日本経済

2017年9月12日

【藤井聡】「高圧経済」が日本を救う

From 藤井聡@内閣官房参与(京都大学大学院教授)

(1)高圧経済が「生産性」「供給能力」の上昇を導く
昨年10月に、イエレンFRB議長が講演の中で言及して以来、我が国においても「高圧経済」論(High Pressure Economy論)がにわかに脚光を浴びています。

「高圧経済」論とは、供給を上回る需要を維持し続けるという「高圧経済」を持続させることで、研究開発やイノベーション、各種投資が誘発されて、「供給能力」「生産性」が向上していくという理論。

https://goo.gl/6zhAZ9 あるいは国内の記事では例えば、 https://goo.gl/SCT1aU https://goo.gl/jF2E55 https://goo.gl/XEiLde 等をご参照下さい)

これはつまり別の言い方をすれば、「インフレギャップ」(過剰な需要量)が存在すれば、供給の質も量も向上していく、という理論です。

そして、この理論に基づいて、需要を供給を上回る水準で維持し続けようとするのが「高圧経済」政策です。

例えば今、建設業をはじめとして様々な業界で「人手不足」が叫ばれていますが、これこそ「高圧経済」状況であって、この状況を意図的に持続させることで様々な技術革新や投資が進められ、労働者一人当たりの生産性が向上していくわけです。

(2)高圧経済が「賃金」と「物価」の上昇と、さらなる「生産性」向上を導く
ただし高圧経済によって向上するのは何も生産性だけではなく、当然ながら「賃金」も上昇します。
https://goo.gl/xqsVxT

賃金の上昇はもちろん、家計の消費・投資の増加を導き、需要をさらに増加させるため、さらなる「高圧経済」状況を生み出し、これを通して、さらに生産性が向上します。

これと同時に、賃上げは下記のようなルートを通して「直接的」な生産性の上昇を導きます。

まず、賃金が上がれば、各企業はそれを価格に転嫁する事を考え始めます。この時、高圧経済の下でなければ、売り上げが減ってしまうことが危惧されるため、価格転嫁が生じないケースも生じます。しかし高圧経済下では売り上げ低迷の心配はなく、その結果、物価が上昇します(場合によっては、売り上げ低迷が無い限り、賃上げ以上に物価が上昇することももちろん想定されます)。

一方で定義上、「生産性」とは「一定の労働量が生産する付加価値」(その付加価値は財やサービスの「値段」で評価される)ですから、物価高を通して「総売り上げ」が増加すれば、結果的にさらに「生産性」が上がることになります。

つまり、高圧経済は賃金、物価を上げ、それを通してさらなる生産性向上をもたらすという、「好循環」を生み出すのです。

(3)長期デフレ後には、「高圧経済」を「継続」させることが必要不可欠
ただし、今の日本の様に長いデフレが続いた後では、高圧経済を続けても、供給力や生産性、消費、投資、賃金、物価がすぐに上昇することにはなりません。

消費マインド、投資マインドは冷え込んでおり、容易く将来期待が高まらないばかりか、失業者も多く、それらが高圧経済下でも消費、投資、賃金の上昇を妨げるのです。

今、「人手不足」だと長らく言われ続けているにも関わらず、物価も賃金も消費もなかなか伸び悩んでいるのは、まさにこの状況に対応しています。

もちろん、長いデフレの間にマーケットが「ブラック化」し、その結果、各企業が何もかもを二束三文で売り飛ばす「過剰サービス」に走り、その結果として需要が不十分であるにも関わらず人手不足が生じている、という状況が存在するのも事実です。
(詳しくは、こちらをご一読下さい https://38news.jp/economy/08023

しかし、その「不十分な需要」を大きく拡大し、「高圧経済」状況を数年にわたって継続させれば、各企業の「過剰サービス」も徐々にその鳴りをひそめ、賃金も物価も実質的に上昇していくことは間違いありません(そもそも、過剰サービスもデフレマインドの一種です)。

それが証拠に、アベノミクスが13兆円の補正予算によって一時期だけ「高圧経済」状況が実現した頃、薄利多売の過剰サービスを旨とする種々のデフレ企業が業績が不振に陥ったのは、記憶に新しいところです。

しかし、その「高圧経済」の「圧力」も、2014年の消費税増税によって一気に低下してしまいます。増税によって一気に消費も投資も冷え込んだためです。その結果、誠に残念ながら再び、デフレ企業は息を吹き返し、物価も賃金も消費も投資も低迷してしまったのは、周知の事実です。
https://38news.jp/economy/10172

つまり、長期デフレ後の状況では、1年程度の短期的な「高圧経済」では、デフレ化したマクロ経済を好転できないことが、「2013年のアベノミクス直後の2014年の消費増税」という日本経済全体を活用した「壮大な社会実験」から証明されたわけです。

だからこそ、長期のデフレ後の経済状況では、そのデフレ脱却のために高圧経済を「数カ年」継続させることが必要不可欠なのです。それができれば、消費、投資の双方におけるデフレマインドは徐々に払拭され、失業者数も縮小し、ブラックマーケットも徐々に浄化され、それらを通して消費、投資、賃金、物価も上昇し、最終的に本格的な「生産性」の向上がもたらされ、デフレ経済は完全に終了するのです。

(4)「高圧経済」を2020年頃まで継続させる経済対策を
ところで多くの政治家、官僚を含めた大半の国民が十分に理解していないようですが、我が国の過去20年の経済成長率は、世界各国の諸外国の中でダントツの最下位なのです(下記グラフをじっくりとご覧になって下さい)。
https://goo.gl/cho1bx

世界の平均の20年成長率は120%以上、日本に次ぐワースト2位の低成長国の台湾ですら50%以上の成長を遂げている中、我が国は「-10%以下」という「マイナス」の水準となっています。つまり、世界中が「成長」している中、我が国一国だけが激しく「衰退」し続けているのです。

この状況を打破することこそ、現時点における我が国の最も大切な政治課題なのです。そして以上に述べた「高圧経済」論が明らかにしているのは、「需要」拡大を数カ年継続することこそが、長期デフレにあえぐ日本の成長を導く唯一の道である、という真実です。

そうである以上、今、我が国が成さねばならないのは、少なくとも2020年頃までは「高圧経済」状況を持続的に創出することなのです。

具体的には、2020年の東京オリンピックという機会も活用しながらこれからの数カ年、

10兆円~15兆円規模の本年度補正予算の執行し、
②次々年度以降の財政拡大を可能とするためのプライマリーバランス黒字化目標を撤回し、
③年率4%以下の当初予算増という新たな財政規律の設定と、当初予算の拡充を行い、
消費税を減税(あるいは、少なくとも凍結)する、

ということを行えば「高圧経済」は数カ年持続することになり、その帰結として、(好調な実質成長率や失業率とは裏腹に)一向に改善しない消費、投資、賃金、そして「生産性」がはじめて、現実に「上昇」していくことになるのです。

もちろん、「高圧経済」効果を最大化するための各種の対策(賃上げ、投資、消費、生産性の拡大を導くワイズスペンディングや、過剰サービスに対する状況に応じた各種の規制等)も併せて推進することが得策であることは論を待ちません。

一方でもしそれができず、単なる金融緩和と構造改革しか行わないとなったとするなら、高圧経済の持続は「100%不可能」となり、その結果、「世界最低の成長率」という不名誉な経済状況が持続し、我が国の貧困化は(政府から各世帯までの)あらゆる側面で進行することとなります。

そんな悪夢を回避するためにも、「高圧経済」政策を徹底的に推進していくことが今、何よりも求められているのです。

「高圧経済」政策こそが、日本を救うのです。

PS.「高圧経済」論の図解解説をご覧になりたい方は、拙著『国民所得を80万円増やす経済政策』の第一章、ならびに第五章をご参照ください。
https://goo.gl/xkQukg

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【藤井聡】「高圧経済」が日本を救うへの3件のコメント

  1. 神奈川県skatou より

    >賃金の上昇はもちろん、家計の消費・投資の増加を導き、
    >需要をさらに増加させるため、さらなる「高圧経済」状況を
    >生み出し、これを通して、さらに生産性が向上します。

    親は子供に服を着せ、ご飯を食べさせ、家を用意します。
    賃金に余裕があれば、なるだけ質の良いものを与えたい、もっと余裕があれば、いろいろな体験をさせるために出かけ、学ばせ、遊ばせたい。その時間も買いたい。
    その行為は家庭における人材投資であり、特に親の場合、質へのこだわりは止むことなく、需要は青天井に広がる、最高に豊かな内需の源泉です。

    でも現実は、低賃金で子作りどころか結婚さえ躊躇する時代、もはや質へのこだわりを忘れきった時代、これは日本経済の大黒柱、内需を打ち倒そうとしているに他ならず、年金問題なんてどうでもいい、最重要問題だと思います。
    次世代あっての今ですので。

    弱者がどうした、老人がどうした、個人がどうした、そんなことはどうでもいいのです。次世代の子供が、豊かな投資を受ける子供が、たくさん育つこと、親、祖先を引き継ぎ、命の連環を繋ぐこと、これ以上に政府の心がけることがあるのでしょうか。
    政府が刹那ならば別ですが。

    それを害する国が、政体があるのならば、戦争で叩き潰せばいいのです。今生きている人間よりも、次世代の我々の子供を増やし育てる未来を確保することが優先です。
    他国、他文化に染められ、借り物の理屈と権利を主張する顔の無い生物しか残せないのならば、日本国の必要もないでしょう。

    政府に軸足がなく、迷走では、施策はあっても、明日がありません。

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  2. 赤城 より

    世界の平均の20年成長率は120%以上、日本に次ぐワースト2位の低成長国の台湾ですら50%以上の成長を遂げている中、我が国は「-10%以下」という「マイナス」の水準となっています。つまり、世界中が「成長」している中、我が国一国だけが激しく「衰退」し続けているのです。

    この衝撃的な事実を国民が知るだけで政府の20年に渡る取り返しのつかない巨大な失政が分かることでしょうに。知らない知らされないということがどれだけ怖ろしいことか。そして国家の運営者たちエリートが国民のために働かない外道になるとこのような悪夢が現実になってしまうということが日本の現実において証明されてしまった。

    一方でもしそれができず、単なる金融緩和と構造改革しか行わないとなったとするなら、高圧経済の持続は「100%不可能」となり、その結果、「世界最低の成長率」という不名誉な経済状況が持続し、我が国の貧困化は(政府から各世帯までの)あらゆる側面で進行することとなります。

    そんな悪夢を回避するためにも、「高圧経済」政策を徹底的に推進していくことが今、何よりも求められているのです。

    単なる金融緩和と構造改革しか行わないというのは消費増税後の現政権がすでにやってしまっていることですね。このままでは悪夢は20年を越えて続いていきそうです。積極財政の兆しでさえ全く見えない日本の現状では。

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  3. 反孫・フォード より

    >物価高を通して「総売り上げ」が増加すれば、結果的にさらに「生産性」が上がることになります。

     安倍総理(&自民党主流派経済理論多数派議員)は生産性の向上を言葉としては使っていても、
    物価(所得)下落方向の政策にしかかじをきっていない(自分達の思考回廊な頭になっている)事を理解していないとしか思わざるをえません。ましてや物価下落が生産性を上げると信じきっているパラドックスに堕ちている気がしてなりません。
    英語に達者になる前にもう一度まっとうな経済学園で教育を受けてください。
    もしかしてそうではないとすると限りなくスパイ行為を前提として議員になったエコノミンテルンとしか考えられません。
    大阪地検は森友加計学園よりも経済理論主流派議員やプロフェッサー竹中や忍風琳南部を検挙、逮捕するべきです。

    なんて言えねぇ言えねぇもうイエレン!

     70年代でも格差は存在していたでしょうけど、やはり今のマクロ的に包まれた雰囲気は絶対中央行政の人工的な失政です。
    幾ら人がいい安倍総理だとか言っていても、やはりやっている事は強欲ビジネスマンと一緒な野田!

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