日本経済

2017年3月2日

【小浜逸郎】北海道というエアポケット

From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授

尖閣、辺野古基地移設、高江ヘリパッド騒動と、いま日本国民の視線は沖縄に集まっていますね。中国が沖縄を自国の領土として狙っていることは、いまや周知の事実です。私たちはもちろん、この安全保障上の危機に真剣に立ち向かわなくてはなりません。
しかし産経新聞が以前から連載している「異聞 北の大地」というコラムがずっと気になっていたのですが、北海道にも由々しき問題がじわじわと進行しつつあります。
水源の所在地や森林や広大な土地が中国資本によって買い占められているのです。しかもリゾート施設だの別荘地だのゴルフ場だのと言った名目で、実際には何をやっているのか役所も近隣の人たちもしかとつかんでいません。中国の「サラミ・スライス」戦略は日本人の油断をよそに、着々と本土に及んでいるのです。
最近3回にわたって掲載された第4部には恐るべきことが書かれています。以下要約。

1.中国は、釧路を国防、経済両面で海洋進出の拠点として狙っている。すでに付近には中国資本の貿易会社やメガソーラー発電所が建ち、日中友好協会主催による「一帯一路」構想についての勉強会が開かれ、孔子学院の講座や小中生を対象とした中国語教育も。
道東は自衛隊の基地が密集し、国防上の要衝であるにもかかわらず、釧路市では「中国資本が急に活発化したという実感はない」などとのんきに構えている。
http://www.sankei.com/world/news/170224/wor1702240016-n1.html

2.平成17年、北海道チャイナワークの張相律社長が「北海道の人口を1千万人に」と提言し、(1)海外から安い労働力を受け入れる(2)北海道独自の入国管理法を制定するとぶち上げた。「不動産を購入した裕福な外国人には住民資格を与える」と強調。
北海道で中国資本に買収された森林や農地などは推定で7万ヘクタール。山手線の内側の11倍以上。森林の多くは伐採され太陽光発電所として利用されているが設置されていない所もある。また太陽光発電の寿命は20年で、跡地を何にするかは自由。経産省によると、土地の後利用は企業側が決めるが「個別の問題なので把握していない」という。
夕張市は観光4施設を元大リアルエステートに売却する契約を締結。4月に現地法人「元大夕張リゾート」に引き渡す。中国系企業なのに同市では「日本の会社と認識している」と説明。
http://www.sankei.com/world/news/170225/wor1702250023-n1.html

3.国土交通省が国内での外国人不動産取引の手続きを円滑化するための実務マニュアルを作成。国会でようやく外国資本の不動産買収に規制を設けようという議論が起きている時に、「どんどん買ってください」と言わんばかりに日本の不動産を外国資本に斡旋する国交省の姿勢には唖然とする。マニュアルには、外国人に対して取引や賃貸を拒絶することは「人権に基づく区別や制約となることから人種差別となる」と明示している。
日本は外国人土地法の第1条で「その外国人・外国法人が属する国が制限している内容と同様の制限を政令によってかけることができる」としているが、これまで政令が制定されたことはない。ちなみに中国では外国人の不動産所有は基本的に不可。諸外国と比べ、全く法規制をしいていないわが国では、国籍を問わずだれでも自由に土地を購入できる。
http://blog.goo.ne.jp/sakurasakuya7/e/884073e66a98c0319f25170316a099a9

いやはや驚きですね。日本人の油断をいいことに、本土に対する経済的文化的実効支配がどんどん進んでいるのです。この「油断」には次の4つが含まれているでしょう。

1.北海道経済全体の地盤沈下を引き起こしたデフレ促進の政治
2.特に道東部のインフラ未整備
3.本州、特に首都圏住民の北海道に対する軽視
4.外国資本に対する規制の欠落

1.2.3.については、北海道に住む方の次のような嘆きの声もあります。

《衰退著しい北海道の地方都市の中でも、釧路はそれが顕著なところ。(中略)帯広の底堅い景気とは対照的に、非常に景気が悪く、人口流出も止まりません。
そんな衰退激しい都市に中国資本が進出するのは容易と思われます。
そしてこれに、先日、JR北海道が発表した道内の鉄路の維持困難路線の問題が加わります。道東のほとんどがJR北海道単独での維持が困難、と判断され、北海道外の経済人、コメンテーターの多くの方々が「採算が取れないなら廃線にすべき」と語っていました。もし、釧路が中国の影響下になることになれば、北海道内の鉄道網も中国の影響を受けることが考えられます。
東京や大阪の方々に考えていただきたいのは、道東で採れる野菜の多くが東京や関西に向けて出荷されている、ということです。首都圏での野菜の安定供給、価格の維持に道東の野菜が貢献しています。そしてその農産物の輸送は、鉄道が主力なのです。もし(中略)道東の鉄道網を中国が握ることになれば、首都圏の食糧供給の一部が中国に握られることになります。
どうか短区間の採算だけで北海道の鉄路を判断しないでいただきたいし、日本国内で「切り捨て論」が高まれば、中国が虎視眈々と狙っていることも考えていただきたいのです。》
http://shiaoyama.com/essay/detail.php?id=597

まことに的確な、また切実な訴えというほかはありません。
私たちは(私自身もそうですが)首都圏で暮らしていると、海を隔てたあの美しく広大な北海道をロマンチックな観光の対象としか考えず、そこで暮らす道民の方たちの悩みなどにあまり思いをいたしません。「採算が取れないなら廃線にすべき」などと平気で語る無責任なコメンテーターがたくさん出てきてしまうのも、じつに残念な話です。同じ日本人でありながら、まるで化外の地を見るようなまなざしではありませんか。
実際、地図を見るとすぐわかりますが、道東部(にかぎらず地方)の交通インフラの整備状況はお粗末としか言いようがありません。交通インフラ未整備→産業衰退→人口流出→一層の過疎化→さらに廃線の増加という悪循環に陥ってしまうわけです。
4.の不動産に対する外資規制の欠落ですが、これが何と言っても問題ですね。私は以前から、なぜ外国人に勝手に国土を買わせるのだろうと不思議に思い、憤ってもいたのですが、ここ数年の中国の侵略的意図を見るにつけ、その思いがいよいよ募ってきました。
上記要約に記したように、地方官僚も中央官僚も、やっと動き出したという国会議員たちも、そのノーテンキぶりと鈍感ぶりにはあきれてものが言えません。これでは中国に国土を蚕食されつくしても自業自得だと言いたくなりますが、迷惑を被るのは、普通の庶民です。
先の外国人土地法では「その外国人・外国法人が属する国が制限している内容と同様の制限を政令によってかけることができる」と謳っているのですから、中国に対して一刻も早く法的な規制をかけるべきですが、どうもあまり期待できそうにありません。
というのは、安倍政権全体がグローバリズムの道を周回遅れで突っ走っているからです。またアメリカ様に貢納する金はすぐに出すが、デフレ脱却のためにぜひとも必要な公共投資は一向に実施しない。安倍首相は財務省の財政均衡主義に洗脳され、しかも何でも世界に開くことがいいことだと信じている人です。こういう人を総理大臣に戴いているうちは、事態は変わりません。中国は日本のそういう弱点をよく見抜いているのです。
ちなみに、釧路を中国が狙っているのは、北極海航路の拠点(不凍港)として目をつけているからです。海洋軍事国家を目指している中国は、今後、本気で領有に乗り出してくるでしょう。そうなると、ロシアとの間の確執も生じます。要するに平和ボケ国家・日本は両大国の恰好の餌場としてコケにされる公算が強いのです。
日本を守るために、沖縄だけでなく北海道にもぜひ真剣な関心を向けましょう。

 

 

(小浜逸郎からのお知らせ)
●小浜逸郎ブログ「ことばの闘い」
http://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo
●最近著
『13人の誤解された思想家』(PHP研究所)
『デタラメが世界動かしている』(PHP研究所)
●雑誌掲載原稿
「老人運転は危険か」(『Voice』2017年1月号)
「単なる報復ではない極刑の理論」(『正論』2017年1月号)
「私の初夢!? プーチン、トランプ、習近平の三巨頭会談」(『正論』2017年2月号)
「誤解された思想家たち(23) 鈴木正三」(『表現者』70号)
「誤解された思想家たち(24) 伊藤仁斎」(『表現者』71号)
●ネットテレビChannel Ajer出演
http://ajer.jp/video/search?k=%E5%B0%8F%E6%B5%9C%E9%80%B8%E9%83%8E&x=12&y=12&c=1&t=all
「日本の民主主義が正しく機能していない」
「公共投資を増やさなければ日本は亡びる」

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【小浜逸郎】北海道というエアポケットへの3件のコメント

  1. ろんどなー より

    この問題はぜひ書籍に纏めて出版して欲しいし、テレビで取り上げるべき深刻な問題。ネット番組かラジオでも良いので詳しく話してください。そしてYouTubeに載せれば拡散する。国会でも取り上げるよう維新の足立議員あたりに働きかけてください。手遅れにならないうちに。

    返信

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      1. 小浜逸郎 より

        好意的なコメント、ありがとうございます。
        私自身も追究する値打ちのあるテーマだと思いますので、今後も引き続き考えていきます。

        返信

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