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2018年9月21日

【上島嘉郎】「常識」の回復

From 上島嘉郎@ジャーナリスト(『正論』元編集長)

自民党総裁選で安倍晋三首相が
石破茂元幹事長を破り、
連続三選を果たしました。

首相は国会議員票で8割を獲得し
石破氏を圧倒したものの、
党員・党友の得票は55%にとどまり、
石破氏を突き放せませんでした。

この結果について、
毎日新聞は社説で

〈党員票は国民全体の
世論により近いと見られる。

今回は世論と議員意識の間に
大きな落差があることが
明白になった結果とも言える〉

とし、

〈安倍内閣の支持率は
依然3割台で不支持が上回っている〉

と自社の直近の世論調査を挙げ、

〈首相を取り巻く状況は変化し、
従来のような独善的な姿勢は、
もはや通用しないと見るべきだ〉
(9月21日付社説)

と訴えました。

反安倍のメディアは
どこも似たり寄ったりの主張で、
「全体で7割近い票を得た」
と言う安倍首相への批判が
前面に出ています。

毎日新聞の見立ては

〈石破茂氏の得票が予想を
上回ったのは「正直、公正」
のキャッチフレーズが首相の
本質的な弱点や欠点を
突いていたから〉(同)

というもので、石破氏も
選挙戦を振り返って

〈「さらに改めるべき点は改め、
もし(政権を)担わないと
いけなくなったときに、
国民の思いに反することが
ないよう努めたい」〉
(産経新聞9月21日付)

と述べました。

さて、筆者はこのところ
必要があって田中美知太郎氏の
著作を読み返しているのですが、
「常識の立場」
(『文藝春秋』昭和57年2月号)
という一文の中から
数節御紹介したいと思います。

メディアが

「政治家は国民(民意)の
声に耳を傾けよ」

といい、政治家も

「国民の思いに反することが
ないように努めたい」

と答えるなら、
民主主義を少しでもまともに
機能するために国民と政治家、
メディアが共有すべき前提は何か。

筆者は「常識」の回復
しかないと思います。

田中氏はこう語ります。

〈常識とは何か。

誰でも知っていること、
あるいは知っていなければ
ならないことと言ったら
いいかも知れない。

しかし「知っている」を
厳密な意味にとると、
正確な知識を誰にでも
期待できるかどうか疑問になる。

多くの人が知っていることは、
実際はただそう思っている
だけのことで、
何も知ってはいないのだ
というようなことである
場合が少なくない。〉

〈「みんなが」とか「誰でも」とか
いう言い方が求められている
共通性には、本当の知識に
もとづくものと単なる思いこみに
もとづくものとがあって
両者を混同してはならないと
古人はいましめているのである。

近頃よく用いられるコンセンサス
という語はもとはコモン・センスと
同じようなものであるが
それが単なる思いこみに
すぎない場合が少なくない。

いわゆる世論もその虚偽性を
知らねばならないことが
しばしばなのである。

われわれはこれらを
きびしく批判して、
知性と知識の立場を
回復しなければならぬ。

常識の立場というのも
本来はそういうもの
ではないのか。〉

田中氏は、

〈事実と解釈、
知識と思いこみを区別して、
常識の立場をはっきり〉

させることは簡単ではないとし、
その例の一つとして、
いわゆる東京裁判史観を
常識的立場に取り入れることが
できるかどうかと疑問を呈し、
そこに

〈どれだけの正しい事実認識があり、
冷静な論理的分析に堪え得る
合理性を見つけることが
できるだろうか〉

と述べます。

その上で、

〈マッカーサー憲法の第九条は、
この点で多くの観察的な興味を誘う〉

もので、平和を愛する諸国民の
高い道徳性を信頼して、
一切の戦力と交戦権を
放棄しさえすれば2度と
戦争は起こらないという
「思いこみ」の前提となっている

〈日本だけが戦争を始める
危険性をもつ悪者であって、
他のすべての国民は
そのような危険性をもたない
善良者であるという命題は、
全くの虚偽〉

で、

〈この虚偽の前提から
引き出された戦力放棄によって
戦争を回避しようとする方策は
全くのナンセンスと
言わなければならない〉

という。

田中氏は、

〈一般的抽象的な命題と
具体的な特殊命題との間には、
いく重にも吟味を必要とする
段階があるから、

そのへだたりについて常識の立場は
充分な認識をもたねば
ならないのである〉

とし、さらに

〈わが国では政治論の代りに
法律論が横行し前言を探し出して
来ては約束違反をとがめて
政治を不自由なものにする
ようなことがあまりにも
多すぎるのではないか。

(略)

政治というものも本来は
自由な創造なのである。

だから少し極端なことをいうのを
許してもらえるなら、
政治家よすべからく前言を
ひるがえせと言いたいのである〉

と述べます。

〈単純命題の絶対的な主張ではなくて、
途中のいくつかの命題を見つけ出し
これの組み合わせの中に
解決の道を探す辛抱強さが
必要なのではないか。

一国民一言語一文化
というようなことは、
他面においては付和雷同の
地盤ともなりかねない。

学問とジャーナリズムの役割の
一つはその虚偽性を明らかにし、

常識の立場を回復することに
あると言わなければならない。

しかしわが国の現状は
その逆であって虚偽の上に
虚偽を重ねてこれを拡大し、
たまたま国民がいくらかでも
真理に近づくことによって
生ずる混乱に対して禁断状態にある
麻薬患者にまた麻薬を与える
ようなことばかり
しているのではないか。〉

長々引用を続けて、
いったいお前はなにを言いたいのか
とお叱りを受けそうですが、
戦後初めて自らの内閣で
憲法改正に具体的に
取り組もうとする総理大臣を得ながら、
「アベ政治を許さない」
という教条主義は安倍首相の
匍匐(ほふく)前進を危険視し、
また保守の側は、
足らざるところを糺すばかりで、
意義と成果を汲むことなく、
そうした両者の種々の非難は
「常識の立場」にもとづく
「まっとうな」「あるべき」
安倍批判をむしろ
かき消してしまっている。

憲法九条の改正も、安倍首相の
「自衛隊加憲」案は、今日の
日本における現実の営為としての
政治の限界であって、

〈途中のいくつかの命題を
見つけ出しこれの組み合わせの
中に解決の道を探す〉

ものだと筆者は考えます。

憲法改正は一度きり
ということではない。

鑿岩(さくがん)機としての、
あるいは本坑の前の先進導坑としての
意味を現実に見出すべきです。

――とまあ、そんなことを
書きたかったのですが、
田中美知太郎先生の言葉を
直接お伝えするほうが、
本質的に皆さんのお役に立つだろうと…

これは、やはり物書きというより
編集者の性ですね。

〈上島嘉郎からのお知らせ〉
●慰安婦問題、徴用工問題、日韓併合、竹島…日本人としてこれだけは知っておきたい
『韓国には言うべきことをキッチリ言おう!』(ワニブックスPLUS新書)
http://www.amazon.co.jp/dp/484706092X

●大東亜戦争は無謀な戦争だったのか。定説や既成概念とは異なる発想、視点から再考する
『優位戦思考に学ぶ―大東亜戦争「失敗の本質」』(PHP研究所)
http://www.amazon.co.jp/dp/4569827268

●日本文化チャンネル桜【Front Japan 桜】に出演しました。
(8月31日〈UNの欺瞞-なぜ日本は「人権」で攻撃されるのか/「善意の熱心家」に対処できない精神医療/自由は弱点でもある~米朝、終戦宣言と非核化の駆け引き〉)
https://www.youtube.com/watch?v=dzjEpYUTGQg

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【上島嘉郎】「常識」の回復への6件のコメント

  1. たかゆき より

    現行憲法

    こんなものは 改正すべきもの 
    ではなく
    破棄すべきもの

    改正なんぞした あかつきには
    占領軍から 押し付けられた
    現行憲法を 是認したことになる かと。。

    現行憲法は破棄して 明治憲法に 戻し
    改正すべきところを 改正するのが

    現行憲法は 所詮 泥水
    いくら 改正と称して かき混ぜたところで 
    濁りを増すだけ

    しかも 安倍某とか 無知無能(失礼)に
    憲法を弄らせたら 取返しのつかない ことに
    なるだよ。。。

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  2. あまき より

    わだすも、たかゆきさんとまったく同じことを感じただよ。

    しかも、田中美知太郎先生まで持ち出して、反安倍のやつらの言ってることを半ばsubjectiveであると決めつけ、安倍さんのあのお粗末極まりない憲法認識を塗りこめ安倍さんを持てはやすとは。なんだかまるで、丸山眞男を持ち出してかかって来いやといまFBで片肌脱いでみせている日本会議の痴漢評論家のセンセエみてえじゃねえですか。

    上島さん。あの乞食同然のいかさま提灯野郎とは違って、ご立派な実績を誇る大出版人であり、博覧強記であり、大変な名文家で信用のある上島さんまでが、そんな目くらましのような言葉遊びに執心なさるのは、ホントにもう止して下さい。安倍政権で憲法改正なんて、冗談は櫻井よしこセンセエです。

    いろいろとご事情がおありなのかも知れませんが、保守知識人の数少ない良心のおひとりとして、どうかいち早く正気に返って下さい。

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  3. >憲法九条の改正も、安倍首相の
    「自衛隊加憲」案は、今日の
    日本における現実の営為としての
    政治の限界であって、

    >〈途中のいくつかの命題を
    見つけ出しこれの組み合わせの
    中に解決の道を探す〉

    >ものだと筆者は考えます。

    >憲法改正は一度きり
    ということではない。

    >鑿岩(さくがん)機としての、
    あるいは本坑の前の先進導坑としての
    意味を現実に見出すべきです。

    私は、以上の上島先生の主張には、明白に反対します。自衛隊加憲論は、自衛隊が違憲の存在でないことを明記して、自衛隊違憲論に終止符を打ち、自衛隊の活動等の基盤を更に固める目的があるなどといいますが、我が国が自衛権を持ち、自衛隊が合憲の存在であることは、実際には現実社会に影響力のない憲法学者が何を宣おうが、当の昔に最高裁判所の判例で確定しています。

    同様の違憲論として、政府の私学補助が違憲だとの指摘は古くからあるものですが、これも、最高裁の判例で、合憲との判例がとっくの昔に確定しています。

    良く政治家の議論では、そうした違憲論を封じるために、「誤解の生じないよう、当該条文を改正する」という議論が昔から横行していて、小生は辟易としていますが、最終判例が出て、「誤解の余地がない」ものを、わざわざ大変な政治的エネルギーを使って改正しようという「常識はずれ」の議論は、法律や社会というものが丸きり分っていないのを自白しているのと同意です。

    自衛隊違憲論も私学補助違憲論も、夫婦同姓違憲論も、「合憲」という最終判例が出て、後続の違憲訴訟も絶え、それゆえ行政に何の支障もなくなり、その後の行政の積み重ねと、それによる効用の増大で、国民もそれに納得していったわけです。

    それは、最終判例が、自衛隊も私学補助も夫婦同姓も、当然「合憲」であろうという社会常識に沿ったものでもあるからで、その点、「誤解の生じないよう、条文を改正する」などという屋上屋を重ねる必要性も、政治的エネルギーを消耗する必然も全くなく、そんなことは馬鹿げていて、百害あって一利もないものです。大体、その「合憲」という最終判例を出すまでにも、莫大な政治的エネルギーが使われているのです。

    ガチャガチャ言う「憲法学者」や「弁護士」を納得させるためにわざわざ条文まで改正してあげるというのは、刑務所を豪華ホテルに建て替えて、フルコースディナーを用意してあげるというのと同じことであって、要らざるばかりでなく、害悪をもたらすものです。

    そのようなものが、〈途中のいくつかの命題を見つけ出しこれの組み合わせの中に解決の道を探す〉代物である筈がありません。

    我が国に自衛権があり、合憲が明白な自衛隊を、「違憲論を封じ込めて自衛隊の更なる基盤を固からしめる」ために、莫大な政治的エネルギーを今これから消尽せしめるほど、我が国には余裕があるのですか?それとも、「鑿岩(さくがん)機としての、あるいは本坑の前の先進導坑として」、「改憲」という実績を作るための改憲ということでしょうか。もしそうであるというのなら、それはまた随分と我が国は余裕綽々なのですね。

    確かに「憲法改正は一度きりということでは」ありません。しかし、憲法改正は、莫大な政治的エネルギーを消尽するだけでなく、それに値するほど神聖で正統な国家の行為です。総理の「自衛隊加憲論」は一体それに値するものでしょうか。

    もし本気で〈途中のいくつかの命題を見つけ出しこれの組み合わせの中に解決の道を探す〉のであれば、積極財政に転じ、防衛費を倍増させ、自衛隊の活動を円滑ならしめるための一層の法制整備を推進(細かいことですが、演習に向う自衛隊部隊の高速道路使用は無料とするなど)すべきです。

    それを実践するだけで、莫大な政治的エネルギーが必要ですし、内閣の浮沈、歴史的な意義を賭けて挑むべき課題でもあり、且つ、昨今の緊迫した我が国の安全保障の危機に対する喫緊の課題でもあります。自衛隊が既に当然合憲である現行法制下でも全く十分に実践が可能な話でもあり、「本格保守政権」が取り組むべき課題でもあります。憲法改正というのは、こうした取組みの果てに為されることであり、どうして「自衛隊加憲論」が今必要なのか、全く理解不能です。田中美知太郎先生も、そう仰るのではないでしょうか。

    沈着で博識な上島先生の仰ることとも腑に落ちません。総理の「自衛隊加憲論」に賛同する保守人士は、今一度落着きを取り戻すべきと思います。

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  4. Komiyet より

    文章がうまいので、長くてもすらすら読めますね。

    常識や格言やことわざ ってのは誰にでもあてはまるものではない。

    誰かの常識は、誰かの非常識である場合の方が多い。

    弁護士はいい人。学者は頭のいい人。テレビに出る人は善人。

    テレビを見る人は、このバイアスを持っている。

    実際は日本の弁護士は反日組織の日弁連の会員だし、

    学者の知識は深くて狭いので、世間知らずだし、

    テレビに出る人は、自分の金にしか興味がないし、

    テレビをみる人と、テレビをみない人は、ルールが違う。

    持っているデータの質と量が違えば、ルールが変わってくる。

    争いがあるのが当たり前だから、警察がある。

    戦争があるのが当たり前だから、自衛隊がある。

    中立公正なんてありえない。

    庶民は自分は中立公正だと錯覚している。

    中立公正ではなくて、マスコミの連中と同じで

    自分だけは楽に上手くやろうとしているだけだよ。

    俺たちは日本人で、自分も安倍と一緒に日本を守る。

    おれも頑張る。って気概が必要なんだよ。

    リスクを選択して、ガンガンやるんだよ。

    下手な文章ですいません。

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      1. 「自衛隊加憲論」は、「カレー味のうんこ」です。

        うんこは、食ってはいけない。

        うんこを客に出す食堂「安倍」にも、行ってはならない。

        営業停止にしろ。

        それが「常識」だろう。

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