政治

日本経済

2022年3月15日

【室伏謙一】緊縮財政が鉄道事業者を窮地に追い込み、そのツケを国民に回そうとしています

From 室伏謙一@政策コンサルタント/室伏政策研究室代表

 岸田政権、「新しい資本主義」だの「新自由主義からの転換」だのと、高邁なスローガンを掲げて誕生しましたが、「新しい資本主義」とはこれまでの資本主義の延長線上であって、公益資本主義とは似ても似つかないものであること、「新自由主義からの転換」とは、新自由主義を更に急進的な新自由主義に転換するものであること、そうしたことが徐々に明らかになってきました。(言葉尻しか捉えられない大手メディアは、そのことが全く分かっていないようですが。)

 加えて、コストプッシュインフレへの対応に象徴されるように、岸田政権の緊縮政権色もはっきりしてきました。とは言え、岸田総理は何も具体的な内容はおろか方向性すら考えていないようなので、彼の取り巻き、特に彼のブレーンが、ゴリゴリの新自由主義者、ゴリゴリの緊縮財政主義者ということなのだと思います。(完全に時代遅れですね。)

 さて、そうした中で、一応は報道されていますが、鉄道運賃の値上げの話が本格化してきています。その背景には勿論新型コロナの感染拡大を受けた利用者の大幅減。鉄道の車両内でクラスターが発生した、大規模感染があったとか、そんな話はありましたっけ?というところから問い直さなければいけないはずなのですが、問い直す気も、検証する気もないようで、したがって、少なくとも政策の影響を受けてのことなのだからそれに対して補償を求めると言ったこともせず、需要が減った分を運賃の値上げでと考えているようです。

 ではそのポイントはと言えば、時間差別運賃の設定等、運賃の値上げをしやすい制度に改めることや、バリアフリーに災害対応等の施設更新のための費用を利用者に薄く広く負担してもらうことができるようにするための制度改正です。(詳しくは別稿で解説したいと思います。)

 「まあ仕方がないよね」となんとなく思ってしまうかもしれませんが、仕方がなくないのです。

 まず、新型コロナの影響で利用者数が激減したわけですから、飲食店や持続化給付金の対象事業者と同様に、損失補償を受けて当然のはずです。非常時の需要激減に対して政府が有効需要を創出して対応するのは当たり前のはずですが、損失補償は政府は絶対に、死んでもしたくないようで、地方創生推進臨時交付金、飲食店への協力金等の原資となっているものですが、その要領にも損失補償に使ってはならないと明記されています。危機の時に国民や事業者を救わない、支援しない政府であれば、政府である必要はないというか、完全に役割の放棄ですね。

 次に、バリアフリーや災害対応等のための施設の更新投資については、現状でも補助金は出ていますが、国が全額負担するなり、少なくとも補助率を上げればいい話なのですが、それもやる気がなく、国民に薄く広く負担させればいいという考えのようです。

 そもそも、日本では鉄道等の公共交通について、「公共」交通」と言っていながら、公共サービスとして位置付けていない、独立採算が基本の民間事業、収益事業として位置付けて憚らないところがあります。したがって、「お前のところの施設の更新は自分でやれよ。まあちょっとぐらいは補助金出してやってもいいけどな。」という考え方になってしまうのです。

 移動を権利として位置づけるところから出発するEU諸国とは大違いです。実は日本でも交通基本法案という法案の中で交通権の規定があったのですが、提出されたのは民主党政権時、なぜか政争の道具に使われて審議未了で廃案。政権が自民党に交替した後、交通政策基本法と名称のみならず中身も変えられて、再提出されて成立しましたが、その法律からは交通権の規定は消えてしまいました。

 交通権をEU諸国のように規定するのは、すぐには難しいかもしれませんが、少なくとも、公共交通を独立採算の収益事業、民間が主体的にやるべき事業であるという位置付けや考え方を制度的に転換しない限り、鉄道事業者等は今後も窮地に追いやられ、結果として国民の負担も増え、利用者減で事業者は更に窮地へという悪循環に陥ってしまうでしょうね。

 ホント、政府は何をやっているのだ、国会議員たちは何をやっているのだ、という話なのですが、結局はこうしたことの背景には緊縮財政、PBは黒字化しなければいけない、税収で国の歳出を賄わなければいけないから余計な歳出はさせてはいけない、民間にできることはなんでも民間に任せて政府の規模は小さくしなければいけない、といった間違った発想があり、その呪縛に囚われたままなので、そもそも正しい方向を知らず、正しい方向への転換ができないのです。

 こうした誤った政策を阻止し、正しい方向への転換を促すためにも、誤った政策に反対の声を上げるとともに、どう間違っているのか広めていっていただければと思います。「事業者も苦しいのだから運賃値上げも仕方がない」なんて諦めていてはいけませんよ。

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【室伏謙一】緊縮財政が鉄道事業者を窮地に追い込み、そのツケを国民に回そうとしていますへの2件のコメント

  1. この世は既にあの世 より

    JR北海道の若者が例年になく多く中途退職してるみたいですね。個人の選択肢はアホな経営者の企業を相手にしないこと。こっちから切り捨てて行くこと。

    親方日の丸体質の国鉄に戻してはならないし、外資に売り払う。私などもう相手にしてない。車を使う。それでも不便なら自分の生活Styleを変える。

    デフレ脱却なんでしょう?だから、

    ベーシックインカムです。

    ダメ経営者、ダメ企業に金を使うわけには行かない。電車通勤通学が厳しのも自分達が自助を選んだのだから仕方ない。

    子育ても自己責任だ。甘えるな。

    自分が動いて行く、自分が引っ越す、蹴散らして行く、喧嘩する、捨てて行く、生きるというのは常に戦いだ。既得権益を甘やかしてはいけない。

    派遣社員なんて電車賃払えないから片道10キロ歩いて通勤させられたんだから今更何を言いようとか?って。

    金が無かったら歩け。自転車でもバイクでも盗んで自転車で行け。高い年金払ってるんだ、年寄りの足を値上げによって金を召し上げる。

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  2. この世は既にあの世 より

    緊縮財政というか馬鹿ばかりだからでしょ。高齢者や権力におもねる馬鹿ばかり。

    給付金に反対してヤツは自民党の年金受給者5000円給付金に批判せいよ。でも出来ない。結局そいつらって事大主義の外国人と一緒よね。

    偉そうに「何の努力もせずに」などとほざいてて、いざ茂木の横に高市早苗も立って自己アピールしてたが、恐らく批判1つ出来ない。

    茂木、高市、公明がやる高齢者への給付金は綺麗な給付金なんだろ。そいつの頭の中では働いてない高齢者が現役世代の邪魔を精一杯やった努力の結晶なんだろう。

    高齢者に何も言えないなら言えないでいいが、しゃぶりつくされるよ。

    財務省関係無い。あくまで政治家よね。財務省が悪いのなら官僚給与下げるなりの主張を展開すれば良いがそれもしきらん。

    水島、田原、安倍、西田、高市の批判1つ出来やしない。

    そんな正義の無い輩の戯言を真面目に聞くワケないだろって。正義が無いから出てくる文章の内容がシラけた内容でしかないんだよね。

    5000円で票の買収だろう。自粛で賃金が下がればマクロスライド方式で年金額下がるの当然だろう。

    どうせ蓋をするんだろう?だから自分の考えや主張が変わったとかじゃなくて臭いものに蓋をするからダメなんだよ。蓋をしてもいいが自分の主張と辻褄が合わないだろうがよ。

    そんな人間やそんなヤツらが多数派を形成する国のことなどどうでもいいと私は言ってるんだよね。

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