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2017年7月26日

【佐藤健志】炎上政治と内閣支持率急落

『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)の共著者・藤井聡さんが、本紙7月11日のメルマガで
内閣支持率の急落について、こう指摘しています。
いわく。

その背景にはもちろん、森友・加計学園問題や、
自民党議員や内閣メンバー達の度重なる失言やスキャンダル、
そしてそれらを受けた都議選惨敗があることは間違いありません。

しかし、今回の支持率下落は、そうした「短期要因」だけでなく「長期的なトレンド要因」が、
ボディーブローのように大きく効いていることを見逃してはなりません。
https://38news.jp/economy/10768

長期的なトレンド要因とは
〈緊縮財政志向+消費増税によるデフレ脱却の失敗〉
を指します。

景気が良くならず、国民の多くが以前よりモノを買えなくなっている状態で、政権が支持されることはありえません。
ところが三橋貴明さんが指摘するとおり、わが国の実質消費は2014年の消費増税いらい、ほぼ一貫して減少を続けているのです。

よって藤井さんの指摘は、むろん的確なのですが、ここで考えてみたい点がある。
支持率急落をめぐる「短期要因」と「長期的なトレンド要因」は、じつは連動しているのではないか? という点。

断っておきますが、これは批判ではありません。
二つの要因の関連性について、藤井さんは積極的に触れてこそいないものの、否定してもいないからです。

それどころか、ここから先の議論については、当の藤井さんより
〈完全に賛同する〉
という趣旨のメールまでもらっていますからね。
では、本題に入りましょう。

自民党が歴史的・壊滅的な大敗を喫した先の都議選では、
投票日前日の7月1日、秋葉原で応援演説を行った安倍総理が、
聴衆からの「か・え・れ!」コールや「(安倍)や・め・ろ!」コールにたいして、
「こんな人たちに、私たちは負けるわけにはいかないんです!!」
と叫んだことが話題となりました。

選挙だというのに、いやしくも有権者にたいしてキレてしまったのです。
この発言が敗因の一つ、それもかなり大きな敗因として取りざたされたのも無理からぬことでしょう。
ジャーナリストの江川紹子さんは7月3日、以下のように述べました。
いわく。

内閣総理大臣は、安倍さんの考えに共鳴する人たちだけでなく、
反対する人々を含めた、すべての国民に責任を負う立場だろう。
(中略)
なのに安倍さんは、自分を非難する人々を
「こんな人たち」という言葉でくくってしまい、
それに「私たち」という言葉を対抗させたのである。

江川さんは安倍総理の政治手法の特徴を、「対決型」と規定します。
具体的には
「敵を作り、それと『私たち』を対峙させることで、存在価値をアピールする。
敵を批判し、嘲笑し、数の力で圧倒して、自らの強さと実行力を見せつける」
というもの。

けれどもこの手法、いかなる状態をもたらすか?
どうぞ。

対決型を推し進めることで、政治はますます粗雑になり、
できるだけ広範な人たちの合意を得ていくという地道な努力をしなくなっていった。
(中略)
そこに森友・加計問題が持ち上がり、
財務省の木で鼻をくくったような対応があり、
文科省の前事務次官の証言があり、
共謀罪審議での強引な採決があり、
豊田議員の暴言があり、
稲田防衛相の失言があり、
二階幹事長の「落とすなら落としてみろ」発言が重なった。
https://news.yahoo.co.jp/byline/egawashoko/20170703-00072877/

支持率急落の「短期要因」は、対決型政治手法の必然的な帰結であり、
その決定打として出たのが「こんな人たち」発言だった、というわけです。

江川さん言うところの「対決型政治」が、『対論「炎上」日本のメカニズム』で私が提起した
「炎上政治」の概念ときれいに重なることは明らかでしょう。
http://amzn.asia/7iF51Hv(紙版)
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けれどもお立ち会い。
国民を敵味方に分け、敵を攻撃することで自分の正しさをアピールしようとする姿勢が、
国家全体の経世済民の重視に結びつくと思いますか?

結びつくはずがないじゃないですか。

そして国家全体の経世済民の重視に結びつかない姿勢から、
〈緊縮派の根強い反対を抑え込んだ、積極財政によるデフレ脱却〉
という方向性が導き出されると思いますか?

聞くだけヤボですね、これは。

私は『対論「炎上」日本のメカニズム』で、炎上政治の始まりは小泉内閣からと規定しました。
藤井さんもこの規定に賛同、
〈小泉内閣は、かつての政府の常識では考えられないような振る舞いをしでかし、それが悪い手本になってしまった〉
という旨を語っています(190ページ)。

しかるに小泉内閣は、〈新自由主義+構造改革〉のグローバリズム路線も全面的に展開した。
果たして、これは偶然か?
グローバリズム路線とは、要するに〈国家による経世済民〉の否定なんですよ。

つまり内閣支持率急落の「短期要因」(=炎上政治)と、
「長期的なトレンド要因」(=グローバリズム、および緊縮財政路線による経世済民の否定)は、
切り離して考えることができないものと言わねばなりません。

ゆえに!
〈デフレ脱却の失敗〉が、安倍内閣の支持率を急落させた根本要因であるとしても、
「デフレ脱却に成功していれば、自民党系政治家の失言やスキャンダルが相次いだところで、ここまでの支持率急落は起こらなかった」
ということにはならない。

炎上政治の中核に〈経世済民の軽視〉がある以上、この発想にとらわれているかぎり、デフレ脱却も不可能。
逆にデフレ脱却に成功するくらい、経世済民を重視する姿勢を徹底させていれば、
失言やスキャンダルのドミノも起こらなかったに違いない。

「経世済民の達成は、国家全体の事柄である。
国民を敵味方に分けたりするような、炎上型の政治手法を使ってはならん。
気にくわない相手だからといって、批判・嘲笑・攻撃の対象にするのは許されないし、
都合が悪くなったときに、居直りや逆ギレをやらかすなど論外だ」
という話になるからです。

言い替えれば現状において、「デフレ脱却」と「失言やスキャンダルの予防」は、
そろって成功するか、そろって失敗するかの二つに一つ。
しかるに安倍内閣は、後者の状態に陥ったあげく、総崩れになりつつある感が強い。

だ・か・ら、
『右の売国、左の亡国』と言うのですよ!
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となれば
〈思い切った積極財政による支持率回復〉
に打って出るための条件は
〈緊縮財政派の反対を抑え込むこと〉
だけでは足りません。

〈炎上政治の発想から脱却すること〉
これが必要なのです。
さあ、脱却は可能か?

正直、あまり期待しないほうがいいかも知れませんね。
今や炎上政治も、それ自体の経路依存性を持つにいたっていますので・・・

最後にひとつ。
革命は社会的な炎上の極致と位置づけることができますが、
かのフランス革命においても、国の経済がガタガタになりました。
あまりの事態に、エドマンド・バークはこう問いかけています。

たんに愚かなだけでは、こんな芸当はできない。
無学ゆえの能力不足や、ありきたりの職務怠慢を加えたところで、とうてい追いつかない。
汚職、腐敗、公金横領。まだ足りない。
(中略)
革命派よ、ひとつ聞かせてくれたまえ。
諸君はいったいどうやって、偉大な祖国をあっという間に台なしにすることができたのだ?
(『新訳 フランス革命の省察』、278~279ページ)
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ではでは♪

<佐藤健志からのお知らせ>
1)戦後脱却の試みは、今のままでは「経世済民の全面放棄」に行き着くかも知れません。この点に関する体系的分析です。

『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』(徳間書店)
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2)保守、および左翼・リベラルが、そろって炎上型の政治手法に頼るようになった理念的構造についてはこちらを。

『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
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3)わが国の政治が、経世済民をしっかり達成していた状態から、常識では考えられないような振る舞いが平然とまかり通る状態にまで変貌した過程の記録です。

『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
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4)保守主義は、もともとフランス革命に対抗して生まれたもの。「炎上を抑止する」ことこそ、保守の本質なのです。詳しはこちらを。

『本格保守宣言』(新潮新書)
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5)「独立の偉業さえ達成できれば、負債など物の数には入らない。そもそも、国は負債を持つべきなのだ」(176ページ)
トマス・ペインも、プライマリーバランスの黒字化などにはこだわっていません。昔の人は偉かった!

『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
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6)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

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