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2017年8月23日

【佐藤健志】ゾンビ映画の社会批評

From 佐藤健志

先週の記事「ゴジラのグローバル化、その顛末とは」では
初代ゴジラ俳優の中島春雄さんが逝去されたことをお伝えしました。

しかるに先月の16日にも、ポップカルチャーに重要な足跡を残した方が、カナダのトロントで亡くなっています。
アメリカ出身の映画監督、ジョージ・A・ロメロさん。
享年77。

ホラー映画を中心に活躍された人ですが、代表作は何と言っても
長編デビュー作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』に始まる、一連のゾンビものでしょう。

列挙するならば
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド(1968年)
ゾンビ(1978年)
死霊のえじき(1985年)
ランド・オブ・ザ・デッド(2005年)
ダイアリー・オブ・ザ・デッド(2007年)
サバイバル・オブ・ザ・デッド(2009年)
となります。

『ゾンビ』と『死霊のえじき』も、英語原題はそれぞれ
『ドーン・オブ・ザ・デッド』と『デイ・オブ・ザ・デッド』ですから、
とにかく「ザ・デッド」(死者)にこだわった男。

亡くなる直前にも、『ロード・オブ・ザ・デッド』という映画のプランを発表したとか。
「ゾンビ映画の父」とか、「ゴッドファーザー・オブ・ザ・デッド」というあだ名を奉られたのも無理からぬことでしょう。

断っておきますと、
ゾンビ、つまり甦った死者が登場する映画自体は『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』以前からつくられていました。

ただしそれらの「旧世代ゾンビ」には、以下の特徴があります。
1)ヴードゥー教に通じた人間の魔術によって甦る。
2)自分を甦らせた人間の命令に従う。
3)たいがい数名程度しか登場しない(=人間に比べて数が少ない)。

これにたいし、ロメロ監督の描いたゾンビの特徴は以下の通り。
1)ヴードゥー教とは関係なく、勝手に甦る。
2)人肉を食べたがり、本能的に人間を追い回す。
3)死んだ者はみんなゾンビになるので、どんどん増える(=人間に比べて数が多い)。
4)ゾンビに襲われ、かみつかれた人間は、ほどなくして死ぬ。

お分かりですね。
われわれが現在、ゾンビにたいして持っているイメージは、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』から生まれたものなのです!
ロメロ監督、ホラー映画に革命を起こしたと言わねばなりません。

のみならず。
上記の特徴からは、
〈人間はゾンビにたいして、究極的には勝利できない〉
という結論が導かれます。

人間がゾンビになることはあっても、ゾンビが人間に戻ることはないんですから。

つまりロメロ型ゾンビ映画は、
〈既存の秩序や価値観を否定する勢力によって、社会が圧倒され、最後には崩壊する〉
ことをめぐる寓話という側面も持っている。

現にゾンビシリーズの最初の四本について、原題を日本語にきちんと訳せば
「生ける死者の夜」
「死者の夜明け」
「死者の日」
「死者の国」
となります。

始まりは夜。
それが夜明けを迎え、今までとはまったく違う日がやってくる。
そして、くだんの変化が国をおおいつくすというわけです。

しかるに〈既存の秩序や価値観を否定する勢力が、どんどん強くなって社会を圧倒する〉現象が起こりやすいことこそ、近代の大きな特徴。

全体主義、
社会主義、
構造改革、
グローバル化、
すべてそうではありませんか。

かのエドマンド・バークは
1789年10月、革命下のフランスで起こった「国王一家パリ連行事件」に関連して
〈化け物のごとき野卑な女たちが宮殿に押しかけ、地獄の沙汰もかくやという光景が展開された〉
旨の記述をしていますが、
フランス革命も、一種のゾンビものと位置づけることができるかも知れないのです。

詳細はこの本をどうぞ。
『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
http://amzn.to/1jLBOcj (紙版)
http://amzn.to/19bYio8 (電子版)

とまれロメロ監督の出現により、ゾンビ映画は保守主義的な視点に基づく社会批評の場ともなったのでした。
だからというわけではありませんが、監督は自分自身のことを「古風な趣味の映画ファン」だと語っています。

ただしロメロ型ゾンビ映画の視点は、保守主義的なものではあっても、希望に満ちたものではない。

1)既存の秩序や価値観を守り抜くことはできない。
2)ただし、既存の秩序や価値観を否定する勢力に同調したら取って食われる。

要するに、こういうことなんですからね。
こらえ性や絶望の足りない人々の悲鳴が聞こえてきそうではありませんか。
さあ、ご一緒にどうぞ!!

「じゃあ、どうするの?!!!」

・・・どうにもならないんですよ。
というか、そんなふうに聞いてくること自体がハズしている。
どうにもならない世界でどう生きるか、それこそがロメロ型ゾンビ映画のテーマなんですから。

ところが昨今のわが国では、保守派を名乗る人まで、ちょっと痛いところを突かれると
「じゃあ、どうするの?!!!」と叫ばずにいられなくなる始末。

だ・か・ら、
『右の売国、左の亡国』と言うのですよ!
https://www.amazon.co.jp/dp/475722463X(紙版)
https://www.amazon.co.jp/dp/B06WLQ9JPX(電子版)

事実、ロメロ作品では
「じゃあ、どうするの?!!」なんてヒステリーを起こした者から順番に、自滅的炎上をやらかして滅びます。

イタい話ですねえ。
そんな自滅に巻き込まれないためにも、日頃から予防策を講じておきましょう。
幸い、うってつけの本があります。

『対論「炎上」日本のメカニズム』
http://amzn.asia/7iF51Hv(紙版)
http://amzn.asia/cOR5QgA(電子版)

さて。
カナダの優れた映画評論家ロビン・ウッドは、
著書『ハリウッド──ベトナムからレーガンまで』(コロンビア大学出版会、1986年)で『ゾンビ』を取り上げ、
こんな趣旨のことを論じました。
いわく。

ロメロがめざしているのは、
既存の秩序や価値観にしがみつこうとすることでもなければ、
それらの崩壊と運命をともにすることでもない。
彼は滅びの彼方に突き抜けたがっているのだ。
『ゾンビ』において、この方向性の追求は始まったばかりである。
だが、画期的な方向性なのは間違いないだろう。

『ランド・オブ・ザ・デッド』の結末には、関連して意味深長なものがありました。
映画の主人公は、「死者の国」と化したアメリカに見切りをつけ、武装装甲車でカナダに旅立つものの、
ロメロ自身も2009年にカナダ国籍を取得したのです!

アメリカ国籍も残っていたので二重国籍となったようですが、2000年代以後はトロントを本拠にしていた模様。
ロメロ作品が、いかに現実の世界と密接に対応しているかを、ずばり示したエピソードと言えるでしょう。

最後に一つ。
もし日本でゾンビ・パニックが発生した場合、どこに逃げるのが最も良いか?

・・・じつは岩手県なのだそうです。
理由は以下の通り。

1)人口密度が低い。
2)森林や原野など、道路が整備されていない土地の面積が広いので、ゾンビが来るのに時間がかかる。
3)北海道と違い、飛行機や船が使えなくなっても行くことができる。
http://sign.jp/cb744f0f

これを何と呼ぶか、お分かりですね?
そうです。
イーハトーブ・オブ・ザ・デッドです!

ではでは♪

<佐藤健志からのお知らせ>
1)8月16日発売の『表現者』74号(MXエンターテインメント)に、評論「米兵が見えなかった女」が掲載されました。

2)戦後脱却も、今のままでは「ゾンビ的顛末」を迎えるでしょう。詳細はこちらを。

『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』(徳間書店)
http://www.amazon.co.jp//dp/4198640637/(紙版)
http://qq4q.biz/uaui(電子版)

3)右と左が、表向き対立しながら、「じゃあ、どうするの?!!!」と相手に甘えて寄りかかる、心温まる光景の構造を論じました。

『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

4)フランス革命同様、わが国の戦後史も、一種のゾンビものと位置づけることができるでしょう。

『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

5)保守主義とは本質において、ヒステリックな甘えを否定するものでなければなりません。詳細はこちらを。

『本格保守宣言』(新潮新書)
http://amzn.to/1n0R2vR

6)「アメリカをめぐる情勢には(中略)天使たちまで熱いまなざしを向けているのだ。天国から来た私が言うのだから信用したまえ」(277ページ)
なんとこの本でも、ゾンビでこそありませんが、死者が登場して語ります。

『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

7)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

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