コラム

2018年1月27日

【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」第四十一話

From 平松禎史@アニメーター/演出家

◯オープニング

1月21日、西部邁氏が多摩川に入水、自死されました。
言論界に衝撃が走り、氏に対する様々な感慨、その死に対する様々な見解がネット上に飛び交いました。
報を読んでボクが思わずつぶやいたのは「ああ、ついに…」でした。
普段から死について口にされ、『表現者』『西部邁ゼミナール』からの引退も決まっていた。
近いうちに決行されるのではないかと(漠然とですが)思っていたのです。
そのせいではありませんが、静かに受け入れよう、と考えました。

第四十一話「緊縮財政を続ける自然災害国、日本」

◯Aパート

環太平洋火山帯と隣接する火山地帯で大きな火山噴火が相次いでいます。
ハザードラボの火山情報
http://www.hazardlab.jp/?map=volcano

火山島で地震の巣である日本列島にも大きな火山噴火や大地震が迫っている。
日本は「その時」に備える適切な行動を起こしているんでしょうか。

ボクは自然災害への対処、防災減災を政府に実行させるためなら法に触れない限りどんだけ「恐怖を煽り」「脅し」てもかまわないとすら思っています。

大地震が来るかもしれない。
火山が大噴火するかもしれない。
このような話は不安になる。できたら目にしたくないものです。
しかし
災害は程度の差はあれど、毎年毎季節起こる決して逃げられない現実なのです。

東日本大震災の時、大津波の被害を減らすには、押し寄せるまでの時間を楽観せず、すぐに高台に逃げることが重要だと指摘されました。
迅速な避難を決意させるためには、津波の恐怖を周知させる必要がある。
パニックにならないよう、その時に冷静な判断をするには、日頃からそうなった時のことをイメージする必要があるわけです。
過小評価は万一の時にパニックを起こさせますから、想定の枠を安易に設けずに考え備えるには、現実の恐怖から目をそらさず正しく怖がることが必要なのです。

日本がその一部になっている環太平洋火山帯の西側(日本列島側)で火山活動が活発化しています。

カムチャツカ半島のシベルチ山、クリュチェフスカヤ山。
インドネシアのシナブン山、アグン山。
フィリピンのマヨン山。
パプアニューギニアのカドバー島。

日本の霧島連山、新燃岳も活発化しており、噴火警戒レベル3に指定されている。
同ページ、『新燃岳 火山性地震あいつぐ「2日間で393回!」火山性微動も観測』
http://www.hazardlab.jp/know/topics/detail/2/3/23468.html

しかし、噴火警戒レベルが1だった草津白根山が23日に噴火して死傷者が出ました。
噴火速報が出せなかったのは噴火を想定してなかったため監視カメラがなく兆候を察知できなかったからだそう。
御嶽山噴火の時に強化されたものの、専門家からまだ少なすぎると指摘があった。それ以来増やされていなかったわけです。
どの山が噴火するのか、どこで地震が起こるのか、そんなこと想定できるわけないでしょう。
完全に予兆をつかむことはできないでしょうが、防災減災の努力を怠っている。
緊縮財政の「結果」でしょう。

◯Bパート

M7を超える地震が南太平洋のニュージーランド北部で、ペルー沿岸、ホンジュラス沖。アラスカでM8…と今年に入って連続しています。M6超の地震はインドネシアなどで多発しています。

海外で発生したM7以上の地震
http://www.tenki.jp/bousai/earthquake/foreign_entries

もともと地震が多い地帯なので、異常な程なのかは何とも言えません。
しかし
現実に火山が噴火した。他の火山が連鎖的に噴火しないとは言えません。
日本列島で起きる大地震まで一刻の猶予もないと考えたほうが良いでしょう。

青森県沖や茨城県沖、福島県沖では東北地方太平洋沖地震の余震と思しき中小の地震も続いています。

先日、Twitterで気になる記事を見かけました。
『「来年1月、伊豆で大きな地震があるかもしれない」ある研究者の警告』
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53749

記事で触れているのは角田史雄氏の提唱する「熱移送説」です。
従来のプレートテクトニクスでは説明できなかった地震発生メカニズムに一石を投じるもの。
記事の筆者も、この仮説がまだ研究中のものであって完全だと考えてはいない。
しかし、大地震に警戒し防災減災策を加速度的に進めるのに仮説の信憑性は問題ではないでしょう。
大地震がいつかどこかで起こる現実はほぼ必定であって、日本全国で対策が必要なことに変わりはありません。

地震の話からはそれますが、同根の話題は経済学にもあります。
『ビル・ミッチェル「MMTが論ずるのは『現実が何か』であって、『現実がどうあるべきか』ではない」(2017年4月20日)』
http://bit.ly/2EbERwC

「誰が」ではなく「中身」で考えよう。ボクはこう考えるようにしていますが、この論考の基本的なところは重なっています。
人間は法や秩序、学問や宗教などを作るようになってたかだか2000数百年程度です。
それを国家の「モデル」として採用しはじめたところから近代がはじまっている。
地球環境や、人間の営みはそれよりももっと前の過去からつづいており、知恵や道徳、常識のようなものは極一般の日常生活の中で人に蓄積され継承されています。
法や秩序、学問や宗教など「モデル」を優位に据え、それで制御できるという発想そのものに疑問を持たなければならない。
そのためには「現実がどうあるべきか」ではなく「現実が何か」を問う姿勢が大切、ということ。
ビル・ミッチャム氏の論考の基準(クライテリオン)はそこにあるのでしょう。

火山噴火や大地震が起こってきたのは現実であって、いつどこで起こるか誰も「べき」論では語れない。対策の可否を論ずる以前のことでしょう。

では、日本政府は、さらなる火山噴火や、いつ来ても不思議ではない大地震に備え行動を起こしているのでしょうか。

してませんよね。

火山噴火の監視体制も3年間強化されて来なかった。

経済政策は公共部門を解体して民営化する路線を続けており、「働き方改革」とやらも個人の成果主義を強めるもの。
政府主導による公共意識の破壊、国家観の崩壊です。
こんな政策方針で防災減災、国防がまともにできるわけがないでしょう。

防災減災、国民に長期視点の投資をする、まともな政治を行うためには、プライマリーバランス黒字化目標が障壁になっています。
破壊すべき障壁は「岩盤規制」とやらでなくプライマリーバランス黒字化目標です。
これを保持する限り黒字化達成期限を引き延ばすのがせいぜいで、消極姿勢のままならば、引き延ばせば引き延ばすほど国民の貧困化も長期化していくわけですから、お話になりません。

「もはやこれまで」

西部邁氏が以前よく言っていたこのセリフ、最近は聞かれなくなっていた。その代わりに言われるようになったのが

「僕はもうじき死にますので」だった。

「改革を止めない」などと、一発解決や早期改善を求めれば、それは悪い結果の方に傾いていく。
本来、状況を改善するにはミッチャム氏や古くからの先人が経験したような現状維持勢力との戦いを経て時間をかけて行われるものですが、「改革」とはわかりやすい「モデル」を掲げて見せ、あたかもすぐにでも解決するかのようなプロパガンダの大衆扇動によって断行され、おおむね悪い結果をもたらします。
にもかかわらず、政府は改革・革命を叫び、国民の4割以上が支持している始末。
死の前日の番組で、言論の無力さを吐露していた西部氏の心中を安直に忖度することはできないが、近代合理性に傾ききって鈍感に成り果てた日本国民(JAP. COM)の連中にはもう何も言うことはない、ということなのかもしれない。

西部氏が避けた緩慢な死、思考力が死に、行動力が死に、ただ息をし脈を打つだけの人間とも言えない肉塊のその集合としての日本が、東アジアの片隅に横たわっている。

『孟子』にこういう故事があります。

「能わざるにあらず、為さざるなり」

できないのではなく、しようとしないのだ。

政治家に行動を促すのは国民の意志です。

◯エンディング

2018年2月24日公開されるアニメーション映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』にコア・ディレクター、作画監督などで参加しています。
http://sayoasa.jp/

本作には2015年後半から絵コンテ作業に入って翌年春には脱稿、その後は『ユーリ!!! on ICE』の作業を約一年間行った後復帰。現場に入って集中的に仕事した期間は10ヶ月程ですが、大変濃密な時間になりました。

作画スタッフの大半が、富山県南砺市にあるP.A.WORKS本社スタッフです。
完成したに日は富山が大雪で、社長は完成後の感慨に十分浸る間もなく新幹線に飛び乗りました。

本メルマガ執筆者でもある佐藤健志さんが先日試写をご覧になり、さっそくレビューを書いてくださいました。
『さよならの朝に約束の花をかざろう、または平成の終りを静かに告げるアニメ』
http://bit.ly/2DE0LeN

まだ一般公開前なので、物語の核心部分には触れず、それでもしっかりと本質的なテーマを看破しておられると思います。

命をつなげていくことの意味をあらためて考えさせてくれる作品だと思います。

多くのみなさんに観ていただけると幸いです。

◯後CM

『平松禎史 アニメーション画集』発売中。
『エヴァンゲリオン』シリーズや『彼氏彼女の事情』などカラーイラストを多数収載。
http://amzn.asia/hetpEPD

画集第二弾『平松禎史 Sketch Book』発売中。
キャラクターデザインのラフや楽描き、国民の祝日の絵「ハタビちゃん」シリーズなど収載。
http://amzn.asia/hUQoCkv

東京アニメアワードフェスティバル2018のメインビジュアルを担当しました。
http://animefestival.jp/ja/post/7772/

2017年放送のTVアニメ『ユーリ!!! on ICE』の完全新作劇場版、制作決定!

ボクのブログです。
http://ameblo.jp/tadashi-hiramatz/

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【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」第四十一話への1件のコメント

  1. 赤城 より

    >西部氏が避けた緩慢な死、思考力が死に、行動力が死に、ただ息をし脈を打つだけの人間とも言えない肉塊のその集合としての日本が、東アジアの片隅に横たわっている。

    とても見事な表現だと思います。
    現日本人は人間としての生をすでに捨てている状態です。
    野生動物以下の目の前の生活と子孫と身近の人たちの生活のことだけを考えて家畜同然に生きている動物です。
    生殺与奪の権を外国隣国敵国の温情に委ねると宣言する憲法を有りがたく頂戴してそのとおりに生かされているだけの家畜。
    すべての他民族国家が未来の繁栄と生存のために百年後の生存戦略を必死に考え戦っている中でそれをしない国家民族が果たして人間足りえるだろうか、また近いうちに亡びるとしても現在でさえ存在しているといえるだろうか。
    現実世界から逃避して狂い呆けて国内という檻の幻、虚無の中にただ家畜動物のごとく存在している生きながら死んでいる日本民族国家。

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