日本経済

2018年5月31日

【小浜逸郎】「骨太の方針」をどう評価するか

From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授

日経の報道記事によりますと、
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31045710Y8A520C1000000/
政府が6月中旬に閣議決定する
「骨太の方針」の原案が
5月28日、明らかになりました。
その要点をまとめます。

(1)消費税は、予定通り2019年10月に

10%に値上げする
(2)19年度と20年度予算で、

税率引き上げによる需要変動の平準化

に万全を期す
(3)PB黒字化達成を25年度に先送りする
(4)21年度時点での中間検証では、
いずれも対GDP比で、
1.PB赤字を1.5%程度に抑える
2.財政赤字を3%以下に抑える
3.債務残高を180%台に抑える
(5)財政抑制策は盛り込まない

同記事には、
「政府・与党内の積極財政派に配慮した
成長重視の姿勢がうかがえる」とありますが、
これはかなり当たっています。
というのは、(3)と(5)にその形跡が
見られるからです。

しかしこれでは、デフレ脱却策として、
不十分極まると言わざるを得ません。

第一に、消費税が10%になってしまうと、
単に価格が上がるだけではなく、
計算が簡単なため、消費を控える人が
ますます増え、その結果、需要が縮小し、
投資もさらに冷え込んでしまうからです。

そのことを心配してか、政府(財務省)は、
「税率引き上げによる需要変動の平準化
に万全を期す」などと謳っていますが、
これはつまり需要縮小をあらかじめ
見込んで、それを恐れている証拠です。
それにしても「需要縮小」とはっきり
言えばいいものを、「需要変動の平準化」とは
お笑い種のレトリックもいいところですね。

何よりも、増税を絶対の前提として政策を
打ち出しているところが完全に誤りです。
デフレ期に増税をする国など、
日本以外どこにもありません。
「財政破綻の危機」という嘘八百を
まき散らしてきた財務省の緊縮路線は、
こうしてますます国民を貧困化
陥れようとしているのです。

財務省が恐れているのは、
日本経済の悪化による国民生活の
窮乏化などではさらさらありません。
ただ、もしかしたら税率の増加によって
かえって税収が減ってしまうかもしれない、
そうすると増税に関して財務省への批判が高まり
緊縮路線を貫きにくくなる
ということだけなのです。
国民の豊かさ実現のために最も力を注ぐべき
省庁がこの視野狭窄の体たらくなのです。

(4)の各指標についてですが、
2の「財政赤字を3%以下に抑える」
というのは、別に何の根拠もなく、
ずっと以前から決まっていて、
EUの基準を模倣しただけのものです。

ちなみに財政収支とPB(基礎的財政収支)の違いについて。
財政収支とは、国の歳入と歳出の差のことです。
歳入には、ふつう、税収およびその他の収入に加えて、
国債発行収入が含まれます。
また歳出には、政策支出のほかに、
国債の償還費(元本+利子)が含まれます。
PBとは、歳入から国債発行収入を除いた額と、
歳出から国債の償還費を除いた額との差を表します。
後者が前者を上回る場合、PB赤字と呼ばれます。
しかし赤字であっても、
さらに国債の発行によって赤字が増えたとしても、
何ら財政破綻の危機などは意味しません。
それなのに財務省は、これを黒字化することが
「財政健全化」だと思い込み、
この路線達成に教条的に固執しているのです。

また毎日新聞の24日の記事によれば、
https://mainichi.jp/articles/20180525/k00/00m/020/153000c
「PB以外の2指標は、厳しい歳出改革を
しなくても自然に達成できる見通しだ」
とのことですから、
制約指標が三つもある事実に対して、
積極財政派に対する攻勢が厳しくなったと
うろたえる必要はありません。
むしろ二つが自然に達成できるなら、
デフレ脱却のために、
大規模な財政出動を訴えていく余地
大いにできたと考えるべきです。

問題は、PB黒字化目標が残ってしまった
という一点なのです。
前出の毎日の記事も、財務省緊縮路線の
広報係よろしく、先の文言の後に、
「このため財務省内から『歳出を増やしても
構わないという誤ったメッセージになりかね
ない』(幹部)との懸念が出ている」と、
わざわざ付け足しています。
御用メディアは困ったものです。

私たちが目指すべき標的ははっきりしています。
消費増税とPB黒字化に象徴される
財務省の緊縮路線をいかに潰すかです。

付け加えますが、
筆者が、安倍首相と財務省の間には、
デフレ対策をめぐって暗闘があると
書いてきたことに対し、
どこにそんなものがあるのか証拠を示せ
といったコメントがありました。
証拠は、すでに二つ示しています。
安倍首相が消費増税を二度延期したこと。
昨年の「骨太の方針」に政府債務の対GDP比
という正しい財政健全化の指標を入れたこと
https://38news.jp/politics/11893

PB黒字化目標に対抗してこの指標を入れた
意味は次の通り。
PBでは、単なる収支上の数字を黒にするために、
歳出の削減に走るか、税収を増やそうとして
増税を強行するしか手がありません。
しかもこの手法は現に裏目に出ているのです。
じっさい、財務省はそれをやってきました
しかし債務残高の対GDP比ならば、
財政出動によって景気を刺激し、その結果、
GDPが増えれば分母が大きくなるので、
債務残高がそのままでも、財政健全化が
実現するのです。
もっとも日本の財政が不健全だという認識自体、
財務省が流し続けたデマに他ならないのですが。
財政不健全を言うなら、デフレ脱却のために
必要十分な財政出動がなされないことこそが、
まさしく不健全財政というべきです。

さらに今回の方針原案では(3)PB黒字化達成
を25年度まで先送りすることと、(5)財政
抑制策は盛り込まないことが明記されました。
これは経済財政諮問会議における安倍首相の
強い主張がなかったら、いったい誰が実現させ
たのでしょうか?

何度でも断ります。
以上の指摘は、安倍政権の経済政策全般の
ひどさを免罪するものではありませんし、
その責任者である安倍首相を擁護するものでも
ありません。

ただ言っておきたいのは、次のことです。
何でもかんでも財務省と安倍首相とを同一視し、
政権内部の複雑な力関係を見ないようにするのは
冷静さを欠いた感情的な反応であり、
反安倍をひたすら叫ぶ左翼や、
個々の政策の良しあしも検討せずに
安倍政権をとにかく支持するといった、
心情保守派の態度と変わりません。
お互い、事の核心を見誤らないようにしましょう。

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を脱稿しました。徳間書店より7月刊行予定。

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●『表現者クライテリオン』9月号特集
「ポピュリズムの再評価」(仮)の座談会に
出席しました。(8月15日発売予定)
●ブログ「小浜逸郎・ことばの闘い」
http://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo

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【小浜逸郎】「骨太の方針」をどう評価するかへの11件のコメント

  1. 反孫・フォード より

     経団連の会長が代わったそうですが、経済成長・構造改革の発言をされたようです・・・
    官僚も民間人も思考はいまだ代わりようはないようなんですね。

    返信

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  2. ぬこ より

    安倍首相と財務省の関係は分かりませんが、
    ウォール街と財務省は関係あるでしょう(笑)

    ノーパンしゃぶしゃぶ以降

    返信

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  3. たかゆき より

    骨の髄から 総理は嘘つき、、

    TPPも消費税も総選挙の前と後では掌返し。。

    嘘つきは死ぬまで何度でも嘘をつく 一生モン

    財務省と総理の方針がたまたま齟齬をきたしているのは 総理の保身のため かと

    さすがに 骨の髄までシャブリつくしてしまったら 支持率急落でせうから

    それくらいの 分別は
    お持ち 鴨

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  4. momo より

    <(5)財政抑制策は盛り込まない

    これ、具体的に何を指しているんでしょう。PBが既に財政抑制策ではないのか。
    はっきり言ってPB黒字化破棄以外は敗北だと思いますが、何かよく分からない文言を使って緊縮っぽくしないように配慮している事は伺えます。それが果たして財政拡大派の目指す日本再興にたどり着くかは甚だ疑問ですが。

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  5. たけちゃん より

    消費税10%が完全な財政抑制策だろ。
    それに先伸ばししてきたのは権力維持、単なる自己生存主義だろうが。
    いい加減にしろ、安倍信者 売国奴日本会議 酷死棺桶!!!!!

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  6. あまき より

    「暗闘の事実があるそうなので、早くその事実を承知の範囲で説明してもらいたい」と書きこんだら「証拠を示せ」とコメントしたことにされてしまった。

    ファクトとエヴィデンスは違うと思うのだが、とりあえずこのことはとどめ置くとしても、示された「証拠」というのが「暗闘の事実」と直接どう繋がるのか客観的に確かめようのない「結果」だけ、しかも「証拠」と言いながら「証拠」に適うものがない。理科ご出身の方でかような無邪気に触れたのは、あの割烹着女子以来です。

    首相の信念とされる「政治とは結果」に賛同すると先に書いたので、「結果」のみで説得を試みた感の当エントリーはその意趣返しなのかも知れないけれど、首相には緊縮財政路線に抵抗したい「本音」があり、官邸と財務省との間には長い「暗闘の事実」があり、「本音」と「暗闘の事実」から「森友学園問題は財務省による陰謀の可能性」がある、と陰謀論(それもこれだけ上った確たる証拠、証言を悉く無視した、陰謀論にも当たらぬ陰謀論)を展開されたのは小浜さんご自身。

    本音を直接(またはお書きの複数の信頼の筋から)いつお聞きになったのか、官邸と省とで具体的にどのようなやりとりがあったのか、説明によっては「感情的」な反安倍の左翼とやらを納得、反転させることもあるいは可能だったかも知れません(いずれ知見を媒体で発表されるおつもりならそうお断りになればよい)が、あの西田氏の動画を援用されている無邪気では、これ以上おたずねしてもやはり意趣返しが関の山でしょうか。

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  7. solidblue より

    全体の論旨には賛成です。
    ただ、
    「ちなみに財政収支とPB(基礎的財政収支)の
    違いですが、前者は単純に歳入(税収およびその他の収入)と
    歳出の差を表します。これが赤字であれば、国債発行によって不足分を補います。またPBは、これまでの政府の負債(元本+利子)の返済が歳入で賄えるかどうかを示す指標で、賄えない場合はPB赤字となります」
    の部分は誤りです。「PB」と「財政収支」の説明が逆になっています。ここを修正されればコラムの内容としては完璧です。ご検討ください。

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      1. ご指摘、ありがとうございます。

        おっしゃる通り、説明が間違っていますね。
        これは、逆にすれば正しくなるかというと、そうも言えず、全体が混乱した言い方になってしまっています。そもそも、「財政収支」と「PB」の定義をきちんとしていないところにその原因があるので、もう一度、両者の定義をはっきりさせて、訂正させていただきます。アーカイブですので、可能かどうか、管理者に確認を取ってからということになります。しばらくお待ちください。

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