from 川崎市議会議員 三宅隆介
国土交通省は、直轄工事・業務の入札において、賃上げを表明した企業に対する優遇措置を縮小しました。
総合評価落札方式における加点割合は、「5%以上」から「3%以上」へと引き下げられ、2026年4月以降の案件から適用されています。
当初、賃上げを表明した企業に対する優遇措置は、企業に賃上げを促すためのインセンティブとして導入されました。
しかし時間が経つにつれて、多くの企業が形式的に賃上げを表明するようになり、ほぼ「やって当たり前」の評価項目に変質するという状況になりました。
つまり、本来は差をつけるための評価が、差がつかない評価(=形骸化)になってしまったわけです。
その結果、加点の重み(5%以上)が大きすぎるため、本来評価すべき「技術力」「実績」「品質確保能力」よりも、「賃上げ表明」の比重が過剰になるという問題が生じました。
総合評価落札方式の本来の目的は、「価格だけでなく、品質・技術も含めて最適な事業者を選ぶ」ことにあります。
しかしながら、賃上げ加点が強すぎると、結果として「技術的に劣る企業でも加点で逆転する」、あるいは「入札が政策評価のゲームになる」といった歪みが生じます。
賃上げを促そうとする政策意図そのものは理解しますが、この手法は、現行の公共事業制度の限界を示しています。
すなわち、入札制度を通じて賃上げを誘導することは、もはや不可能です。
そもそも、総合評価落札方式に賃上げの加点項目を組み込むという発想は、制度の外側にあるべき分配問題を、制度の内側で処理しようとするものです。
結果として企業は評価項目に最適化し、賃上げは「加点を得るための形式的な行動」となりやすくなります。
市場は選別の仕組みであり、能力の維持や人材の育成を目的とした装置ではありません。
したがって、その内部で賃上げを誘導すれば、歪みが必ず生じます。
公共事業を一般競争入札という形で市場化した時点で、行政は「誰を選ぶか」という選別には関与できても、「どのように育てるか」「どのように分配するか」には実質的に関与できなくなったのです。
政府として市場化(ネオリベラリズム)の流れには逆らえないというのであれば、賃上げ誘導のための制度は次のように設計されるべきです。
第一に、賃上げは制度の外側で直接担保すべきでしょう。
労務単価を適正に引き上げ、それを予定価格に確実に反映させることにより、企業が賃金を引き上げられる環境を整備する。
これは評価項目として競わせるべきものではなく、制度条件として事前に担保すべきものです。
第二に、予見可能性を制度として確保する。
長期契約や継続発注を通じて、企業が中長期的に人材を雇用し、育成できる環境を整えることです。
短期の受注競争に委ねる限り、技能の継承は成立しません。
第三に、能力維持を制度に組み込むことです。
技術者の継続雇用、教育体制、災害対応力といった要素を、加点ではなく基準として明確に位置付けることで、価格競争の中で自然に失われる能力を制度として支える必要があります。
これらは、WTOの政府調達協定が禁じる差別的取扱いには当たらず、能力や機能に基づく非差別的な条件設定の範囲に収まります。
求められているのは、「誰を優遇するか」という発想ではなく、「どのような能力を維持するか」という設計です。
かつては、指名競争や談合といった非公式な仕組みが、結果として企業の安定や人材の維持を支えていました。
しかし現代において、それをそのまま復活させることはできないでしょうから、その機能を制度として再構築する必要があります。
少なくとも、今回の国土交通省の見直しは、その必要性を浮き彫りにしたのではないでしょうか。
公共事業を市場化した時点で、政府(行政)は賃上げを誘導する政策手段を制度の内部からは持ち得なくなっていたにもかかわらず、それを入札制度の中で実現しようとしていた点に大きな誤りがあったと指摘せざるを得ません。
入札制度の中で賃上げを誘導するという発想の限界が明らかになった以上、制度の前提そのものを問い直すべきです。
公共事業は、調達ではなく産業政策であるべきなのです。
















コメントを残す
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です