日本経済

2020年4月10日

【藤井聡】政府は100兆円の「新規国債」を発行し、国民の「所得・雇用・生命」を守れ!

From 藤井聡@京都大学大学院教授

 

政府は、新型コロナウイルス対策のために「緊急事態宣言」を出しました。

この緊急事態宣言は「法律」に基づくもの。

で、その法律における「緊急事態」とは、国家が、医療供給力を、国家権力を使って強制的に調達可能にする、というのが、最も重要な項目です。

そしてその単なる「おまけ」として、「自粛の要請を可能にする」というものが書かれています。

ここで重要なのは、これは単なる「おまけ」だという点。なんと言っても、単なる自粛の「要請」の話しであって、何も強制力を伴うものではないからです。単なる「要請」に法的根拠なんてあってもなくても何も変わらないのです。

・・・しかし、多くの国民は、そうした法的な主旨など知る由もありません。

ただただ、多くの国民は漠然と、「えっっ!! 緊急事態だぁ!!!!」とびっくりしてしまい、精神的に激しく萎縮してしまっています。

その結果、繁華街の飲食や娯楽の店からはまるっきり人がいなくなってしまいました。多くの商業施設もビルごと閉鎖してしまい、多くの商店が店を閉めざるを得なくなりました。その結果、人の移動が大幅に縮小し、電車、バス、タクシーといった運輸業も旅客が7、8割も減少してしまいました。

そもそも安倍総理は、西浦という学者が主張した「とにかく、人と人との接触を8割削減しろ」という、二階自民党幹事長から言わせれば「無理に決まってるだろ」というような無茶苦茶な話しを国民に要求している一方、国民は真面目なものですからそれに唯々諾々と従い、それに従わない人々をまるで「非国民だ!」と言わんばかりの空気がもう完全にできあがってしまっています。

もうこうなれば消費も投資も縮小するわけで、国民の収入が激減します。

これに対して政府は108兆円の経済対策をまとめましたが・・・その正味の中身は、たった「16.8兆円」に過ぎません。

新しい国債を発行し、市場に注入する事を通して、「国民の所得を直接増やす」金額は、「16.8兆円」だからです。残りの90兆円超の金額は単なる「融資」であったり、既に支出が決まっていた項目にただ単に「経済対策」というラベルを貼ったりしているに過ぎません。

つまり108兆円という数字は、単なる見かけ倒しの張りぼて、あるいは、おぞましき粉飾決済の類いなのです。

さて、このような経済対策が、単なる見かけ倒しのものに過ぎないというのは、ゴールドマンサックスがこの経済対策が執行されることを「前提」とした上で計算した、この4-6月期の日本のGDPの下落予測にはっきりと現れています。

『日本の4-6月期GDP予想、マイナス25%に下方修正-ゴールドマン』
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-04-08/Q8G3FGDWX2PU01

これは相当衝撃的な数字です。

繰り返しますが、今回の安倍内閣がまとめた経済対策がしっかりと執行されていることを前提としているのですが、それでもなお、

消費  :マイナス25%
設備投資:マイナス40%
輸出  :マイナス60%

という恐ろしい下落が生じることが予想されているのです。

そもそも、去年の10-12月期は、「消費増税ショック」のせいでマイナス7・1%という激しい下落を記録しました。

今年の1-3月期は、「コロナショック」のせいで、どれほど酷いマイナスになっているか分かりませんが、年率で10%~20%程度の下落を記録することも間違いないでしょう。

そしてこのコロナショックに加えて、安倍総理の「緊急事態宣言ショック」が加わった訳で、それによって4-6月期は、マイナス25%程度になることは十分に想定される状況なわけです。

ここでコロナ収束は「年単位」の時間がかかるとも言われていますから、今年の夏頃に収束する可能性も否定はしませんが、政府の対策としては、少なくとも一年程度はこの勢いで経済が縮小していくことも十分に想定されるところです。

そうなりますと、年率マイナス25%の勢いで経済が下落していきますと、令和2年度の全体の成長率は「マイナス12.5%」となります。
ただし、この「緊急事態宣言ショック」以前に「消費増税ショック」「コロナショック」が始まっていたわけですから、(これまでの政府対策を踏まえてもなお)「5%程度」は日本のGDPが毀損していたに違いありません。
それらの影響を踏まえれば、日本のGDPは年間トータルで17.5%、金額にて100兆円程度も減少することが予期されるのです。

つまり、ここで政府がこれ以上何もしなければ、我々日本国民の所得は、100兆円も減ってしまうのです。これは、国民一人あたり平均80万円もオカネを失ってしまうのです。

そもそも、私の身の回りで、収入を減らしていない人など、ほとんど誰もいません。

自営業や中小企業の方、そして非正規雇用の方々はもちろんのこと、サラリーマンの方もボーナスが減ることは必至です。言論人もミュージシャンも画家も漫画家も、皆、収入が減っています。それに加えて、これから激増する倒産や失業の憂き目にあった人々の所得は基本的に「ゼロ」になってしまいます。

所得が減ってない人がいるとすれば、安倍総理をはじめとした国会議員と(副業のほとんどない)公務員くらいなのです。

だから、皆の所得が年平均で80万円程度減ってしまうことなど、十二分に考えられる状況なのであって、GDPマイナス100兆円という話しは、十分に想定範囲内なのです。

だからこそ、政府は、こうした大恐慌を防ぐためにも、100兆円の「真水」を国民の市場に注入しなければならないのです!

もしそれができないなら、仮に今年の秋にコロナが収束しても、国民のポケットの中には、(単純に言うなら)560兆円でなく460兆円しか入っていないのです!

そこから日本がこれまで通り、毎年1%ずつ成長できるとしても、560兆円に戻るまで、実に20年もかかってしまうのです!!

だから、国民所得を460兆円にまで下落させてはいけないのです。

そして、政府は、「100兆円の真水」を投入すれば、日本国民はそういう地獄を見ずに済むのです!

一番シンプルな方法は、消費税を一時凍結し(30兆円)、国民一人あたり毎月10万円の給付金を半年配布すれば、それだけでおおよそ70兆円。あわせて、100兆円となります。

もちろん、70兆円の一部を、商店や中小企業の倒産対策にあて、店や企業を休業している間の家賃等の固定費を全て政府が肩代わりしてやるという方法もあるでしょう。

いずれにしても、そうやって100兆円の真水を投入すれば、このコロナショック、緊急事態宣言ショックを受けてもなお、国民は誰一人、仕事も所得も失うなく、生き続けることができるのです。

そして何より、それだけの手厚い補償が政府から与えられれば、コロナ禍の間、誰も無理をして働こうとはしなくなり、安倍総理が主張した「8割の接触の削減」も、決して不可能ではなくなるでしょう。

つまり、今、可及的に速やかに、「100兆円」の支出を政府が決定すれば、国民は所得も、雇用も、そして、命も守られるのです。

政府がこうした「基本的な四則演算」に基づく、国民を慮った適切な経済対策を実施されんことを、強く要求したいと思います。

そして万一、現政府がそうしようとはしないのならば、是非とも可及的に速やかにお引き取り願い、別の方に政権を譲り渡していただく事を、同じく要求したいと思います。

追申:
コロナ対策を進める主人公は、実は安倍首相や厚労省ではなく、知事を中心とした地方自治体の知事の皆さんなのです。そんな地方自治体を、中央政府が徹底的にお支えするためにも、『政府は日銀と協力し、新型コロナ対策費を「都道府県」に徹底支給せよ!』を是非、ご一読ください!

https://foomii.com/00178/2020040315331965184

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【藤井聡】政府は100兆円の「新規国債」を発行し、国民の「所得・雇用・生命」を守れ!への7件のコメント

  1. たかゆき より

    108 

    意味深な数字 すなわち 煩悩

    四苦八苦 4×9+8x9

    もう要らぬと いうほど

    真水を首まで浸からせれば よいだけでせう

    が、、、

    国のシャッキンという 煩悩から逃れられない

    エンなき衆生には 無理ですか。。

    懺悔懺悔(サイギサイギ)

    六根清浄

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  2. 臣民 より

    先生の書籍を読んでいます。
    毎日毎日読み返してます。
    丸ごと全文暗記する意気込みで読み返してます。最近は、MMT批判記事探しが楽しみの一つです。私ごときでも、立派に論破出来るようになりました。と言っても先生の本から導き出される言葉なのでコピペと言われればそれまでですが、コピペはしてません。指先と口が自動的に反論記事を紡ぎ出します!
    反論出来ちゃうんです!
    です!
    徹底的に応援致します。
    しかしまあ、お馬鹿が多いこと(笑)
    まあ~立派な肩書きの方達がね~
    もう記事見つけると、(;゚;ж;゚;)ブッ
    な、必死の攻撃が痛々しい
    しかし困りましたね~
    どうしたもんでしょうかね
    トホホ(*_*)

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  3. 麦粒 より

    「国民一人あたり毎月10万円の給付金を半年」といのが、全国民一律という前提で、

    「いいね!」

    それだったら一体感出るよ。できれば、生活支援的な守備的な名目ではなく、みんなで一緒に頑張りましょう!的な積極的なものがいいんじゃないかな。

    それが実現したら、傷んだところにじゃんじゃんつぎ込んでも大丈夫だと思うな。これまで頑張ってきた人たちを応援しよう!という、いい感じのキャンペーンが打てればなおいいと思う。

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  4. 拓三 より

    ね! バカでしょ。政府は…そして日本人は…

    政府は国民の命をも「賭け」に回したんよ。
    己の理論を徹底する為に.なすべきことを考えず…

    「だから国家を信じるな!」と言いたいところやけど、まあ、これこそバカ。戦後、徹底的にこの戦法で国家を解体してきた結果が出てるだけ。そしてこれを望んだのも国民なんよ。

    安倍を批判するけど安倍こそ今の日本人の象徴よ。
    信念も無くカメレオンの様にその場しのぎで意見を変える。
    又はその場を考えなければならない時に下らん意地を張る。

    所詮己が一番可愛いんよ。日本人。ではなく男はかな。

    「バカは死ななきゃ治らない」この言葉。
    実はメチャクチャ深いんよ。

    死を直面して解ることってあるんよね。

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  5. 麦粒 より

    ここに書くべきではないかもしれませんが、ちょっとお借りします。

    50万円以上の全国民一律給付は、原則を外した政策を含む、これからやらなければならない政策を円滑に進めるための、支持基盤固めです。救済ではありません。

    本来であれば、全ての事業者を救済する必要はありません。国家にとって必要な事業者だけを救済すればいい。それで生活が成り行かなくなるというのなら、公共事業による救済とその間の最低限の生活保障をすればいい。

    政府に落ち度があって補償しなければならない場合でも、やり方を間違えれば、せっかく固めた地盤が揺らぐことになる。政府が個別に補償をしないほうがいいのは、技術的な問題ではなく、ありていに言えば、責任を回避するためです。

    自粛要請をしたのなら政府が補償するのは当然だ、というのは間違っている。事業継続のためならウィルスを拡散しても構わない、ということにはならない。

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  6. wachtelhund より

    田村秀男には敬意を抱いているが、ちょっと数字だけ追ってるところがあるのかな。国家が有用無用を選定すべきという前提自体が平時と有事をはき違えているように見える。

    田村は安倍のやり方を有事にかなっていないと批判するが、防疫と治療と生活保障のワンセットを景気対策とを混ぜこぜにする田村の考え方こそ、平時の発想の域を出ていないのではないか。

    本邦の法制ではかなわないことだが、本来緊急事態宣言というのは国家の権限で以って「民主主義の手続きを一時的に一律停止する」ことだ。「一律に停止」するから「一律救済・一律保障」なのだ。この法思想に採算不採算の別は関係ない。国防に関わる重大な「非常事態」だからである。

    先の大戦の戦勝国ですら終戦後極度の食糧難に陥り配給券の生活を国民に強いた国すらあった西欧は、平時が永遠でないことをよく理解している。彼らは口で言う程自由と民主主義と平和を日本人ほど過信してはいない。だから国民が求めるより先にしかも貨幣論とは関係なく政府が一律保障に動いた。一律保障を行った上で女王陛下が一致団結を訴えたから国民も神妙に肯じた。

    我が国のやり方はすべて逆。しかも政府の線引きを支持する国民が存在するなど、どこまでトチ狂っているのかと思う。

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