日本経済

2018年3月15日

【小浜逸郎】国家的事業か法的正義か

「これが談合といわれるなら、
もうリニアには手を出しづらくなる。
大成と鹿島が徹底抗戦したくなる気持ちは分かる」。

リニア工事を受注した準大手のゼネコン関係者は、
戸惑いを隠せない様子で語る。

別のゼネコン関係者は

「JR東海は積算や設計をゼネコンに手伝わせていた。
工法の研究対象が重ならないよう
情報交換をしてもいけないのか」と嘆いた。(中略)

一方、検察幹部の一人は立件の意義をこう強調した。

「9兆円の国家事業でなれ合いを
していたことが信じられない。
こんなことをしていたら社会が腐り、
日本企業の競争力が損なわれてしまう」
(以上、産経ニュース2018.3.2)

 

両者は完全に対立しています。

談合(話し合い)はなぜいけないのでしょうか。

しかも記事によれば、この場合は
受注業者決定のための談合ではなく、
工法の研究対象が重ならないための
情報交換を月に一度行っていた
というにすぎません。

3月3日付のヤフーニュースによれば、
容疑を否認している大成建設は、
ガサ入れの前に技術関連資料を
移動させており、これが検察の目に
証拠隠滅と映ったようです。

再捜査を受けた時に、大成側は、
秘匿義務のある技術資料だった
と弁明しています。

一方、検察は役職員を社長室に
呼び出したうえ「ふざけるな!」
と怒鳴りつけたそうです。

またある検察幹部は、

「われわれが技術資料を漏らすわけがなく、
証拠を移す理由にはならない」

と決めつけたそうです。

しかし先の検察の言い分のうち、
「社会が腐り」というのは
抽象的で意味不明です。

すると、検察の言い分の根拠は、
「企業の競争力が損なわれる」
という一点にあるようです。

完全な競争至上主義ですね。

最近の傾向として、公取委や検察は、
以前まで定着していた指名競争入札さえも
違法視するようになってきました。

一般競争入札という単なる形式的な
純粋性を守ろうとして、
それに抵触するものは、
何でも切り捨てようとする硬直した思想。

ここには、取り締まる官庁の融通性のなさと、
ヨーイドンの競争こそ最高善だとする
アメリカ式新自由主義のイデオロギーとが
重なり合っています。

指名競争入札には、ある特定の事業に対して
経験豊富で投資力も十分な企業に
参加者を絞ることで、公共事業を
迅速かつ円滑に進められる
という大きなメリットがあるのです。

もちろんデメリットが皆無とは言いませんが。

また上記産経記事では、検察幹部が

「9兆円の国家事業でなれ合いを
していたことが信じられない」

などと子どもみたいなことを言っていますが、
リニア新幹線のような巨大な事業であればあるほど、
受注企業間の緊密な連絡や
話し合いの機会が必要になってくるはず。

日本列島全体の経済成長に結びつくこの事業に、
せっかく大手ゼネコンが協力し合って
取り組んでいるさなか、幼稚な正義感をタテに
口ばしをはさんで協力関係を分断する。

このほうがよっぽど信じられません。

検察は、現場の具体的な事情を
どこまで知った上でこうした
挙に出ているのでしょうか。

2017年4月、公取委は、東日本大震災後の
農地復旧工事を舞台にした談合疑惑で、
工事を発注した農水省東北農政局と、
ゼネコン約二十社を立ち入り検査しました。

これも信じられない摘発です。

災害で荒廃してしまった農地は、
被害に遭った農家の方々のために
一刻も早く復旧させなくてはなりません。

工事を少しでも遅らせることは絶対禁物。

早く的確に着工にこぎつけるために、
談合によって現地事情に詳しい
適切な業者を絞り込む必要があります。

そういう「話し合い」解決が
ただ法律の文言に多少抵触するからといって、
どうして「法の正義」を振りかざす必要があるのか。

この場合も、現地の事情を何も考えない
取り締まり官庁のリゴリスティックな

競争至上主義が見事に露呈しています。

2017年12月、スパコン開発の第一人者、
齋藤元章さんが逮捕されました。

逮捕容疑は、技術開発助成金を得るのに、
報告書を他の研究目的に書き換えて
四億円程度の水増し請求をしたというもの。

この件はこのメルマガでも一度取り上げました。
https://38news.jp/economy/11433

政府はとかく技術開発投資をケチります。

ですから、助成金を得るために、
報告書を他の研究目的に
書き換える程度のことは
日常茶飯事なのです。

取り組んでいる仕事の重要性に鑑みれば、
注意勧告して書き直させれば済む話でしょう。

第一、まだ請求の段階で、
どうして検察が水増しであることを
知ることができたのか。

齋藤さんはアクの強い方のようですから、
内部に「敵」がいてチクられたのかもしれません。

このように一連の流れを見てきますと、
最近の取り締まり官庁は、
国家や国民生活にとって重大な
意味を持つ事業に次々に水を差して、
純粋正義派お坊ちゃま君を
演じているという按配です。

物事の優先順位を
完全にはき違えているのです。

ここには、日本国民のために仕事をするという、
公共精神のかけらも見当たりません。

また、摘発するにも、現場の事情を斟酌する
さじ加減というものがあることを
まるでわきまえていません。

秀才の大きな欠陥と言うべきです。

この純粋お坊ちゃまの振る舞いが、
ただの正義派を演じているだけならば、
まだしも許せる部分がないではない。

しかしその背後には、こうした正義派ぶりを利用して、
日本の高度な技術を盗んで国力を
貶めようと企んでいる某勢力(複数)の影がちらつきます。

よく指摘されるように、日本はスパイ天国です。

こう考えると、先の検察幹部の
「われわれが技術資料を漏らすわけがない」
という言葉も信用がおけなくなってくるのです。

このぶんでは、世界で唯一の建設候補地として
北上山地に指定されている国際リニアコライダー
(高速線型加速器を内蔵した研究施設)も、
さまざまな邪魔が入っておぼつかない状態となり、
中国あたりに取られてしまうかもしれません。

日本の内部崩壊の危機を
何とかしなければなりません。

課題は山積しています。

【小浜逸郎からのお知らせ】
●『福沢諭吉 しなやかな日本精神』(仮)を脱稿しました。
出版社の都合により、刊行は5月になります。
中身については自信を持っていますので(笑)、どうぞご期待ください。
●『表現者』75号「誤解された思想家たち第28回──吉田松陰」
●『表現者』76号「同第29回──福沢諭吉」
●月刊誌『正論』2月号「日本メーカー不祥事は企業だけが悪いか」
●月刊誌『Voice』3月号「西部邁氏追悼」
●『表現者クライテリオン』第2号「『非行』としての保守──西部邁氏追悼」
(4月16日発売予定)
●ブログ「小浜逸郎・ことばの闘い」
http://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo

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【小浜逸郎】国家的事業か法的正義かへの8件のコメント

  1. momo より

    無知で申し訳ないのですが、リニア事業は融資じゃないんでしょうか。
    JR東海が政府に借金を返済できれば何の問題もないのでは?というか、そのような事情があるなら、なおさらヘタな会社には依頼できませんよね。
    それとも政府の融資を受ければ、自由に注文する権利がなくなるのでしょうか。

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      1. あなたのコメントは承認待ちです。

        2018年3月16日 1:35 AM

        コメント、ありがとうございます。

        私もそのへんは無知で、詳しい予算内訳はわかりませんが、JRは民間企業ですから、おそらく多くの部分を財政投融資に負っているはずですね。
        JR東海が、総費用5兆円のうち、3兆円の融資申請をしているそうです。

        三橋さんの情報によれば、たしか国家予算のうち、JRには年間700億円しか国からは拠出されてなかったと思います(これはリニアに対してでなく、新幹線事業全体に対してではなかったかしら)。
        もしそうだとすると、おっしゃる通り、自由に発注する権利があるはずですね。ますます検察はおかしなことをやっていることになります。
        でも何か法的な根拠があって、それを悪用しているのでしょうね。

        返信

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  2. かずぅ より

    財務省の文書改竄の一件の話題で持ちきりですが、官僚がますます劣化しているようです。
    国のために働くのが官僚のはず。
    今はもはや省益のためや手柄を立てて出世することしか考えていないようです。

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  3. ホワホ より

    地検は何で教義に基づいた道徳劇展開してるんですかね…
    それは政治家の考える仕事であって
    あなた方には何の関係も無いですよ

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  4. ぬこ より

    確か、公正取引委員会はGHQが作ったんですよね。

    あいつらは本当にゴミですよね。
    なにが、Goverment Motorsだよって話です。

    どんな国だって自国産業防衛の為には露骨に国家主権丸出しにしてきます。
    それが、米中の様な軍事強国であればあるほど。

    日本の強国化をいつまでも反対してる自称反米の護憲派左翼って、親中なだけでなく、
    親米・親ユダ金・親ウォール・親シティ・親バチカン・親スイス・親クソチャイルド・親デルバンコ
    なんじゃないんでしょうかね?

    彼等、左翼って欧米メディア(オーナーは欧米金融エリート)と動きを合わせて、日本ディスカウントをしてきますからね。

    トランプさんやその支持者(アンチ米リベラル、アンチウォール街)と、日本の愛国者(既存の左右の枠を超えた)との共闘を仕掛ける必要があるんでしょうね。

    でも、そうした事に、今の日本のエリートは役に立ちませんよね。
    良い環境で留学して欧米の良い面しか見てない。
    場末の酒場で白人エリートの人種差別にも触れた事がない。
    日本の女をトイレ、男はオカマ、呼ばわれされて喧嘩した事も無いようなのが、財務省や自民党や財界等のエリートさまなんでしょう。
    こいつらの地頭の悪さというかお花畑ぶりには吐き気がします。

    日本に居ながら、移民問題の実害を受けていない連中なんでしょうね。
    僕の様に留学できる知能や金が無くても、外国人の本音で集う飲み屋に行けば、野口英世体験できますよ(笑)

    本当にアングロサクソンは陰険ですからね。

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  5. 神奈川県skatou より

    論語に、
    「知らざるを知らずと為す、是知るなり」
    という一節があるそうです。

    知識情報が飽和している現代、すべて確認し使いこなすのは難しく、どこかで範囲を区切って取り組むことになりそうです。
    区切らなければ確認の限界で、未確認情報に対するおぼろげな期待から、正体の疑わしい情報に基づく誤った可能性、確証の無いものへの期待、信心になってしまいます。
    逆に区切れば、その境界より外は存在しないことになり、複雑かつ広範長期な問題が対象の場合、非現実になります。

    官僚と母体となるらしい大学はペーパーテストのスペシャリストの集合と聞いてますので、試験範囲の限定とその範囲内での複雑性低減のため抽象化による情報量圧縮が必要となるわけで、その抽象概念は効率のための道具であり、現実の表象であることを約束しない、ということです。

    上記一節は、その形をよく見る(内省する)ことこそ重要だと説いているのかもしれません。でも、現代では、前者では信心、後者では万能感(あるいは社会的支持)から、その境地にいかないかもしれません。

    入試を変えよう、知識確認重視から、コミュニケーション力重視だ、という話を聞きます。底辺SEとしては、そのものさしを考えて、貧乏な明日の飯の種になればと思います。。

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  6. 赤城 より

    たしか談合というのは公共事業の違法行為だったので
    この場合は当てはまらないが、しかし独占禁止法のカルテットに引っかかるというような話をブログで書かれていました。
    必要な場合に事前の調整もできないような欠陥法律をずっと変えないことが政治の怠慢や問題だということでした。

    検察の方は談合=絶対悪というような馬鹿の一つ覚えレッテル張りの幼稚愚劣極まりない、現実を無視した印象論で欠陥法律を盾に公共心の欠片も無い正義を押し通そうとしていますね。
    まあ実際にはその裏で財務省だかがいてさらにその後ろに日本国家を弱体売国しようとする工作の力が働いているんでしょう。
    この事件の嬉々として談合成敗というようなニュース報道を見るたびに腹が立つしゼネコンには同情してしまう。

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