From 三宅隆介@川崎市議会議員
近年、建設業界をめぐって「現場の努力」や「企業の工夫」を求める声が、あまりにも安易に繰り返されてきました。
人手不足でも何とかしろ、コストが上がっても工夫で吸収しろ、制度が変わったのだから現場が対応せよ――。
しかし、こうした言葉が空虚に響く段階に、すでに日本は入っています。
改正建設業法や取適法は、技能者に適正な賃金を支払い、下請けに不当な負担を押し付けないという点で、考え方としても制度としても正しい方向性であることは間違いありません。
労務費を可視化し、「一式見積」によるブラックボックスを解消しようとする試みは、長年放置されてきた歪みへの正面からの是正でもあります。
しかしながら、制度が正しいからといって、現実が自動的についてくるわけではありません。
現場で噴き出している混乱は、担当者の能力不足や企業努力の欠如が原因ではありません。
背景にあるのは、予定価格が上がらないという財政制約、すでに失われた技能者や積算能力という供給能力制約、そして、老朽化と災害リスクが待ってくれないという時間制約、これら三つの現実的な制約が、同時に表面化しているという事実です。
特に深刻なのは、財政制約です。
適正な支払いを求めながら、発注額は据え置く。
賃金を上げろと言いながら、建設費の上昇には政治的な拒否感が向けられる。
これでは、制度が現場を追い詰めるだけで終わってしまいます。供給能力や時間は、政治の意思決定では即座に動かせません。しかし、財政だけは違います。
これは、明確に政治の判断で突破できる領域です。
たとえば、道路整備を含む公共事業において、国庫補助や地方債を活用する際には、起債許可や償還条件に関する様々な判断基準が存在します。
具体的には、①起債償還可能性の判断基準、②利払・償還に耐えうるかという財政投融資的な見通し、③費用便益比(B/C)基準、④地方財政の健全化基準など、多岐にわたります。
これらの基準の前提となる国の公共事業評価体系では、政府全体で費用便益分析に「社会的割引率」という概念を用いており、長らく4%という高い水準が適用されてきた結果、公共事業の実施が抑制されてきたと指摘されています。
これは、将来の便益を過小評価し、長期インフラ投資ほど不利に扱う仕組みであり、結果として必要な公共投資が制度的に抑え込まれてきました。
一方、長年掲げられてきたPB黒字化目標は、その象徴的な自己拘束でした。
長期的な国土整備やインフラ更新が不可避であると分かっていながら、財政を理由に先送りし続けてきました。
その結果が、担い手の消失であり、入札不調の常態化であり、建設費の急騰です。
これは「無駄を省いた成果」ではなく、「必要な投資を怠った帰結」にほかなりません。
本来必要なのは、単年度の帳尻合わせではなく、国土全体を見据えた長期計画です。
どの地域で、どのインフラを、いつまでに更新するのか。
そのために、どれだけの人材と資金を投入するのか。
こうした見通しを示して初めて、企業は人を育て、若い世代は将来を託すことができます。見通しのないところに、供給能力は育ちません。
だからこそ、政治の役割は明確です。現場に向かって「頑張れ」と言い続けることではありません。
制度だけを整えて、あとは現場の適応力に委ねることでもありません。
政治の仕事とは、頑張れば報われる条件を、財政で先につくることです。
適正な賃金を払える発注額を示し、長期計画によって将来の需要を保証し、その責任を国家として引き受けることです。
改正建設業法は、方向を示しました。
あとは、その方向に進む覚悟を持ち、地図と燃料を用意できるかどうかです。
制度を整えた今、残されているのは、現実と向き合い、財政制約を突破するという政治の決断だけではないでしょうか。
















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