日本経済

2017年7月25日

【藤井聡】なぜ、カナダのトルドー首相は、財政赤字の「拡大」を主張しているのか?

From 藤井聡@京都大学大学院教授

当方はこれまで、金融政策が徹底的に進められている今、それと併せて徹底的な「財政政策」を展開することが、デフレ脱却には必要だ、と主張して参りました。

しかしここで重要なのは、デフレを終わらせるために必要なのは、単なる「政府支出」だけでは不十分だ、という点です。なぜなら、支出以上に「収入」を増やしてしまい、プライマリーバランスの赤字が縮小してしまうようでは、結局、政府は、マーケットのマネーを「吸収」してしまうことになるからです。

したがって、デフレを終わらせるためには、政府の「収入」を基準として、それ以上に「支出」を図っていくことが必要なのです。

つまり、デフレ脱却のために求められているのは、「単なる政府支出の拡大」でなく、「プライマリーバランス赤字の拡大」なのです。

こうした主張は、「プライマリーバランス至上主義」とも言うべき、赤字をとにかく縮小して、黒字化しなければいけない──と考える一部の人々にとっては、到底受け入れがたい主張ではないかと思います。

しかし、「デフレ脱却」という大事業を成し遂げるためには、一見、「非常識」とも受け止められる「財政赤字の拡大」を図ることが、是が非でも求められているのです。

実際、カナダのトルドー首相は、まさにこの考え方に従って、「財政赤字の拡大」を、経済政策の根幹に据えています。

なぜ彼は、日本の大方のエコノミストや政治家、官僚達からは「非常識」としか見なされ得ない様な、「財政赤字の拡大」という方針を主張しているのでしょうか──?

以下、その理由を、簡単に解説したいと思います。

そもそも、一国の経済、というものは、「政府」と「民間」という二つの経済主体で構成されています。

経済の規模から言えば、「政府」の方が小さいですが、それでも、例えば我が国では、経済全体の四分の一を「政府」が占めています。そしてもちろん、残りの四分の三が「民間」ですが、いずれにせよ、政府というのは、一国の経済において極めて大きな経済主体であり、その経済活動が一国の経済の動向に甚大な影響を及ぼし得るものなのです。

さてこの時、「政府」が「赤字を拡大する」ということは、「民間が黒字になる」ということを意味します。例えば政府が一兆円を民間に支払えば、それは、「一兆円の政府赤字が拡大」すると同時に、「民間の黒字が一兆円を拡大」することになるのです。

そして、もちろん、その逆も然り。増税などをして、政府が民間から政府を吸い上げれば、その分、政府は「黒」になりますが、民間は「赤」になります。

つまり、「政府」が「得」をすれば「民間」は「損」をするのであり、その逆もまた、然り、という次第です。

さて、「不景気」とは一般に、民間が儲からなくなっている状況。儲からないから、所得も減り、投資も消費も減る。だから結局、ますます儲からなくなっていきます。

だから、この不景気から脱却するためには、民間全体におけるカネの巡りをよくする必要があるわけです。

だからこそ、「政府支出の拡大」や「減税」を通して「政府の財政赤字を拡大」させ、それを通して、「民間の黒字を拡大」することは、景気回復にとって甚大な影響をもたらすのです(なお、こうして民間トータルの黒が一定期間拡大し続ければ、早晩、民間はそのマネーを使って投資、消費を拡大し、民間の黒字は縮小し、最終的に政府の赤字は縮小することになります。これこそ、デフレ脱却、という次第です。)

カナダのトルドー首相は、こうした当たり前の認識に基づいて、景気回復を企図して「財政赤字の拡大」を政策目標に据えているのです。

一方で、我が国は2010年から、10年かけて「プライマリーバランス赤字をゼロにして、黒字化する」という目標をたてて、財政運営を図ってきました。そして、年々、このプライマリーバランス赤字を縮小させてきています。

つまりその方針は、カナダのトルドー首相の経済政策とは、「正反対」の経済政策を図ってきた事を意味します。

カナダでは、「財政赤字を拡大する」という方針の下、政府から民間へのマネーの「供給」量が拡大されてきた一方で、我が国では「PB赤字を縮小する」という方針の下、政府による民間からのマネーの「吸収」量が拡大され続けてきたのです。

これでは到底、デフレ脱却などできる筈もありません。

そして、デフレ脱却ができないからこそ、税収が伸びず、結果的に、財政はさらに悪化していくことになるのです。実際、我が国の昨年の税収は、一昨年のそれを下回ってしまいました。

そして今の我が国にでは、財政が悪化すればその少ない税収にあわせて支出も抑制されていきますから、さらにデフレは加速してしまいます。

かくして、「プライマリーバランス目標」がある限り、デフレ脱却どころかデフレはさらに悪化し、それを通してかえって、財政が悪化していくのです。

だからこそ筆者は、「プライマリーバランス黒字目標の撤回」こそが、デフレを終わらせるための最低限の必要条件だと主張してきたのです。

しかし、以上の議論から明白な通り、「プライマリーバランス黒字目標の撤回」だけでは、デフレ脱却のためには、不十分です。デフレ脱却のために求められているのは、首相が進めている様に、これまでの方針と正反対の「プライマリーバランス赤字拡大」こそが求められているのです!

繰り返しますが、一見、非常識にすら見えるこの考え方が経済財政運営のど真ん中に据えられた時に初めて、我が国は、デフレ完全脱却へと、その歩を進めることが可能となるのです。

そうした近未来が我が国に訪れん事を──心から祈念したいと思います。

追伸:「プライマリーバランス赤字」と「経済成長」の関係については、是非、下記をご一読ください。
https://www.amazon.co.jp/dp/4594077323

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【藤井聡】なぜ、カナダのトルドー首相は、財政赤字の「拡大」を主張しているのか?への6件のコメント

  1. 反孫・フォード より

     頭もコメントもずれてますが失礼します。

     Nhk教育の地球ドラマチック?だったかを観ました。

    (大雑把で曖昧な記憶ですが)
    12世紀頃のパリの悪政で都市の地下空間が採岩され尽くし陥没の危機に瀕した18世紀頃のフランスも、
    土木インフラ技術で建て直した歴史があったんですね。今はどうか知りませんが。

    まさに日本は悪政時代の延長戦です。

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  2. komiyet より

    「プライマリーバランスの赤字拡大」大賛成です。

    誤解を招く言い方をしますが、世の中にある「常識」や「格言」は敗者の理屈、外野の理屈で上書きされています。

    お釈迦さまの言葉も大乗仏教が上書きしたのと同じです。

    常識や格言を貧乏人は失敗したときの言い訳に使用します。

    それもそのはず、敗者の理屈だからです。

    本当の意味は別にあるという事を次元が上がればわかります。

    常識を疑う。そして新しい話をちゃんと聞く。

    聞いてもちゃんと理解できません。必ず勘違いの解釈をします。

    挑戦して失敗を繰り返している人はこの話が理解できると思います。

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  3. たかゆき より

    赤と黒 ♪

    「お上が黒」だと 「民も黒」は
    真っ赤な ウソ だけど
    ぼくのような アホは このての
    嵌め手に 簡単に騙される。。。

    「お上が赤」だと 「民は黒」は
    将棋でいえば 簡単な一手詰めだけど
    この手が盲点になっている 名人上手には
    一生解けない。。

    日銀 財務 の 名人上手が
    ぼくと 同じレベルの指し手だと おもふと
    とてもとても 心が癒されるのだ
    が、、
    まだまだ アマちゃん
    奨励会レベル 死ぬまでプロには 
    なれねえべ ♪ 

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  4. robin より

    グローバリズムによって(運命)共同体としての意識(幻想)が破壊されると格差は拡大する、資本家階級は国境を越えて資本家階級と結束を強めて労働者階級からより多く搾り取ろうとする、結果安定した購買力や需要を支える中間層は貧困化する、消費も投資も減り続けて発展途上国化する、だろうか。政治の不安定は戦争へ至る道だと思うが、儲かりさえすれば善いのだから戦争で利益を上げることも見越しているのだろうか、戦争は国民意識を高める、共同体意識が強まって格差も縮小するがWW3でも同じ歴史が繰り返されるのか、労働者以上に反省している資本家は善い資産隠しの方法やらマスコミを使った大衆心理の研究や調教、条件付け習慣付けに熱心であろうから労働者にはより悪い結果になりそうだが。

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  5. ひろし より

    「政府支出の拡大」が、一時的な景気回復につながることは理解するが、それが呼び水となって景気が持続的に回復し続けるとは思えない。私が社長なら、政府支出による儲けはさらなる儲けのために使う。国内社員の給与アップよりもマーケット的に魅力のある国外での設備投資などに使う。儲けを国内で使う方策がないと、政府の支出の持続的なメリットは国外へ逃げてしまい、先生が言う「こうして民間トータルの黒が一定期間拡大し続ければ、早晩、民間はそのマネーを使って投資、消費を拡大し、民間の黒字は縮小し、最終的に政府の赤字は縮小することになります。これこそ、デフレ脱却、という次第です。」とはとても思えません。
    先生はこのことをどう思っていられるのか聞いてみたいと思ったところです。

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