政治

2017年7月6日

【小浜逸郎】いやな予感

From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授

東京都議会選は、都民ファーストの圧勝、自民党の惨敗に終わりました。
自民党もまさかこれほどとは思っていなかったでしょう。

投票結果を見ると、自民党は、定数の多い地区で今までどおり2人候補者を立てていたために、
共倒れや一人だけ当選というケースが多くなっています。
党選対策本部の警戒感がまったく足りなかったのが最大の敗因だと筆者は思います。

各紙、「もりかけ」問題、豊田問題、稲田問題などにおける「自民党のおごり」が今回の結果を招いたと報じています。
自民党自身もそのように総括しています。

しかし、マスコミ主導による反安倍キャンペーン、反権力・反日キャンペーンが功を奏したという意味でなら、
それは当たっていますが、こういう形で勢力分布ががらりと変わること自体に、筆者は政治のマスヒステリア化を見ます。

また小池都知事の人気が都民ファーストの圧勝をもたらしたという見方もあるようですが、これも必ずしも当たっていないと思います。
というのは、まず、投票率が前回より上がったとはいえ、有権者の半分しか投票していないのです。
都議選に対する都民の関心の低さが歴然としています。

次に、小池都知事の人気は、選挙公示前の意識調査では決して高くなく、
特に豊洲問題では、あの引き延ばし政策にほとんどの人が反対していました。

一月時点で安全確認がなされていたにもかかわらず、小池氏はこれをひと月以上も隠しており、
「安心と安全」などという怪しげなキャッチコピーによって、いたずらに移転を引き延ばしてきました。
そのために巨額の税金が無駄遣いされており、現在もこの事態は続いています。

ちなみに豊洲市場が築地に比べてはるかに安全であり、衛生的であることは、
氏の都知事就任以前からわかっていたことです。
要するに「選挙ファースト」であり、肝心の問題を無視して陣営固めのために時間稼ぎをしていたにすぎないのです。

さらに、小池氏はゆくゆく国政進出を狙っているようですが(すでにそれを匂わせています)、
この人には、日本をどうしたいのかというヴィジョンと信念が何もありません。
悪い意味でのポピュリズム政治家の典型です(「国民ファースト」!)。

たとえば、安倍政権が進めてきたグローバリズム政策の害毒
(消費増税、TPP,農協法改悪、「岩盤」規制緩和、移民政策、
労働者派遣法改悪、電力自由化、種子法廃止など)について、
何か定見を持っているでしょうか。

筆者にはとうてい、そうは思えません。これまで国政にさんざん関与してきながら、
重要課題に関する立場をほとんど明らかにしたことがないからです。

以上のように、今回の選挙結果は、安倍政権に対する都民一般の「飽き」の気分、「デフレ疲れ」の気分、
権力者や公務員に対する「ルサンチマン」の気分の蔓延に、
反日・反権力野党やマスメディアがうまく乗っかった結果にすぎないのです。

これがただの気分、ムードにすぎないというのは、都民(あるいは国民)の大半が、
安倍政権の政策の問題点や、これまでの都政一般の問題点について、よく理解しているとは思えないからです。

それは、ここ最近、首長批判や政権批判が高まる時に、具体的な政策に関しての理性的な批判として現われるのではなく、
必ず権力者のスキャンダルだけを大げさに騒ぎ立てる感情的な形として現れるのを見てもわかります。

しかもそのスキャンダルは、半分以上、反日・反権力野党やマスメディアによって
ほじくり出されたりフレームアップされたりしたもので占められています。

思えば、この大衆のムードによる権力者引きずりおろしの兆候は、
舛添要一前都知事に対する執拗な攻撃の時から始まっていました。

多くの人が舛添批判にうつつを抜かしている時に、
筆者はこの引きずりおろしの動きには実に不快なものがあるということを、
自分のブログに発表しておきました(「舛添騒動に見る日本人の愚かさ」2016年6月16日)。
http://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo/e/0ced7935bbc25e77b979dc7856739432

気分、ムードの支配による政治の転換は、たいへん危険です。
安倍政権や自民党には上述のように、良くないところがたくさんあります。
しかし外交、軍事的安全保障、憲法問題などの面では概してよくやっています。

そのように、是々非々で物事を見ず、他に適切な対抗馬も見当たらないうちに、
「盥の水と一緒に赤子を流す」体のことをやってしまうと、
そこに空白が生じます。アナーキー状態ですね。

アナーキー状態では、国民の不満感情、やけっぱち感情が高まります。
それに乗じて、国民感情を巧みに束ねたデマゴーグ政治家が登場して、
一挙に全体主義政治体制を作り上げてしまう。これは、歴史が教えているところですね。

安倍長期政権疲れやデフレ不況疲れ、ブラック企業下での過重労働疲れ、
これらが重なって、中身は何でもいいから、とにかく都政も国政もリフレッシュ!

先の拙ブログ原稿には、日本がこうした傾向を深めていることがすでに書かれているのですが、
この傾向は、残念ながらさらに脈拍を高めていると思わずにはいられません。

というのは、このメルマガでも以前触れましたように(https://38news.jp/politics/10577)、
天才的デマゴーグ・橋下徹氏が、いよいよ国政の中枢部に登場しようとしているからです。

すでに藤井聡氏が7月4日の同メルマガでこの危険について強調されているとおり、
橋下氏入閣は、かなり確度が高そうです。
水面下では橋下氏入閣の交渉が進んでいるのでしょう。

「ゴネ得」という言葉がありますが、橋下氏は、入閣しない、しないと拒否し続けることで、
「ほかに人がいなくてそんなに求めるなら、仕方ないから引き受けるか」という手法で印象をよくしておくと同時に、
「ただし引き受ける以上は、こちらにも条件が……」などと切り出して、
巧みに「条件闘争」をしていくのではないかと疑われます。
有力ポスト、実際に発揮できる権限などについて。

政府が彼に求めているポストは、報道によれば「人づくり革命」担当相だそうです。
https://dot.asahi.com/wa/2017070200034.html?page=3
何じゃ、そりゃ? という感じですね。
人づくりは養育者、教育者、社会全体が行なうもので、
橋下氏などにそんなことをされたらたまったものではありません。
このネーミング(誰が考えたのか知りませんが)そのものが、
イデオロギーに付和雷同する単純人間製造装置の新設を企んでいるようで、
全体主義的発想そのものではありませんか。

ちなみに、予定されている内閣改造は、「都議選の大敗を受けて」と報道しているメディアが多いですが、
都議選とは直接関係なく、任期中に憲法改正を実現したいとする安倍総理が、
その体制固めを目論んで以前から決めていたことです。

橋下氏の入閣プランは、そのための最大の目玉です。

先のメルマガでは、それがいかに百害あって一利なしか書いておきましたが、
都議選大敗という結果と合わせて考えると、さらにとてもいやな予感がしてきました。

以下は、筆者が考えた最悪のシナリオです(敬称略)。

都議選大敗の結果、これまでくすぶっていた自民党内の反安倍勢力がさらに力を増し、安倍引きずりおろしの気運が高まる。
安倍はそれを敏感に察知し、自分の首相生命は遠からず終わりを告げるだろう。
早々に自分の任期中に改憲を実現させなくてはならない。
内閣改造を急ごう。改憲発議を急ごう──こうして8月には橋下徹が入閣。

一方、ポスト安倍を狙う石破茂は、安倍凋落という絶好の機会を逃さず、消費増税の必要性を党内外で力説する。
おバカな自民党員の多くの賛同を集め、増税延期を防ぐため、来年の総裁選を待たずして首班交替を画策する。

年内に改憲の発議が成立し、来年早々に国民投票へ。安倍政権支持率低下のため、
公明党もこれまでの協力的態度を変え、国民投票では「自衛隊の存在を憲法に記入」ならず。
安倍の責任が問われ、総理辞任。
総裁選前倒しで石破が当選、そのまま総理に就任。橋下は安倍の期待に応えなかったにもかかわらず、
新閣僚人事で巧みな根回しにより留任。総務大臣に。

経済音痴の石破は、財務省の緊縮真理教をそのまま実行。日本のデフレ化が加速し、国民生活は貧困化を深める。
財務省と黒幕竹中と橋下が実権を掌握し、国民の不満表現を弾圧。言論統制へ。

グローバリズムの浸透さらに早まり、中国人の移民、不動産取得、企業買収激増。
小池は中国の一帯一路に賛同、二期目の習近平主席に媚びを売り、東京五輪の財政は事実上中国資本で。

こんなことにならないように、心より祈念いたします。

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【小浜逸郎】いやな予感への5件のコメント

  1. たかゆき より

    人づくり ♪

    というよりも
    人(非人)づくりかと。。

    彼は まごうことなき人非人でせうから 適任

    ちなみに 日本は主権国家か? 答は否
    よって この国に民主主義など存在せず
    現行憲法をいくら弄ったところで 独立国にはなれません。。。

    例えば 
    日本を占領している国が 支那だったら
    支那の お与えくださった憲法を 改定に改定を重ねて大切にするかしら??

    ぼくなら さっさと
    ゴミ箱に捨ててしまうのだ ♪

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  2. robin より

    改革ファーストに対してはファストな精神で揺らがない政治家ばかりなのかな、多分改革と改善が頭の中で同義なのだろう。緊縮真理教の伝道師竹中さんは支那の教科書に乗るレベルの偉人ですね、PB黒字化に平均概念の潜在GDP、供給制約付き発展途上国型シミュレーションモデルの適用。望み通り日本が白紙化の白痴化で発展途上国になれば慣習や道徳や規制日本語も取っ払って素敵なビジネス環境が整うのだろう、手始めに北海道沖縄あたりから支那の領土になりそう、西日本も消えて東日本あたりが日本の領土として残るのかしら。

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  3. やっさん より

    自民党が崩れて独裁政権が出来そうなのは同意できます。それを阻止するためにはまだ碌でもない自民党に踏ん張ってもらいたいというのは理解できます。しかし

    >外交、軍事的安全保障、憲法問題などの面では概してよくやっています。

    小浜先生、頭がおかしくなったのでしょうか。
    自民党の政治は過去最悪でしょう。民主党よりも、といって良いかもしれません。そしてその責任は野党にはなく(対抗馬として役に立たないとしても)、全部自分たちでやったことですから、全部自民党が悪いんですよ。何野党のせいにしてるの?まあ政治におけるGDP三面等価の原則(佐藤健二)から、野党も同等に悪いし、国民も悪いんですがね。少なくとも野党がスキャンダル暴きに必死になっているのが国政をゆがめた原因、とまでは言えないでしょうね。あくまで主体は与党ですから。
    自民党が悪いのは国民が悪いから。民主党時代よりも悪いのは国民が民主党時代よりも悪くなっているから。着実に日本が壊れていますね。

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  4. とすくん より

    橋下氏ってまだ世間的にニーズがあると官邸は読んでいるんでしょうか?実際、民間議員となって内閣入閣を果たした時、世間は納得するのでしょうか?不思議でなりません。

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  5. 通りすがり より

    まさに「今年は来年よりいい年になる」ようで、素晴らしいと思います!

    しかし、弩級の経済音痴が経済を語り、自分の子供すらまともに育てない人が人づくりナントカを勤めるあたり、1984の世界なんだなあと思わざるを得ません。

    日本は「自国民を自分で守らない国」であることはご承知の通りだと思います。
    すると政治家も、「自国民を守ることは、仕事のうちに入っていない」ということになると思います。
    すると国民自身も、「どうせ政治家は自分の権力闘争のことしか考えていないんだ…」と考えるようになり、
    なんと、権力闘争の上手い人物=選ぶべき政治家 と考えるようになるのではないか…と思うわけです。

    これにオルテガの言っていた「大衆社会」が融合すると、もう、なんだかよく分かりませんね。

    よく「守るべきものがあると人は強くなる」と言いますが、今の日本に守るものがない(もしくは守る気がない)のなら、そりゃあ弱くもなりますよって話です。

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