政治

2019年11月20日

【藤井聡】なぜ、安倍晋三氏は憲政史上最長総理となったのか?~安倍晋三「器」論から考える空虚な結論~

From 藤井聡@京都大学大学院教授

 

本日、令和元年11月20日、
安倍晋三氏はついに桂太郎氏を抜いて、
明治からはじまる日本の憲政史上、
「最長」の在任期間を誇る総理大臣となった。

まず冒頭で宣言するが、
この「憲政史上最長総理」という称号こそ、
安倍総理の最大のレガシー(遺産)だ。

もちろん、多くの国民は、安倍総理大臣こそ、
デフレ脱却を果たし、
衰退し続ける日本を救い出し、
「失われた20年」を取り戻すことを
大いに期待したに違いない。

しかし、消費税を10%に引き上げた今、
その望みは事実上、あえなく断たれてしまった

また別の多くの国民は、安倍晋三総理に
「戦後レジームからの脱却」
を夢想し、
「日本の独立を不可能にせしめている
アメリカから押し付けられた憲法9条
正しい方向に改正してくれるに違いない」
と大いなる希望を抱いたに違いない。

しかし、憲法九条の2項を温存したまま、
自衛隊の存在を記載する3項を追加する
「加憲」を耳にした瞬間に、
その夢は完全に断たれてしまったことを
確信したに違いない。

つまり、安倍内閣は、

・デフレ脱却
・憲法9条改正
・戦後レジームからの脱却

といった、多くの国民が夢見たレガシーを
何一つ達成しないままに、
憲政史上最長の総理在任期間を貪ったのである。

それどころか、
デフレ脱却については
5%から10%へと消費税を倍増させたことで
日本のデフレ長期化を決定づける
「負のレガシー」を残してしまった。

戦後レジームからの脱却について言えば、
憲法9条2項削除・修正の議論を退潮させ、
北方領土交渉を退潮させ、
防衛的・経済的な対米従属を強化し、
消費税率の倍増を通して経済力を大幅に弱体化
させることを通して、
外交的防衛的経済的なすべての視点で
戦後レジームからの脱却をより困難なものとする
という、ここでもまた「負のレガシー」を残した。

以上の議論は、
親安倍論者にしても、
反安倍論者にしても、
共通に認識しなければならない、
「単なる事実」
だ。

しかしそれにも拘わらず、
安倍政権の支持率は
(二大臣の自認や桜を見る会騒動を経てもなお)
高止まりし続けている。

これは一体なぜなのだろうか?

その答えはもちろん、
株価の上昇や円安、
現野党の民主党政権時に対するトラウマ、
そして、
「変わりがいない」という世間的共通認識等、
様々なものが挙げられるが、
政治哲学的な視点からの分析を経れば、
最も本質的な原因は、
安倍政権自体が、
「長期政権を自己目的化した空虚な器」
と化しているところにある。

政治には、
政治を通して公益を拡大することを目的とするという
政“策”的原理
と、政治権力を維持し続けることを自己目的とする
政“治”的原理
の二種類がある。
(無論後者の政治と言う言葉は、狭義の意味だ)

普通国民は、政治家に
「政策的原理」
で政治を動かしてもらう事を望んでいる。

ところが、政治の世界では、
政“策”的原理を口にするのは単なるタテマエで、
ホンネではほとんどが、
政“治”的原理
で動いているのが実情だ。

無論、心ある政治家は、
「手段」として政“治”的側面を活用し、
「目的」として政“策”的側面の実現を目指す、

という振る舞いをする。
(これこそ、政“策”的原理の政治家だ)

しかし、凡庸な政“治”的原理の政治家は、
そこが逆転しているわけだ。つまり、
「手段」として政“策”的側面を声高に叫びながら、
「目的」として政“治”的な意図の達成を目指す、

という振る舞いをする。

そして言うまでもなく、
昭和から平成、平成から令和へと時代が変遷するにしたがって、
政界において
政“策”的原理はどんどん退潮し、
政“治”的原理がどんどん拡大していったのである。

その最も象徴的な政治体制こそ、
安倍政権なのである。

多くの国民は、

デフレ脱却を叫びながら
デフレを決定づける消費増税を行う矛盾

保守政権だと主張しながら、
国体の崩壊につながりかねぬ移民政策を加速する矛盾、

戦後レジームの脱却を叫びながら、
それを不可能にする加憲を推進する矛盾、

こういった矛盾に戸惑いを隠せずにいるだろう。

しかし、そこで戸惑うのは、
安倍政権が「政“策”的原理」で
動いているとイメージしているからなのだ。

ここで、もし安倍政権が「政“治”的原理」で
動く存在なのだとイメージすれば、
それらは何の矛盾もない、
と言う実態が浮かび上がる。

なぜなら、「政“治”的原理」で言うなら、
デフレ脱却や戦後レジームの脱却を叫び、
保守政権だと主張することも、
移民政策を加速し、加憲し、消費増税することも皆、
国益とは無縁の、
「長期政権を維持する」
という「政治目標」にとっては、
何の矛盾もないからだ!

つまり、安倍政権の目標は、
デフレ脱却や戦後レジームからの脱却などではない。

それらはいずれも、
政権維持のための方便に過ぎない。

安倍政権の目標は、
「長期政権を維持する」
というその一点なのである。

その結果、
安倍政権は、巨大な「空虚な器」と化した。

それは、政権維持のためならば、
政策的な矛盾など何の配慮もせず、
何でもかんでも放り込んでいく、
途轍もなく空虚で巨大な器となったのである。

(無論、反サヨク、の色彩を帯びてはいるのだが、
 それとて、単なる政権維持のためのイメージ戦略だ。
 それについてはまた、別途論じよう
 https://www.amazon.co.jp/dp/B07YMF27NQ

そしてその器の「象徴」として、
安倍晋三氏という一人の政治家が存在しているのである。

したがって、
この政権には「真の目的」と呼べるものは何もない。

それはただ単に、「延命」することをだけを目的として持つ、
巨大な一つの空虚なマシーンなのである。

いわば、戦後日本のニヒリズムの集大成として、
安倍総理は憲政史上最長の総理大臣となられた
わけだ。

以上は、無論、一つの理論仮説だ。

しかしこの仮説は、安倍政権の振る舞いの
全てを矛盾なく説明しつくすことができる。

逆に言うと、筆者は、この仮説以外で、
安倍政権の諸行動を統一的に説明できる
仮説を想起することができない。

なお、我々はこの理論仮説を、

「安倍晋三『器』論」

と呼称している。その詳細は、

表現者クライテリオン
「安倍晋三:この空虚な器」

https://www.amazon.co.jp/dp/B07YMF27NQ

で縦横に論じている。

日本のまともな政治を取り戻すには、
こうした「空虚な器政治」を根底から
作り替えねばならない。

そのための第一歩として、
是非とも、
「安倍晋三:この空虚な器」
https://www.amazon.co.jp/dp/B07YMF27NQ
をご精読いただきたい。

追伸:
こんな「器」政治が続けば、日本に「ジョーカー」が何人も生み出されることになるでしょう。あわせてこちらも是非、ご購読下さい。
https://foomii.com/00178/2019111511000060331
(『ジョーカー』映画評論 ~腐った社会が「純粋な無私の悪人」を産み出す~)

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【藤井聡】なぜ、安倍晋三氏は憲政史上最長総理となったのか?~安倍晋三「器」論から考える空虚な結論~への8件のコメント

  1. 日本晴れ より

    藤井先生の指摘に全く同感です。途中から5%に増税したあたりから
    安倍総理は長期政権になる為だけにやってるとしか思えなくなったし だから最初に言ってきた事とやってる事が全然違う事になってるのは正に長期政権を取る為だけにやってると思う。安倍さんがやってる事はオリンピックもW杯もローマ法王を呼ぶのも全て安倍さんの長期政権の為のイベントでしかない

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  2. たかゆき より

    器に 感謝

    デフレ 円安 株高 の
    あのアホの 政策により
    小生は 大儲け

    ミクロ(小生)の視点では 何の非の打ち所もなしです

    が、、、

    マクロ(国民)の視点では ただの タワケかと。。

    ちなみに 
    カラッポの器

    天皇制も 中身の無い 筒のようなもの
    あるいは
    剥いても 剥いても 本質の現れない
    玉葱のようなもの

    という説が あったような、、、

    日本人は 中身が カラッポなモノが
    お好き 鴨

    家にあれば 器に盛る 飯を
    草枕 
    旅にしあれば ドルの葉に盛る ♪

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  3. TY より

    安倍晋三に目的は長期政権を維持することのみで
    政策的目標は無い。
    全くその通りだと思います。
    今日の日を指折り数えて待っていただろうと思いますが
    最近の世論の逆風をやっと感じ始めたのか
    今日の囲み取材で「憲政史上最長総理」の感想を聞かれている時の顔はオドオドとしてる様が明らかでした。
    憲政史上に名を残したかった、こんなひとりの政治家の私利私欲のせいで、日本が衰退国家となってしまうことになるとは。
    世襲議員というのは、国会議員は就職先で、政治的原理、で動くことが仕事だと思っているのです。
    幼少時から跡継ぎとしてそのために育てられてきたのですから。

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  4. 拓三 より

    これって一見すれば民主主義に見えるんよ。多様な意見を取り入れるってね。でも基準クライテリオンが無いんよ。国と言う基準が…

    国があれば方向性が定まるんやけど戦後この地域には国が存在しないんよ。そしてその現実をこの地域の人々は受け入れたどころかその現状が正義だと保守したんよね。自由と言う戯言を楯に現実逃避。それを70年以上保守し続けたらそれが基準に化け安倍みたいな顔無しが出てき、それを支持するその地域の人達…

    そしてなんちゃって国家を感じる為にお隣の国と比較するんよw 右も左も大好きでしょwお隣との比較がw(お隣も同じやけどw)

    「日本は消滅する」のではなく「日本はそもそも存在しない」と思う今日この頃で御座います。

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  5. 赤城 より

    日本という主権国家は敗戦後ほぼ存在しなくなったということ、
    全くその通りだと思います。

    もともとは日本国民が庶民が今現在だけ幸せに豊かに生きていられるならば、あとはどうでもよいから、
    主権も何もかも国家としてはすべて、
    何も知らない赤ん坊のふりをして放棄します。

    というのが一貫した戦後政治だったようですが、
    平成の政治は完全に戦後教育世代の虚無に成り代わり、
    最低限の道徳的感覚も失い、
    ただの外道による自滅的傀儡属国でしかなくなった。

    しかしながら、
    敗戦後や似非主権回復後の政治政策教育を見れば、
    遅かれ早かれこうなってしまうことは、
    どう考えても明らかだったことでしょう。
    まともな人ならば考えればまる分かりの事実。

    生存のために最も大事なことだけは全く見ない考えないように
    全ての日本人は教育されているのでしょうと、
    言いたくなるくらいに日本人は日本のエリートは白痴
    めくら、呆けなんですかね。
    少なくとも家畜奴隷としての教育、洗脳、
    刷り込みは完璧なのでしょう。

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  6. 山本隆裕 より

    安倍晋三や自民党は2013年からずっと売国で国賊でした。

    自民党や安倍を応援する日本会議なり、産経新聞なり、櫻井よしこ、百田、花田、上念、倉山、三橋氏、竹田・・・みんなそうです。藤井氏、貴方も安倍政権の支持者でしたよね?。

    我々、反安倍勢力になった者は当初からいましたが、安倍政権を擁護する言論人やその関係者は、どれだけ売国しても、「左翼」「安倍さんを応援しよう」「安倍の周りが悪い」「財務省が」「安倍には真意がある」「民主党」などと欺瞞を言って安倍政権の存続に力を課してきたはずです。安倍政権が倒れなかったのは貴方達安倍信者や自民党の関係者にも責任がある。

    民主党を叩くが、それは間違い。民主党は竹島提訴や尖閣国有化、郵政の凍結、年次改革要望書の破棄など素晴らしい面が多々ありました。それを評価せずに民主党たたきをしても意味などありません。
    左翼だとか韓国だとか、民主だとかそれは自民党の政権維持をさせるためのエサとしてのパフォーマンスでしょう。釣り餌で馬鹿右翼を作って自民党に支持を誘導していたに過ぎない。

    また、改憲などしても意味は無い。戦後レジームからの脱却はアメリカからの脱却である。アメリカの属国で改憲しても戦争勢力として加担されるだけ。正しくは米軍を追い出してから改憲である。もちろん集団的自衛権が可決されてる以上もう守る事にも意味は無いですが。

    左翼対右翼の不毛な対決を終わらせる必要がある。左翼にも正しい事を言ってる人たちはいる。反原発、反集団的自衛権、反米軍基地、反新自由主義など。右翼が善で左翼が悪などと言うのはプロパガンダである。
    安倍政権を維持するのに関わってきた似非保守どもの罪は重い。
    私が知っている限り、小林よしのりくらい。当初から批判してきたのは。いい加減、対米独立する日本人、政党を育てなければいけない。アメリカが全ての元凶だ。韓国や中国などその家来にすぎない。

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  7. たけちゃん より

    山本太郎が言った
      保守を名乗るな! 保身と言え!
    本当にその通り ついでに 
      恥を知れ! ウソつき共、どの面下げて保守だ!

    返信

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