アメリカ

政治

日本経済

2025年12月28日

高市政権の現下の「財政」をどう評価すべきか?――鍵は『骨太方針2026』にある

年末になって、大きな政治上の動きが「二つ」ありました。

一つが、玉木さんの国民民主党と自民党で年収の壁が178万円まで引き上げられることが決定したこと。

もう一つが、次年度の当初予算の政府案が閣議決定され、史上最大規模の予算となったこと。

…これらは、積極財政を掲げて誕生した高市政権としては、何とか「緊縮じゃないか!」と言われない程度の「積極財政」的決定、とはいえるように思います。

それが証拠に、178万円への壁引き上げについては、オールドメディアは、「財源が問題だ」と批判していますし、当初予算の閣議決定についても「史上最大の予算規模となった!放漫財政だ」との批判が見られます。

現状の日本ではむしろ、オールドメディアに褒められるようになったら、トンデモ無いド緊縮財政だという事になるわけですから、むしろ放漫財政だと批判されるのは、正しい財政をやる上での「義務」と言えるわけですが…

逆の立場から言えば、積極財政として、本来高市総理がやりたいと考えている「本格的な積極財政」としては必ずしも十分ではないものだ、という点が見えてきます。

まず、年収の壁引き上げの問題。

これは、かつて自民案で「大幅な減税の対象となるのは、ある一定の所得水準”以下”の低所得者だ」という意味での「所得制限」が細かく細かくあって…減税額が最小化されていたのですが、それが665万円までの所得の人は一応、一律178万円までに引き上がる、ということとなり、随分と緩和されたという意味で「前進した」ことは間違いありません。

しかし…

かつての「103万円の壁」と今回の「178万円の壁」は、(年収665万円以下の人だけにおいても!)全く異なる「壁」なのです!

第一に、103万の壁は恒久的なものでしたが、178万円の壁は時限的なものです。

第二に、103万円の壁は「全所得階層」に対して全く同じ「壁」だったのですが、178万円の壁は、665万円以「上」の所得の人においては、存在しない壁だからです。

したがって、今回の178万円の壁は、少なくとも数カ年の間は、年収665万円以下の(全体の8割にあたる)中低所得者においては、103万円の壁と同様の効果がありますが、665万円以上の所得者においては、減税効果が極めて限定的となっています。結果、景気刺激策としては限定的となっているわけです。

その他、「住民税」については、減税されていない、という点も指摘することができます。

また、今回の減税にあわせて「控除の一本化」(つまり、配偶者控除や扶養控除などを廃棄して、基礎控除に繰り入れていく、という改革)も議論されています。その際に、実質「増税」となってしまうリスクが存在する点も指摘することができます。

だから、今回の178万引き上げは、重要な一歩ではありますが、さらに範囲も、年限も拡充していくことが求められている壁なわけです。

さて、次に「次年度の当初予算の政府案が閣議決定され、史上最大規模の予算となった」という点について、以下で解説します。

これはもちろん事実ではありますが、だからといって素晴らしく積極財政の当初予算だ、とは決して言えないのです。

この予算は、「プライマリーバランスを黒字化させる」ものでしかない」という点。これはつまり、この予算を執行したとて、結局政府が民間に貨幣を「供給」することになるのではなく、逆に「吸い上げる」ものとなってしまうのです。

したがって、この予算を「素晴らしく積極財政的な予算」と評価することはできないのです。

…ということで、今回の178万引き上げも次年度当初予算の閣議決定も、高市総理が本来やりたいと思っている決定からは、残念ながら乖離してしまっているのです。

…ではなぜそうなったのかと言えば…

本年度中の高市早苗総理は、昨年決定された、石破総理による「骨太の方針」の枠内で決定する「義務」があるからです。

一般の方は、総理大臣がかわったのだから、予算だって新しい総理が思うように決定できるだろ!? と思っている方が大半だと思いますが、事実はそうではないのです。

我が国は法治国家である以上、過去に決められた拘束力ある政治的決定には、総理大臣であったとしても従う義務を持っているのです。

だから、高市総理としては「不本意」と言うべき政治的決定を下さざるをえないのです。

では、未来永劫、高市総理は本格的積極財政は無理なのかと言えば…決してそうではありません。

次々年度(次年度ではありません!)は、来年6月に、高市総理の下で定められる「骨太の方針2026)に拘束されるからです。

高市総理は、これから半年をかけて、次々年度予算の「設計図」である「骨太方針2026」を、高市総理の権限の下、策定することが可能です!

したがって、少なくとも日本の内政における最重要項目は、「骨太方針2026」を、高市総理が理想とするものにすることができるか否かの一点なのです。

当方としては、高市内閣の正確な評価は、「骨太方針2026」が策定されるまで待つ必要があると考えています。

…というのが、当方の2026年にむけての個人的方針です。

ついては本メルマガ読者の皆様にも、今回の高市決定について感情的な全否定をするのではなく、冷静中立なご評価を御願いしたいと、思っております。

どうぞ、来年もまた、よろしく御願い致します!

追伸:表現者クライテリオンの最新特集号は『「高市現象」の正体 ~ここから始まる大転換」』。高市早苗氏や高市内閣そのもの、というよりむしろ、それも含めつつ「高市さんが国民的支持を受けている現象そのものは、一体何なのか?」を論じた特集。是非、この年末年始、じっくりお読みください!
『「高市現象」の正体 ~ここから始まる大転換』
https://www.amazon.co.jp/dp/B0FYVYFVH2

 

追伸②:「三沢カヅチカ with friends」の楽曲が2026年1月1日よりネット配信となります!https://www.tunecore.co.jp/artists?id=1071462

関連記事

アメリカ

政治

日本経済

【藤井聡】この期に及んで総理続投を宣言する石破茂には総理総裁どころか社会人としての資格すらなし。自民党は彼を辞職させるべきである。それが出来ぬのなら自民党は解党すべきである。

アメリカ

政治

日本経済

【号外】【藤井聡】緊縮財政批判の社会派青春映画『君たちはまだ長いトンネルの中』 期間限定youtube無料公開(7月9日迄) 是非ご鑑賞&拡散下さい!

アメリカ

政治

日本経済

【藤井聡】『来年2023年、中国が「台湾・尖閣」に軍事的侵攻を開始する可能性は十二分以上にある。』

アメリカ

政治

日本経済

【藤井聡】 『君達はまだ長いトンネルの中』の予告編ができました。上映映画館も決まってきました。お誘い合わせの上是非、映画館にてご鑑賞ください!

アメリカ

政治

日本経済

【三橋貴明】総需要の不足と物価の上昇

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です

名前

メールアドレス

ウェブサイト

コメント

メルマガ会員登録はこちら

最新記事

  1. アメリカ

    政治

    日本経済

    高市政権の現下の「財政」をどう評価すべきか?――鍵は『...

  2. 日本経済

    【三橋貴明】三橋経済塾第十五期の入塾申し込み受付を開始...

  3. 日本経済

    【三橋貴明】三橋経済塾第十五期の入塾申し込み受付を開始...

  4. アメリカ

    政治

    日本経済

    高市総理が宣言した「日本を今一度、洗濯いたし申候」――...

  5. アメリカ

    政治

    日本経済

    日本はこの危機に、本当に耐えられるのか!?――12・2...

  6. アメリカ

    政治

    日本経済

    この国は本当に「移民」に耐えられるのか?――外国人問題...

  7. 日本経済

    【三橋貴明】消費税は直接税なのか、間接税なのか

  8. 日本経済

    【三橋貴明】死と、税金と、予定は容赦なくやってくる

  9. アメリカ

    政治

    日本経済

    “インフレだから緊縮”の大誤解──「責任ある積極財政」...

  10. アメリカ

    政治

    日本経済

    【なぜ、巨大地震『注意報』が出たのか?】20万人規模の...

MORE

タグクラウド