日本経済

2018年5月30日

【藤井聡】「『歴史の謎はインフラで解ける』 〜政府投資こそが経済・財政の「基盤強化」を導く〜」

From 藤井聡@京都大学大学院教授

次年度以降の政府の中長期的な経済財政方針を決する「骨太の方針」。

ここにどのような方針が記載されるのかで、
我が国の運命は決定づけられてしまいます。

その議論がいよいよ、来月の閣議決定を目指して
「経済財政会議」で始められました。

(1)2025年度プライマリーバランス黒字化目標

その会議の中で、
「2025年度にプライマリーバランス黒字化目標」
が提案されました。
https://mainichi.jp/articles/20180529/ddm/008/020/172000c

かねてよりプライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化目標が
不適切に定められれば、
政府支出が不能となり、デフレ脱却が不可能となり、
日本の衰退は決定づけられる―――
と主張してきた当方としては、
こうした議論の展開は誠に遺憾です。

(2)2021年度までの間に、速やかに経済と財政の「基盤強化」を果たすべし

ただし2025年度までにデフレから完全脱却して成長できるなら、
無理せずに自然と「プライマリーバランスが黒字化」する可能性は、
なくはありません。

したがって万一、PB黒字化25年度目標が定められてしまえば、
次善の策として、
「完全デフレ脱却→高成長」を目指し、
「財政基盤の強化」を目指すことが不可欠
ということになります。

この点について、経済財政諮問会議の資料は、
次のように記述しています。

『2019~2021 年度を「基盤強化期間(仮称)」と位置づけ、
持続可能な経済財政の基盤固めを行うべき。』
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2018/0528/shiryo_01-1.pdf

つまり、19~21年度の三カ年で、
「しっかりとした財政の基盤を作り上げる」
ことが必要だと確認されたわけです。

(3)「基盤強化」のためには「政府投資」が必須
そもそも日本の財政基盤を脆弱化させている元凶はデフレ。
だから、経済と財政の「基盤強化」のためにデフレ脱却は必須

そしてそのために必要なのが、
「経済財政基盤を強化する投資の拡大」

だからこれを、
三年半という短期間の内に成し遂げなければなりません。

そして民間投資が増えないデフレの今、
好むと好まざるとに関わらず、
「基盤強化」のための「政府投資」は絶対必要、なのです。

(4)「歴史の謎はインフラで解ける」
そんな「基盤強化」のための「政府投資」のど真ん中にあるのは、
言うまでも無く、道路や鉄道、港などの、いわゆる「インフラ」投資。

道路も鉄道も無い国で、
経済成長なんて出来る筈がないわけで、
未来の成長のために「投資」をする国だけが、
成長できるのは「当たり前」

この度、そんな「当たり前」を一冊の本に纏めました。題して、

  『歴史の謎はインフラで解ける』~教養としての土木学~
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4819113380/

この本については別のところでも紹介しましたが・・・
https://the-criterion.jp/mail-magazine/20180528/

ここでは、とりわけ「財政の基盤強化」にとって、
インフラがどれだけ大切なのかについて紹介いたしましょう。

例えば、強大な帝国を作り上げたローマ。

あれだけの帝国を運営するには、
大量の税が必要だったわけですが、
そのローマ経済を支えた
基盤インフラは道路インフラでした。

「全ての道はローマに通ず」と言われたように、
ローマは全国各地を網の目の様に結びつける
道路ネットワークを徹底的に整備しました。

この画期的なインフラ戦略の結果
「辺境」と「中心」の格差が縮小し、
交流が促進されて多様な文化が融合してローマ文明が創出され、
大きく発展すると同時に、
その繁栄が帝国の隅々にまで行き渡ることになったのです。

言うまでも無くこの戦略は、
20世紀のドイツアメリカ、21世紀の中国に引き継がれ、
彼らを「経済大国化」させ、
その経済力を背景に集められる「莫大な税収」でもって、
産業力と軍事力を超絶に高めさせたわけです。

もし彼らに,十分なインフラが無ければ、
産業力や軍事力もなかったのであり、
結果、世界大戦やその後の世界史が、
全く異なったものとなっていたことは間違いありません。

こうした「大局」を見定めれば、
インフラ投資によって歴史がドライブしてきたのは、
明白な真実だ、ということが見えてまいります。

本書『歴史の謎はインフラで解ける』は、この他にも、

なぜ、京都が都に選ばれたのか?
(A.「物流インフラが容易に整備可能だった」から)

なぜ、京都は、1200年以上、繁栄しているのか?
(A.首都機能が失われる度に「物流インフラ投資」を重ねたから)

なぜ、織田信長が全国統一に向けて躍進できたのか?
(A.「徹底的な農業土木と道路インフラ投資」を進めたから)

なぜ、薩長が江戸幕府を倒す事が出来たのか?
(A.「港湾インフラ投資」をしっかり行い、交易で利益をあげたから)

なぜ、アメリカは日本に戦争で勝てたのか?
(A.大恐慌時に、インフラ投資を軸とした大規模財出を行ったから)

・・・等々の様々な史実を史料に基づいて論じています。

もちろん、歴史は様々な要因で展開するもので、
インフラ「だけ」が歴史を決定したとは言えません。

ですがこれまでの「歴史学」は
さながらインフラ「だけ」を軽視・無視してきたように見えます。

そしてこれが、我が国の「歴史認識」を
大いに歪ませているのではないかと、思えてなりません。

だから本書では、
「インフラ」こそが歴史をドライブさせる「必須要素」
だったという真実を、様々な史実の下、明らかにしようと致しました。

ご関心の方は是非、
本書『歴史の謎はインフラで解ける』をご一読下さい。
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4819113380/

(5)今なぜ、日本は衰退しているのか?
ところで我が国日本ほど、
道路や鉄道等のインフラ投資を「軽視」している「先進国」は
余所にはない、といって差し支えありません。

ただでさえ、先進諸国とのインフラ格差がある中、
整備の「速度」すら遅れを取れば、
日本だけ成長出来ず、財政基盤も脆弱なままとなるのは必定です。

だからこそ、今の日本では、
全国の高速道路や新幹線等の計画の中でも
とりわけ「成長効果」の高い路線を選定し、
そこに投資すれば確実に「成長」が促され、
「財政」は必然的に健全化するのです。

例えば筆者の試算によれば、
東京―大阪間のリニア投資はGDPを約1%拡大させます

結果、国と地方を合わせた
税収を20兆円以上拡大(40年累計)します。

北海道や四国や山陰、九州などの全国の新幹線投資も併せて行えば、
GDPはさらに拡大し、1.6%程度増加します。

これは、国と地方を合わせた
税収を35兆円以上拡大(40年累計)させます。

つまり、企業が店舗や工場の「投資」を図ることで、
収入を拡大して財政基盤を強化するように、
日本政府も、インフラの「投資」を通して、
税収を拡大し、財政基盤を強化できるのです!

同じことが、
港湾投資、農業投資、IT投資、
科学技術投資、防災投資、国防投資・・・等、
あらゆる投資についても多かれ少なかれ、言えます。

だから、投資内容を徹底的に合理的に考え、
21年度までの「基盤強化期間」の間に徹底投資し、
中長期の成長力を確保することが今、
強く求められているのです。

それができなければ、
プライマリーバランス黒字化目標は結局、
単なる「緊縮」を導き、
亡国の憂き目に我が国日本は遭うことになるでしょう。

そうした最悪の未来を避けるためにも、
「歴史の謎はインフラで解ける」
という「真実」にお触れいただき、
我々の「未来」の歴史は、「今」のインフラ投資によって
大きく変わるのだという事を―――
しっかりとご理解頂きたいと思います。

追伸1:
「歴史の謎はインフラで解ける」、ご関心の方は是非、下記よりお求めください。
アマゾン:https://www.amazon.co.jp/gp/product/4819113380/
楽天:https://books.rakuten.co.jp/rb/15446855/

追伸2:
表現者クライテリオン・メールマガジンでも、本書についてご紹介してます。
https://the-criterion.jp/mail-magazine/20180528/
ご一読の上是非、クライテリオンの「無料」メルマガにもご登録下さい(↓)。
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【藤井聡】「『歴史の謎はインフラで解ける』 〜政府投資こそが経済・財政の「基盤強化」を導く〜」への3件のコメント

  1. momo より

    社会保障や年金ももちろん重要ですし、現状の財政を鑑みると、どのような形であれ、財政赤字の拡大は必要不可欠であります。
    しかし、(ワイズスペンディング的な)より効率のよい支出がインフラ投資なのは間違いないでしょう。
    インフラは少なくとも50年残ります。それと比べると、社会保障や年金は生産能力のない老人へのバラマキにあたります。繰り返しますが、社会保障や年金も重要なのです。しかしインフラ投資の方が効率的で、より望ましいのです。
    よって、「どちらも拡大しろ。しかしインフラ投資は社会保障よりもっと金を出せ」というのが理性的な意見だと思います。

    ワイズスペンディング的投資の必要が薄い(実質的に財源の上限がなく、デフレ期の無駄遣いが許される)政府より、財源に上限のある(ワイズスペンディング的な支出が求められる)地方自治体に特に理解して欲しい考え方と思います。

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  2. ぬこ より

    財務省や日本の財界の裏に欧米国際金融資本が居て、日本衰退化を指示してるんでしょ?
    中国を膨張させ、日本からは富を回収して、日本人を追い込んで、東アジアを不安定にして、武器で二度三度儲ける。
    奴らが、この数百年してる事でしょ?
    それこそ、歴史から学ぶ必要ありますよね。
    信長の時代からイエズス会に目を付けられてた訳だし。

    武士が多い時代はそうした欧米人のやり方を見抜けたんでしょうが、お坊ちゃまの多い小役人や欧米に洗脳されきった自称エリートさまの多い現在は

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  3. tcsail より

    藤井聡氏に提案します。
    PB 黒字化、消費税増税に反対する積極財政論は、全く正しい主張です。この主張は、かなり世の中に浸透してきましたが、残念ながらまだまだ、緊縮財政派の方が圧倒的に多いようです。国会の討論などでも、それが感じられます。

    そこで、私は提案したいことがあります。それは「国債は国の借金ではなく、貨幣の供給である」ということを、証明すれば良いのではないかと言うことです。
    なぜなら、国債は国の借金であると言う前提で、積極財政論を推し進めるのは、一般の理解を得にくいからです。これでは、財政赤字が膨らむ一方になると言うイメージを、多くの人が抱くでしょう。

    さて、国債は国の借金ではないと言うことを、証明するのはそんなに難しいことではありません。
    日本における、唯一の貨幣発行機関である日本銀行は、ただお金を刷って、これを世の中に送り込むと言う事はできないからです。
    日銀は、お金(日銀券)を発行するときは、必ず債券や手形などの金融資産を、買い取らなければならないからです。要するに、債券、手形を買い取るのと引き換えに、日銀券を支払うのです。
    これが日銀による貨幣の供給の方法です。何も買い取らないまま、貨幣を供給することは絶対にできません。

    さて、日本は戦後ものすごい勢いで経済成長を遂げました。国内総生産(GDP)は、70倍以上になりました。物、サービスの生産量が増えれば、当然それを売り買いするお金の量も、増えなければなりませんが、結果的にマネーサプライは、百数十倍に増えました。
    そのお金の量を増やしたのは、誰かと言うと、日銀以外にはありません。
    ここに重要な鍵があります。
    日銀は、債券、手形等を買い取って、お金を供給しますが、民間が発行する債券や手形を、買い取るだけでは、とてもマネーサプライを百数十倍に増やすのは無理です。その上、債券や手形はいずれ返済されます。返済されれば、日銀が出したお金は日銀に戻ってきます。これでは、お金が増えようがありません。
    しかし、ここに大量の債券を発行する機関がありました。それは政府です。政府は、国債と言う名の債権を毎年数十兆円も発行したので、 日銀はこれを間接的に買い取り、大量のベースマネーを発行しつづけました。その上、政府は国債をほとんど返済していないので、お金が日銀に戻ることもありませんでした。
    これらのことによって、マネーサプライ百数十倍は実現したのです。

    よって国債は、政府(国)の借金ではありません。政府は経済成長に必要なお金を、国債と言う債権の形で供給したのです。
    したがって、次の命題が成り立ちます。「国債は国の借金ではなく、貨幣の供給である」

    ただ、お金の増え方はもう少し複雑です。それは「銀行の信用創造」によってもお金は増えるからです。誰かが、銀行からお金を借りると、その借りた額だけ世の中のお金は増えます。、
    高度経済成長期には、民間企業が多額のお金を銀行から借りたので、この信用創造によって、お金は猛烈に増えました。したがってこの時期は、政府はあまり国債を発行する必要がありませんでした。
    すなわち、高度成長期には、国債を発行しなくても、高い経済成長を遂げましたが、それは、政府の代わりに民間が銀行から大量にお金を借りたので、それだけで世の中に十分お金が出回ったからです。
    しかし、この時期はこれでうまくいったが、この状況がずっと続くと言う事にはなりません。
    やがてバブルが崩壊し、企業は借りていたお金をどんどん銀行に返し始めました。当然銀行に返した額だけ、世の中のお金の量が減ります。その総額は300兆円から400兆円にもなるでしょう。このことは、デフレの原因の1つになりました。

    さて、このようにして、世の中のお金の量が減っていくのでは、我々が営む貨幣経済は成り立たなくなります。誰かがお金を大量に借りると良いのですが、不況の時代に、民間の中にお金を借りたがるものは、なかなかいません。
    そこで、政府の出番になるのです。営利を目的としない政府が、銀行から大量にお金を借りて、マネーサプライ減少を阻止したのです。
    政府が国債を発行すると、常にその半分近くを銀行が買います。そうすると、その時点で「銀行の信用創造」により、その額だけマネーサプライは増えます。
    これは、マネーサプライ増加の第一段階です。次に、第二段階として、日銀が銀行から国債を買い取り、その分の日銀券を、ベースマネーとして銀行に支払います。そうすると、銀行はそのベースマネーをもとに、その額の数十倍の信用創造を行うことができます。
    このようにして、政府の国債発行は、2つの段階を通じて、日本中にお金を供給をし続けました。
    なおかつ、国債発行によって得たお金で、公共事業や社会保障などの財政支出を行い、国内の需要を賄ったのです。
    これは、国内の供給力が高すぎて、民間だけでは需要できない部分を政府が需要したのです。それが過剰な需要でない証拠には、莫大な国債を発行しても、未だにインフレにすらならないではないですか。

    さて、国債は国の借金でしょうか。
    いいえ、国債発行は政府が行った貨幣の供給なのです。
    それなら、国債は返済しなくても良いのか、と言う反論が起きるでしょう。いえいえ、国債を保有するものが、返済してほしいとは思わないのです。なぜなら、国際には利子がつきますが、現金には利子がつきません。どちらを持ちたいと思うでしょうか。
    銀行や保険会社は、資金を何らかの形で運用し、利益を上げなければなりません。国債は金利は低いが、国が発行するものなので、極めて安全性の高い運用資産になります。したがって、機関投資家は、もっと国債を発行してほしいと思います。すなわち、国債を発行しても買いてがつかないと言う事はありません。もし国債を保有するものが、それを現金に変えたいのであれば、国債市場でいつでも売ることができます。その国債を買いたいものがいくらでもいるからです。
    今や、国債は立派な金融資産として、世の中に流通しているのです。

    これとよく似た金融資産に株があります。企業は、株を発行して広く世の中から資金を集めます。この場合、株を発行した企業は、お金を借りたわけではありません。株と言う金融資産を発行したのです。したがって、集めた資金は返済する必要はありません。株を保有するものは、それを現金に変えたいのであれば、株式市場で売ればいいのです。
    株はそれを発行した企業の業績に応じて、価値を持ち続け、世の中に流通します。ただし、その企業が倒産すれば、その株は紙屑になりますが。

    一方、国債は永久に価値を持ち続けます。なぜなら、国は倒産する事は無いからです。国は、国内に無数の企業が存在し、その1部が倒産することがあっても、他の大多数は存続し、生産を継続するので、倒産のしようがないからです。よって国債は、最も安全で価値のある金融資産なのです。

    結論: 国債は、政府が借用証書として発行しましたが、これを返済してくれと言うものが誰もいないので、結果的に金融資産になりました。

    以上が「国際は国の借金ではなく、貨幣(正確には金融資産)の発行である」の証明です。

    ameblo : tcsail のブログを参照してください。

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