政治

日本経済

2022年7月19日

【室伏謙一】賃金引上げと中小企業淘汰政策を結びつける暴論が流布され始めています

From 室伏謙一@政策コンサルタント/室伏政策研究室代表

 
 先日、こんな記事がネットに掲載されました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/077326fe13980d3cb7352a6dc98d1f8b9a6e79a5

 日本は中小企業の数が多すぎるし、規模が小さすぎるから生産性が上がらず、利益率も低いので賃金が上がらないのだ、ということのようですが、結論から言えば、これはただの間違い、単なるこじつけの暴論です。

 まず日本の賃金が上がらない理由は、第一に、株主資本主義が横行したことにより人件費が削減され続けてきた、そのための手段として、代表的には、非正規への置換え、労働者派遣が悪用されてきたことがあります。そして、過剰なグローバル化の推進により、賃金の底辺への競争が激化して、これが賃金引下げへの圧力となっていることがあります。更に、長引くデフレで需要が縮小し、先の2つの原因による賃金の引下げで、更にモノが売れなくなっているので、モノの価格も引下げざるを得なくなり、その生産等に携わる労働者の賃金も引き下げられるか、長年据え置かれるかしたことがあります。

 つまり、日本の賃金を引き上げるためには、これらを是正する必要があるのですが、岸田政権は、四半期決算報告書の廃止以外には、特段具体的な措置を示しておらず、「賃上げの雰囲気を作る」ことによってなんとかしようと考えているようです。

 無論、四半期決算報告書の廃止自体は、株主資本主義是正のため、企業の超短期主義の是正のためには大きな一歩ではあり、これは高く評価していいでしょう。しかし、それ以外には何も考えていない、問題の本質が分かっていないということなのでしょう。(そもそも四半期決算報告書の廃止自体も、経済団体からも要望が出ていた話であり、株主資本主義の是正というより、企業の負担軽減という意味合いが強いと思いますが。)

 次に、日本の中小企業の数、規模と生産性の関係について、これを根拠として菅政権のいわゆる中小企業淘汰法案は立案され、あっという間に可決成立し、施行されてしまったわけですが(大手メディアは一切報じませんでした。彼らの責任放棄には呆れ返りました。私はなんとか東京MXのモーニングCROSSで解説しましたが・・・)、その根拠自体を政府は質問主意書への答弁書によって事実上否定しています。つまり根拠のないか、少なくとも不確かな法律を通して施行してしまったということです。

質問主意書はこちら
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a204191.htm

答弁書はこちら
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b204191.htm

(答弁書の作成の担当は経産省の中小企業庁ですが、ここまで明確に「根拠ありません」と答弁するということは、中小企業庁も本音ベースでは、菅政権の中小企業淘汰政策には反対だったのかもしれません。)

 そもそも、企業の数、中小零細、別の言い方をすればヴェンチャー企業、スタートアップ企業はどういう時に増えるのかと言えば、その国の経済が成長している時、つまり需要が増えている時です。需要が増えているのだから供給を増やすためというより、ビジネスチャンスが拡大して行っているのですから、新規参入が増えるのは、ある意味当たり前。

 一方で企業の数を減らせというのは強制的に供給能力を落とさせたいのか、寡占状態に持っていきたのか、そんな意図でもなければありえませんし、経済を縮小させることに他なりません。

 だいたい、岸田政権はスタートアップを増やせと言っており、これは企業、中小企業を増やせと言っているわけですが、それに経済同友会のこの代表幹事も賛同しているのであれば、チグハグ自己矛盾の類で、はっきり言って支離滅裂です。

 なぜこんな支離滅裂な話が罷り通るのでしょうか。中小企業淘汰政策にせよ、スタートアップ創出政策にせよ、これによって得をするのは誰かと言えば、第一にファンド、投資銀行の類、つまり超短期の利益を最優先にするハゲタカ系の金融セクターであり、第二にそれに奉仕するM&A関係コンサルです。つまり、そうした輩が得をするため、短期的にぼろ儲けするために、こうした支離滅裂な愚策が押し通そうとされている、ということなのではないかということです。

 しかもそのために賃金引上げ問題にこじつけているとしたら、姑息極まりないですね。

 日本の賃金がなぜ上がらないのかについては、こちらの動画も併せてご参照ください。
https://www.youtube.com/watch?v=n_CjqMTo66w&t=29s

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【室伏謙一】賃金引上げと中小企業淘汰政策を結びつける暴論が流布され始めていますへの1件のコメント

  1. 利根川 より

     本日の記事とは関係ありませんが、結構ヤバイ状況になってきたようなので書かせて頂きます。日本自給自足100%プロジェクトの方、動画拝見しました、ありがとうございました。

    小池都知事「小麦粉が無ければ米粉を使えばいいじゃない」

    JA「あ、米粉もなくなりますんで」

    苦笑いですよ。笑うしかない。

    【食糧危機】JAが警告 来年、米がなくなります
    (2022年7月21日農業新聞より)

     2023年、日本の米農家の98%が赤字経営に転落。日本で自給できている食料は米だけだが、これが自給できなくなると言うことがどういうことか。
     参考までに、日本の主な穀物の自給率がコチラ⇓

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    「日本を破壊する種子法廃止とグローバリズム 彩図社」参照 

    農林水産省によると日本の穀物自給率は2014年時点で

    米 100%
    小麦 13%
    大麦・はだか麦9%
    大豆 7%

    となっていて、多くをアメリカをはじめとする海外に依存している。
    そのため、海外で何らかの有事が起きるたびに小麦や大豆が不足して苦しむことになっている。
    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

     ウクライナ戦争の影響で海外から輸入している肥料の価格が高騰。経営規模が5ヘクタール以下の農家(お米を植えている面積が5ヘクタール以下の農家)は年間23万円の赤字になると予測されている。これが経営規模が倍の10ヘクタールの農家であったとしても、赤字にはならないとはいえ年間13万円の黒字にしかならない。
     
    「年収13万円とか分けワカメである」

    ちなみに、こうした小規模農家がどのくらいいるのかというと平成29年3月の農林水産省「稲作の現状とその課題について」によれば全ての米農家の98%を占めるという。このままいくと、ほとんどの農家が経営を続けられない状況に陥ってしまう。
     アメリカのジョージ・ブッシュ元大統領が大統領時代に自国の農業関係者に対して行った演説によると

    ジョージ・ブッシュ大統領「食料自給率は国民の安全保障の問題だ。皆さんのおかげでそれが常に保たれている米国はなんとありがたいことか」

    ジョージ・ブッシュ大統領「それにひきかえ、食料自給できない国を想像できるか。それは国際的圧力と危険にさらされている国だ」

    ということでして、実際、アメリカの場合は「事実上の輸出補助金」という形で農家の収入を補填しています。農業産出額に対する農業予算の割合は75.4%と高い値になっています。

    ”アメリカは競争力があるから輸出国になっているのではなく、食料自給は当たり前で、いかに増産して世界をコントロールするかという徹底したハイブリッド戦で輸出国になっている”

     アメリカ以外の国にしても主要穀物に関しては手厚い補助金をだしており、「収入のほとんどが政府から出ている」ケースもあるわけで、半分公務員あつかいな国すらあるわけです。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    <主要国の農業所得に占める補助金の割合 出典:協同組合「解体」の連鎖と資源・地域・国境の崩壊、鈴木宣弘、磯田宏、飯國芳明、石井圭一による>

    ・農業所得に占める補助金の割合

    2012
    日本 38.2%
    米国 42.5%(+輸出補助金75.4%
    スイス112.5%
    仏国 65%
    独国 72.9%
    英国 81.9%
    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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