日本経済

2016年11月8日

【藤井聡】 今の経済政策は「戦後最大の緊縮」政策である

FROM 藤井聡@京都大学大学院教授

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今、政府は、「デフレ完全脱却」を果たし、2020年頃の「戦後最大」の「600兆円経済」を目指して、「アベノミクスのエンジンを最大限にふかす」ための様々な対策を図ろうとしています。
(安部総理の実際の発言内容は、こちら。
https://www.jimin.jp/news/press/president/132402.html

なぜ今、そんな風に「エンジンをふかしていく」必要があるのかといえば――日本は、あの8%への消費増税以降、「エンジン出力」が大きく衰弱している状況にあり、このままでは600兆円経済どころか、「デフレの深刻化」が懸念される状況にあるからです。

今回は、この問題について改めてじっくり考えてみたいと思います。

まずはこちらのグラフをご覧ください。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=900046780096266&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=3

これは、1980年代から今日に至るまで、政府がどれだけ「エンジンを吹かしてきたのか」を示すもの。題して「政府による景気加速指標」の推移のグラフ。

そもそも、政府に限らず、あらゆる経済主体は「カネを借りて使う」(債務増)あるいは「貯金を取り崩して使う」(貯蓄減)という事をすれば、景気は加速していきます。

一方で、「儲けた金を使わずに、貯める」(貯蓄増)あるいは「儲けた金を使わずに、借金を減らしていく」(債務減)という事を続ければ、景気は減速していきます。

これを整理して言うなら、各経済主体が「債務を拡大していけば」あるいは、「貯蓄を縮小していけば」景気が加速する、という事になります(ちなみに債務と貯蓄はプラスマイナスが逆なだけで、全く同じ概念です。「マイナスの貯蓄」が債務であり、「マイナスの債務が貯蓄」です)。

この構造を踏まえれば、「政府による景気対策」の尺度は、「貯蓄の縮小量」、あるいは「マイナス貯蓄=債務の拡大量」として測定する事ができます(ややこしくて申し訳ありませんw とにかく、貯金をへらす事、債務を増やす事が、景気加速という事なのです)。

このグラフは、以上の議論を踏まえ、政府が、それぞれの時点で「どれくらい景気を加速させているのか?」の推移を示しています(なお、縦軸は、その時点での貯蓄減少量=債務増加量の名目GDP比となっています)。

このグラフを見ますと、政府の態度は1980年代のバブル期以降、5つの時期に分けられます。

第1期は、1980年〜90年までの「バブル期」。この期間は政府の「景気加速度」はどんどん縮小していきます。

そもそも、この期間は民間が活性化していましたので、政府がわざわざ「加速」させる必要がなかったからです。80年代後半には、景気加速は「マイナス」となります。つまり、政府は債務の拡大ではなく「貯金」するようになったのです。つまり政府は景気に対して「何も」しなくても良いほどに、バブル景気は凄まじいものだった、という次第です。

ところが、90年、バブルは崩壊。これによって政府は、日本経済のために「景気加速」をしなければならなくなります。これが第2期の「バブル崩壊対策期」です。

政府債務は一気に7%超にまで拡大。これは40兆円分の「債務の拡大」をするまでに、景気加速を図ります。

その後、橋本内閣での97年の増税や投資減を通して、一旦「緊縮」に向かいます。これによって一気に日本は「デフレ」に突入するのですが、その後、政府はその「デフレ」対策のために、景気加速を再始動します。そして、2000年代前半にかけて、再び8%にまで加速土を上昇させます。

しかしここで、小泉内閣で「プライマリーバランス目標」が導入されます。これは要するに、支出を削って、収支バランスの赤字を減らしていこう、という目標です。

政府にとっての「赤字の縮減」は、日本経済全体にとってはつまり「景気加速度の縮小」。

したがって、この目標が導入されてから、政府行動は激しく「緊縮」的なものへと転換し、景気加速度は大きく低下していきます。

これが第3期の「PB緊縮期」です。

このPB緊縮期には、政府債務は大きく縮小し「景気加速度」は8%から一気に1%台にまで縮小していきます。

普通ならこれで日本経済はさらに激しいデフレになるところでしたが、その間、米経済がバブルで外需が日本経済を支えます(輸出産業が日本を支えたわけです)。

しかし、そんな構造も2008年のリーマンショックによってもろくもあっと言う間に崩壊。

民間も政府も勢いがなく、外需だけが「頼みの綱」であった2000年代、その外需も一気に冷え込みます。結果、日本経済は、大打撃を受けることになります。

その結果、政府は態度を変えざるを得なくなり、PB目標は事実上撤廃され、第四期である「PB目標解除・アベノミクス加速期」を迎えます。

すなわち、リーマンショックによって税収が大幅に縮減しますが、政府支出は一定水準を保たねばならない、ということで、PB目標を度外視せざるを得なくなったのです。これによって結果的に景気加速度は、08年から09年にかけて1%台から10%程度にまで一気に拡大します。

その後、麻生政権による緊急経済対策という形で財出の拡大が断行され、さらにその後、東日本大震災による支出の拡大が行われたため、景気加速度は高止まりし、高い水準で継続していきます。

そして、こうして「政府による景気加速」をさらに後押ししたのが、2012年に誕生した安倍内閣が始めたアベノミクス。

結果、2014年初頭まで、景気加速期は8〜10%程度という高い水準を推移することになります。

そしてその間、日本経済はバブル崩壊後はじめて、本格的に内需主導での成長を果たすに至った事をご記憶の読者も多かろうと思います。

しかし、その「春」も長く続きません――。

政府は2014年4月に消費税を断行。同時に、アベノミクス景気によって増加した税収が政府支出には十分活用されず、その多くが「債務返済」に回されていきます。

つまり、政府の政策態度は「アベノミクス加速期」を終え、第五期の「消費増税緊縮期」に突入してしまうのです。

その結果、景気加速度は一気に低迷していきます。そして、増税からたった2年で、景気加速度は8%から2%台へと激しく凋落しました(国債発行額で言うなら、2012年の47.5兆円から、2015年の36.9兆円へと、一気に10兆円以上も縮減しました)。

この急激な落ち込みは、バブル崩壊以後、一度も経験したことのないほどの落ち込みです。バブル期までは日本政府は拡大を続けてきたことを踏まえれば、今の政府の経済政策は、「戦後最大の緊縮政策」を採用していると解釈することもできるでしょう。

消費税増税後、日本経済は大きく低迷しつつある、という報道は日々伝えられているところですが、その背後には、こうした政府政策の政策態度があったのです。

言うまでもありませんが、600兆円経済という「戦後最大の経済」を目指すのなら、「戦後最大の緊縮政策」を終わらせる必要があることは明白です。

・・・

繰り返しますが、いま、政府は、「アベノミクスのエンジンを最大限にふかす」ための大型景気対策を図ろうとしていますが、その背景には以上の様な事実認識があります。いずれにせよ、その成否は、このグラフにみられる「政府による景気加速指標」がどこまで「上昇」するかによって、占うことができるのです。

日本経済にご関心の皆様は是非、今後の政府の貯蓄/債務の推移、すなわち「政府による景気加速指標」の推移をご注視いただきたいと思います。

追伸:「アベノミクスのエンジンを最大限にふかす」ための大型景気対策の具体的内容にご関心の方は、是非、下記をご参照ください。
『国民所得を80万円増やす経済政策』(藤井聡著)
https://goo.gl/Jcqhm0

ーーー発行者よりーーー

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【藤井聡】 今の経済政策は「戦後最大の緊縮」政策であるへの14件のコメント

  1. はっちゃん より

    政府支出の増加量ということは国債の金利とかも影響するのでしょうかね?でも、民主党政権時代に金利が高かったという印象もないし。ゆっくり考えます。私もいつかは消化不良を起こさずおれるようになりたいです。

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  2. はっちゃん より

    グラフをパッと見たところ、第二次安倍内閣では2012年就任以来ほぼ全部緊縮路線をとっているように見えるのですが、グラフの見方が間違っていますかね?特に就任後1年経って以降、グラフの角度はバブル後最大の急降下、まるで大きな崖のように見えますね。グラフは政府支出「増加量」で、さらにその傾きを見ようとすると頭がこんがらがってきました。まあ、加速の具合が解るということなのでしょうか。一般的なイメージと違い、景気対策の加速の具合は意外にもバブル後最大の減らしっぷりということなのですね。そりゃ貧困にもなりましょうか。国会議員の方々がこちらの記事を読まれた場合、どのようにお考えになられるのでしょうかね。小選挙区、比例代表制の下では権力が集中しやすいといいますね。やはり、総理大臣の力が一番強いですよね?安部総理はこの前藤井教授の本に推薦文を書かれていました。ぜひ、総理大臣の巨大な力を使って国民を救っていただきたい。そう思いました。

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  3. たけちゃん より

    何て言うか 普通に安倍晋三退陣が相応でしょうが、デフレ脱却はウソだったと認めたものでしょうが。藤井さんも同罪ですよ。ウソつき!

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  4. 學天則 より

    PS 偏差値教育をいい加減廃止しましょう。世に出れば生産性、生産性と結果で喚く癖に学生には過程と仮定に過ぎない偏差値。思考能力があればあからさまにおかしいと気づくでしょうけど、この辺が奴隷契約なのですね。この面でも言える認知的不協和とかいうのも契約に支配される人間の帰結でしょうw個人の能力に頼る中学生のタイマン喧嘩思想の人海戦術をやめ(1人当たりの)生産性を上げる為の教育でしょう。その為に大事なのは組織経営を学ぶ事ですよ。契約を重視し主人となり組織的に物事を考える戦場で戦う自由人に育てる事だ。文化とは何かを問うた時に文化人である三島由紀夫は奴隷は嫌だと言う事でしょう。だから思想という答えに拘り、行動実践をしながら自分で考える自由を捨てるのはやめましょう。

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  5. 學天則 より

    人を支配するのは契約です。この辺なぜそうなのかを考えるとオカルトじみてくるわけですが語るのはよしましょう。危険ですから。三橋さんはこれを言葉と言い、日本では一般に言霊ともいう。国民はもう幼少から思考停止の徹底訓練がなされ完全にロボット=奴隷契約済みでしょう。奴隷は鎖を自慢し、他者が断ち切ろうとすると怒り狂う今すぐは手の付けようがない話です。三橋さんも、藤井先生もリチャードクーや紺屋典子さんの様に消ないで、今後はスケープゴートにされない様にうまく逃げ切って頂きたい物です。まあ、安倍政権が終わってほとぼりが冷めたら、地方自治の立て直しでもおやりになりませんか?天下国家からではどうにもならないですよ。やはり民主主義の王道はボトムからですね。この辺、大阪市をその、おもちゃにして遊ぼうと思っていたのを横から取り上げてめちゃくちゃにした維新と橋下さんは許さないぞwその為にも次の勝たねばならぬ決戦は堺市長選、あるなら特別区導入の住民投票なのはいうまでもないでしょう。まあ、藤井先生は将来は政治家の道もあるでしょうし、京阪奈に無事お帰り頂く事を首を長くしてお待ちしております。文化や教育政策が問題です。ここは最も政治家のインテリジェンスが問われる柱ですからね。実戦実務と言えばすぐに話を狭いオタクな範囲に絞ってアカデミックな物と実技に分けて語るのが愚かしい。最初に全体としてフィロソフィーからくる組織運営の基本を叩きこみ、その後に自分が好きな分野に特化する形を取るべきで、その為にも通常授業とは別に週1でもいいから、対話型授業のできる優秀な先生に学校を掛け持ちさせ、対話型の教育も導入すべきなのですよ。というだけ無駄でしょうけどw

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  6. たろう より

    小説もそうですが、占いとかもそうですねぇ。まともに考えたら生年月日や血液型で運命が決まるわけないのに、占い師が作った物語に影響を受けまくってしまう恐ろしさがあります。それと同様緊縮財政せなあかん物語に多くの日本人か影響受けまくってる状態なんでしょうね。(おそらくCIAの陰謀)私も藤井先生の小説の影響についての話は一番心に残りました。

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  7. きらきら より

    大分前に、チャンネル桜のシン・ゴジラの討論に参加されていたと思います。その際に、物語は下手をすると騙されるから、そんなに読まない的な話をされて、あまり賛成されるような雰囲気ではなかったですね。私自身も経験から、藤井先生の仰ることは、良く分かります。自分の言葉での説明でなく、他の人が言っていたというのもイマイチですが、おぼろげな記憶で、そのような事を言っていた人を記載しておきます。プラトンが「国家」で詩人は要らない。的な話もありましたし、小林秀雄が、文学に誑かされるな。と、言っていたと思います。

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  8. 反孫・フォード より

    >TPP自体が戦争(またはハル・ノート) あぁ!  そういえばそう  言えるんですね。やっぱりエコノミンテルン教(コミンテルン教の鏡像集団?)が糸を引いているんですね。そう言えばメディアに最近ではめっきり竹中は露出しなくなった。代わりに続々と教徒らしき人達の露出が・・・・。 大正デモクラシー〜関東大震災〜真珠湾攻撃 民主党政権交代〜 東北大震災〜TPP批准「再チャレンジする美しい瑞穂の日本ですっ!」 安倍総理って医療用大麻を使って自虐思想脳漏を治さないと日本じゅうが陥没してしまいます。 私の脳がオカシイのでしょうか?

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  9. 通りすがり より

    まあ大変ですよね。こんな状態でよく戦争を起こさないものだと思いますが、TPP自体が戦争(またはハル・ノート)なので、また大本営発表して、一億火の玉のなれば満足でしょうか。

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  10. たけちゃん より

    藤井さん、以前は先生と敬意を払っていましたがもう藤井さんで良いですね。結果は既に出ています。貴方は参与としての助言に安倍晋三は耳を貸さない事実にハッキリとコミットメントしてないでは無いですか?結果責任は負うべきでしょう。    ウソつけ!

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  11. たろう より

    ユダ金の命令により安倍政権に緊縮財政を行わせ、官から民の流れを加速させ外資を参入させようとしてるのだと思います。日本独自で_栄をさせてはならない永遠に日本の監視と介入し続けたい外国勢力があるのでしょう。

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  12. 拓三 より

    円高圧力、金利上昇圧力は『正しい政策』円高圧力、金利低迷は『さっさとカネ使え』のサイン。

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  13. 拓三 より

    なんでこんな当たり前の話が通じらんのやろ。そもそもPBをなんで設定せなアカンねん?他国が決めたとしても日本は絶対に反対の立場取らなあかんやろ。健全な経済活動してる国が損するだけや。日本は他国に比べてダントツに経済指標は健全や。これは変動相場制の自国通貨である日本にとって最大の武器になるんやけどそれをみすみす放棄してる事になる。簡単に言うたら、他国の経済指標が悪ければ悪いほど日本がカネをどんどん使えるんと言う意味や。変動相場制ってそう言う意味やで。また債務を気にするより資産価値を上げていればなんの問題も御座いません。逆に言うたら他国からすれば日本の経済力が怖いが故、その経済力を弱体するべき圧力をかけてくるんやけど、日本の経済力を無くす一番簡単な方法は日本自体の価値を下げる事や。日本の価値とはなんや。人であり技術やろ。つまり物作りや。これが失われた時、日本の資産価値は下がり債務と資産のネットが崩れ債務超過に陥る事になりその時はじめて日本は円安圧力、金利上昇に苦しみ自国の力だけではどうする事も出来なくなるでしょう。円高圧力、金利上昇圧力は『カネを使え』と言うサインで御座います。

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