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2026年1月6日

<沈黙の螺旋>に抗う「積極財政議連」――緊縮財政が正義とされてきた社会心理学的理由【藤井聡】

高市政権が掲げる「責任ある積極財政」は、主流派の経済学者やマスコミ、そして、自民党の「主流派」からすれば「異端」と言われる財政の考え方です。学界、政界、メディア界における主流は積極財政でなく、その正反対のイデオロギーである「緊縮財政」だからです。
ではなぜ、積極財政が異端視され、緊縮財政こそが「正義」であるかのような風潮が各界を席巻しているのか、そしてその状況打開のために何が求められており、その中で、自民党に4年前に設置された「責任ある積極財政を推進する議員連盟」(共同代表:中村裕之・松本尚・若林洋平、顧問:城内実)がどの様な役割を担ったのかを、改めてとりまとめてみました。是非、ご一読ください。

「積極財政」は世間の風潮ではなく事実データに裏付けられている
 ただし、以上の三点(現在日本は激しく経済が低迷している一方、そこから脱却すれば財政基盤を含めた国力はあらゆる面で改善する、そして、その経済低迷から脱却するためには積極財政が必要である、という三点)は、日本のGDPや賃金、消費等の推移や、その推移に対する消費増税等の緊縮財政のインパクトという「実証データ」を見れば自ずと導き出すことが可能なものばかりです。ですから、「思想」や「イデオロギー」とは無関係に、ただただ実証データに示される「現実」に対して真摯に向き合う姿勢さえあれば、自ずと積極財政の必要性を理解出来る筈だと言うこともできるでしょう。一般にそうした姿勢は、プラグマティズム(実践主義)と呼ばれます。
一方で、あくまでも緊縮財政が正しいと主張する前政権の関係者や財務省、主流派のメディアやエコノミスト達は、そうした「現実」の実証データを彼らにとって都合の悪いものと見なして無視するか曲解するか等の特殊な心理プロセスを経て、「緊縮財政=善、積極財政=悪」というイデオロギーを強固に保持し続けている一群の人々だと解釈することもできるでしょう。したがって、「積極財政VS緊縮財政」という対立は、言い換えるなら「事実に基づくプラグマティズム財政VS事実を尊重しないイデオロギー財政」という対立となっていると言えます。
そして自民党はこの後者の「事実を尊重しないイデオロギー財政」としての緊縮財政論者が、大きな影響力を誇っています。例えば、前総理の石破茂氏、前々総理の岸田文雄氏は緊縮財政論者としてよく知られていますし、岸田氏が率いる派閥であった宏池会は、緊縮財政を長年主張し続けてきました。長年税制調査会の会長を務めていた財務省出身の宮沢洋一氏や野田毅氏らもまた、強烈な緊縮財政論者でした。
さらに言うと、こうした緊縮思想は自民党だけでなく、長年自民党と連立与党を組んでいた公明党においても緊縮的な政策が長年主張されてきましたし、野党第一党の立憲民主党においても、その代表の野田佳彦氏を中心に濃密に広がっています。

政界、官界、メディア界で緊縮財政が主流なのは社会心理の帰結
つまり、よくよく政界や官界、メディア界を眺めてみると、主流派は明らかに「緊縮財政」であり、「積極財政」はむしろ少数派であることが見て取れます。GDPや賃金、消費などの長期的な事実データ(例えば、本書で紹介した数々のグラフ等)を見れば、緊縮財政よりも積極財政が、成長や財政再建の為に必要であるという実態が見て取れるのですが、社会の風潮を見れば、おおよそ皆が緊縮財政を主張している実態が見て取れることとなります。
つまり、「客観的」な視点を持つ人々は積極財政を採用する一方、「世間の風潮的」な側面から政策判断をする人々は緊縮財政を主張し出すことになるわけです。そして、世論のみならず、政界、メディア界、そして驚くべきことに学界においても、客観的な事実データではなく、周りが何を言っているのかという社会的同調圧力が重視されて、それぞれの「風潮」「空気」ができあがっているわけです。
つまり、積極財政というものは「客観的な事実データに整合するが、世間の風潮とは相反する考え方・姿勢」なわけです。したがって、「長いものに巻かれる」ことで多くの利益が得られるこの現世においては、(純粋に社会心理学的な理由から)ついつい人は積極財政を忌避し、(事実的、客観的根拠がないにもかかわらず)緊縮財政を口にしがちになるわけです。
そしてそうなれば、ますます世間の風潮は緊縮的なものとなり、人々が緊縮財政を口にする圧力が上昇していき、人々が事実的、客観的根拠を度外視して、積極財政を否定し、緊縮財政をより声高に主張していくことになります。そしてますます、積極財政を主張することが憚られるようになっていきます。そして、積極財政が正しいと仮に理解している人が多数いたとしても、それを口にしづらくなってしまいます。しかし、人々が積極財政について沈黙すればする程に、ますます積極財政を主張しづらくなっていきます。
つまり、沈黙が沈黙を呼び、ますますこわばった空気が形成されていくことになるわけです。一般に社会心理学ではこうしたらせん状のメカニズムを通して世論の空気がこわばっていく現象は「沈黙の螺旋」(スパイラル・オブ・サイレンス)と呼ばれています。この理論(沈黙の螺旋理論)は、第二次世界大戦の時のドイツにおいてなぜ、ナチズムの全体主義が席巻していたのかを理論的説明するために案出された古典的な社会心理学理論で、私達の社会のいたるところに同現象を見いだすことができます。(全員が嘘であると分かっている見えない王様の洋服を「ある」「ある」と口にし続ける)「裸の王様」の寓話がその象徴ですが、「緊縮財政=善・正しい、積極財政派=悪・間違い」という学界、メディア界、政界、官界、そして世間における風潮もまた、あからさまにこの「沈黙の螺旋」によって形成されているのです。
つまり、この「沈黙の螺旋」によって事実を無視した緊縮財政が世間で主流となり、事実に基づく積極財政が「異端視」されるようになっていくわけです。

我が国は、消費税増税を皮切りとする本格的な緊縮財政を開始した1997年以降、GDPは低迷し、賃金も下落していったのですが、その根本的な原因は、我が国において緊縮こそが正しいと皆に思わせる「沈黙の螺旋」現象があったわけです。

「王様は裸だ!」と叫び続けた積極財政議連
しかし、「沈黙の螺旋」というものはそもそも、何の根拠もない単なる空気、風潮にすぎないものですから、心理学的には極めて強固で強烈な圧力をもたらすものではあっても、わずかなきっかけで雲散霧消することになります。たとえば、裸の王様の寓話では、国中の人々が「王様のお洋服は素晴らしい!」「なんて綺麗な色合いなんだ!」なぞと嘘に嘘を重ねて誰の目にも見えていない嘘の架空の洋服を褒めそやし、そんな賛辞が拡大すればする程に、人々は我先にとより極端な賛辞を声高に叫ぶようになっていくわけですが、そんな中で大人達が作り出している空気に頓着しない一人の子供が「王様は裸じゃないか!」と叫んだ途端、その空気が一気にこわれることになります。そして「王様は裸じゃないか!」と全員が口にするようになり、王様は赤っ恥をかくという状況に一瞬でなってしまったわけです。
したがって、我が国を覆っている「緊縮財政が正義だ」という空気もまた、「王様は裸じゃないか!」と叫ぶ一人の子供の様な存在が出てくることが必要不可欠なのです。そして、自民党の積極財政議連はまさに、そういう「王様は裸じゃないか!」と叫ぶ子供のような存在とならんとして、結成されたと言うことができます。
そもそも、積極財政議連の会員資格が、一定の年次以下の議員だけにしているのは、この裸の王様の寓話で言うところの、普段はエラそうにしているくせに嘘に嘘を重ねて「素晴らしいお洋服を着てらっしゃる!」なぞと不条理な事を口にする大人達を極力排除して、純粋に「王様は裸じゃないか!」と容易く叫ぶことができる存在だけに限定しようとしたからだと考えることもできるでしょう。
そして、この積極財政議連が誕生から会員数を徐々に増やし、今となっては資格対象者の若手議員の半数以上が参画し、党内で一定の影響力を確保するようになったことが、高市氏の総裁選に大きな影響をもたらし、最終的に「責任ある積極財政」という議連の名称がそのまま、政権構想の根幹に位置づけられ、今その構想に基づいて政策が続けられようとしている、と解釈することができるでしょう。

追伸:高市政権が誕生し、今も高支持率を継続しているという「高市現象」には多様な側面がありますが、この「積極財政の沈黙の螺旋の打破」もまたそのひとつ。そんな「高市現象」を包括的に論じたのが、表現者クライテリオンの「高市現象の正体」です。是非ご一読ください。
アマゾン:https://www.amazon.co.jp/dp/B0FYVYFVH2
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