日本経済

2017年1月14日

【青木泰樹】限界が見えてきた量的緩和

From 青木泰樹@京都大学レジリエンス実践ユニット・特任教授

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さて2017年はどんな年になるのでしょう。
内憂外患を抱えた日本経済に昨年のような僥倖を
再び期待するのは、さすがに虫が良すぎますね。

今年も地道に自分の知り得る範囲で、
教科書経済学とは一線を画した、
実態に即した経済知識を分かり易く
お伝えしいきたいと思っております。
本年もよろしくお願いいたします。

いよいよ1月20日はトランプ新大統領の就任式です。
今年前半は、これまでのトランプ語録が
どの程度実際の政策に反映されるかをめぐって、
経済面は言うに及ばず、安全保障面でも
世界中が右往左往することになりそうです。

翻って国内を眺めますと、昨年末のカジノ法案の
成立に見られるように、本年も労働規制の緩和、
また外国人の日本国籍取得に関する緩和をはじめ
新自由主義思想に基づく規制緩和政策が、各分野に
おいて成長戦略の名の下で推進されることが懸念されます。

また財務省の財政再建プロパガンダも、
御用学者を総動員して強化されることでしょう。

ただ私個人としては、今年最大の関心は
「日銀の量的緩和の物理的限界」にあります。
年後半にそれが露わになると予想しております。

いよいよ限界へのカウントダウンが
始まろうとしている状況下で日銀がどのような
手を打ってくるかに注目したいと思います。

果たして政策転換はあるのか、
別の手段を用意しているのか、
興味深いところです。

本日は量的緩和をめぐる話題を取り上げます。

周知のように、現在日銀は2%の
インフレ目標を達成するために
「長短金利操作付き量的・質的緩和政策」
を実施しております。

インフレ率が2%で安定するまで長期金利を0%、
短期金利をマイナス0.1%に釘づけし、
年間80兆円を目途に長期国債を買い取ると
コミットメントしているわけです。

簡単に、これまでの経緯を振り返っておきましょう。
13年4月の黒田日銀発足時は単なる「量的・
質的緩和」であり、その政策の中心は年間
50兆円の長期国債の買取りでありました。

14年10月の量的緩和の拡大策は、
買い取る長期国債を年間80兆円に
引き上げるという内容でした。

そのサプライズによって円安株高となり、
「黒田バズーカ第二弾」と呼ばれたことは
記憶に新しいと思います。

それでもインフレ目標に届かなかったので、
黒田総裁は政策手段を追加しました。

それが16年1月の「マイナス
金利付き量的・質的緩和」です。

短期金利をマイナス0.1%に釘づけし、
長期国債の購入量はそのまま維持したのです。

長期金利は政策目標にしなかったのですが、
リフレ派理論に基づく量的緩和政策の限界を
黒田総裁はこの時期に感じていたと推察されます。

そして同年9月の「金融政策の総括的検証
(日銀総括)」を経て、長短金利操作による
イールドカーブ・コントロールを政策手段の
中心に据え、量的緩和は副次的な目標となり
現在に至っております。

金利と量を同時に目標に据えることは論理的に
矛盾しておりますので、この時から日銀はリフレ派
論理から脱却したといえます(詳細は下記参照)。

http://www.mitsuhashitakaaki.net/category/aoki/page/3/

それでは今後、日銀にできることは何でしょう。
実は、今以上のことは何もできないのです。
現在の状況でインフレ率が2%になるまで待つだけなのです。

マイナス金利の深掘りは金融業界の
収益を悪化させますからできません。
黒田総裁にも意地がありますから、
元に戻すこともできません。
長期金利を0%に維持するために
長期国債を買い取り続けるしかないのです。

問題は、「買い取りができなくなった時、どうするのか」です。
いくら日銀が買いたいといっても、
市中にある国債残高にも限度があります。
年間80兆円の長期国債の購入は目途にすぎません。

長期金利が0%付近で推移していれば、買取り量を
減らすことはできますが、ひとたび上昇圧力が加われば
逆に買い取り量を増やさなければならなくなります。

果たして日本の長期金利に上昇圧力は加わるのでしょうか。
今年、FRBは政策金利である短期金利を
3回引き上げる予定であると予想されています。

そこに、今のところどの程度か定かでありませんが、
トランプ新大統領の大型減税および財政出動が
加わると米国景気は拡大し、インフレ懸念から
米国金利に上昇圧力が加わります。

さらに、大型の財政出動のための資金調達手段として
米国国債が大量に発行されれば、長期金利も上昇するでしょう。

こうした日米金利差の拡大により、
日本の長期金利にも上昇圧力が加わる
可能性を否定できないのです。

さて、実際のところ、日銀の量的緩和によって
市中にある国債残高はどのくらいになったでしょう。

16年12月時点で財投債を含めた
国債残高は約970兆円です。

そのうち本来は政府の債務に計上してはならない
財投債の残高が100兆円弱でありますから、
およそ870兆円余りが国債残高となります
(財投債は政府が発行しますが、それは
財政融資に使う資金であり、償還も利払いも
税金でしているわけではありません)。

それに対し、日銀HPによれば、昨年末時点で
日銀が保有している国債残高は、410兆円余りです。

現在の日銀の国債保有比率は、
財投債を含めた残高に対して約42%、
含めない場合は約47%にも上ります。

今年も予定通り国債を買い進めると、年末には
日銀の国債保有量は490兆円になるでしょう。

ちなみに民間銀行保有の国債残高は
16年10月末時点でわずか85兆円弱、
量的緩和以降に約80兆円減少しました。

他方、国債の供給面はどうでしょうか。

本年度の国債発行予定額を見ると、
新規国債は35兆円弱、借換債は
110兆円弱の合計145兆円余りです。
ここでは日銀の買い取り対象でない
復興債や財投債は除いてあります。

145兆円と聞くとかなり大量の供給と
思われがちですが、そうではありません。

110兆円発行される借換債は、
110兆円分の国債の償還のためのものですから、
全体の国債残高が増加するわけではないのです。

新規の国債増加分は35兆円ですから、
日銀が80兆円買い取るとすると、45兆円分の
国債が民間から日銀へ移し替えられることになります。

単純計算すると、490870+35)ですから、
今年末の日銀の国債保有比率は54%になりますね。

この数字を見て、「果たして来年も再来年も
量的緩和を継続できるのか」という懸念が
年後半には生じ、日銀の金融政策や黒田総裁の
コミットメントへの不信感が増すと思われるのです。

私はリフレ派の論理は間違っているが、
長期国債の買い取りは適正水準であれば
正しい政策であると主張してきました(下記第10章)。

http://amzn.asia/5L3T1ok

しかし、今般の日銀の買い取り策は、インフレ率が
2%になるまで永遠に続けるということですから、
無謀としか思えないのです。

こうした状況を察知してかどうかはわかりませんが、
リフレ派の重鎮で量的緩和を唱えてきた浜田宏一
内閣官房参与が、リフレ派理論からの政策転向を
表明したことが話題を呼んでいます
(文藝春秋17年1月号『「アベノミクス」私は考え直した』参照)。

これまで「デフレは貨幣的現象だ」と
主張してきた岩田規久男日銀副総裁を
はじめとするリフレ派の人達は、
梯子を外された気分でしょう。

貨幣的現象でないなら、量的緩和を
する意味がなくなりますから。

浜田氏は、16年8月のジャクソンホール会議での
クリストファー・シムズの講演論文で考え方を
変えたと伝えられています。

シムズは、2000年前後に注目を集めた
「デフレ(インフレ)は財政的現象である」ことを主張する
「物価水準の財政理論(FTPL)」の主唱者の一人です。

FTPLの詳細に関しては別の機会に譲りますが、
ここでは二点だけ指摘しておきます。

先ず、「リフレがだめなら、今度は
FTPLだ」と安易に考えないことです。

双方とも主流派経済学の論理が背後にあるので
(リフレ派の場合は論理構成が妙ですが)、
その含意を直接、現実経済に適応してはなりません。

具体的には、ミクロの合理的経済人から
成る経済を前提にした話なのです。

ここで合理的行動とは、フォワード・ルッキングな
予想(将来の合理的予想)から現在の行動を
考えることを指します。

つまり将来予想から現在を考えるのです。

一例を挙げておきます。
リフレ派は、「将来も量的緩和を続けると
コミットメントすれば人々のフォワード・
ルッキングな予想を変えられる」と考えてきました。

結果はどうかと言えば、日銀総括で示されたように
日本人の多くはバックワード・ルッキングな予想
(適合的予想)をするために政策効果が
減殺されたと結論づけています。

過去の経験から現在を考える人が多いということです。
当たり前ですね。
現実は教科書通りにはなりませんから。

FTPLは、「将来も財政拡大を続けると
コミットメントすれば人々のフォワード・
ルッキングな予想を変えられる。すなわち
インフレとなる」という話ですから、
簡単には乗れないでしょう。

しかし、FTPLには極めて重要な
論点が含まれていることも事実です。

それは統合政府(政府+中央銀行)を前提とし、
そのバランスシートを考えていることです。

統合政府の総債務(B)は、
「(民間保有)国債残高+現金(ベースマネー)」ですが、
純債務は「B−(中央銀行保有)国債残高」となります。

FTPLでは純債務が問題とされているのです。

したがって中銀の国債買い取りによって
純債務が減少するという当たり前のことを、
政治家に周知させるのに格好な論理に思えます。

現実に適用するには幾つかの操作が必要ですが、
FTPLの考え方と適切な出口戦略の組み合わせに
よって、財政均衡主義を否定する財政論のベース
となる可能性を秘めているのです。

—発行者より—

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【青木泰樹】限界が見えてきた量的緩和への5件のコメント

  1. 拓三 より

    私も読みましたが、この可哀想な生き物(土居)は『経済成長』を全く加味していません。支出を増やす事による税収増の話が抜けているのだと思います。

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  2. 拓三 より

    三橋氏が前に提言していた地方債の買取の方が意味あるんとちゃうん。法的な問題があるにせよ、通貨発行が出来ない自治体はEUのユーロ圏と同じやろ。ギリシャ問題の時も言われてたけど、助けるためには債務の天引きしか無いって言うてたんやったらそれを日本に当て嵌めて考えたら、そっちの方が地方創生にもなるし、財政政策の効き目も数段効いてくるんとちゃうん。通貨発行できる政府の債務なんか債務ちゃうし(カネを作る立場)地方債と意味が全く違う。ハードルが高いんやろうけど、EUと違って同じ国家の日本やねんからドイツみたいなイケズせんと日本国中央政府の任務果たしたらええやん。

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  3. 辺境から一言 より

    物価水準の財政理論について慶應義塾大学の土居丈朗氏が東洋経済オンラインで説明してます。当方は経済学の素人なので理解不十分ですが、土居氏の言いたいことは、この理論によれば、物価水準は政府の予算制約式に規定されるので、国債を返済すれば物価が上がり、財政出動のため国債発行すれば物価は下がることになるので、デフレ脱却のためには国債を返済するのが正しいらしいです。これって本当でしょうか?

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  4. 學天則 より

    財務省が馬鹿なのはこのままなら、どの道、大規模な財政出動を強いられると言う事が解ってない歴史観の無さでしょう。そうです最後は社会不安から戦争や内戦になる、戦争程大規模な公共事業は無いでしょう、敗戦すれば国家破綻、勝っても財政は疲弊する。黒田総裁にも意地がありますから、元に戻すこともできませんとか本当なら、もはや幼稚園児ですね。平時と有事の区別もついてない。平時や日常なら貴方のつまらないプライドもよろしいでしょうが、既に殿部隊のここは有事中の有事なんですと言う事です、災害現場の医療と日常の医療は異なり、日常の病院でトリアージなんかしないでしょう。日常ではない戦場では情報取集から掴める変化に対応できる方以外はリストラ部屋送りが妥当ですね、邪魔ですから。案外、総理がこれだけアベノミクスが選挙で信任され続けて、財政出動も選挙結果を盾にやれると思うのですがやらないのは9条のある日本が嫌いだからというつまらない?プライドかもしれませんね。9条がある日本が繁栄したらある意味で自己否定になりますからね。そう言う事ではない事を祈りたいし、そうならはっきりとおっしゃって、TPOを無視せず潔く自ら降りてほしいです。それじゃあ、災害現場では皆の迷惑ですから。

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  5. たかゆき より

    X-day  ♪その日が 訪れたら、、荒唐無稽な 理論で奇想天外な 政策を なさるのでせう。。。なんたって現実は 彼らの頭の中にのみ存在するのですから。。現は夢よ ただ 狂へ ♪

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