先日、ポスト・ケインズ派の経済学者で、
同志社大学商学部教授の服部茂幸氏の著書
『偽りの経済政策─格差と停滞のアベノミクス』
を読む機会がありました。
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同書は、日銀の異次元金融緩和後も停滞が続く、
日本経済の現実を様々な角度から明らかにしています。
その上で、責任逃れに終始して矛盾した言動を繰り返す、
岩田日銀副総裁を筆頭としたいわゆるリフレ派、
そして日銀執行部を批判しています。
本メルマガ読者の皆さん、
あるいは拙著『積極財政宣言─なぜ、アベノミクスでは
豊かになれないのか』をお読みいただいた方からすれば、
こうした議論は特に新鮮なものではないでしょう。
さはさりながら、読んでみて「なるほど」と思ったのが
同書第2章「雇用は増加していない」でした。
同章では「雇用増加は見せかけ」という見出しを掲げ、
以下のように述べています。
「アベノミクスの成果としてよく指摘されるのが、雇用の改善である。民主党政権下で減少していた就業者数が、アベノミクスによって増加に転じたと、安倍首相が主張していることは、よく知られている。(中略)
しかし、「労働力調査」における就業者の定義は、調査の週に一時間以上働いた人である。日本にはサービス残業も含めて週六〇時間以上働くような人も少なくない。こうした人も週に数時間しか働かないアルバイトも、同じ就業者として扱われている。
経済学の上で正しい雇用あるいは就業の指標は、延べ就業時間である。(中略)
延べ就業時間は、いざなみ景気が始まる前には、大きく落ち込んでいた。しかし、いざなみ景気期は全体としてほぼ横ばいか微減となった。ところが、世界同時不況が生じると急減する。特に〇九年は急速な落ち込みを見せた。その後の経済回復期には、ほぼ横ばいとなっていた。アベノミクスが始まると、それが減少に転じた。ただし、一五年以降は微増に転じているが、未だに一二年の水準には戻っていない。
理論的に正しい雇用の指標を使えば、アベノミクス期には雇用が全体として減少していることが分かる」
(『偽りの経済政策』72~73ページ)
「延べ就業時間」とは、全ての就業者の就業時間を
合計したもので、例えば5万人いる就業者が平均して
年間1500時間働いているのであれば、
5万×1500=7500万(人・時間/年)となります。
いわば、経済全体での「働く機会」を表しています。
この指標が実際上も「正しい雇用の指標」と言えるのか。
実質GDPを延べ就業時間で割った「労働生産性」と共に、
その1980年以降の推移を示したのが下記のグラフです。
なお、『偽りの経済政策』では恐らく公開データの制約上、
2000年以降のグラフのみが示されていますが、
下記グラフでは、それ以前については全就業者数に
近似的に非農業部門の平均就業時間を掛け合せることで、
より長期的な推移を確認できるようにしています。
【日本の延べ就業時間と労働生産性の推移(2012年=100)】
働く機会の大きさの指標とも言える「延べ就業時間」(全就業者の就業時間合計)の低迷は、アベノミクスでは雇用環境が何ら改善しておらず、失業率低下も生産年齢人口減少が要因に過ぎないことを示しています。
— 島倉 原 (@sima9ra) August 22, 2017
↓参考記事「アベノミクスの虚構」https://t.co/kwHyE3GHKd pic.twitter.com/RBpkL006Wy
バブル経済が崩壊した1990年代以降、延べ就業時間は
減少トレンドとなり、リーマン・ショック翌年の
2009年には大きく減少しています。
そして、服部氏が指摘するように、アベノミクス以降は
それよりもさらに落ち込んでいるのです。
また、企業の賃上げ意欲につながる労働生産性の伸びは
アベノミクス以降明らかに鈍化しており、
この点でも雇用環境の改善は見られません。
私自身、25~54歳男性の正規雇用者数などをもとに
雇用環境が改善していないことを論じてきましたが、
近年の失業率低下はアベノミクスの成果ではなく、
生産年齢人口減少という経済政策外の要因によって
もたらされたことが、服部氏の議論によって
より明確になっています。
では、日本経済の停滞を打破する政策とは何か。
服部氏自身は明言していませんが、以下の記述はやはり、
財政支出を拡大する積極財政こそが正しい政策であると
示唆しているのではないでしょうか。
「一九四〇年からの戦時体制の下でアメリカ経済は急回復する。ナチス・ドイツの経済回復も軍事拡大によるものだった。世界同時不況後の世界でも、ギリシアなど財政を緊縮させた国ほど、経済が収縮した。このように財政拡張と経済回復の関係を肯定する例は多い」
(『偽りの経済政策』140ページ)
〈島倉原からのお知らせ〉
中野剛志さんの『富国と強兵』でも参考文献として
取り上げられました。
1930年代の大恐慌からのアメリカ経済の回復要因が
金融政策ではなく積極財政であったことを、
様々な角度から実証分析しています。
↓『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』
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メルマガ『島倉原の経済分析室』では、
経済や金融に関するタイムリーな話題を独自の観点から
分析しています。
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【島倉原】アベノミクスの虚構への3件のコメント
2017年8月24日 8:46 AM
「労働力調査」における就業者の定義は、調査の週に一時間以上働いた人である。この事実を知りませんでした。(統計局のホームページで確認しました)
そして、日本経済新聞の「求人倍率バブル期超え」とか「人手不足に拍車43年ぶり高水準」などの記事を読みました。
世の中に飛んでいるニュースはこういうものなのだ。という事がよくわかりました。
安倍ちゃんの経済政策を否定したい人は、雇用改善などしていない。という。
安倍ちゃんの経済政策を肯定したい人は、有効求人倍率バブル期超え。という。
フェイクニュースという言葉が流行ってますが、新聞テレビのニュースは、全てフェイクかフィクションという認識でいいんだと確信を持ちました。
ニュースよりも、自分の肌で感じるものの方が正しい。そして、それが本当に正しいのかどうかは確かめようがない。
答えのない世界に住んでいるという事がよくわかりました。
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2017年8月24日 10:57 AM
いつも鋭い指摘に大変感心させられます。氏の1872年から現在までの政府債務の増加のグラフ(3700万倍?でしたっけ?)はホントに笑わせてもらいました。氏の著書もいつか読めるよう挑戦したいと思っています…典型的パンピーの私の読解力がついていけるかどうか不安なんですが…
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2017年8月24日 6:30 PM
狂印(きじるし)
資本主義社会では政府の負債が増えるのは ごくごく当たり前
なのに、、、
狂か蒙か痴か それとも
それら諸々を有しているのか
緊縛 もとい 緊縮とやらで
己の首を絞めたがるのは何故か、、
彼等の自殺願望は どこからくるのか、、、
その病理を解明したいと おもふ 今日この頃
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