日本経済

2019年11月28日

【小浜逸郎】貧困化した日本

From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授

 

筆者が勤務している大学のゼミで、「運転免許を持っている人」と聞いてみたら、20人のうち2人しか手を挙げませんでした。
持っていない学生に理由を聞いてみると、「別に必要を感じないから」と答えます。
なるほど首都圏に住んでいれば、交通には不便しません。
しかしそこにお金の問題がからんでいることは明白です。
免許取得には20万円以上かかりますし、車を持とうと思ったらさらに相当の出費を覚悟しなくてはなりません。

筆者の学生時代(半世紀前)は、大学に入ったら運転免許を取る、というのが当たり前の目標になっていました。
いつまでとはっきり言えませんが、少なくともバブルがはじけるまでは学生が免許を持つことは当然の現象だったでしょう。
また、中古車でもいいから自分の車を持つというのも多くの若者が目指したところでしょう。
車はデートの恰好のツールでしたし、行動意欲に燃えた若者にとって各地に車で行楽に出かけることは、青春を謳歌するまたとない機会だったはずです。

ところで先日、情報戦略アナリスト・山岡鉄秀氏の次のような記事に接しました。
山岡氏は、ある団体から青年向けの講演を依頼された折、「日本の国力が驚くほど低下してしまったと思う人、手を挙げてください」と呼びかけたそうです。
すると会場の半分ぐらいの人しか手を挙げないので、衝撃を受け、次にこう聞きました。
「日本の国力はずっと変わっていないと思う人、手を挙げてください」
するとなんと、残りの半分の人たちが手を挙げているではありませんか。
彼らは皆若く、20代、30代、といった感じです。
なるほどいまの30代の人たちが物心ついた頃、既にバブルは崩壊していて、20代ともなれば低空飛行が当たり前。
だから、彼らの目には、日本は変わっていない、
今の20代、30代の若者には元気だった頃の日本のイメージを共有できないというのです。
しかし、この30年間の国力(特に経済力)の推移を少しでも調べてみれば、あらゆる面でガタ落ちになっていることは明瞭です。
そしてこのガタ落ち傾向は、いまもなお進行中です。

この傾向を大方の若者が目の前で確認できないのは無理もありません。
「変化」の実感がないのですから。
しかし筆者はやはり、これからの日本をしょって立つ若い人たちに、貧困化した日本という事実を客観的な形で知ってほしいと思います。
いま、急いで根本的な手を打たない限り、若い人たちのこれからの人生に、いまよりもさらに悲惨な状況が待ち受けていることは確実だからです。

貧困化を示す指標は、いくつもあります。

・OECD加盟国34か国のなかで、日本の相対的貧困率は29位です(2015年)。


・実質賃金は、この20年間で約13%下がっています。


世帯収入の中央値は、1995年に550万円だったのが、2017年には423万円に下がって
います。


どの所得階層が一番多いかを示す最頻値になると500万円台から300万円台に落ちています。

収入が平均値以下の世帯は、62.4%です

年収200万以下のワーキングプアは、1996年には800万人だったのが、その後急上昇し、安倍内閣が発足した2013年からは1100万人を突破、現在もそのまま高止まりしています。


生活保護世帯は、1995年ころには約60万世帯だったのが、やはりその後急上昇し、安倍内閣発足後は、ずっと160万世帯をキープしています。


ちなみに、厚労省が定めている生活保護の対象となる「最低生活基準」以下の所得しかない人は、なんと3000万人弱に達します。
https://www.youtube.com/watch?v=VDhLCDYSrMk&feature=share&fbclid=IwAR0s-tZc_TXumw9B0hMkBxlyp6tzdAOFpoh4OzQUmyRzSwxGx3tIrU03rgI
食べていけないほどの低賃金なのに曲がりなりにも働いているために、生活保護を受けていない人のほうが圧倒的に多いわけです。

・高齢者は5人に1人が貧困層(2015年では、可処分所得が122万円未満)に属します。
なかでも単身高齢者は、男性で約4割、女性では5割を超えます。
(上記URL)

金融資産ゼロの世帯は、3割を超えています


一方では、個人金融資産の総額は1800兆円という巨大な額に及びます。
これはいかに一部の富裕層に資産が偏っているかを示しています。

非正規雇用は90年代には2割程度だったのが、ここ数年4割近くと倍増し、その平均年収は正規雇用の65%にしか達しません。

地方公務員の非正規雇用は11年間で4割増加し、全体の3分の1近くになっています。正規の地方公務員の年収は平均660万円であるのに対し、フルタイムの非正規公務員は207万円程度、つまり三分の一未満です。
ワーキングプアすれすれですね。
もちろん昇給もボーナスもありません。
また、産休、看護休暇、交通費も認められない自治体が数多くあります。
https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2019/02/0210.html

地方の疲弊はここのところ顕著で、2019年だけで、百貨店の閉店が約10店舗にも及びます。

・国内の子どもの6~7人に1人が貧困状態にあるとされています。
こども食堂は、こうした子どもを対象に2012年ごろから始まりましたが、2019年調査では、16年時点の319カ所に比べると、わずか3年で12倍近い3700ヵ所以上に開設されています。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46629900X20C19A6CR0000/

子どもの貧困率は、OECD諸国中、下から数えて10位以内に入っており、ひとり親家庭(主として母子家庭でしょう)となるとダントツ1位です。



・日銀短観の2019年9月調査では、大企業・製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は3期連続で悪化しています。
実は途中横ばいの時期が一期だけあったものの、2017年12月調査から見て、7期連続悪化しているのです。
これは2013年6月調査以来低水準です。

GDP名目成長率の国際比較によれば、1990年を100として、欧米諸国はどの国も200から300の伸びを示しているのに、日本だけがまったく伸びていません

1人当たりGDPは、1996年には世界3位だったのに、2019年には26位に落ち込んでいます。

・1995年には、世界の名目GDPに占める日本のシェアは17%に達していたのに、2018年には6%以下に落ち込んでいます。

このくらいで十分でしょう。
こうした数字はすぐにでも調べられるのに、政府関係者は、「景気は底堅い」などとウソ八百を言い続けてきました。
御用学者や政治家や財界人やマスコミも、この種の悲惨ともいうべき実態をほとんど問題にしません。
それは、自分たちに都合が悪いことを隠しておきたいからです。
「臭いものには蓋」というヤツですね。

また、デフレが続く理由は、日本はモノがあり余っているので、もう経済成長する必要がないからだなどという人が、未だにけっこういます。
とんでもない話です。
そういう人は、自分が余裕のある暮らしをしているので、いま多くの人たちが貧困に落ち込んでいることに想像力が及ばないのです。
彼らは、貯金もほとんどなく、子どもに高等教育を受けさせることもできず、毎日のやりくりに追われています。

なぜこんなに貧困化が進んだのか、その理由は、間違った政治運営にあることは明らかです。
今さら言うまでもありませんが、財務省の緊縮路線と竹中平蔵率いる構造改革路線との見事なコンビネーションです。
消費増税、「自由と効率化」の名目で打ち出された雇用システム、株主配当や自社株買いのための人件費削減、財政出動に対する狂気じみた禁欲主義、デフレマインドによる投資の差し控え等々、すべてが、上の二つの路線の原因であり結果です。
つまり、この二つの路線を楕円の焦点として、すべてが激しい下降スパイラルをなしています。

これらのことは、おそらくこのメルマガの読者にとってはほとんどが自明の基礎情報に属するでしょう。
しかし筆者は、一般の若い人たちに、少しでも日本全体の経済実態について知ってほしいのです。
そうすることで、運転免許を取らなかったり結婚しなかったりすることが、単に個人の自由意志ではなく、社会構造的な原因に根差しているのだということに気づいてほしいのです。
また、このメルマガ読者の方たちには、こうした基礎情報が、必ずしも多くの若者の共通認識になっていないこと、それどころか、ほとんどが共有されていないことに、もっと危機感を持ってほしいのです。

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【小浜逸郎】貧困化した日本への4件のコメント

  1. 神奈川県skatou より

    小浜先生の記事、とても参考になりありがたいです。だれかに説明するとき、これだけ具体的な数字を見せつければ、とても問題を共有できる、つまり5W1Hで一番大事な「なんのために」が共有しやすくなる、とても建設的な一歩になりうると思いました。

    最近政府は公務員の中途採用策を出したそうで、たしかにとても結構な話ですが、ちょっと場当たり、対処療法で、ビジョンが見えないと思いました(ビジネス提案書だったら則ボツ案?)。

    今の社会問題は、婚姻率低下、世帯年収低下、出生率低下、人口減、女性の社会進出?そんな問題全部解決できるようなビジョンとプランでも出さないと、官僚も頭使ってないと言えそうです。

    で、自案です。
    人間は動物なので、生殖いや出産にも時期があります。20代前半の一番大事な時期を社会進出のためにすべてを使わなければならない現状で少子化になるのは当たり前です。
    というと、女は家で子供を・・なのかー!と脊髄反射される方々がいそうですが、いや、そんな方々のためにも、女性のキャリアパスを男性とは別に用意すべきではないかと思うのです。つまり出産後の雇用保証。あるいは進学保証。職歴なくとも子供をもつ母親は優先的に公務員にする。大学に無償で進学できる。
    年齢制限は・・・30歳まで。(これを甘くすると意味をなさない)

    30歳を過ぎると妊娠率も出産リスクも増大します。
    今のように、30歳前後まで仕事を頑張り、先が見えてきて結婚出産をあせって、いざ妊娠しようとしても、不妊治療に悩み、結局は子供を諦めてしまうケースも多いでしょう。どこにも数字はないかもしれませんが、自分は今の日本、10万を超える数だと思います。これではもったいない。彼女らは出産の強い強い意志があるにもかかわらず、です。

    また、出産した女性は就職すれば男性並みに辞めないでしょう。むしろ男性より強くしなやかで粘り強いかもしれません。公務員として必ず力になるでしょう。

    未来の女性は、結婚出産を早く済ませて、あとは自分を磨き、社会進出し、社会を動かし、子供を養う。カッコいいではないですか!

    さらに、出産年来が早まれば、誕生のサイクルが短くなるので結果的に日本人の人口は増えます。これからそのサイクルを早めれば、老人対現役世代の比率も改善し年金問題もいくらか緩和されます。
    氷河期世代を公務員にできるぐらいならば、もっと良い候補がある。それも付け焼刃でなく、もっと日本人の未来を考えて。
    自分はそう思いました。長文すみません。

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      1. 新井 寧子 より

        メイアンです、追加して、
        生まれた子供にベイシックインカム18歳まで保証したらいいでしょう。そうしたら安心して産める。シングルマザーOK!5年間限定の不妊治療の健康保険化と合わせるとベビーブーム到来します。

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  2. 大和魂 より

    馬鹿曽根康弘が長生きして、ようやく亡くなりました。彼こそ老害でしかなく、先見性に乏しい財務省と、その関係者のコンビネーションで、ものの見事に一ミリの安全保障も進めず、我が国を凋落させた確信犯。それが、経済だけの偏った社会を構築させ、不様な青年諸君を誕生させましたよ! ところで、この貧困化させた責任は、誰がどう取るおつもりでしょうか、実に見物ですね。

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  3. これは、将来、ジムロジャーしが言っていたように、家族を守るなために立ち上がらなければならないな❗️

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