アメリカ
政治
日本経済
2025年11月25日
高市首相台湾有事発言は「従来の政府の立場」に何ら影響を与えるものではない。にも関わらず「中国に喧嘩を売った!」と騒ぎ立てるのは(中国を利するだけの)単なる「デマ」。
高市首相の台湾有事を巡る存立危機事態についての発言で、中国が強く反発しています。そしてそれについて、日本国内でも、高市発言を批判する声が上がっている。
しかし、その声を詳しく分析すると、少なくとも当方が調べた範囲ではいずれも不当なものばかりである。例えば、
〈台湾からも批判の声〉完全に詰んだ高市首相「存立危機事態」発言…「愛国心はあっても外交能力がない」保守系識者がオールスルーの「重大事実」
https://news.yahoo.co.jp/articles/ed9aeb96a644c12c12bca6f8c00b21a63f2aafdc?page=1
というタイトルの記事にて、その著者は、
「努めて冷静に理屈、論理で検証していきたい」
と宣言した上で、
『高市早苗首相の発言は、武器どころか、日本の国益を傷つける「凶器」となってしまった』
と高市発言を激しく批判している。
しかし、この記事を「冷静に理屈、論理で検証」すれば、高市発言を根本的に誤解したものであることが明らかなのだ。そもそも、この記事における最大の批判ポイントは、
『高市首相の描くシナリオの最大の欠陥は、「アメリカ軍が必ず助けに来る」ということを、勝手に前提にしている点だ。首相は「米軍が来援する」と断言した。』
というものなのだが、この指摘そのものが間違っている。
そもそも高市氏は、決して「アメリカ軍が必ず助けに来る」とは断定していない。高市氏は、アメリカの来援について次のように述べている。
『例えば、海上封鎖を解くために、米軍が来援をする。…こういった事態も想定されるので…』
あえて付言するまでもないが、これは「断定」とは程遠い、「例えば」の話であり、架空の話であるに過ぎない。
仮に当方が、「例えば、明日南海トラフが起こる…こういった事態も想定されるので…」と言ったとしよう。この発言を聞いて、「藤井は明日南海トラフ地震が起こると断定している!」と思う理性的な人は誰一人いないだろう。
つまり、高市首相はアメリカが台湾有事の際に来援するとは一切「断定」していないのだ。
上記記事の著者の高市批判は、この「事実誤認」に基づいている以上、正当なものとは一切言えないのである。しかも、本記事における「事実誤認」はさらに続く。
『「米軍が来ない」状況で台湾有事が起きたらどうするのか。トランプ政権が介入を拒否した場合だ。それでも日本が「存立危機事態だ」と言って自衛隊を出すなら、日本は「台湾という『国』」を守るために戦うことになる。』
この文章に瑕疵はない。まったくご指摘の通りだ。しかし問題は、この文章に続く次の下りだ。
『もし「台湾という他国を守るために自衛隊を出す」という理屈を立ててしまえば、その瞬間に日本は「一つの中国」という日中関係の土台を自ら破壊することになる。それは中国との国交断絶、あるいは全面戦争を意味する。
「米軍が来る前提」ならアメリカに迷惑をかけ、「米軍が来ない前提」なら中国との関係が崩壊する。高市首相の発言は、どちらに転んでも日本が行き詰まるような、あまりにも浅はかな想定に基づいているのである。』
もはや、何をどう突っ込んだらいいか分からない位に破綻した論理だ。
著者は「台湾を守るために自衛隊を出す」のなら、中国との国交断絶、全面戦争を意味すると言う。それは確かにその通りだ。しかし、高市首相は、「台湾を守るために自衛隊を出す」なぞとは一言も言ってはいないのだ。
あくまでも、「米軍が来援し、米軍が攻撃されれば、存立危機事態となる可能性がある」という点を指摘したに過ぎない。この指摘は、米軍が来援するという断定でもなければ、仮に米軍が来援して米軍が攻撃されれば即座に存立危機事態となるという断定でもない。
あくまでも、「可能性」として存立危機事態となるというケースが存在する、という事を示唆したに過ぎない。
ましてや、米軍が来援しなければ日本が台湾を助けるために自衛隊を出すとは一言も言及していないし、示唆すらしていない。
事実、上記記事の著者ですら、『もし「台湾という他国を守るために自衛隊を出す」という理屈を立ててしまえば』と「仮定の話」をしているに過ぎないのだ。
それにも関わらず、著者は、『「米軍が来ない前提」なら中国との関係が崩壊する』と断定している。この断定は、高市総理が「台湾という他国を守るために自衛隊を出す」という理屈を立てることが確定している場合にのみ断定可能なものだが、その著者ですら「もしも…」と仮定法で論じているように、そんな断定は100%確実に出来ないと断定できるのだ。
…と、実にややこしい話になってきてしまったが、えてして間違った論理の詭弁性を丁寧に論証しようとすればいつも複雑な説明が必要になるのだ(筆者はかつて、論理学に基づく「詭弁の研究」に従事していたがその事を痛切に理解している。例えばhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/shes/14/2/14_155/_pdf等参照)。
ただし、簡単に言えば、これは次のような話しになっている。
『A氏 もしも台湾有事に対して米軍が来援し、その米軍が中国に攻撃されれば、存立危機事態になるかもしれない。
B氏 高市は台湾有事があると米軍が来援すると断定してるぞ~!(←誰もそんな事いってない)しかも、米軍が来援しなかったら台湾の為に自衛隊を出すと言ったぞ~!(←高市発言をどう読んでもそんな事いってるとは言えない)だからAさんは、世界中に大迷惑をかけて日本の国益を激しく毀損させてるぞ~!』
いい加減にしてもらいたい。
繰り返すが、米軍が確実に来援すると断定していない以上米軍に甚大なる迷惑をかけていない。そもそも台湾関係法が存在しているだけで、米軍が来援する可能性が存在するのであり、その可能性を高市首相は指摘したに過ぎない。
おおよそ高市発言の「前」から、今回高市氏が言及した「台湾有事で米軍が来援し、その米軍が攻撃された場合、存立危機事態になる」という『可能性』は、存立危機事態が法的に定められた時点以降、存在していたのだ。
逆に言うなら、存立危機事態が法的に定められる時点以前には、それは「可能性」すら存在しなかったのだが、法的に定められて以降、誰が何を言おうと、どの国が攻撃して来ようが米軍が攻撃された際に存立危機事態となるという「可能性」は存在しているのだ。
つまり、高市発言があったからといって、「中国にとっての日本の自衛隊が出動する(主観的)確率」は何ら変化してはいないのだ。
ここに、木原官房長官が、「従来の政府の立場を変えるものではない」と発言し続けている根本的根拠がある。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025111800804&g=pol
高市発言の後でも前でも、台湾有事の際に自衛隊が出動することがあるかも知れないし、ないかも知れないのだ。
その法的確率構造を論理的に理解していない時点で、上記記事著者は「冷静に理屈、論理で検証」し損なっていると言わざるを得ない。
上記記事の著者が本稿を読み、自身が過ちを冒していたか否かを「努めて冷静に理屈、論理で検証」いただけることを心から祈念したい。そして読者各位においては、当方の指摘と、上記記事のいずれが正当なのかを「努めて冷静に理屈、論理で検証」頂きたいと思う。さすれば自ずと、いずれの主張が正当であるのかが明確に見えてくる筈だ。
追伸:日中問題はじめとした「外交」における最重要課題は今や「移民問題」。保守からリベラルまで各々の見解を「統合」し、全ての問題を解消する議論はあり得るのか…を改めてとりとめた「移民問題の決定版」を、この度編纂。是非ご覧下さい!
『この国は「移民」に耐えられるのか?ー脱・移民の思想』
https://www.amazon.co.jp/dp/B0FRRGWVCT
















コメントを残す
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です