日本経済

2018年4月28日

【平松禎史】霧につつまれたハリネズミのつぶやき:第四十四話

From 平松禎史@アニメーター/演出家

◯オープニング

三橋先生が経済史、政治史の重要な側面として解説しておられる梅棹忠夫氏の「文明の生態史観」がとてもおもしろい。

以前、足利義満に興味を持って本を探した時、今谷明氏の『室町の王権』に出会いました。
教科書的な歴史とは違った見方がおもしろく、他の本に手を伸ばした一つが『封建制の文明史観』でした。(現在は『象徴天皇の源流 ― 権威と権力を分離した日本的王制』を。)

本書は、日本とマルムーク朝スルタン(イスラム帝国)が、元の襲来(文永弘安の役・「元寇」)をはね返した得た理由を探ったもの。西欧の封建制度(Feudalism)と共通する制度を持っていたことを様々な歴史的事象や、本居宣長、頼山陽、福田徳三、シーボルト、福沢諭吉、藤村藤村、大隈重信、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)、などなどの封建に対する賛否両論を解説し、その後半第5章に梅棹忠夫の『文明の生態史観序説(1957年)』が登場します。

概略は三橋先生のブログ『「文明の生態史観」の再評価を』をご参照ください。
https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12366971536.html

また、「文明の生態史観」に関連して、藤井聡教授のコラムもご参照ください。
『【藤井聡】敗北しつつある自由民主主義(でも、タテマエも大事です)。』
(表現者クライテリオン・メルマガ)
https://the-criterion.jp/mail-magazine/20180423/

こういった文明史観と現在の国際政治の動き、日本政治の行方を考え合わせると、日本は歴史上5度目の危機に瀕しているのではないかと思えてきます。

第四十四話:「皇帝絶対主義国家に飲み込まれに向かう日本」

今谷明氏の『封建制の文明史観』では、三橋先生の概略の通り、君主を頂点に武家が地方領主を統治する構造が日本人の土地に根ざした意識を強固にし、「元寇」当時対立していた幕府と朝廷の挙国一致防衛体制を実現させたと説いています。
詳細は省きますが、『「神風」がはね返した』という俗説は事実ではなく(当時の武家などが謙遜して伝えたのが原因か…)日本の地方領域から財と兵を集め、弘安の役ではたった5ヶ月で20kmにも及ぶ防塁を築いて上陸させなかった「実力」のためです。
西ヨーロッパでは、ドイツでリーグニッツ城の戦いを守り抜き押し返したのは当地を治める諸侯でした。イスラム帝国も然りで、日本と西ヨーロッパ、マルムークに共通するのは、水と農地(土地)と人の強固なつながりだったと考えられます。
これが第一地域の特徴。

第二地域は遊牧民が治める地域で、皇帝絶対主義の直接支配で、領域の拡大と民族同化(浄化)を特徴とします。

江戸時代までの日本では、明治以降の近代的国家意識はなく、律令時代からの五畿七道や国郡里制を下敷きにした連邦制のような状況だったのでしょう。
とはいえ、現在議論されている道州制とは別種だと考えますが、南北に細長く急峻な脊梁山脈が貫き流路を頻繁に変える荒ぶる河川で土地を区切られた日本では、各地に特有の土地に根ざした制度が合っていたのだと思います。
その延長上に中世の封建制時代がありました。
象徴としての天皇を頂点とし、行政が中間組織である地方行政を合議でもってまとめる「封建」的なやり方が日本には合っているのです。

尚、日本語の「封建」は中国語からの借入です。
なので、「中国式封建制」との混同が江戸時代からあり、時代とともに否定と肯定が入れ替わる現象が見られるとのこと。
中国式ゆえにこれを否定した幕末から明治前半。日清日露戦争を勝ち抜いて自信をつけて以降、西欧との共通点を見出して好意的に認めた明治後半から戦前。敗戦後は、戦前日本を非民主主義的な封建的時代と決めつけて批判されました。「封建制」ということばは曖昧なまま使われ、誤解が多いのです。

上掲の藤井聡教授メルマガでの問題提起。「自由民主主義」国家の欧米や日本が衰退して「権威主義」国家のロシア・中国が成長しているのはなぜかとの問いに拙考するならば、特に日本において、主流派経済学に基づく新自由主義・グローバリズム…移民難民の流入、自由な金融経済、自由貿易など…と、緊縮財政によるデフレ継続によって土地に根ざした政治(経世済民)が行われなくなったからではないか、と。
一方で、ロシアはウクライナや中東で、中国は一帯一路戦略で、土地に根ざした政治(経世済民)を模した積極政策を行っている。特に中国の経済成長は(数字に疑問が持たれるとはいえ)顕著です。
とはいえ、彼らの根っこは皇帝絶対主義ですから、戦略に取り込まれればその「属国」「衛星国」になり、弾圧の危険性が極めて高いといえます。
イギリスや欧州はさすがに歴史的知見が豊かでありまして、イギリスはEU離脱を決め、欧州大陸でも圏外移民の阻止を訴える勢力が伸長しています。グローバリズムを見直しはじめています。

そんな状況でも、日本は緊縮財政とともにグローバリズムに基づく改革・規制緩和にいまだに勤しんでいる有様。
アメリカはトランプ政権で皇帝絶対主義的な国になりつつある。

梅棹忠夫氏の『文明の生態史観』の枠組みが変質していっているように見えます。

× × ×

さて
今谷氏の『室町の王権』に注目してみます。
本書は、南北朝時代の足利義満が王権(天皇家の権能)を簒奪しようとした、という仮説に基づいて論じた本です。
義満の「王権簒奪説」は学術的には否定されていますが、状況としてそう見えても不思議ではない様々な事実が存在します。
詳細は本書を読んでいただきたいところですが、簡単に書くと…
律令制導入からの天皇親政の時代を経て摂関政治に至り、天皇が象徴として「君臨すれども統治せず」の形になった平安期以降、後嗣問題で南北朝に分裂して紛争が度々起こり、権力の掌握が幕府の課題になっていた。
義満は、朝廷改革を行って、朝廷人事、祭祀、(中国思想の)陰陽道祭への傾斜、改元干与(義満の時代では失敗するものの後に践祚による朝廷の改元案を拒否)、皇位継承への干渉、など朝廷の独占的な権能を幕府に移し権力を増強した。明朝との勘合貿易の際には「日本国王」となるため出家し、制度上はともかくとして、外交的な実権に基づいて朝廷と幕府の上に立つ立場になった。
…という事実を観察したものです。
義満の「王権簒奪計画」は、その死後に朝廷から「上皇」の尊号を贈られるまでに強化されたのですが、斯波義将の根回しよって辞退され実現しなかった。「簒奪計画」は次代義持には継承されず足利氏の室町幕府は次第に衰退、守護大名も下克上によって倒されていく。
「王権簒奪」が事実かどうかはおくとしても、朝廷の権威が低下し、戦国時代に突入し分国化していく事態につながったと考えられます。

本書の印象的な場面は、義満が崇光天皇崩御の葬儀を延期し、皇位継承を期待された栄仁親王を出家に追い込んだ時の、伏見宮家に伝わる「伏見宮記録」の中の『後小松院御記』の一節。

「御前渡を期せらるゝの処、俄(にわ)かにかくの如きの御進退、併(しかしなが)らの相国(義満)申沙汰(もうしさた)なり。凡そ天照大神以来一流の御正統、既に以て失墜す。言語に絶するものなり。」

皇統断絶に対する悲痛この上ない危機感です。

これは、現代のことばに置き換えれば、政治が皇統に干渉する危機感の表れです。

ここからは飛躍を自覚した上で書きますが、今上天皇の譲位に際して、「退位」という歴史上負の面が強い皇位継承のことばを使って法律を作り、皇太子殿下への践祚を根拠付けるという行為は、義満の「王権簒奪計画」に似ていないでしょうか。

一度きりと規定されてはいるものの、一度政治介入を許せば、日本の文化的連続性は断絶し、戦国時代さながらに国がバラバラになっていくのではないかと危惧します。
その上で行われる道州制は、日本は国柄を大きく変更する文字通りの革命となるでしょう。
安倍内閣による「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」は、もう決められてしまいましたけどね。

このような状況と、『文明の生態史観』をあわせて考えてみると、日本は「中国式封建制」に近づいているのではないかと思えます。
つまり、皇帝絶対主義に近づいている。「安倍一強」といえば野党やマスメディアのプロパガンダっぽですが、「小さな政府」の改革と同時に規制緩和によって民間ビジネスを政権支持基盤に取り込んでいく様、農協など公共の中間組織を解体していく様、これらは形を変えた皇帝の直接支配構造の実現に思える。その上で、皇統に法律で干渉する。
経済状況はすでに「先進国」とは言えない「衰退途上国」です。
そんな状況で、皇帝絶対主義化しているトランプ大統領のアメリカと「100%共にある」と、さらなる日米同盟強化を表明している。

アメリカかはたまた中国の皇帝絶対主義にみづから飲み込まれに向かっているのではないか。

悪い予感しかありません。

◯エンディング

これはもちろん「仮説」でありますが、日本の歴史上5度目の危機というのは事実だろうと思う。
ちなみに、5度目というのは、白村江の戦いでの敗北、義満政権での天皇家弱体化、幕末から明治への内戦、大東亜戦争での敗北…に次ぐ5度目。皇帝絶対主義国家に飲み込まれる危機、です。
「属国」「衛星国」ならまだマシに思えます。

ボクは、三橋先生や藤井教授、大石久和さんなどの危機感に共感します。

上記のような「仮説」を仮説で終わらせるためには、日本式封建制の歴史的文化的役割を正確に理解し、そのメリットを最大限に伸ばすことだろうと思います。
大石久和さんがおっしゃるように、国土に働きかけ、実りをいただくことの大切さを思い出すこと。
土地に根ざした感覚を思い出し、日本各地がその個性的な魅力を成長させること。

そのための政治、経世済民を問い直すことでしょう。

◯コマーシャル

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ボクのブログです。
http://ameblo.jp/tadashi-hiramatz/

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【平松禎史】霧につつまれたハリネズミのつぶやき:第四十四話への4件のコメント

  1. たかゆき より

    皇統断絶

    もしも小生がGHQだったなら、、、

    天皇をはじめとする 皇室全員に姓を与えて皇籍剥奪

    三種の神器は 本体も分身もすべてメトロポリタン美術館に展示して その正体を白日のもとに晒す。。。

    小生が皇室を敬う理由はただ一つ

    先祖の御霊を日々祭祀なさってくださるため

    祭祀を疎かにして 政治に干渉なさったり 憲法違反を平気でなさるお積もりならば、、

    皇室に対する尊敬の念は 以て 失墜 す

    今般の騒動の発端は
    コンジョウにあらずや??

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  2. あまき より

    言うまでもないことですが、今上陛下が敢えて容易でないお立場を擲ってまで果たそうとされることと言ったら、それはもうひとつしかないわけで、退位の意向を示されたと聞いて終戦直後の先帝陛下のご決断を思い出した人なら、退位そのものが目的だとはまず考えない。

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      1. あまき より

        気になって読み返したら、やっぱり。
        先帝に「陛下」は日本語としておかしいですね。
        「毎日小学生新聞」校閲コーナーのネタにされそう(いまもまだあるかな)。
        自分て突っ込んどきます。

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  3. 赤城 より

    安倍総理というものは最も日本を大量に安く巧妙にアメリカその他の隣国に売り渡すことで、
    最も大きな権力を手に入れることを実現した歴史的売国亡国政治家ですね。

    彼は隣国の工作員の人たちの言う事をよりうまく聞くことで
    アメリカなどの宗主国様のお隅付きをもらって国家を好き勝手に
    破壊する権力を得ることが出来ることを知ってしまった。
    そして今や日本で最もアメリカ様たちの犬で権力を持っていた
    財務省と真っ向から権力闘争をしてどちらがより宗主国様の
    お気に入りのお墨付きをもらえるか争っているようなものでしょう。

    安倍総理が天皇陛下を内々では子供のようにあざけっていたという話もあります。
    つまりは隣国の宗主国様たちにとっては都合の良い最高の日本支配者であり、
    自らそうなろうとしている虚無そのものの小皇帝権力者であり、
    日本最高速売国亡国装置になるのかもしれません。

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