日本経済

2020年3月5日

【小浜逸郎】コロナウィルスとインバウンド

From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授

 

コロナウィルス情報が日本中を席巻し、政府の対応に対する賛否の議論が盛んに行なわれています。
さまざまな個別の対策や現象や問題に対して筆者にもそれなりの考えはありますが、今後の推移がどうなるか不透明な部分が多いため、しばらく静観しようと思います。
ただ、二つだけ言っておきたい。
一つは、多くの人が指摘していることですが、つまらぬ忖度を捨てて、一刻も早く中国人、および問題の時期に中国に滞在した履歴を持つ外国人の入国を拒否すること。ついでに韓国に対しても同じ措置を取るべきでしょう。
もう一つ、ようやく習近平主席を国賓として招く話が延期になったことを、とりあえず歓迎したいと思います。ただしコロナウィルスのために「延期」するのでは、この問題そのものの持つ外交的な意味が見失われます。新型肺炎の流行があろうがなかろうが、そもそもこんなイベントは日本の基本的な対中政策として行なわれるべきではありません。即刻中止すべきです。理由については、以下をご覧ください。
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20200202/

ところで、ここでは、新型肺炎の流行と、それまで政府が率先して煽っていたインバウンド・ブームとの関係について考えてみたいと思います。
総務省平成30年版情報通信白書では、2017年までのインバウンドの状況を次のように報告しています(太字は引用者)。いかにも得意気です。
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd126310.html
近年、訪日外国人旅行者数は、急速な拡大を遂げてきた。昨年の訪日外国人旅行者数は2,869万人となり、訪日外国人旅行消費額は4兆4,162億円まで拡大し、観光は我が国の経済を支える産業へと成長しつつある(図表2-6-3-1)。
従来の訪日外国人旅行者数2,000万人の目標達成が視野に入ってきたことを踏まえ、2016年3月には、内閣総理大臣を議長とする「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」において、2020年に訪日外国人旅行者数を4,000万人、訪日外国人旅行消費額を8兆円とし、さらには2030年にそれぞれを6,000万人15兆円とすること等も踏まえた、その実現のための施策を、「明日の日本を支える観光ビジョン」(以下「観光ビジョン」という。)としてとりまとめた。観光ビジョンは、観光は「地方創生」への切り札であり、GDP600兆円達成への成長戦略の柱であるとし、国を挙げて「観光先進国」という新たな挑戦に踏み切る覚悟が必要であることを示した。

図表2-6-3-1 訪日外国人旅行客数及び訪日外国人旅行消費額の推移

(出典)観光庁「訪日外国人消費動向調査」及び日本政府観光局(JNTO)

この夢はコロナウィルスによって見事に打ち砕かれた、とあざ笑いたいのではありません。
そもそも「観光先進国」などという政策目標を掲げること自体が、デフレ脱却を掲げて政権をスタートさせた安倍政権の経済政策の大失敗を物語るものだと言いたいのです。
グローバリズムが横行する世界に向き合う時には、その経済侵略に対してまず国民生活を守るための国家戦略を立てなくてはならないのに、安倍政権は、むしろ逆にこれを歓迎するような政策ばかり採ってきました。
大きなところでは、TPP参加、移民法、農協法改革、種子法廃止、水道民営化、IR法などがそれです。
これらはすべて外需依存を志向するもので、デフレ脱却のために必要な内需を充実させる方向に逆行しています。
これに緊縮財政(消費増税、PB黒字化)、規制緩和(外資誘導、国家戦略特区)がマッチングして、国民生活の貧困化がますます進み、その安全保障はまったく守られない状態になってしまいました。
そういう失敗を糊塗するために、ここ数年、インバウンド、インバウンドと騒ぎ立ててきたのでしょう。
しかし、インバウンド自体が、まさに外需依存そのものであって、失敗の上塗り以外の何ものでもない。
つまりは、安倍政権には、失敗の自覚すらないということになります。

ちなみに筆者は、2017年8月の時点で、同趣旨の記事を本メルマガに寄せています。以下、その趣旨を要約します。
https://38news.jp/economy/10870
たしかに2014年から2016年までの2年間に訪日外国人は1.8倍に増えています。しかし同時に、この事実についていくつか押さえておかなくてはなりません。

一つは、訪日外国人がすべて観光客であるわけではなく、観光客は全体の約6割で、残りはビジネスその他です。

次に、外国人の内訳は、韓国、中国、台湾、香港といった東アジアの人たちで、これが全体の73%を占めます。欧米加豪の合計はわずか14%です。
しかも、2014年当時、前者は、67%、後者は18%でした。つまり、増えているのは、東アジアからの訪問者であって、ヨーロッパや英米圏から日本を訪問する人たちの割合は、むしろ減っているのです。
台湾と香港はいいとして、韓国や中国の訪日客は、いろいろな意味で日本人にあまり歓迎されていません。こういう人たちが「訪日外国人」としてうなぎ上りに増えているからといって、外国人観光客が増えることはいいことだなどと単純に言えるでしょうか。
次に、国内景気がよくて、じゃんじゃん高級ホテルの建設でも進むなら話は別ですが、実際には、サービスの悪い民泊の増加による料金低下競争が起きています。老舗旅館などが経営難で閉鎖されていきます。
デフレ不況期にこういうことが起きると、移民による賃金低下競争と同じで、日本の経済全体に悪影響を及ぼすのです。

最後に、次の点が最も重要です。
2016年時点で、「旅行収支」が1.3兆円の黒字を示したと報告されていました。
1.3兆円の黒字と聞くと、それだけで日本経済の復活に大きく貢献するかのように思ってしまいます。
「旅行収支」とは、要するに、旅行によって外国人が日本に落とすお金(収入)と、日本人が外国に落とすお金(支出)との単なるバランスを示す数字です。
たとえば、外国人訪日客が変わらなくても、日本人が海外旅行にあまり行かなくなったり、海外で商売することに消極的になれば、それだけで黒字幅は増えます。
そして、この「旅行収支」の黒字分が、GDPを構成する「純輸出」の一部として参入されるわけです。
さて、1.3兆円の黒字という数字ですが、これはGDPのわずか0.26%にすぎません。

以上が前記事の要約です。
それでは、最新のデータではどうでしょうか。
上に掲げた総務省のデータでは、訪日外国人の旅行消費額は、2017年で4.4兆円とあります。
しかしお間違えのないように。
これは「旅行収支」ではありません。支出が差し引かれていませんから。
財務省が2019年2月に発表した2018年の国際収支速報では、旅行収支は、2.3兆円の黒字と出ています。
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_eco_balance-trade20190208j-09-w390
この報告でも、過去最高の黒字額と謳って、以下のような浮かれた調子のグラフが載っています。

しかしたったの2.3兆円ですから、これでもGDPへの寄与率は、0.5%に達していません
ちなみに、2013年以前が赤字になっているのは、外国人が日本に落とすおカネに比べて、日本人が外国に落とすお金が多かったことを示すもので、これは必ずしも悪いことではなく、むしろ日本人の活発さがこの頃までは残っていたとも言えるわけです。

さてコロナウィルスが上陸して、外国人(主として中国人や韓国人)訪日客は激減しました。
当分、「観光先進国」だの、観光を「地方創生への切り札」「成長戦略の柱」と見なすだのといった、 政府の空虚な夢想はついえました。
不謹慎な言い方になりますが、これからは、この事態を奇貨として、外需に頼らず、日本人自身の生産と消費を堅実に伸ばしていくことを考えた方がいいでしょう。
しかしそのためには、まず政府がこれまでの路線(ドケチ路線と外資依存路線)を根本的に改め、国土強靭化や科学技術や社会福祉の充実や国防のために、財政支出を惜しまず提供することが不可欠です。
すっかり衰えてしまった日本経済が活気を取り戻すとき、それはそのままわが国の魅力として世界の人たちに訴えかけるでしょうから、観光などは自然に発展します。
MMT理論は、そのための強力な論拠となってくれるはずです。

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社会批判小説ですがロマンスもありますよ。
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●ブログ「小浜逸郎・ことばの闘い」
https://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo

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【小浜逸郎】コロナウィルスとインバウンドへの2件のコメント

  1. たかゆき より

    観光立国

    この語を 最初に目にしたとき
    小生の 脳裏に浮かんだ言葉は

    乞食(失礼)

    小生の 職種は サービス業が主

    ほぼ 乞食ではございます

    が、、、

    国家が 乞食になり果てるのは
    いかがな もの かと。。

    他人様の 投げ銭で
    糊口を まかなおうとする 乞食は

    いまの 日本のようになる

    明日は 我が身でございます。。。

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  2. 大和魂 より

    わたくしも小浜先生の心境と同じく、コロナ肺炎に全力で、しかも善意で携わられていらっしゃる方々のためにも、たとえ厳しくてもワシントンにしろロンドンとかにノコノコと白旗をあげるつもりは毛頭ありません。

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