From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学
こんばんは~(^_^)/(遅くなりますた…)
少し前ですが、経団連が今年の春闘で話し合うべきは、日本型雇用(新卒一括採用、年功賃金、終身雇用など)の見直しだという発言をしたと報道がありました。
(例えば、以下の記事です。「日本型雇用システムの見直し明確に 経団連が春闘に向け指針」『NHK NEWS WEB』2020年1月21日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200121/k10012253451000.html
経団連としては、世界的な大競争(メガ・コンペティション)がどの業界でも進んでいるまさにグローバル化が進展している時代に、日本型雇用など過去の遺物であり、なくしていくべきだということなのでしょう。
私は、この経団連の状況認識は、大きく誤っていると思います。
現在の世界の潮流は、グローバル化が進んだせいで大きく傷んでしまった各国の社会をどう立て直すかを模索する時代に入っています。格差を必然的に生み出し、各国の大多数の普通の人々の生活を不安定化してしまったグローバル化の流れをいかに是正するかということこそ、今日の大きな課題であるという認識が、世界各国で広がっています。言ってみれば、世界はすでに「脱・グローバル化」(ポスト・グローバル化)の時代に入っているのです。
経団連の認識、および提言は、その意味で時代に逆行しています。
これに関して、興味深い論説が『フォーリン・アフェアーズ・リポート』誌(2020年第2号)に掲載されていました。
英国のシンクタンクであるニューエコノミクス財団のチーフ・エグゼクティブであるミアタ・ファーンブレー氏の論説「ネオリベラリズムの崩壊と新社会契約――社会民主主義では十分ではない」(原タイトル「新自由主義の崩壊――市場は解答ではない」(The Neoliberal Collapse: Markets Are Not the Answer))です。
この論説は、グローバル化によって荒廃した社会を是正するために、英国では、いわば新しい「英国型経営」「英国型市場経済」を模索していく必要があると主張するものだと読むことができます。
ファーンブレー氏は、「…いまや先進国の多くで、政治的立場を問わず、資本主義の今後が悲観されて」おり、「エコノミスト、政策決定者、市民たちは、過去40年にわたって多くの先進国社会を支配してきた『ネオリベラリズム、つまり、市場メカニズム、規制緩和、小さな政府ですべてはうまく行くと考える思想』はすでに限界に達しているとの見方を強めている」と論じます。
新自由主義の時代が終わりを迎えたという認識が共有されつつあるということです。
ファーンブレー氏は、英国の最近の世論調査の結果に言及します。
それによると、英国の83%の人々が「経済(システム)は富裕層に有利に作用している」と感じているのに対し、「貧しい家庭に生まれた人にうまく作用している」と答えた者は10%に過ぎません。
また、英国の75%の人々が、この数十年で民営化された鉄道、電力供給、水道事業などの産業を政府管理に戻すことを支持しています。
日本では、これから水道事業の民営化を本格化させようとしています。
やはり英国とは逆を行っています。
ファーンブレー氏は、欧州連合(EU)からの英国の離脱とは、新自由主義システムのもたらした悲惨に対する人々の不満と怒りのはけ口だったとみています。
新自由主義が荒廃させた英国社会を立て直すために、ファーンブレー氏はいくつかの政策を提言していますが、そのなかには、雇用制度の改革も含まれています。
まず、停滞する賃金を上向かせるために、「政府は法人税、賃金規制、補助金などの政府が持つあらゆる手段を駆使して、企業が労働者に公正な賃金を支払うように仕向けるべきだ」と論じます。
また、ファーンブレー氏は「労働組合の権限の強化」も訴えます。
「あらゆる企業に労働組合を認めることを義務付け、労働者に組合の組織、集団交渉、争議に関するより大きな権利を認めることで、自己利益を守る労働者の能力をもっと強化すべきだ」。
加えて、「企業経営への労働者の参加」の必要性も主張しています。
「企業利益を応分に共有できる株式という形式で、社員所有ファンドを労働者が集団的に所有することを政府は義務付けるべきだろう。この信託制度を通じて、労働者は、他の株主同様に、企業からの配当を受け取る。株式には議決権が付与され、時間が経過するとともに、従業員が企業における有力株主となり、事業の方向性を決める権限を持つようになる」。
これらが実現されることにより、英国企業は、生産性の向上、従業員の定着率とエンゲージメント(仕事へのやる気や熱意)の改善、収益の増大などがもたらされるはずだと、ファーンブレー氏は論じるのです。
こうしたものは、新自由主義の経済の下で進められた株主中心主義を改め、労働者(従業員)の立場を強化する政策です。
ファーンブレー氏が必要だと論じているのは、労働者にもっと公正な新しい「英国型雇用制度」を実現できるような場を、政治の力を借りつつ、実現することだといってもいいでしょう。
他方、日本は、昨秋、改正会社法を可決し、社外取締役の設置を義務化するなど、ますます株主中心主義を進めています。社外取締役の設置の義務化について、日経新聞は、「日本企業のコーポレート・ガバナンス(企業統治)を強化して株式市場の透明性を高め、海外から投資を呼び込む狙いだ」(2019年10月18日付)と記していました。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51092490X11C19A0MM0000/
「コーポレート・ガバナンス改革」とは、要は、株主権限のさらなる強化のためですね。「社外取締役」とは、株主の利益の代弁者ですから。
日本型雇用制度を改め、なくしていこうとする経団連にしろ、水道の民営化や株主権限を強化するコーポレート・ガバナンス改革を進める政府にしろ、今の日本は、世界で起こりつつある「脱・グローバル化」(ポスト・グローバル化)の流れを認識できずにいます。その必要性も理解できずにいるようです。
かつて、世界に冠たる「日本型経営」「日本型資本主義」を生み出し、市場経済の活力と、人々の生活の安定や幸福との間のバランスをうまくとることに成功した賢い日本人は、どこにいってしまったのでしょうか。
我が国の先行きが本当に心配になってきました。
目指すべきは、グローバル化のさらなる推進策としての日本型雇用制度の見直しや撤廃ではなく、働く人に生活の安定と豊かさを提供する日本型雇用制度の新しいかたちを積極的に見出していくことにあるはずです。
「脱・グローバル化」の潮流を認識したうえで、人々の活力や意欲を引き出し、また、生活の安定や幸福を多数の普通の人々にもたらすヴァージョン・アップされた日本型雇用制度の模索こそ、加えて、それを可能にする新しい「日本型資本主義」「日本型経営」の探求こそ、今日の日本社会が必要とすることなのです。
長々と失礼しますた…
<(_ _)>
【施 光恒】時代に逆行する経団連への4件のコメント
2020年2月15日 9:31 AM
それと、政治と行政も然りです。昨年末刊行された石原さんと亀井さんの新著をパラパラと拝見すれば、目次だけで考え方に親近感を覚えた次第です。それに比べて、菅義偉と杉田和博の低脳ぶりには、憤慨しかありませんよ。それは、我が国の歴史と伝統に逆行し、更には少子化を進め国民国家をどん底に突き落とした確信犯だからです。これは、他国ならば国家反逆行為でしかありませんね。その核心は、与党にも綺麗事を吹聴して実行する暴力革命宗教集団がありますからね。それを我が国の国民が認識出来なければ滅亡します。
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2020年2月15日 10:52 AM
ニューヨーク・タイムズ紙 曰く
「日本政府は、公衆衛生の危機対応として『これをやってはいけない』見本として教科書に載るようなことをやっている」
転じて
「日本政府は、経済政策の危機対応として『これをやってはいけない』見本として教科書に載るようなことをやっている」
国民のレベルが その程度
だから
いた しかた なし。。。
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2020年2月15日 7:13 PM
万全の 対策
半端ねぇ。。。
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2020年2月15日 1:01 PM
素晴らしい分析です。ありがとうございます。旧態依然としたアホどもは社会から抹殺、排除(あえてこの表現)されてほしいものです。あと何年かかるんでしょうね、社会が正気を取り戻すのは。それまで生きていれるかなぁ?
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