FROM 藤井聡@京都大学大学院教授
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プライマリーバランス黒字化はなぜ愚かな行為なのか・・・
なぜ政府債務1000兆円越えを騒ぐことが無意味なのか・・・
その答えはこちら
http://www.keieikagakupub.com/sp/38DEBT/index_mag2.php
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毎年毎年の「財政」の基本的なあり方は,毎年5月から6月頃に,内閣府が策定する,「経済財政運営と改革の基本方針」にて定められます.
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2015/decision0630.html
これはいわゆる「骨太の方針」と呼ばれるもので,その策定には内閣府主催の経済財政諮問会議(以下,諮問会議)での議論が重要な意味を持ちます.
この「骨太」の記述はいずれも極めて重大な意味を持つものですが,その中でも特に重要なのが,経済財政運営の
「目標」
です(骨太2015の第三章第一項).
この「目標」ですが,現在は,「2013年8月8日の閣議決定(「当面の財政健全化に向けた取組等について−中期財政計画)」における以下の文言が基本となっています.
【2013閣議決定・目標】 『国・地方を合わせた基礎的財政収支について、2020年度までに黒字化、その後の債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指すこと。』
この中の「基礎的財政収支」というのはプライマリーバランス(PB)で,(金利払いを除く)政府の税収と支出の「差」を意味します.ちなみに現在は,これはGDPに対して3%強の水準で「赤字」となっています.
つまりこの閣議決定目標は,2020年までにPBの赤字を「黒字化」し,「その後」に,債務対GDP比を引き下げていく,というものです.
この文章を字義通りに読めば,PBが黒字化するまでの数年間の間,債務対GDP比は上がろうが下がろうがどちらでも構わない,兎に角,現在赤字のPBを黒字化してから,その後,債務対GDP比を引き下げるようにする,という目標ということになります
なお,債務対GDP比とは,名目GDPに対する政府の累積債務(借金総額)の比率で,現在おおよそ200%程度となっています.
さて,昨年の骨太2015では,この閣議決定目標に基づいて,次の様な目標が定められていました.
(骨太2015・目標) 『「経済・財政一体改革」を推進することにより、経済再生を進めるとともに、2020年度(平成32年度)の財政健全化目標を堅持する。具体的には、2020年度PB黒字化を実現することとし、そのため、PB赤字の対GDP比を縮小していく。また、債務残高の対GDP比を中長期的に着実に引き下げていく。』
この「骨太2015年目標」は,ほとんど上記2013閣議決定と同様なのですが,いくつかの微妙な相違点があります.
第一に,「経済再生を進める」ことが明記されているという点です.すなわち,PBを改善するにしても,ただ単に「緊縮」を繰り返してそれを黒字化するのではなく,成長による税収増をPB黒字化における重要な方法であると位置づけている点に骨太2015の特徴があります.
特に,「2020年度PB黒字化」を実現することは目的として掲げられているのですが,「そのため」に「PB赤字の対GDP比の縮小していく」と書かれているところがポイントです.
この日本語は大変に分かりづらいものですが,この,『PB黒字化の「ため」に「PB赤字の対GDP比の縮小していく」』という日本語は,要するに,1)PB赤字を縮小すると同時に,2)名目GDPを拡大していくことで,PB黒字化を達成していく,という解釈が可能です(ただしその様に解釈できるというだけで,その趣旨は必ずしも明確ではありません).
第二に,2013閣議決定では「PB黒字化,『その後』に,債務対GDP比の引き下げ」と,書かれていたものの,この骨太2015では,「PB改善(黒字化),『また』,債務残高の対GDP比を引き下げ」と書かれています.
これはつまり,2013閣議決定では,債務対GDP比の引き下げよりもPB黒字化が「優先」される格好となっていた一方で,骨太2015では,両者が「併記」されており,債務対GDP比の改善も,PB改善と同程度に重要であるという解釈が可能であるところに第二のポイントがあります.
なお,理論的には,PB改善が求められているのは債務対GDP比の引き下げにとってそれが必要だ,と論じられてきたからです.つまり理論的には,債務対GDP比の引き下げこそが第一義的に重要なのであって,PB改善はその実現のための「手段」にしか過ぎないのです.
(※ 詳細はこちらをhttp://www.mitsuhashitakaaki.net/2014/12/30/fujii-123/)
・・・
この様に,PBや債務対GDP比等,様々な重要概念に基づいて措定される骨太の方針でありますが,本年度は,どのようにその目標が設定されるのでしょうか.その判断はもちろん諮問会議の皆様の議論に委ねられていますが,筆者は少なくとも次の三点は,考慮するに値する事項なのではないかと考えています.
第一に,昨年(2015年) 9月に,安部総理が宣言した,「600兆円実現」は,当然ながら,政府の経済財政政策の極めて重要な目標ですから,これが骨太に「目標」として明記される事が必要となるでしょう.
そもそも総理が繰り返し宣言している「経済再生無くして財政再建無し」の理念に従うなら,「600兆円経済の実現無くして,財政再建無し」と言い換えても良いほどの,政府目標の絶対条件だと言うことができるでしょう.つまり,600兆円経済実現を打ち出した今, 2013年閣議決定から骨太2015へと展開された「成長重視」の流れを,さらに加速し,600兆円経済の実現を第一目標に掲げていくことは不可欠ではないかと考えます.
第二に,だからこそ,「経済再生無くして財政再建無し」という理念の趣旨を,「暗示的」「隠喩的」ではなく,より「明確」に「目標」に記載すべきであると,筆者は考えます.
そもそも,「経済再生無くして財政再建無し」という理念は,次の二つを意味しています.
1)成長すれば,税収が増え,PBが改善し,財政が改善する.
2)成長すれば,「債務対GDP比」の分母が拡大する事を通して「債務対GDP比」それ自身が減少する.
つまり,成長すれば「債務対GDP比」の分子(の増加量)が縮小すると同時に,その分母も拡大し,そのダブルの効果を通して「債務対GDP比」が低下していく,という次第です.
しかし,骨太2015には,「目標」にも,その「達成シナリオ」にも,この2つが明確に記載されていません.(先に指摘した様に)解釈の仕方によって,これら2つの趣旨が記載されていると解釈できなくもない――という状況なのです.
これは,骨太2015の重大な課題だった,といえるのではないかと感じます.
なぜならこのままでは,「成長を通した財政再建」というシナリオが十分に実現できなくなる,という事態が危惧されるからです.こうした危惧を回避するためにも,成長によるPBの改善,そして,成長とPB改善の双方を通した債務対GDP比の改善が明記されることが必要であると筆者は考えます.
そして最後に,国際社会において財政再建目標として重視されている「債務対GDP比の安定化と引き下げ」を,骨太の中においても重視していく姿勢が必要不可欠だと考えます.これが,第三番目のポイントです.
繰り返しますが,PB改善が求められているのは,債務対GDP比の引き下げにとってそれが「手段」として求められているからに過ぎません.
そして何より,「金利が低く,成長率がそれ以上に高くなるケース」においては,PBが赤字であっても債務対GDP比は縮減するのです.
(※ 再び詳細はこちらをhttp://www.mitsuhashitakaaki.net/2014/12/30/fujii-123/)
実際,政府の試算でも,「PBは当面赤字だが,債務対GDP比は,PB黒字化を待たずして,2015年をピークに引き下がっていく」という事が計量的に示されているのです.
(※ 具体的には下記を参照ください
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=787298101371135&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=3&theater)
これは,金融政策のおかげで金利が超絶に低い一方で,名目成長率が(例えば昨年は)プラス2.5%もの水準に達しているからです.
こうした数値結果が予測されている状況では,今や,PB赤字の解消にこだわる「理論的必要性」はほとんど消滅している言わざるを得ません.
無論,PBは国際公約だと言われていますが,何度も繰り返しますが,国際公約においてもPBは債務対GDP比の縮減のための『手段』の位置づけなのです.
例えば,G20における各国の財政債権目標を記載するフォーマットには, “Debt-to-GDP ratio objective”(債務対GDP比目的)という欄はありますが,“PB目標”の欄など存在していないのです.にも関わらず日本は,「Debt-to-GDP ratio objective」の欄の中にあえてPB目標を記載している,という次第なのです.これでは,国際標準に反して,無理矢理PB目標を財政再建目標にしている,と指摘されたとしても致し方ないのかも知れません.
http://www.mofa.go.jp/files/000014001.pdf)
・・・
以上まとめますと,骨太2016の「目標」について,以下の3つを考慮していくことが重要ではないかと,筆者は考えます.
提案1:600兆円経済の実現を明記する.
提案2:成長すれば,「PB改善」と「名目GDP拡大」が同時にもたらされ,そのダブルの効果で「債務対GDP比」が「効率的に縮減」していく,という点を明確化する.
提案3:PBでなく債務対GDP比の実現こそが,財政再建において重視されているという点を明確化する.
もちろん,以上はあくまでも筆者の個人的な見解です.
経済財政諮問会議におきます民間議員や総理,官房長官をはじめとした主要閣僚の皆様方の客観的かつ理性的な議論に基づき,適切な骨太の方針が策定されますこと,心から祈念いたしたいと思います.
ーーー発行者よりーーー
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【藤井聡】「骨太」における経済財政運営の「目標」を考えるへの2件のコメント
2016年5月3日 1:26 PM
経済財政諮問会議ではGDP600兆円目標はいいが、その前になぜ日本だけ20年もの間GDPが伸びなかったのかを分析したらPBの事など出てこない筈である。成長促進の為の財政出動と日銀の大胆金融緩和を同時に根気よくやったことが無かったからで、普通に単純に考えたら高学歴の方々の会議など必要無いはずである。デフレになって円の価値が上がったとか言ってしたり顔の馬鹿学者や政治家また評論家等の多かった事このミスリードの延長上にあるのがこの会議ではないのか、どうか普通のリベラル経済学の財出と金融緩和をやって貰えないだろうか。
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2016年5月4日 11:43 AM
私は左派が嫌いではありません。人間誰もが右派の心、左派の心両方持っています。右派は知性で表せない真実の心、いわゆる母性だと思っています。その母性を守る為に必要な知性が左派だと思っています。私が嫌いなのは権力者(意図的な力)の奴隷と化した知性で母性を支配しようとするバカ左派(テロリスト)であります。そしてその典型が現在の経済学と法学であります。男女で例えるなら、女は保守的思想が強く男は革新的思考が強く現れます。私はチンチンが付いているので男から見た社会で例えますと、まず生まれたと同時に母性で育ちます。つまり保守的思想が形成されます。時が流れ、思春期になると、反抗期になります。これは知性が徐々に形成され革新的思考が現れる証拠であり母性である保守的思想との自己の戦いであり誰もが経験した事だと思います。そして大体の男なら知性が勝ち革新的思考が保守的思想を支配します。この事を解りやすい形で現れるのが男女関係であります。若いうちは女を知性で支配します。いわゆる束縛です。またまた時が流れ結婚し子供ができますと、男には悲しい出来事が起こります。確か知性で女(母性)を支配していたはずなのに子供ができた途端、支配する側から支配される側になっているのです。知性を使って理屈を立てるもんなら『うるさい!』で終わります。母性恐るべし。そして男は母性を取り戻し、保守的思想と革新的思考をバランス良い形で思考を使うのです。つまり、革新的思考は保守的思想を守るためにあり、支配してはいけないのです。っと言うよりも支配できないのであります。無理に支配しようとするから戦争が起きるのです。だから戦争が起きれば知性の支配力が暴走し母性(女)が被害を受けるのです。知性は母性を守るものであり、母性が主であり知性は道具にすぎないのです。それを踏まえて知性を使う事こそが本来の左派であります。
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