日本経済

2018年5月9日

【藤井聡】注意報:「財政規律」を巡る攻防でいま、「デマ」が横行しています

From 藤井聡@京都大学大学院教授

6月に閣議決定される、
次年度以降の経済財政方針を決める
「骨太の方針」
その中のプライマリーバランス(以下、PB)についての記述は、
今後5~10年程度の財政の「枠」を決める、
極めて重要なものです

そして、それに向けて今、様々な議論・調整が重ねられ、
それはまさに、経済安全保障上の「国防」のための
超重要な攻防戦なのです―――というお話は、
これまで何度か申し上げた通りです。
https://38news.jp/economy/11786

折りしも今、政府からは、

「プライマリーバランス黒字化を2025年度にする方向」

という「観測気球」とも受け取れるような
情報が発信されています。
https://bit.ly/2JZLvaI 

さらには、PB制約だけでなく、
「財政赤字」制約についても、閣議決定しようという動きが
報道されています。
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6281695

財政赤字、というのは、
PBという「基礎的財政収支」にさらに、
「国債の利払い費」や「国債の償還費」を加えた「収支」。

今、これをGDPの3%以下にしよう、としている訳ですから、

場合によっては、
PBよりもさらに激しく財政を抑制する制約
となり得るものです!このように、「緊縮派」からの攻撃が、
日に日に「激化」しつつある今日この頃なのですが、
その攻防戦で飛び交っているのは、
もちろん鉄砲や大砲の弾ではありません。

それはあくまでも「情報戦」であり、
そして彼らの最大の武器は、「デマ」なのです。

このお話は、先週の「週刊ラジオ表現者」でも、
『「日本の借金」のウソが、日本を滅ぼします。』
と題して詳しく取り上げたのですが・・・
https://the-criterion.jp/radio/20180507-2/

要するにこれは、
2015年の「大阪都構想」の住民投票を巡る
「デマvs真実」という情報戦と、
同じ様相を呈しているものなのです!

例えば今、そんな「デマ」という実弾が、
「朝日新聞」から大々的に発射されています。

朝日新聞と言えば、
「反政府的」なメディアと思われがちですが、
不思議な事に、こと「財政問題」については、
政府を動かす最強官庁である財政当局の
「プロパガンダ機関」かと疑う程の情報を配信しています。

具体的に説明しましょう。

5月6日の記事
『財政悪化、重い政治の責任 有識者10⼈、どう総括』
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13481630.html?rm=150
 
は、「財政に詳しい有識者10人」の意見という体裁をとり、
そのうちの8名もが、

次のような意見を述べたと報じるものでした。

「確かに財政再建はずっと大きな政治課題だったが、そうと知りつつ多くの政権は増税を先送りした。バブル崩壊後にはたびたび財政出動もして歳出を拡大させた。その責任は大きい。同時にそれを許した「国民世論」(6人)、「財務省(旧大蔵省)」(4人)にも責任はある、という指摘も少なくなかった。」これに続いて次のような声を紹介します。

「柳沢伯夫・元厚生労働相(は)『消費税率を上げても歳出がザルでは、水はたまらない』と、歳出削減の必要性を訴える。」
「出口治明・立命館アジア太平洋大学長は『少子高齢化が進む中で福祉水準を維持するには、欧州並みの消費税率が必要』と言う。」
 
「神津里季生(りきお)・連合会長は・・・社会保障を守るのに消費増税は必要だが・・」

・・・

要するに、ほとんどの財政に詳しい専門家が、

・財政政策をやってから、財政が悪化した。
・それを許した国民や財務省も悪い。
・だから、消費増税を待ったなしだ。
・それに加えて、もっと社会保障の負担率も上げよ、
・さらには、もっと歳出をカットせよ。

と主張している、という記事です。

したがって、これらの意見を踏まえるなら、

「今年の6月の骨太の方針でも、
 厳しいPB黒字化目標をたてるべきだ!
(加えて国債費を含む財政赤字規律も!)」

という、政府財政当局が喜びそうな帰結が、
自ずと得られるようになっているわけです。

しかし、この記事に紹介された情報は、
完全なる「デマ」と言わざるを得ないものです。

そもそもこの10人の「財政に詳しい有識者」達は皆、
 
財政政策→経済成長→税収増

という、明らかに存在する因果プロセスを無視
(ないしは軽視)しているようです。

ちなみに、この因果プロセスは逆に言えば、

・消費増税&支出カット→デフレ継続→税収減

というものと同じプロセスなのですが・・・
(詳しくは、拙著『プライマリーバランス亡国論』を参照ください。
https://www.amazon.co.jp/dp/4594077323

この因果プロセスは、
経済財政を誠実に考える上で最も重要な要素です。

なぜといって、この因果プロセスを想定すれば、
「財政再建には、
緊縮と積極のいずれかを、
状況にあわせて選択していこう」
という、至って穏やかな理性的結論が導かれるのですが、

この因果プロセスを無視すれば、
「財政再建には、積極なんてもっての他、緊縮しかない!!」
という極端な話に、必然的になってしまうからです。

だから、「財出→税収増」という
厳然と存在する因果プロセスを考えるかどうかは、
財政政策のあり方を考える上で、
何にもまして最も重要な決定的要素となっているのです。

にも拘わらず、それを無視するということは、
これらの人々は「財政に詳しい有識者」どころか、
「財政の重要事項について無知な人々」
に過ぎない、と考えざるを得ません。

(ちなみにこの「偏った」というのは、
「少数派」ということではなく、
「真実からの乖離が大きい」という意味です)

具体的に言うなら、
歳出削減の必要性を訴えた柳沢元厚生労働相は、
「歳出削減」が成長を滞らせ、
かえって「財政を悪化」させてきた、
という実態を理解しておられないようですし、
https://38news.jp/economy/11822

「福祉水準を維持するには、欧州並みの消費税率が必要」
とおっしゃった出口立命館アジア太平洋大学長や、
「社会保障を守るのに消費増税は必要」
とおっしゃった神津連合会長は、
消費増税によって成長が滞り、税収も減る、という、
理論的・実証的に明らかに予想され、
しかも、過去に繰り返されてきた「歴史」
をご存じないようなのです。
https://38news.jp/economy/11863

ちなみに、これを書いた「編集委員」は、
「原真人」という方なのですが・・・

この方は要するに、
「財政に詳しい」という体裁をとりながら、
「特定の偏った意見」を持った人々だけを対象として、
しかも、「アンケート」という体裁までとって、
「真理の力」でなく「数の力」で特定意見に、
世論を誘導しようとしている、
という可能性が激しく疑われるわけです。

・・・

ここで紹介したデマは、
日々、大量に配信されているデマのごく一部に過ぎません。

今年の骨太以降もこうした情報戦は続いていきますが、
あと一ヶ月間は、特に重要な攻防戦となっています。

本メルマガを購読されている
一般国民の方はもちろんのこと、
マスコミや官僚や政治家におかれましても、
こうした状況認識をしっかりしていただき、
適切な情報を発信頂ければ幸いです。

どうぞ、よろしく御願い致します。

追伸1:
こうした「デマ」「ウソ」の横行の背景に、
どういう社会構造があるのか・・・については、
「表現者クライテリオン」であれこれと論じています。
是非、ご購読下さい!
https://the-criterion.jp/category/backnumber/

追伸2:
また、今週の「表現者メルマガ」では、
憲法問題なども含めて、あれこれ論じています。
(例えば、https://the-criterion.jp/mail-magazine/20180507/
ご関心の方は是非、下記よりご登録下さい!
https://the-criterion.jp/category/mail-magazine/

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【藤井聡】注意報:「財政規律」を巡る攻防でいま、「デマ」が横行していますへの7件のコメント

  1. たかゆき より

    >朝日新聞と言えば、

    「反政府的」なメディアと思われがちですが、

    不思議な事に、<

    不思議でもなんでもないかと、、、

    朝日は反政府ではなく 反日
    財務省も反日

    解は簡単 一元一次方程式
    日本=死ね!!

    返信

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  2. とうちゃん より

    出口立命館アジア太平洋大学長は歴史関係の本を多数書かれているのに、なぜ「しかも、過去に繰り返されてきた「歴史」をご存じないようなのです。」と突っ込まれることを発言されるのか不思議です。

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  3. Komiyet より

    表現者クライテリオンのメルマガと週刊ラジオ面白いですね。

    月刊三橋会員の私としては、これがただでいいのか? と、

    ちょっと妬いてしまいます。

    ま~月刊三橋は応援している人に投資しているようなものです。

    損得とは別です。

    藤井さんも応援していきます。

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  4. 日本晴れ より

    朝日新聞の嘘というのは小さい物からこういう嘘が多いように思います。何故朝日新聞が嘘が多いのかと言えば記者の思い込みが激しいからだと思います。完全に結論ありきで記事書いてますし、検証も公正にやらない、もう結論ありきで記者の思い込みで書いてるから事実がずれる。ずれても気付かないんでしょう
    それに朝日新聞は反日が社是だと思います。
    朝日新聞に迎合するエリートとか政治家とか官僚というのは基本的に自分は信じてません。朝日新聞に迎合してるエリートは朝日新聞のそういうデマでもなんでも自分達の政治主張が通ればいいんだと完全にアジビラ宣伝機関になってるからです。

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  5. momo より

    全メディアに意思は存在していないでしょう。朝日新聞に入社する新聞記者が、「絶対に日本の悪行を明かしてやる」などと決意しているとは思えませんし(緊縮財政という『誰もが知っている』『理論的に証拠づけられた』『大悪行』をスルーしている以上、反政府とは決して言えない)。
    なんとなく日本を非難し、なんとなく財政規律を守る。なんとなく反日的な社風に、なんとなく財政均衡的な世論に流されている。亡霊のようなものです。

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  6. あまき より

    意志は存在しない。
    決意しているとは思えない。
    何となく世論に流されている。
    亡霊のようなもの。

    momoさんに賛成。

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  7. tarosuke より

    「財政再建」を唱えてる奴が唱えていることのその悉くが財政健全性を損なうことばかりなんだが…。

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