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日本経済

2021年8月26日

【藤井聡】「緊急事態宣言」で成すべきは自粛・時短・禁酒で無く、「国家権力を使った医療体制の急速充実」である。

From 藤井聡@京都大学大学院教授

「新株」の影響で感染力が上がり、「さざ波」とは言い難い水準にまで新規感染者数が拡大しています。それを受けて、政府は、緊急事態宣言やまん防をどんどん延長、拡大しています。
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20210825-OYT1T50235/

こうした政府決定を、致し方無いものと受け止めている方も多いと思いますが、それは単なる「イメージ」に基づく判断です。

宣言についての政府決定に対しては、その宣言の「中身」が一体何なのかで判断せねばなりません。

事実、政府、というか菅総理は、「取り敢えず、感染広がって、政府批判が高まってきたら、そんな批判をちょっとでも抑えるために、宣言出して『やってる感』しときゃいいだろ。中身なんて二の次、三の次、どうでもいいんだよ」という風に思っているとしか思えません。

なぜなら、これまでの「宣言」でやってきた事(自粛や時短、禁酒)が、感染抑止に効果があったかどうかの検証を全くやってないからです。

これはつまり、真面目に感染症対策をやっているのではなくて、ただ単にやっているという「ポーズ」を示したいからやっているという事を、明確に示しています。

しかし、これまで政府がやってきた時短、禁酒には、効果など全くないのです。

第一に、7月12日に時短・禁酒をはじめた東京で、その効果は全くみられず、その効果が出るはずのその2週間後の時点で、感染拡大に何の「歯止め」もかかっておらず、感染スピードが減少するどころかむしろ「加速」していたのです!これは、時短・禁酒には感染抑止効果など無い事を意味しています。

第二に、8月に入ってから感染速度が低下し、ようやく昨日(8月25日)、週間感染者数が、先週よりも(二ヶ月ぶりに)下回るという状況になりました。
https://twitter.com/SF_SatoshiFujii/status/1430678367724969986
これはつまり、感染速度が確認されていた8月10日頃の二週間前の7月下旬頃から、感染が減少していった事を意味していますが、その時期に、時短・禁酒が「始められた」わけでは有りません。これはつまり、この感染拡大に対する「歯止め」は、時短や禁酒によってもたらされたことでは「ない」事を明確に示しています。

第三に、はじめて時短が採用された二回目の緊急事態宣言には、感染抑止効果など「存在しない」ことが、詳細な統計分析から明らかにされています。
https://policy-practice.com/db/7_39.pdf

第四に、「外出の自粛」が感染抑止に有効でないことを示す統計分析も提示されています。
https://policy-practice.com/db/7_33.pdf

もうこれだけの証拠があるなら、政府も、ただ単に経済に被害を与える時短や禁酒など止めればいいのに、政府は一向に、こういう視点の分析を行わず、ただただ漫然と時短や禁酒を続けているのです。

このままでは、政府がやってる感を醸し出すためにどれだけ緊急事態宣言を出しても、悪戯に副作用があるだけで、何の効果も無い、という事になります。

したがって私には、政府の宣言を到底支持することなどできないのです。

では政府は一体どうすればいいのでしょうか……?政府にできることなど何もないのでしょうか……?

いえ、そんな事は断じてありません。

緊急事態宣言を出す事を通して、国家権力を活用して、医療供給を緊急的、抜本的に拡充すれば良いのです。

今、東京をはじめ、自宅療養中に亡くなる方も出るくらい、医療供給が不足しているのです。

感染が始まって約1年半が経過したにも拘わらず、未だに医療供給力が不十分であるなどというこの状況は、政府の怠慢以外の何ものでもありません。全くもって、言語道断な状況です。

当方が昨年4月の時点から何度も主張し続けている通り、医療供給力の増強こそ、いの一番に政府が行わねばならぬことなのです。
(誠に不思議な事に、当方が医療供給力増強を主張していなかったのに今になって急に叫びだしたと批判をする人がいるのですが、何をいっているのかさっぱり分かりません。疑り深い方は是非、昨年当方4月に出した下記資料をご確認下さい。
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/resilience/documents/corona_riskmanagement.pdf

コロナ対応を図っている医療現場にヒアリングから示された、医療供給力増強のために今、重要だと思われるポイントは、以下の諸点です。

第一に、医療現場と行政との連携が未だに不十分。例えば週に一度はミーティングを行い、現場が求める事にすぐに対応できる体制を整えることが不可欠(大阪はある程度出来ているとのことですが、東京でこれができているかどうか全く不透明だとの声を聞いています)

第二に、(医師よりもむしろ)圧倒的に看護師が足らない。看護師さえいれば、(今は、コロナ対応をすれば儲かる仕組みが作られているので)コロナ対応をする病院・医師は確実に増える。そのために、看護学校、大学等の「看護師の卵」に研修を行い、現場対応をしてもらうようにする。さらに、OBや産休中の看護師が動員できるよう、保育所対応などのきめ細かな対策を図る。

第三に、限りある病床を有効利用するにあたり、患者と病院のマッチングを図る保健所の能力が圧倒的に不足している。保健所の能力を増強すると同時に、病院や医師にもっと権限を付与し、病院同士、医者同士で患者の調整ができるようにする。

第四に、看護師が濃厚接触者になっただけで、医療対応できない、という事になっており、これが看護師不足を導いている。これを防ぐ為に、「ワクチンを2回打った、医師・看護師ならPCR陰性である限り、濃厚接触者扱いしない」等の規制緩和を図る(これが、1,2類からの引き下げの一つの形)必要がある。

第五に、(既に大阪では常態化している)一般病院での発熱診療(発熱しており、コロナかどうか分からない患者の診療)を全国的に展開する。その際、上記と同様「ワクチンを2回打った、医師・看護師ならPCR陰性である限り、濃厚接触者扱いしない」というルールを徹底する。

第六に、コロナ入院者の県をまたぐ地域間移動を可能とし、限られた対応病床を有効利用する。

第七に、引き続きコロナ対応を図った医師・看護師・病院には、十分な資金・給料を提供する。

・・・

緊急事態宣言下では、こうした特別の対応を矢継ぎ早に実現し、医療供給力を増強することが必要です。

今回の波を含めたこれまでの経験全てからもほぼ明らかな通り、これまで程度の日本の自粛要請や時短、禁酒をどれだけやっても、感染拡大に歯止めをかけることは出来ない(控えめに言っても、極めて困難な)のです。

だとすれば、政府が何よりもまずやらねばならないのは、医療供給力の増強なのです。

さもなければ、医療崩壊が起こり、より多くの方が命を失う事になるでしょう。

幸いにも、今はワクチンが一定広がってきたこともあり、かつ、今は夏であるため冬場に比べれば、これでも感染者数も死者数も低く抑えられています。ですが、これが冬場であったなら、さらに恐ろしい事になっていたことは間違いありません。
(例えば、この論文で明らかにしているように、夏場は感染者数は大幅に抑止されるのです。
https://policy-practice.com/db/7_33.pdf

政府の「やってる感」なぞというものなど、マジで、もうどうでもいいのです。

国民の生命と財産、そして、経済と社会を守る、合理的理性的な政府対策を心から祈念したいと思います。

追伸:上記の様な対応が図れない地域、病院も多いようですが……そういう問題の根底にはこの深刻な問題もあります。この問題はコロナの有無にかかわらず、最も深刻な日本の宿痾の一つです。是非、下記ご一読下さい。
『「医者達の腐敗したカネ儲け主義」こそが、コロナ禍を導いた重大要因である~中川医師会長の不埒は決して例外では無い~』
https://foomii.com/00178/2021082121350483906

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  1. 大和魂 より

    このことについては賛否両論あるにせよ数年前より当時の大阪全体の自治体が先頭に立って公的な立場の者で大口を叩いて公的な病院や保健所などを意図的に削減して来た経緯がありましたから、先ずはその関係者はその出来事について弁明するのが筋ですよね!!

    それから、コロナ関連のもう一点も低次元の大阪関連で、コロナワクチンについての事で、ワイドナーショーで松本人志がワクチン接種と反接種について軽薄な持論を堂々と展開していたのを拝見していて、ワクチンについて原因不明で解らないことなら中途半端に地上波放送をするべきじゃないですよ。

    ちなみに、どちらもマスメディアに特化しているのがお解り頂けますよね。

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  2. 地獄の沙汰も金次第 より

    必要なところに それなりの カネを
    供給すれば よろしいだけ です

    が、、、

    お上から 下々まで 緊縮脳

    そんな カネが どこにある。。。

    日本のコロナ禍は
    落語「始末の極意」を 地でいってる始末

    要するに 緊縮脳は死ななきゃ治らない 

    アホにでも解る理屈かと。。。

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  3. bonobono より

    医療従事者へのワクチン強制は絶対に反対です。
    あれは、過去用いられてきたワクチンとは根本的に異なるものだということが、藤井先生ほどの人が分からないのですか。

    そもそも、感染予防効果は確認されていません。

    PCR陽性=感染でもありません。

    こんなのは、経世済民ではないと思います。

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  4. この世は既にあの世 より

    いつまで言っとるんすか。いつまで感染速度が低下し言うとるんですか。発症するしない、死ぬ死なないは別として、自粛や移動が関係無いことはなかろうもん。時短や酒は関係無いかもしらんが。移動してはダメなんで給付金ですよ。土建仕事より給付金。医者は増えないんじゃね。知らんけど。看護師も自粛警察に差別されるやろうもん。

    岸田やろな。あの中では一番誠実そうだ。女性も高齢者もありつけない土建仕事をやるくらいなら、給付金もろうて家でジッとしてた方がいいんちゃうか?

    ワクチンは変異種の度に打たなアカンみたいやん。俺は打たんけど。

    俺はコンクリの削りってやったことあるけど、相当コンクリの粉を吸い込んどるよ。コロナとどっちが害やろか?

    岸田やな、岸田。

    自粛を阻止し土建仕事を妄想するのではなく一律給付金。

    もうね、「自粛やロックダウンや」と「いや自粛やロックダウンには意味ない」との綱引きは無意味やろうもん。

    経済や。生活やて。これ無視すると人々は移動し、外出し、陽性者は増える、または減らないやろうもん。だから経済の冷え込みも加味して一律給付金や。

    政府のやってる感なんか皆んな知っとるよ。医療を増やしたところで、人々は生活の為に外出、移動はするんですわ。

    せめて俺みたいにオリンピックせんほうがいいくらい言っときゃ良かったのに、それも言わんと、何をやっとんのや。

    陽性者を増やしたから医療を増やすべきだいうて、移動や自粛関係ありまへん。死生観はこう、陽性者が減って来たようです、つきましては土建仕事です、って何やねんな。

    俺はいつ死んでもええし、感染してもいいが、他の人はちゃうやろうもん。持論や土建仕事ばかりにこだわってないで、せめて給付金出して生活面だけでも人々を安心さしたらなアカンやろうもん。

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  5. くゆ より

    医療増強しなければいけないのはその通りでしょう。

    ですが、現在進行系で医療崩壊しており、実際に家で死ぬ人や、診てもらえず死ぬ妊婦さん、救急車呼んでも運んでもらえない人達が大量に出てる時に、「数ヶ月後になって医療増強できました」では遅いんですよ!

    つまり、今必要なのは「全体の感染者数を抑えること」
    そうすれば、医療増強する「時間稼ぎ」ができます。

    少なくとも、医療の供給力を需要が上回ってしまっている現在
    供給力の増強には時間がかかる(これは経済でも一緒)
    でも、医療の需要は人流を抑制すれば確実に減ります。

    つか、人流と感染に関係が無いとか本気で言ってるんですか?
    人がみんな家にいたら、絶対に感染広まらないでしょ?バカでも分かるでしょそんなこと、藤井さん頭おかしいの?

    まとめます
    1、医療の供給力を需要が上回ってる状況では、供給力に合わせて需要を削るしかない
    2、医療の需要を削るには、人流を抑制して感染者を減らすしかない
    3、そのためには、供給が需要に追いつくまでロックダウンするしかない
    4,そうしなければ、供給(医療)を需要(患者)が上回った分がどんどん死ぬ

    これが論理的な考え方です。
    藤井さんの考え方にはもはや論理性が無い
    もはやパブリックエネミーと言っていいレベル

    今は夏でこんなもんで済んでいますが、もしこれが冬だったら
    恐ろしい死者数になっていても決しておかしくない
    いい加減コロナ軽視するのはやめるべきです

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  6. 国家権力で医療費削減したのは小泉 麻生 安倍 菅たち死民党でしょう より

    国家権力使って緊縮財政20年以上続け医療はおろか国内産業まで破壊し、あまつさえ病床減らした病院には補助金出し、医療費削減
    年金削減 社会保障破壊に血道を挙げてきたのは誰ですか?
    オリンピック開催する為に国民犠牲にして来たのは誰ですか?
    一度決定した事はもう変えられないと戦争に突っ込んだ歴史に学ばなかったのは誰ですか?
    20年かかって破壊した事実をこの1,2年で変えられますか?

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      1. 三橋氏の本日のビッグブラザー「必要なのは競争」 より

        まあ選挙も競争と言えば競争ですが三橋氏が競争と言うと合間見えてきた小泉竹中安倍路線の競争だ、競争だが引っ掛かる。
        自民党総裁選挙は公選法の適用外、カネまみれの血で血を洗う実弾飛び交う戦争。
        安倍や小泉のバカが総理になったのもアメリカ裏社会と売国経団連の実弾のお陰
        ましてや菅が官房長官時代にワシントンに一人で呼びつけられたのも引っ掛かる。
        ましてやナチ礼賛の高市がサイモンビーゼンタールに目をつけられてない筈がない、スキャンダルも多い女だし。
        ワシントンはスガがダメならブロック野郎コーノタロを指名するかも知れない
        その時はTVマスゴミも雪崩をうってコーノタロ等と言い出すかも。

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  7. りく より

    コロナは風邪とか夏には収束とかインフォデミックとか飲んでも大丈夫とか年寄りの死生観の問題とか散々言ってたくせに今更、医療体制強化とは、、、

    ただの風邪なら強化する必要なし、インフォデミックなら家で寝てろって話。

    本当に無責任極まりないない

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