政治

日本経済

2023年6月22日

【藤井聡】インフレは悪くない、悪いのは低い賃金である。だから岸田政権は「実質賃金の増進を導く消費減税&補助金/政府投資拡大」と「金融緩和継続」を実施すべきである。

 長らく日本は「デフレ」に苦しんできましたが、昨今のウクライナ情勢や円安の煽りを受けて、今は「インフレ」が深刻な経済問題だと、世論、さらには政府関係者において認識され始めています。

 もちろん現下のインフレの契機は輸入価格高騰によるいわゆる「コストプッシュ型」であって、物価高騰分は日本人でなく海外の人々の所得に寄与するものでしたが、今やもう日本人の賃金上昇にも結びついてきています。

こうした状況が続けば、「インフレ」はさらなる「賃金上昇」を導き、「投資」の拡大を促せるのみならず、日本全体の経済規模を拡大させ日本経済の世界経済におけるプレゼンス拡大に大きく寄与し得るものでもあります。

それ以前に我が国は、長年デフレに苦しんできたのであって、ようやくインフレになってきた昨今の状況はむしろ歓迎すべき側面を持つものでもあります。

こう考えれば、今のインフレ状況を全否定する態度は国益に適うものではありません。

むしろ責められるべきは、「低賃金」であって、インフレ率を上回る程の勢いを持った「賃金上昇」が起こっていないという点にあります。そうしたインフレ率を凌駕する程の勢いの賃上げが生ずるなら、「実質賃金」が上昇し、国民は豊かな暮らしを享受することが可能となります。

しかも、「インフレ」状況の継続は、消費者の「物価上昇」への抵抗感を軽減し、各事業者が賃上げがしやすい環境を創出しています。

しかし、物価と賃金や日本経済の規模等との間の関係を認識していない一般の消費者にとってはもちろん、インフレはただ単に「嫌なもの」です。

それ故、世論の趨勢は「インフレ=悪」というものとなっています。

結果、「インフレ退治が必要だ」という論調が勃興し、「金融緩和をなすべきだ」という声や「インフレになったのだから財政政策は不要だ」と言った声が出始めています。

この論調の圧力におされ、岸田政権が日銀の利上げを促せば瞬く間に投資は激しく冷え込み、おおきな賃金の下落圧力がかかることになります。

さらに電気代やガソリン代、輸入食品等の価格を引き下げる財政出動をインフレ退治の名目で拡大せず、むしろ縮小させれば法人所得が下落し、同じく賃金の下落圧力がかかります。それと同時に各世帯の可処分所得の下落が進行することになります。

つまり、岸田総理が世論の趨勢に耳を傾け、「インフレ退治」に舵を切れば、実質的な可処分所得が引き下がり、瞬く間に激しい「デフレ」圧力がかかり、折角の賃上げの機運が全て消し飛び、再び国民の貧困化が加速することになるのです。

したがって、今、岸田総理が今なすべきは、単純な「インフレ退治」ではなく、現状のインフレ水準を適正な水準で推移する状況を維持しつつ、「輸入価格高騰主導のインフレ」から「賃金上昇主導のインフレ」へと転換する、いわば「インフレ構造の質的転換」を目指す取り組みなのです。

そのために必要なのは、

・金融緩和の継続

を継続すると同時に

「A:市場における電気代、ガソリン代、食料品、資源・エネルギーについての補助金拡大」

による物価「下落」圧力の拡大と、

「B:消費税減税と公共投資の拡大」

による実質賃金上昇圧力の拡大とそれを通した、物価「上昇」圧力の拡大を同時に行うことです。

この物価を下げるAと物価を上げるBを同時に行うことで、インフレが一定程度持続しながら、「輸入価格高騰主導のインフレ」から「賃金上昇主導のインフレ」へと転換することを目指すわけです(なお、消費税減税は、短期的には「物価下落」を導きますが、しばらく期間が経過すれば、消費、投資の拡大を導き、物価上昇圧力を早晩発揮することになります)。

しかし…今の岸田政権がこうした経済政策についての合理的判断を下すとは、到底思えません。

それは岸田さんが愚かだから、ということだけが原因ではありません。

岸田さんの側近の官房副長官や官房長官、経済担当の大臣や官僚達が皆、「愚か」だからに他なりません。

当方が安倍内閣の参与を担当していたときももちろん、政治家や官僚達は、彼らの「常識」に基づいて判断していましたが、その常識が「全て」といっていいくらいに間違ったものでした。しかし、当方はじめとした少数のブレインや心ある与党議員達の説得もあり、安倍総理は正しい経済政策論を学び、それを通して、内閣関係者が政治家も官僚も皆、マクロ経済政策について一定の正しい理解を持つに至ったのでした。

しかし、今の岸田内閣には、そういう正しい理解についての欲求がほぼ皆無であり、彼らの間違った常識、彼らの間違った信念に基づいて経済政策を推進しようとしているのです。

その結果、岸田総理は「インフレ退治」という間違った経済政策を推進しようとし始めています。

そのことは、彼らがこの度閣議決定した「骨太の方針」を見れば明らかです。

彼らは何よりもまず「PB黒字化」を金科玉条としており、次に賃上げだ、とも主張していますが、そのために何が必要なのかを全く理解していないのです。

誠に残念な状況ですが、「総理が愚かで、しかも、側近も皆愚か」という日本国家にとって文字通りの最悪の危機的状況を打開するには、正しい経済政策論を、どうにかして政府に伝え、それに基づいて彼らの政策が展開される状況を作り上げねばなりません。

それは、社長以下、執行役人全員が痴呆老人化した会社を如何にすれば建て直せるのか、という絶望的な試みですが、そうする以外に、この国が立ち直る道などあり得ないのです。

社長以下、役員刷新を図りたいところですが、そのタイミングはなかなか訪れません…そうこうしている間にも、日本経済はどんどん劣化していくわけですが…

少なくとも以上の議論を、一人でも多くの国民、与党関係者、政府関係者に伝える努力を重ねて参りたいと思います。

追伸1:「岸田内閣の愚かさ」は、インボイスという「消費増税」の徹底推進に明確に現れています…インボイスについて徹底批判する記事を三本、下記にて公表しました。是非ご一読下さい。

【我が国の政府・国会に正義はないのか!?】この状況下で大消費増税である「インボイス」導入に反対しない政治家には、「正義」のかけらをすら見いだすことができない。
https://foomii.com/00178/20230618141026110422

【悲報】インボイス制度の導入によって、財務省が国民から吸い上げる税金が増える。それをあらゆる国民が負担する…しかしそれを知る国民はほぼ皆無である。
https://foomii.com/00178/20230620164435110510

財務省は「零細業者は消費税をネコババしてない」事を知っているのにあえて説明せず、「零細業者はネコババする悪い奴」という印象操作を行い、インボイス導入を目指しています。
https://foomii.com/00178/20230621103411110542

追伸2:岸田総理はなぜ、それほどにダメなのか…改めてその理由を解説しました。
泉房補明石元市長との対談で明らかになった「岸田文雄のダメさ加減」の正体 ~政治家に必要な「優しさ」「賢さ」「少しの強さ」の全てが無い~
https://foomii.com/00178/20230614105950110267

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  1. 絶滅 必然種 より

    個人にも 国家にも
    寿命というものが ある かと、、

    一番愚かな存在は
    政治家でも 官僚でもなく

    我々(道連れ御免)国民

    愚かな日本が アメリカ様の奴隷として
    敗戦後 80年弱も 生きてこられただけで十分

    100まで生きたら 奇跡

    というわけで 一期は夢よ ただ 狂え ♪ 

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  2. 利根川 より

     何もわかっていないのではない。わざとやっているのだ。罪務省が相手ならば覇王翔吼拳を使わざるを得ない。

    自民「我々は緊縮派ではない。その証拠に『必要なところ』への支出は惜しまない」

    山本太郎代表「必要なところには支出を惜しまないとか言ってますが、令和五年度 一般会計予算『文教科学振興予算』増えてないんですよ。教育や科学分野は必要ないとでも?」

    山本太郎代表「こんなの国が予算をつければ済む程度の話。財源は国債で」

    自民「スッゾコラー!国債は子供たちへのツケ回し!子供にこれ以上借金を背負わせようというのか!この人でなしめ!」

    日本共産党の田村智子議員「素晴らしい!大変感銘を受けました、子供に借金を背負わせてはいけませんよね?」

    田村智子議員「では、奨学金(子供に背負わせている借金)チャラにしてもらえますよね?」

    田村智子議員「日本学生支援機構の調査では奨学金を受給している大学生の割合が1990年 21.8%だったのが2020年 49.6%にものぼっています」

    田村智子議員「1990年代の親御さんは豊かだったので子供の学費を支払うことができた。しかし、国民が貧困化した今ではそれができなくなった」

    田村智子議員「子供に借金を背負わせてはならないというのなら、奨学金をチャラにすることに反対はしないはずですよね?」

    岸田首相「日本の奨学生が背負っている借金(奨学金)なんて平均で154万円程度なんだから大したことないだろ」
    (2023年 3月 28日 参院予算委員会)

    言っていることが矛盾しまくっているわけですが、財務省の方針に則って何が何でも緊縮・増税を続けるという方針には一切の矛盾がない不思議(笑

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  3. 利根川 より

    とある政商のなげき「日本国民は文句ばかり言う情けない者ばかりになった」

     民主制社会においては「文句」は言わないとダメなんですよ。

    「何も言わないということは満足してるってことでしょ」

    ということになってしまうので、何か問題があるのであれば言ってもらった方がいいわけです。できれば、おなじ問題に直面している者同士で組合などを作って。
     他人の痛みなんてものは、どうやったって真に理解することなんて無理なので、問題があるのなら口に出して言ってもらわないとわからないのですよ。問題があるのに根性論で黙らせて我慢させるとどうなるのか?

    安倍晋三元首相銃撃事件で、殺人罪などで起訴された山上徹也被告のように『自助努力』をする

    ことになるわけだ。 民主制社会では「文句を言う」こと(=問題点を社会が把握すること)がまず第一歩なんですよ。
     格差をもたらし、一部の超富裕層(上位10%の層)の意見だけが政治に反映されている現在の民主制社会に魅力を感じないという若者が米国では6割にのぼるという調査がある。しかし、わたしは専制国家よりかは”まだマシ”であると今も思っています。
     民主制を維持するためにも「文句を言う(政治に参加する)」人達がもっと増えてくれればと願います。政商の方々にはやりにくいのでしょうけどね(苦笑い
     

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