コラム

2016年11月9日

【佐藤健志】ジャイアンをなくしたスネ夫

From 佐藤健志

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声優・俳優の肝付兼太(きもつき・かねた)さんが、
10月20日に死去されました。
ご冥福をお祈りいたします。

肝付さんと言うと、
私は『銀河鉄道999』の車掌を思い浮かべたりするのですが、
声優としての最大の当たり役は、
やはり『ドラえもん』(テレビ朝日版)のスネ夫でしょう。
1979年の放送開始いらい、26年間にわたって演じていたのですから。

ちなみに『ドラえもん』は1973年、
日本テレビでもアニメ化されたことがあります。

こちらは諸般の事情により現在ではお蔵入りになっていますが、
肝付さん、この『ドラえもん』でもレギュラー出演していました。

持ち役は何か?
スネ夫じゃなかったんですよ。
なんとジャイアン!

アニメ版『ドラえもん』の歴史には
〈ジャイアンがスネ夫になる〉
という面白い現象が見られたのです。

ちなみにこの他にも、
日本テレビ版ではのび太の母を演じた小原乃梨子さんが
テレビ朝日版ではのび太の役に回ったり、
同じく日本テレビ版でのび太を演じた太田淑子さんが
テレビ朝日版ではセワシ
(22世紀の世界からドラえもんを送りこむ、のび太としずかの子孫)
の役に回ったりと、
キャスティング面でさまざまなつながりが見られました。

日本テレビ版でドラえもんを演じた野沢雅子さん(※)も
のちに『銀河鉄道999』の主人公・星野鉄郎として
肝付さん演じる車掌とともに星々をめぐることになるものの、
それはともかく。
(※)放送開始の時点では、ドラえもん役は富田耕生さんでしたが、途中で交代したのです。

もともとは自分がジャイアンだったから・・・
というわけでもないでしょうが、
肝付さん、テレビ朝日版『ドラえもん』でジャイアンの声を演じた
たてかべ和也さんとは
50年以上のつきあいがあり、親友だったと言われます。

2015年6月、たてかべさんが死去された際には、
お通夜の席で
「ジャイアーン、ジャイアンのくせになぜ先に逝っちゃうんだよ」
とスネ夫の声で呼びかけました。
告別式の弔辞でも、やはりスネ夫の声で
「ジャイアーン!」
と叫んで締めくくったそうです。

その肝付さんが、たてかべさんの後を追うかのごとく
わずか一年後に亡くなることになるとは。

役者と役柄をあまり同一視すべきではないかも知れませんが、
天国のジャイアンに引っ張られたか?
と思えてきます。

スネ夫にとってジャイアンは、むろんゴマをする相手(※)。
ただし、一種の心の支えであったことも間違いない。
ジャイアンがいなくなったあとは、やはりつらかったのでしょう。

(※)スネ夫とジャイアンの話です。
肝付さんと、たてかべさんの話ではありませんので念のため。

しかるに。
〈ゴマをする相手が、心の支えでもある〉という構図、
なにか思い当たるものがないでしょうか?

そうです。
スネ夫=日本、
ジャイアン=アメリカと見立てれば
日米関係の縮図そのものなのです!

事実、政治学者の白井聡さんは
内田樹さんとの対談本『日本戦後史論』(徳間書店)で
こんな発言をしました。

戦後の日本って、たとえて言うなら、
『ドラえもん』におけるスネ夫みたいなものなわけです。
ジャイアンに取り入って、
「僕ん家は金持ちなんだぜ」と威張ってのび太をバカにしている。

でも、スネ夫のお父さんの会社が破産したらどうなるか。
これは深刻な事態ですね。
骨川家が貧乏になったら、スネ夫のアイデンティティも崩壊してしまう。
だから何がなんでも経済成長を続けなきゃいけない。(中略)

もともとは幸福になるために経済成長するはずだったのに、
それが自己目的化して、
経済成長のためならどんなに不幸になってもいいという
倒錯した心情がある。
(58ページ。改行箇所を適宜変更)

デフレから脱却できず、国民が全体として貧困化の道をたどるのも
かなり不幸ではないかと思うのですが、
この点は脇に置きましょう。
考えてみたい点はこれです。

自分の家が貧乏になってしまうのは、
たしかにスネ夫ならずとも深刻な事態でしょう。
ただし、それがスネ夫にとって唯一の深刻な事態だと言い切れるか?
「家の貧困化」以外に、
彼のアイデンティティを崩壊させる事態は存在しないのか?

・・・存在するんですよ、これが。
ずばり、ジャイアンがいなくなること。

スネ夫のような人間は、性格的にリーダーの器ではありません。
いくら家が金持ちだろうが、ボスとして周囲の子供たちを束ね、
支配下に置くことは無理。

裏を返せば、スネ夫が安心して威張れるためには
自分のかわりにボスになってくれる存在、
すなわちジャイアンが不可欠なのです。

しかもわが国は、
『ドラえもん』における肝付さんの持ち役の変化ではありませんが
〈アジアのジャイアンたらんとしたあげく、挫折してスネ夫になった〉
という経緯がある。

しかもそれを、望ましい変化と見なしているのですから、
「ジャイアン不適格国家」の烙印を自分に押したようなもの。
いよいよもって、世界のジャイアンたらんとするアメリカが必要になるではありませんか。

ところが現在、アメリカは世界的な覇権国としての立場から
徐々に撤退する傾向を見せています。
本メルマガを書いている時点では、11月8日の大統領選の結果がどうなるかは分からないものの、
トランプが勝った場合はもちろん、クリントンが勝っても趨勢は変わらないでしょう。

その意味でジャイアンは、本当にいなくなるかも知れないのです。

「ジャイアーン、ジャイアンのくせになぜ先に逝っちゃうんだよ」

このスネ夫の嘆きこそ、
親米保守の語られざる心の叫びではないでしょうか。

関連して注目されるのが、TPPの承認案と関連法案をめぐる政府の姿勢。
クリントンとトランプが、ともにTPPにたいして批判的であるのを思えば、
かりに日本が批准したとしても、この協定が成立するかどうかは不透明です。

つまり日本も、べつに批准を急ぐ必要はないのですが、
なぜか政府は今国会での成立に執着している。
11月4日には衆議院の特別委員会で、承認案と関連法案が可決されました。
みなさんがこれをお読みになるころには、衆院本会議も通過している可能性が高い。

なぜ、こんなに急ぐのか?
ジャイアンの気を惹くことで、どうにか引き止めようとする
スネ夫の切ないあがきではないのか?

とはいえ、そんなふうにジャイアンに媚びていると
自分の家の貧困化がますます進むかも知れませんよ。
それはそれで、アイデンティティが崩壊する事態でしょうに。

『ドラえもん』の世界も、なかなかに奥深いものです。
ではでは♪

<佐藤健志からのお知らせ>
1)産経デジタルの総合オピニオンサイト「iRONNA」に寄稿しました。
「暴走する朴槿恵のホンネとタテマエ 国政介入招いた『やりすぎ』の構造」
http://ironna.jp/article/4385

2)根本がスネ夫のまま、〈スネ夫であること〉から脱却しようとすると、いかなる結果を招くかという点をめぐる総合的分析です。

『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』(徳間書店)
http://www.amazon.co.jp//dp/4198640637/(紙版)
http://qq4q.biz/uaui(電子版)

3)「スネ夫のまま〈脱スネ夫〉をめざす」という構造が、なぜ成立してしまうかについてはこちらを。

『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

4)わが国がいかなる経緯によって、〈ジャイアンに媚びるアジアのスネ夫〉と化したかの記録です。

『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

5)「(貴族制度を)廃止したがる者は、立派な人間がそもそも嫌いなのではなかろうか。ひねくれて意地が悪く、ついでに嫉妬深い者ということだ」(168ページ)
はて、エドマンド・バークが『ドラえもん』を知っていたはずはないのですが・・・

『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
http://amzn.to/1jLBOcj (紙版)
http://amzn.to/19bYio8 (電子版)

6)「君は骨の髄まで卑怯者であり、太鼓持ち以外は何も務まらないロクデナシである!」(138ページ)
おや、トマス・ペインも『ドラえもん』を知らなかったはずですが・・・

『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

7)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

—発行者より—

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★★★★★:YH様のレビュー

今回もマスコミでは絶対に語られない、
大事なことがよく分かりました。

特に印象に残ったのは、遺伝子組み換え作物(GMO)が、
アメリカでは表示義務もなく流通しており、
表示を義務付ける法律がGMO企業(モンサント社)の
意向を受けた連邦政府によって打ち消されたこと。

モンサント社自体が社員食堂ではGMOを使用していない、
つまり危険性を認めていること。

TPPに加入すれば、GMOが日本にも
押し寄せてくる可能性が高く、非常に心配。

以前の月刊三橋で語られていた、
全農グレイン株式会社の存在価値が
非常に高いということが、改めてよく分かりました。

月刊三橋10月号
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