コラム

2017年1月11日

【佐藤健志】最近の紅白がつまらない理由

From 佐藤健志

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【オススメ】

月刊三橋最新号
「徹底検証!日本経済2016 日本再生のために忘れてはいけないこと」
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_mag.php

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2017年、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたしますm(_ _)m

本年の活動について、ちょっと予告しますと・・・
まず2月か3月に、16冊目の本がアスペクトから出ます。
『愛国のパラドックス』の版元ですね。

未読の方はこちらを。
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

この本のテーマは
〈今のわが国では、保守も左翼も「構造改革とグローバル化による日本否定」で足並みをそろえている〉
というもの。

巻末には、特別付録として「政治経済用語辞典」が収録されます。
アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』にならい、
現在の日本でよく用いられる政治・経済関係のさまざまな言葉について、
本当の意味を暴露・・・
いや、定義したもの。

「愛国心」から「若者を戦場に送らない」まで、項目は数百に及びます。
ご期待下さい!
br />つづいて4月ごろには文春新書より、17冊目の本が出ます。
こちらは「炎上」をモチーフに、わが国の現状、さらには戦後史を振り返るというものですが・・・

\(^O^)/じつは藤井聡さんとの共著!\(^O^)/

私と藤井さんの論考が、交互に3章ずつ展開されたあと、両者の対談でしめくくる構成です。
論考部分の原稿は、昨年末にすべて完成。
目下、対談に向けて調整を行っています。

これも面白くなりますよ!!

さらに1冊か2冊出したいので、どんどん仕事に励みたいと思っています。
まあ、足のリハビリもしなければならないのですが。
br />それはさておき。
br />年末年始の国民的番組といえば、みなさんご存じ、NHK紅白歌合戦。
1951年にラジオ番組としてスタートし、
1953年暮れの第4回からテレビ放送されるようになって現在にいたります。
2016年12月31日に放送されたのは第67回。
br />え?
1951年が第1回なのに、1953年が第4回というのは計算が合わない?
じつは一度、同じ年に二回やったことがあるのです。
br />紅白歌合戦、最初は新春番組だったのですよ。
第1回と第2回が1月3日、第3回が1月2日の放送。
ところが1953年から大晦日へと移動することに。
結果的に1953年は、1月2日と12月31日に紅白が放送されました。
br />視聴率については、1961年までは記録が残っていないそうですが
以後は1980年代半ばまで、70〜80%を保ちつづける。

厳密に言うと1969年は69.7%で、1982年は69.9%だったものの、
これは誤差範囲のうちでしょう。
br />私の少年時代を振り返っても、大晦日の夜は紅白を見るのが自然の摂理という感じでした。
br />むろん当時から裏番組は存在しましたし、
見たくなければ見なくてもいいわけですが
「テレビのある日本人なら紅白を見るのが正常であり、
テレビがありながら紅白を見ないのは異常」
という空気があったのです。
br />しかしそれも今は昔。
最近は紅白も、往年の勢いをすっかり失ってしまいました。
2006年〜2015年の十年間を見ると、
視聴率は前半で30%台、後半で40%を超えるか超えないか。
2016年も前半が35.1%、後半が40.2%でした。

無理からぬ話と評さねばなりません。
なにせ、見ていてまるで面白くないのです。
昨年の大晦日など、つまらなそうな顔で寝そべっている猫の画像に
「おまえが紅白に飽きてるのはわかる」
というキャプションを添えたツイートが登場。

猫の表情が絶妙で、大笑いしました。
https://twitter.com/momotaNakahara/status/815168956428271617

・・・けれども、
なぜ最近の紅白はかくもつまらないのか。
br />私の見るところ、それはNHKが紅白歌合戦を
たんなる大型歌謡バラエティのごとく扱うようになっているからです。
br />かつての紅白には、その年の流行歌を振り返ることによって
「ああ、この国の人間はみんな、
これらの歌を聴いて一年を過ごしたんだなあ」
と実感させる力がありました。
br />つまりは歌を通じて、全国の視聴者が心情的に共鳴した。
ちょっと大げさに言えば、ある種の国民統合の式典だったのです。

関連してご紹介したいのが
劇団四季を長らく率いた演出家・浅利慶太さんによる、
演劇の魅力をめぐる定義。

浅利さんはこれを
「(劇場に集まった人々が)劇行為に共感し参加することによって、共にその状況に生きる他の人々との間に連帯性、精神的共感を見出す歓び」
と規定しました。
(『浅利慶太の四季』第一巻収録「現代演劇の不毛」。慶應義塾大学出版会、1999年)

ひらたく言えば、みんなで同じ劇に感情移入することによって
「立場が違っても、誰もが同じような喜びや悩みを抱えて生きているんだ!」
という思いを噛みしめ、
見知らぬ人との間にも心情的なつながりを見出すのが
演劇の魅力なのです。

その意味では往年の紅白も、一年をしめくくるにふさわしい国民規模の「(歌)劇」でした。
br />だからこそ
「紅白は見るのが正常で、見ないのは異常」
という空気も成立したのですが
今の紅白には、この要素が決定的に欠けている。
br />論より証拠、
元旦に配信された産経新聞の記事には、こんな一文がありました。

今回の紅白には「万人向け」というより、「分からない人は置いてけぼり」のような演出が多すぎたのではないか。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170101-00000509-san-ent
br />これはもう、そのものズバリですね。
たんなる大型歌謡バラエティなら、
分からない人は置いてけぼりというのも、事と次第では「あり」でしょう。
しかし紅白は本来、
歌を媒介に国民的な共感をつくりあげる番組だったはずであり、
ゆえに国民的番組と呼ばれたのです。

まあ、SMAPが出演しなかったのが響いているのかも知れませんよ。
それに近年は
誰もが知っているヒット曲が少なくなったのも事実。
だとしても、
分かる人だけ分かればいいという発想で演出してよいはずがない。
そんな紅白歌合戦など、
中身を抜き取られた残骸とも呼ぶべき代物にすぎません。
つまらないのも当たり前。

演出家の鴻上尚史さんも、こうツイートしました。

演劇の演出家から見ると、
今(注:2016年)の紅白の
「シン・ゴジラ」や「タモリ・マツコ」の強引な挿入は
受け手の人間の生理を完全に無視しているとしか思えない。
アイデアがいかに面白くても、
それを受けるのは人間であり、
人間の感情はアイデアより現実として存在している。
それを無視はできない。
https://twitter.com/KOKAMIShoji/status/815177524216897536

つまりは共感や連帯をつくりあげるという
本来の目標を捨て去ったあげく、
面白そうな思いつきを並べているだけ。
そりゃ、視聴率も取れなくなりますわな。

けれども、この視点に基づいて
紅白の視聴率の変遷を眺めていると
面白いことが見えてくる。
大きな区切りとなった年が二つあるのです。
br />最初は1985年。
この年から、紅白の視聴率が70%を超えることはなくなります。
次は2000年。
この年から、紅白の視聴率は50%を超えなくなりました。
br />しかるに前者は、改革や国際化が本格的に推進されだしたころと重なる。
後者も構造改革やグローバル化が本格的に推進されだしたころと重なります。
そしてこれらは、ともに国民統合を弱める性格を持つ。
はたしてこれは偶然か?

面白くない紅白からも、見えてくるものはあるのです。
ではでは♪

<佐藤健志からのお知らせ>
1)国民的な共感や連帯を回復しようとすることなく、戦後脱却を図ろうとすると、どんなことになるかという点をめぐる論考です。

『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』(徳間書店)
http://www.amazon.co.jp//dp/4198640637/(紙版)
http://qq4q.biz/uaui(電子版)

2)過去70年あまり、われわれの連帯感がどのような経緯で弱まっていったのかはこちらを。

『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

3)「倫理的価値観の何たるかを知るうえでは、劇場のほうが教会よりもふさわしい。芝居は興奮や感動を売り物とするからだ」(115ページ)
エドマンド・バークも芝居好きで、18世紀イギリスを代表する俳優の一人、デイヴィッド・ギャリックと交友関係がありました。

『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
http://amzn.to/1jLBOcj (紙版)
http://amzn.to/19bYio8 (電子版)

4)「われわれ一人ひとりが、隣人にたいし、心からなる友愛の手をさしのべる時が来た」(237ページ)
アメリカ独立も、共感と連帯のうえに達成されたのです。

『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

5)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

—発行者より—

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