日本経済

2018年8月8日

【藤井聡】「強靭化目標」は「プライマリーバランス制約」でなく「科学的リスク」に基づいて定めよ

From 藤井聡@京都大学大学院教授

わが国では今、災害対策のための「国土強靭化」を、
「国土強靭化基本計画」に基づいて推進されています。

この基本計画は「国土強靭化基本法」に基づいて
「五か年計画」として五年ごとに策定されているものですが、
そこには、国土強靭化の「方針」は記述されていますが、
「具体的な強靭化目標」は明記されていません。

つまり、基本計画にはなすべき対策リストはあっても
それを「いつまでに、どれだけ」進めるのかは
どこにも書かれていないのです。

ただし、それではもちろん、
毎年具体的に強靱化を進めていくことはできません。

ついては政府は毎年の「予算策定前」に、
「アクションプラン」を策定し、
具体的に何をするのかを確定し、
事業を進めています。

その対策の内容はもちろん、
「財政規律」にそって策定されます。

(というより、国土強靱化を財政規律下におくために
アクションプランを毎年策定するという仕組みとなっていると
解釈することもできるでしょう)

したがって、「プライマリーバランス規律」に基づいて
毎年予算を策定しているわが国では、
国土強靭化の事業スピードは、
「プライマリーバランス規律」に規定されている
のです!

つまり「国土強靭化基本計画」はあくまでも、
国土強靭化の「方向」を定めるものに過ぎず、
「スピード」を定めるものではない
のです。

もちろん、災害が起こるのが、
100年後や200年後なら、
このやり方で国土強靭化を進めても、
国民の生命や財産が破壊されることも、
わが国が国難に陥ることもありません。

しかし、災害がいつ起こるのかは、
「自然の事情」で決まるのであって、
30年後かもしれないし、
5年後かもしれないし、
今年かもしれないのです。

だから、強靭化のスピードは、
「財政の事情」でなく、
「災害リスクの水準」(発生確率)に
基づいて設定すべき
なのです。

さもなければ、
国民は無防備のまま激甚被害を受けることになります。

だから災害リスク(=被害量×確率)が高ければ高いほど
より早く強靭化を完了せねばならないのです。

そもそも国土強靭化基本法には、
「一人の国民の生命も失わせない」
という事が明記されています。

したがって、「プライマリーバランス規律」
に基づいてスピードを決める
今の政府の強靱化行政のあり方は、
「国土強靱化基本法」の理念に反しています。

つまり、今の政府の国土強靱化行政は、
「国土強靱化基本法違反」の誹りを
免れ得ない状況にある
わけです。

こうした状況を踏まえ、
今、防災の専門家達から盛んに叫ばれているのが、
「15年強靱化目標」を策定せよとの声です。

土木学会が「学会」として
とりまとめた下記報告書には、
巨大災害の「発生確率」を踏まえると、
概ね15年以内に強靱化対策を完了しておかないと、
その完了「前」に、巨大災害が発生してしまう確率が、
50%を上回る
であろうと、記載されています。
http://committees.jsce.or.jp/chair/node/21

つまり、15年以内に強靱化しておかないと、
「間に合わない」可能性が高くなる、という次第です。

こうした科学的根拠に基づいて、
政府は速やかに
「15年強靱化目標」を立て、
それを毎年粛々と推進していくべきだ、
と主張されています。

言うまでも無く、
「15年強靱化目標」に基づく「強靱化スピード」は、
「プライマリーバランス規律」に基づく事業スピードを
上回ることとなるでしょう。

それでもやはり、
政府が「プライマリーバランス規律」に
固執するなら、
国民を見殺しにしたとの誹りを免れ得なくなるでしょう。

なお、筆者は、財政を完全に「無視」して、
強靱化を進めよと主張するものではありません。

かつても主張したように、
迅速に事業を進めることによる
「国債の利払い費」というデメリットと
迅速に事業を進めることによる
「減災効果」というメリットを比較衡量し、
メリットが上回る事業を速やかに進めるべきだと
当方は考えています。
https://38news.jp/economy/12214

「利払い費」が将来高騰するリスクがあると考えるのなら、
例えば(償還時の利払い費を予め支払う)「割引歳」で
予算を調達するというアイディアもあり得るでしょう。

こうすれば、財政規律と自然災害リスク、
防災効果の全てを総合的に考慮した
「合理的」な「15年強靱化目標」を
策定できる
のです。

いずれにせよ、
政府は今日のように
「プライマリーバランス規律」に基づいて
「科学的な災害リスクの水準」を度外視しつつ
国土強靱化を進めていくという態度を改めるべきです。

そしてその上で、政府は
「科学的な災害リスクの水準」を踏まえて
「15年強靱化目標」を合理的に策定
し、
「速やか」かつ「本気」で
国民を守る強靱化取り組みを進められんことを、
強く提案いたしたいと思います。

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【藤井聡】「強靭化目標」は「プライマリーバランス制約」でなく「科学的リスク」に基づいて定めよへの2件のコメント

  1. たかゆき より

    『始末の極意』

    落語の世界で ございますね
    この国は、、

    川で溺れた アホ 
    助けてくれるという バカ と
    値段の交渉

    そんなに 高い値なら 死んだ方がマシと
    溺死

    そんな噺があったような、、、

    財政破綻するくらいなら 死を選択とかって
    腹から笑える 噺で ございます ♪

    返信

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  2. 日本晴れ より

    この前のチャンネル桜の表現者クライテリオンの討論見ました
    皆さんの問題提起はその通りだなと思いました。
    しかし安倍総理にそういう危機感があるのかって思いました
    政策的にも日本を繁栄させる逆の事やってるようにしか見えないです。

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