしは「デマ」なのです。国際公約においては、それはあくまでも単なる「手段」なのであって「目標」では断じてないのです。

(2)G20首脳宣言は「手段」を柔軟に調整することを要請している。

さて、「目標」を都合に合わせて変えていくのはあまり望ましい事ではありません。ですが、それを達成するための「手段」は、状況にあわせてかえていくのは当たり前の事、というか、「望ましい事」ですらあります。

実際、G20首脳宣言の冒頭には次のように書かれています。

「各国個別の中期的な「財政戦略」は・・・・『債務対GDP比を持続可能な道筋に乗せていく』のみならず、『経済成長』と『雇用創出』を支えることを企図して、短期的な経済状況を勘案しつつ柔軟に実施されるものである。」

つまり、G20首脳宣言は、「債務対GDP比の引き下げ」と「経済成長」を同時に達成するために、「柔軟に戦略を変えろ」と各国に要請しているのです!

だから、「国際公約だから、2020PB黒字化はマストだ」なぞという意見こそ、G20首脳宣言の精神に完全に反しているのであって、杓子定規に2020PB黒字化を目指すという振る舞いこそ「国際公約違反」なのです。

(3)イギリスもフランスも、財政収支の「黒字化」「均衡化」目標を撤廃している!

実際、G7の中でも、イギリスやフランスは、財政規律として宣言していた、財政収支の「黒字化」目標や「均衡化」目標を、つい最近(しれっと)「撤廃」しています。

2年前に公表されている財務省資料(A)と、つい最近公表された財務省資料(B)とを比較すると、イギリスは2年前には(構造的)財政収支を「黒字化する」という目標を掲げていたものの、現在はそれを「撤廃」していることがわかります。そして、「2%赤字以下にする」という目標に緩和し、しかも、目標年次を2年「延期」しているのです。

(A)

これは、麻生財務大臣が、2年前の諮問会議で提出し、ご説明された資料に、解説を加えたものです。この資料は、主要各国の「財政規律」をまとめたものですが、この資料より、日本だけが、「国債の利払い費」を支出から除外した、「基礎的」な財政収支で、…

藤井 聡さんの投稿 2017年4月9日

(B)
http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia290407/04.pdf  のP4

同様にフランスは、「構造的財政収支」の「均衡化」目標をこの二年間で撤廃し、「0.4%赤字以下」に緩和しています。しかも、その達成年次を3年「延期」しているのです。

ここ重要なのは、こうした財政規律の「撤廃」や「延期」を、ほとんどの人が知らないという事実です。しばしば、「国際公約のPB目標を撤廃したら、国債市場が混乱するぞ!」と主張されてきたのですが、実際には「混乱」するどころか「ほとんど何の話題にもなっていない」というのが実態なのです!

実際、ここ数年間の英仏の国債金利の推移を見る限り、彼らの財政規律の撤廃・延期で、国債市場が大混乱に陥った、という形跡は全く見られません!
https://jp.investing.com/rates-bonds/france-10-year-bond-yield
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/data/uk10yt.html

つまり、「国債公約のPB目標を撤廃したら、国債市場が混乱するぞ!」という主張もまた、単なる「デマ」だったわけです。

・・・

以上、いかがでしょうか?

筆者は、これまで、「プライマリー・バランス」について様々な客観データに基づいて、成長と財政再建のためにも「撤廃」し、「財政支出の理性的・合理的な拡大」を図ることが必要不可欠だ、と主張して参りました。一方で「財政規律主義者」達は、こうした筆者等の主張に触れて、彼らが主張するプライマリー・バランス規律論が正当化できなくなると決まって最後に、以上に論じた「PB国際公約論」を持ち出してきます。

ですが、本稿で指摘したのはまさに、その「PB国際公約論」もまた、数々のウソに塗れたデマである・・・という実態です。是非、この一点もご理解いただきたいと思います。

・・・

ところで、「プライマリー・バランス」の議論を一冊にまとめた「プライマリーバランス亡国論」の発売が決定しました!
https://www.amazon.co.jp/dp/4594077323

なぜ、当方がこの「プライマリー・バランス」という、一般の方がほとんど聞いた事も無いような問題について、本を書いたのか……という事については、下記ページの動画でもお話差し上げています(是非一度、ご視聴ください)。
http://www.38news.jp/sp/amazoncp_fujii/index.php

この「プライマリー・バランス問題」は、少なくとも現時点の実際の政策課題の中でも、日本の未来を切り開くにあたって「最も重大な問題」といって過言でありません。読者の皆さんには是非一度、この機会に「プライマリー・バランス問題」について、ガッツリとシッカリとご理解いただきたいと思います。

それが日本の明るい未来を切り開く、「第一歩」となるに違いありません。

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【藤井聡】「プライマリー・バランス目標は国際公約だから撤廃できない」というデマへの3件のコメント

  1. はっちゃん より

    毎度有用な記事を読ませて頂ける事に感謝いたします。つくづく世の中のかなり多くの事が誤解、勘違い、そしてデマなどで決まってしまうのだなと思います。「プライマリーバランス」という単語はいつのころからか、何年も前からずっと知っていました。それだけに今驚いています。藤井教授が最近強調されていることで気づいたことですが、言われてみるとこんなところに日本をデフレに陥れている最大のポイントがあったんだなと。変なたとえですが、デフレは病気でPBは患部で詭弁はツボですね。ツボには針を刺してやらないといけません。帯の安倍総理の発言も注目に値すると思います。国際比較の面でも国際公約の面でも、ウソをつかれてしまうと私などには見抜けません。「構造的」の意味など知りませんし、「国際公約」と言われると「国際公約である」こと自体に疑いを持たずに抵抗してしまい「国際公約である」が前提であることを固定化してしまいそうです。まさか「国際公約である」こと自体に詭弁が潜んでいたとは・・・。ところで昔「バブルへGo」という映画を見ました。悪役の官僚や外国人が自分たちの利益のために「土地取引の総量規制」を行ったことを悪行に見立ててストーリーが作られていたのですが、これは見ごたえもあり、派手でした。何しろ自分たちの利益のために悪企みをして、日本人を貧乏に陥れてしまっていたわけですから。映画にあるように現実にあんな風に料亭で悪企みがされていたのを私が見たわけではありません。ところが「PBを金科玉条にするために詭弁を弄する」という悪行は公衆の面前で行われています。ただし、そこが自分たちにとって重要なポイントであることと、詭弁が使われていることに誰も気づかないのですが。そしてこの映画と今の現実との最大の違いは、映画は現実にはバブルがはじけた後に作られた夢物語ですが、「PBが日本をデフレに陥れている」という現実は日本人が気づき、その気になれば変えられることなのだと思います。5月に出版される本について、もちろん私は予約しましたが、より多くの人に読んでもらいたいです。あと、「亡国」は大げさでも他人事でもないと思いますので、私自身はそれを強調したいです。

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  2. 赤城 より

    プライマリーバランス一つとっても日本人の庶民は無知であることを見透かすように思いっきり捏造宣伝のデマを吹き込まれていることがよく分かりました。エリートがモラルも愛国心も持たず亡国売国して目前の利益のためだけに仕事をするようになるとこういう国の状態になるのだと明示してくれているようですね。こういうことを罪に問えないのではこれからも改善しないでしょう。ほとんどの国民は捏造情報を信じていますから。

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