政治

2018年9月22日

【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」:第四十九話

From 平松禎史@アニメーター/演出家

◯アバンタイトル

今回から、投稿の構成を改めます。
お気づきの方もおられるかと思いますが、
ここのところ、TVシリーズの構成を模した「中CM」を置かずにひとつながりで書いています。
劇場映画の仕事が続いているため、文章を書く場合にも、リズムが長編仕様になってきました。
映画の場合、主題歌が流れる「オープニング」はあったりなかったりで、序章にあたる「アバンタイトル」がそれにかわります。
というわけで、「アバン→本編→エンディング」と、シンプルにまとめたいと思います。

メルマガ投稿をフィクションを作るシナリオを模して書いているわけですが、現実がフィクションを越えてバカバカしい様相を見せる時、どうしたものかと困惑することが増えています。

演劇、映画、漫画。
さかのぼって、室町時代からの「狂言」は社会風刺として笑いとともに人々に「規準」を提示していたのだと思います。

アニメの世界でも少なからず社会風刺的な作品がありました。
佐藤健志さんがお好きな押井守監督の「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」や、2本の「機動警察パトレイバー The movie」など。
押井作品は、現実と過去が交錯し風刺とも憧憬ともとれる内容になっているところが、リアリズムとは一線を画している。そこが魅力でもありますが。

私達は、複雑な社会や政治の出来事を、批判的な視点をもった芸能を通じて規準を確認し、現実感を得てきたのです。
このような表現行為には、劇や小説、映画や漫才のように様々な形態を持ちますが、商業アニメに携わっている自分の立場上、ひとことで「芸能」と表現することにします。

風刺をともなう芸能の役割は、
おかしさ、せつなさ、観客が実感する感情を通して現実を知ること。
架空の世界を現実の自分と対峙させることで、理性的に規準を育てることなのです。

◯第四十九話:「〈自民党総裁選挙〉という風刺劇」

さて本編です。

風刺の役割が、現実を知るためであるならば、風刺をともなう芸能それ自体に「誇張」や「嘘」、「おふざけ」があっても許されます。
むしろ観客は、上手な「誇張」や「嘘」や「おふざけ」を楽しみたいもので、作り手はそこに創意工夫を凝らし、風刺する対象を浮き彫りにする手腕を問われるわけです。

架空であること、フィクションであること、それが風刺であれ純然たる娯楽であれ、芸能を価値あるものとして受け入れる条件になっています。
芸能がしてはいけないことは、「現実のふり」をすることです。

芸能と現実は違うもの。
この不文律を自覚し、逆手にとって、観客の混乱を巧みに利用して現実感を深めさせる手法もある。ゴダールや、上述の押井守監督もそうだと思います。
しかし
芸能が、無自覚に現実のふりをすれば観客をしらけさせ、怒らせるのです。

これを書いているのは9月20日午後で、自民党総裁選挙の投票がはじまっています。

そもそも、自民党総裁選挙というものが注目されるようになったのはいつだろう。
首相が1年程度で替わる時代は、派閥の議論が盛んで、その領袖の発言が注目された時代はありましたが、派閥の規模で概ね決まっていたため、選挙そのものが話題になった記憶がありません。
おそらく、小泉首相が「自民党をぶっ壊す」と言い、長老議員を退場させて派閥を弱体化させてからではないでしょうか
加えて、民主党政権時代に、同党の代表選挙にあるサポーター票に国籍規定がないのを批判されたりしたこと、などを通して注目度が上がってきたのだと思います。

安倍政権は、現在「第4次内閣」です。記録的な長期政権ですから、今回の総裁選への注目度が高いのはうなづけます。

++++++

ボクは、今回の総裁選ほど、しらけ、あきれたものはなかった。
もはや怒りは沸かない。しらけています。

安倍氏が3選されるのは既定路線でしょう。
岸田文雄政調会長や野田聖子女性活躍担当大臣の出馬は早々になくなり、対抗馬なしの無投票3選かとも思われましたが、石破氏が出馬を決めて一騎打ちになった。
現在 無役で、安倍政権に批判的なため党の役職も退いている。
この背景からして、安倍3選が確実なところで薄くなっていた存在感を再び示し、あわよくば人事で浮上して影響力を増したい、という思惑がうかがえる。

…などというまじめそうな観察を全部吹っ飛ばすような、様々な醜聞で選挙戦は幕を開けました。

出馬表明を遅らせ、石破氏との討論を避ける安倍氏。
「モリ・カケ」疑惑の結論なき追求。
疑惑を背景とした石破氏の「正直・公正」に対する安倍陣営の過剰反応。
離党経験のある石破氏への揶揄。
安倍陣営の「石破氏を支持するなら辞表を書いてからにせよ」などの締付け・恫喝。
など、など、実にくだらない。

もう、総裁選など話題にする価値もない!と唾棄したくなるのをぐっと耐えて、考えてみましょう。

ようやくはじまった討論での主な話題は、憲法改正と消費税増税を前提とした景気対策。

憲法では、論理を貫く石破氏に軍配が上がるでしょう。
安倍氏が説明する、九条二項をそのままに自衛隊を明文化する加憲は、その理由を国際社会の見方に依存し、自衛隊員が父の子供が学校でいじめを受けるなどという共産党じみた時代遅れの風聞に頼る始末です。
九条二項がある限り、アメリカに依存せねば立っていられず、拉致被害者は取り戻せず、沖縄はじめ国内の米軍基地は永続するのです。それで構わないというのが安倍氏の姿勢です。

安倍首相は、2014年2月の国会答弁で憲法についてこう述べています。
「憲法について、考え方の一つとして、いわば国家権力を縛るものだという考え方はありますが、しかし、それはかつて王権が絶対権力を持っていた時代の主流的な考え方であって、今まさに憲法というのは、日本という国の形、そして理想と未来を語るものではないか」
(参議院、蓮舫議員の質問主意書より http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/186/syuh/s186024.htm

「権力を縛るもの」という基本概念は時代遅れで通用しない、と。
なるほど、明治天皇が納得された基本概念は通じないとおっしゃるか。
大日本帝国憲法を制定するにあたって、伊藤博文は西欧の近代憲法の基本概念をこう説明しました。
憲法とは、権力を制限し、国民に権利を保証するものです、と。
明治天皇は納得され、大日本帝国憲法はなったのです。
日本国憲法も世界の憲法も、同様の基本概念に沿っている。
基本中の基本からひっくり返すのは、まさに「革命」ではないか。
革命にどんな結末が待っているのかも、西欧に模範がある。
安倍首相は、政治家の基本である、歴史を見る態度がなっていないと疑わざるを得ません。

消費税増税はどうでしょう。
安倍首相は
先の北海道胆振東部地震の後、「災害対策のため、思い切った予算をとりに行く」と述べました。
6月の「骨太方針」には財政拡大の余地が残された。
藤井聡教授が参与になる前からの「国土強靭化」や、安藤裕議員の勉強会がまとめ上げた「安藤提言」、これがようやく安倍首相に響きはじめた。そう思えるような姿勢が少しづつ見えてきた。
しかし、消費税増税は既定路線なのは石破氏と同じです。

石破氏は
10%への増税は当然とし、それ以上の増税も必要だと認識を示した。

改革路線に両者の違いはありません。

両者の違いはわずかだが、5年8ヶ月の政権運営で、さすがに緊縮路線に限界を感じているとしたら、安倍氏に分があると言えましょう。
石破氏は、論理派であるがゆえに、実態との乖離に気づいていない可能性が高い。

++++++

総裁選終盤になって、安倍氏に不利な情報が集中的に拡散されました。
身から出た錆ではありますが、石破氏攻勢のチャンス…と見えるような状況。
消費税や緊縮路線を転換する兆しが見えた安倍氏に対して、財務省がプレッシャーをかけて締め付けようとしている・・・という陰謀っぽい物語すら想像してしまいます。

もし、石破氏が地方票で健闘すれば、次期改造内閣に財務省論理のクギが差し込まれる可能性もある。

1:安倍氏の大勝では、増税は決行、非常識な憲法改正が迫ってくる。
2:石破氏が万一勝てば、緊縮財政と改革に拍車がかかる。
3:安倍勝利で石破氏健闘、で1と2の折衷になる。

すべて最悪じゃないですか(爆笑)

3の折衷案で、憲法改正は棚上げし、財政拡大にカジを切ってもらいたいところですが・・・

どう転んでも、最悪の他はやや最悪、くらいしか選択肢がないのです。
なのに、メディアはどっちが勝つかと騒いでいる。
「誰が」ばかり話題にし、「中身で」考える姿勢がない。
しらけるしかありません。

おわかりいただけましたでしょうか。

本来なら、総裁選のような一大イベントを風刺する芸能が必要なのです。
しかし
その総裁選そのものが、芸能と化している。
「誇張」「嘘」「おふざけ」が政治のスタンダードになっている。
芸能のくせに、現実のふりをして、まじめくさって政治らしきことをやっているのです。

◯エンディング

現実社会があって、架空の物語という光を当ててその姿を明らかにしようとする行為。
それが風刺であり、芸能の役目です。
芸能は、それ自体が架空の物語であって、現実とは違うものだという自覚なしには客観性や説得力を持ち得ません。

今回の総裁選(に限りませんが)は、そのものが社会の風刺劇に堕しています。
無自覚なところが恐ろしい。

ボクは芸能の世界を構築している一人ではありますが、だからこそ

現実のふりをした芸能に、私達の命運をかけねばならない悲劇が他にあるだろうか、と途方に暮れます。

ひとことでまとめれば、「まじめにやれよ、バカ野郎!」です。

++++++

これを書いている間に、投票結果が出ました。
安倍氏3選が確定です。553対254で、石破氏は目標の200票を越えました。
安倍首相には、災害対策として財政拡大を行っていく発言を「嘘」にしないよう、徹底的に実行していただきたい。
今後の展望に関しては、次回以降、諸先生方のメルマガをご参照ください。

◯コマーシャル

『さよならの朝に約束の花をかざろう』
DVD・Blue-rayが10月26日に発売。
下北沢トリウッドにて、DVD発売記念上映があります。
9月29日から10月8日の10日間!
https://twitter.com/sayoasa_jp/status/1036545772622233600

TVアニメ『ユーリ!!! on ICE』の完全新作劇場版のタイトルが発表されました。
『ICE ADOLESCENCE ユーリ!!! ON ICE劇場版』
YouTube動画です→ https://youtu.be/-wjrCriMOO8
2019年公開予定!

『平松禎史 アニメーション画集』発売中。
『エヴァンゲリオン』シリーズや『彼氏彼女の事情』などカラーイラストを多数収載。
http://amzn.asia/hetpEPD

画集第二弾『平松禎史 Sketch Book』発売中。
キャラクターデザインのラフや楽描き、国民の祝日の絵「ハタビちゃん」シリーズなど収載。
http://amzn.asia/hUQoCkv

ボクのブログです。
http://ameblo.jp/tadashi-hiramatz/

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【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」:第四十九話への1件のコメント

  1. たかゆき より

    現は夢よ ただ狂へ

    日本には 主権がありません

    すなわち 虚

    なのに 実 のごとく舞い続けねば ならぬ、、哀れ

    ようするに

    お仕舞い で ございます ♪

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