政治

2020年4月10日

【施 光恒】「一丸となって…」の条件

From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

こんばんは~(^_^)/(遅くなりますた…)

東京都や大阪府など7都府県に「緊急事態宣言」が出されました。
私の住む福岡県もその対象地域の一つです。ただ、街に出てみると、思ったよりも変わりばえしません。結構、人どおりも車どおりも多く、普段よりもいくらか少ないかもという程度にとどまっています。

欧米など諸外国のマスコミは日本の「緊急事態宣言」に対し、例えば下記の記事のように、外出禁止などについてあくまでも要請であり罰則もなく、手ぬるいのではないかという批判をしています。

「「措置遅い」「強制力ない」 緊急事態宣言で海外メディア」(『時事通信』2020年4月7日配信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020040701087&g=int

確かにそうかもしれません。日本の「緊急事態宣言」は欧米諸国やアジア諸国に比べればだいぶ甘いようです。

下記の記事にあるように、諸外国では外出禁止などに罰金を科し、厳格に取り締まっています。
「外出制限は多くの国で強制措置 罰金つきも、世論は支持」(『朝日新聞デジタル』2020年4月6日付)
https://www.asahi.com/articles/ASN4634BWN42UHBI03J.html

例えば、イタリアでは外出禁止に違反すると罰金約35万円だそうです。また米国のニューヨーク市では、公共の場で人との距離を保つことを徹底していない場合、250~500ドル(27000円~54000円)の罰金を科されるようです。

ロサンゼルスに住んでいる私の知人も、外出禁止令が出されているさなか、「友人の家で一緒に食事をしたい」と車で出かけたカップルが警察に止められ、1人500ドルの罰金を取られたという事例があったと話していました。

インドネシアやマレーシア、あるいはインドなどの東南アジアや南アジアの諸国では、政府の行動制限措置などに違反すれば、罰金だけでなく禁固刑を科されたり、殴打されたりすることもあるようです。
(^_^ 😉

(飯山辰之介「ルール破れば射殺に殴打、禁錮刑 「緊急事態」めぐるアジアの現実」『日経ビジネス』(2020年4月9日))
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00118/040800011/?P=1

しかし、だからといって、「日本も欧米やアジアの諸国のように罰則付きの厳格な取り締まりをすべきだ!」というふうには私は思いません。政府が罰則付きの命令で外出禁止を言い渡すというのは、穏健な統治になじんだ日本人には向かないでしょうし、無用の反発も招くでしょう。また、国会の審議でそれを決めようとすれば、野党も騒ぎ、時間もかかるでしょう。

それに、罰則などなくても、必要とあれば、日本人は一致団結し、規律ある行動をとるはずです。阪神大震災や東日本大震災のときに海外の多くの首脳やマスコミが称賛したように、日本人には、危機に際しては一体感を持ち、命令や罰則がなくともきちんと行動する能力が備わっているのです。
(`・ω・´)キリッ

…というふうに私は基本的に日本人の道徳的自律性を強く信じているのですが、ただ、今回の危機に瀕して「一体感を持ち、皆で協力し、事を成し遂げる」ためには、いくつかの条件が必要だというふうにも感じています。つまり、「一丸となって」今回の苦境に対処するための条件です。

一つは、政府が、一部の経済的、あるいは政治的利益のためではなく、心底、国民全体の健康や生活のことを案じて懸命に努力しているということを示すことです。

今回の新型コロナウィルス問題については、残念ながら、多くの国民は、政府に対する信頼感をあまり持てずにいます。

原因は、安倍政権のこれまでの対応にあります。

例えば、1月のいわゆる春節(1月24日)の以前に、すでにコロナの問題は大いに騒がれ、中国は武漢を封鎖していたにもかかわらず、日本政府は中国人観光客に対する全面的な入国禁止措置を取りませんでした。それどころか、安倍首相が、多くの中国人観光客に日本に来ていただきたいと呼びかけてしまう始末でした。

政府はインバウンド需要を成長戦略の柱とし、今年4000万人の外国人観光客を呼び込むのだと息巻いていました。目先のインバウンド需要に惑わされ、中国人観光客の入国制限が遅れてしまったのは問題でした。結局、今年一月は約92万人もの中国人が日本に入国しているのです。

また、指摘するまでもありませんが、政府は、ごく最近まで、習近平の来日を実現しようとしたり、オリンピックも通常通り行おうとしたりしていました。

政府は本当に日本国民全体の健康や生活のことを第一に考えているのだろうか。国民全体のことよりも、一部の業界や政治勢力の利益のほうに目を奪われているのではないか。そのような疑念を多くの国民が抱いてしまいました。

それが尾を引き、緊急事態宣言ののち、政府と東京都など自治体の間で休業要請の範囲をどうすするかなどの議論が行われていますが、これについても、やはり一部の業界の経済的利益のため、思い切った政策がとれないのではないかなどと感じている人が結構多いように思います。

こういう状況では、国民が一致団結し、政府に協力し、国難に対処するというわけにはなかなかいきません。

私は、政府は中国人観光客の入国規制が遅れてしまったことなど、これまでのコロナ対応の遅れや誤りを認め、国民に率直に詫びるべきだと思います。そのうえで、あらためて政府も粉骨砕身、国民生活を第一に考え、対策を講じるから、国民も協力してくれと呼びかけるべきではないでしょうか。

国民が一丸となってコロナに対処するためのもう一つの条件としては、適切な経済対策の実施も挙げられるでしょう。

適切な経済対策が取られない限り、やはり個人や企業は生活が懸かっていますから、休業要請をされたとしてもなかなか応じることはできません。また、国民の各層に、あるいは各業界に互いに「なんで自分たちばかりが貧乏くじを引き、苦しまなければならないのか、不公平ではないか」などという感覚が残れば、これも一体感をもち物事に対処する際の妨げとなります。

大胆な経済対策を取るべき理由として、当然ながら、解雇されたり事業の破綻に追い込まれたりすることを避けることや、国民経済を冷やし大不況を到来させてはならないということがあります。

それと同時に、大規模な経済対策が必要な理由として、苦境が必然的にもたらす国民の絆の弱体化を防ぐという目的も挙げられます。

経済学者のブランコ・ミラノビッチ氏(ニューヨーク市立大学シニアスカラー)も、今回のコロナ禍で経済的大恐慌が起こり、その結果として、人々の社会的不満や相互対立が深まり、社会が解体してしまうのではないかと危惧しています。そして、次のように記しています。

「……現状における経済政策の主要な(そして、実質的に唯一の)目的は、社会的崩壊を阻止することでなければならない。先進国社会は、経済学、特に金融市場への配慮によって、何をなすべきかを見誤ってはいけない。

経済政策が果たしえるもっとも重要や役割は、ウイルスが作り出す異常な圧力のなかで、社会の絆を維持していくことでなければならない」
(「パンデミックによる社会破綻――経済政策で社会崩壊を阻止するには」(原題:”The Real Pandemic Danger Is Social Collapse: As the Global Economy Comes Apart, Societies May, too” (「社会の解体こそ感染爆発のもたらす本当の危険――グローバル経済の破綻とともに、各国社会もバラバラになってしまう恐れがある」)『フォーリン・アフェアーズ・レポート』2020年第4号)

ミラノビッチ氏も、コロナ禍での経済政策の目標は、社会の絆を維持することだと述べるのです。

結局、大切なのは、政府がこれまでの対応の誤りを認め、「国民第一」だと考えを改め、そのうえで国民に真摯に協力を呼び掛けること、および、大規模かつ公平な経済対策を早急に打ち出すこと。これらが、国民が一体感を持ち、団結してコロナに対処していくためには必要なことではないかと思います。

長々と失礼しますた…。
<(_ _)>

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【施 光恒】「一丸となって…」の条件への4件のコメント

  1. wachtelhund より

    西部邁や東谷暁、西尾幹二に向かって「安倍の批判ばかりして、じゃあどうしたらいいんですか?」「具体的にどうしたら」「安倍の他に誰がいるんですか?」「いろいろあるけど安倍を応援するしかないでしょう」「先生それはちょっと、そこまで言ったら左翼と変わらないですよ」「私はそうは思ってませんけどね」「安倍さんは頭のいい人だから、私たちが考えている以上に深いところで考えている」とまで言い切って、ブルドーザーの地均しの如く安倍政権支持を強力に進めて来たチャンネル桜の水島総も視聴者に率直に詫びるべき。国民も視聴者も安倍や水島という盆の上に転がされた豆ではない。

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      1. 大和魂 より

        わたくしも、同じ心境で世の中を捉えております。少し話が逸れますが先日、戦艦大和の命日に福岡の、みやま市にある伊藤提督のお墓参りを行いました。それで感じるものとして思うのが、伊藤整一提督も硫黄島で玉砕なされた栗林提督も先人と同じく豪気な方々でした。つまり現在の保守層はビジネスにしているから、その豪気さが無いわけだから問題なんですね。それに実質、真正保守勢力の次世代の党を破壊したのも、保身の安倍政権であり自民党なんですよ。そうして観れば安倍晋三と田中角栄の違いは、ハッキリ坊ちゃんと成り上がりとして豪気の有無が歴然としています。なので一丸になる前に豪気さを取り戻すことから始めるべきだと思います!

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  2. 神奈川県skatou より

    こちらに久々に書かせていただきます(ブラック仕事に堕ちていたもので)
    自分は普段から、5W1Hのうち、もっとも優先はWHYだと思います。

    >政府は本当に日本国民全体の健康や生活のことを第一に
    >考えているのだろうか。国民全体のことよりも、
    >一部の業界や政治勢力の利益のほうに目を奪われている
    >のではないか。そのような疑念を多くの国民が抱いてしまいました。

    この危機で、政治家(政治屋?)たちが今まで何を考えてきたか。それが明らかになってしまった、ということが今起こっているのだと最近感じています。

     なぜ政治家になったのか。なぜ政治をしているのか。

    これの問いではなく、

     どうすればうまくやれるか、なにをすれば成功するか(失敗しないか)
     (HOW/WHAT)

    そもそも全ての行動の指針となるはずの「なんのため」の根本が、実はなかった。やってこなかった。空虚であるか、掘り下げが甘かった。だから自身の存立にかかわる事柄、支持団体、業界、などばかりが「認知の中心」になってしまう。

    だから国民の窮状が「わからない」「みえない」。
    目の前に有っても。

    「なぜ」を深く考えないと、自分の損得から離れにくくなり、広い視野が持てず、身近な(おのれのご都合の)世界の正義・損得しか見えない。だから、

     国政の政治家が、国民に対する共感がない

    という笑えない事態になったのではないか。
    そう思っております。
    (そしてその修正は、個人内では、ほぼ不可能では、とも)

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  3. wachtelhund より

    大和魂 様

    そうですか、伊藤さんと栗林さんの。お墓参りは3密に当たらないでしょうから遠慮が要らなくていいですね。大和魂さんは毎日を大切に過ごしておられるのですね。

    神奈川県skatouさんの「なぜ」を考える上でも、平素の過ごし方というのは共感と連帯を育むうえでも本当に大事だと、お二方のご意見から感じました。

    今朝テレビで本庶佑さんが出演され、我々一般人が素朴に抱いている疑問とまったく同じ不信を端的に発言しておられたそうで、山中伸弥さんの意見表明に似た凄みがあったと、家人が申しておりました。

    山中さんも本庶さんも、おそらく医学者の平素というものをきちんと持っておられるから、怯まぬ豪気、国民と共有し共感する感覚を持つことが出来ているのだろうなと感じました。

    お書きの角栄さん、あるいは小渕さんだったら、すぐ本庶さんに電話をするか、然るべき肩書きの人間を本庶さんのもとへ大至急出向かせていると思います。安倍はどうでしょうね。

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