コラム

2017年5月27日

【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」:第丗四話

From 平松禎史@アニメーター/演出家

◯オープニング

「常識・先入観・固定観念」
これらはボクが携わっているような表現の仕事の大敵です。

常識や先入観、固定観念でできあがった何かに別角度から光を当てることで、世界が広がって見える。新たな可能性が見いだせる。希望が湧いてくる。
そんな「感動」を形にするのがボクらアニメ制作者が物語でやろうとしていること。

「常識・先入観・固定観念」は、人類の敵であったり、恋物語の障害であったり、チームを乱す利己心だったり、形はさまざまですが、誰しも陥ってしまうことの象徴として形成され「敵」として形作られます。

敵を倒す最強の武器はなんでしょう。

第丗四話:「疑問を持つ」ということ。

◯Aパート

「日本の未来を考える勉強会」の講演が現在第4回までYouTubeで公開されています。
登壇者は本メルマガ読者のみなさんにおなじみの方ばかり。
藤井聡教授
中野剛志さん
青木泰樹教授
島倉原さん

経済の基礎、経済学の誤謬、プライマリーバランス黒字化目標の撤廃など、デフレ不況に陥らせた経済の「常識・先入観・固定観念」に立ち向かうヒーローと言ったらご本人は「とんでもない」とおっしゃるでしょう。
しかし、本メルマガに代表される言論は、これまで正しいとされてきた「常識、先入観、固定観念」に、疑問を持つ機会を与えてくれています。

ボクは疑問とは好奇心のことだと考えています。
「疑問を持つ」というとネガティブな感じがするかもしれませんが、それも先入観であって、それそのものに善悪はないと考えています。

疑問を持たねば学ぶこともない。
好奇心が沸き起こることもない。

現状に疑問を持たねば学びはなく、誤りを発見し正すことはできないでしょう。

◯中CM

人類は、古代には地球が平面で天が回っていると考えていた。
紀元前の段階で、世界が丸い球ではないかと考えられるようになったそうですが、依然として天動説(地球中心説)が信じられていました。

地動説(太陽中心説)が証明されると、コロンブスの時代まで地球平面説が信じられていたとする風説、デマが信じられた。
コロンブスの大航海で海の向こうに船が沈んで見えることから地球が丸いことを発見した…ていう説がそれです。
実際には紀元前のピュタゴラスやエラトステネスなど知識人は球だと考えていたにも関わらず、前時代を貶めるイメージが持たれてしまったのだそうです。

また天動説は紀元前280年頃、アリスタルコスが唱え、16世紀初頭にコペルニクスが再発見し発展させたものだそうで、それほど問題視されなかった。
17世紀、ガリレオ・ガリレイが異端審問された時代までに天動説(地球中心説)の捉え方に宗教的な環境の変化があったものと思われます。

地動説が揺るぎなく証明されるにはニュートンが万有引力の法則を発表する17世紀後半まで待たねばなりませんでした。

ここまでに天体望遠鏡の発明と進歩など科学技術や数学、実証研究の発展があった。

人類がモノゴトに疑問を持ち、科学技術の発展とともにそれまで信じられた「常識・先入観・固定観念」を塗り替えていった。
どれだけ科学技術が進歩しても塗り替え作業は繰り返されている。

◯Bパート

西欧で繰り返された「常識・先入観・固定観念」の塗り替え作業は、悲惨な戦争や革命という結果にも現れていると思います。

国をひっくり返すような戦争や革命が起きていない日本は、言い換えれば「常識・先入観・固定観念」の塗替え作業をあまりやってこなかったと言える。
日本人は、律令時代から数えて約1400年間、天皇を継承し覆すことがなかったのですからね。

何ごとにも「功罪・好悪」がつきものです。

西欧人は、唯一神を信じるキリスト教が主流になって、神が作り給うたこの世の真理を探求することが善とされた。
この考え方で、この世の様々なことや外の世界に疑問を持ち、事実を探求し吟味し、解明しようと努力し、様々な発見・発明を行った。
一方で、唯一の真理を求める考え方は戦争や革命を誘引し世界に戦争を拡大した。(グローバリズム)

日本人は、この世はあるようにあったものと考え、八百万の神々に守られていると考えてきた。
この考え方で、この世の様々なことや外来の文化をあるがまま受入れ、あるいは水際で阻止し、自分流になじませ、丸く収めてきた。
西欧のような発見・発明が少なかった一方で、国をひっくり返すような戦争や革命は起こらなかった。

それぞれに良し悪しがあって、どちらかが正しいわけではないと思います。(戦争ばかりやってきた面で欧米を良しとは言い難いが・・・)

日本では昔から「民」が強く、中央政府のようなものはあまり信用されなくて地方自治が主体だったそうです。
農民一揆も一種の陳情手段として成り立っていて、必ずしも反政府運動のようなものばかりではなかった。
中央政府はゆるやかに全国を総覧しながら地方がそれぞれの特色に合った自治をする、というスタイル。
その感覚の象徴的な位置に天皇があったのでしょう。
長く続いているものが善いものだという感覚がある。

長く続いたものを権力が変えようとすると反発するのが日本人の自然な感覚なのではないかと思います。
そういった特性から見て、「安保関連法」であれ「共謀罪」であれ「憲法改正」であれ、デフレ脱却のための財政拡大であれ、長く続いてきたのとは違う変化には反発し、慎重論を展開する。
慎重さ自体は日本的な「保守」の意識に適っていると思います。

しかし

国民ひとりひとりに、モノゴトのひとつひとつに疑問を持ち、自問自答をし、事実を探求し吟味し、解明していこうとする意識は、残念ながら高くないのではないでしょうか。
変化を阻止しようとする声の大きい者や多数の主張(権力嫌いな左派リベラルやマスメディアなど)に頷いてしまうことが多々あるのではないでしょうか。
「空気」ってヤツですね。
さらに悪い事に、政治や政府を自分たち国民から切り離し外部化してしまうクセがあるように思います。
政治的なこと、中央政府は「敵」であるとして、変化がまっとうなものかどうか吟味する努力、疑問を持とうとしない。
一方で、構造改革や特区構想のような反発されにくいジワジワ戦略には無防備です。

はたして現状は良い状態なのか、提示される政策は良きものなのか、様々な意見に疑問を持たねば改善は不可能です。
疑問を持ち、事実を探求し吟味し、解明していく。
西欧近代的な考え方を日本流に馴染ませるにはまだ時間が足らないのかもしれない…あるいは…西欧的なるもの、日本的なるものを、功罪・好悪の両面をまっすぐ見据えて考える過程が不足しているのかもしれません。

不足させたのは、おそらく「戦後」でしょう。
戦前や明治、それ以前の日本を功罪・好悪の両面から検証できているだろうか。
高度経済成長を生み出したしくみを検証せず受入れて、疑問を持たなかったのではないか。
疑問を持つめんどう臭さを避けるため、戦前を悪者にした。
あるいは、戦前戦中を正当化するため、GHQを悪者にした。
どちらにしても「敵」の外部化、俺たちは悪くない理論…ですね。
これでは、地動説が認められてコロンブス以前を地球平面説だったとデマで貶めていた西欧人の周回遅れになってしまう。

戦争やGHQやコミンテルン云々ではなく、自分自身を振り返ってみても、日本人の特性とむすびついたクセで繰り返されているように思えて、歯がゆい心持ちになります。

◯エンディング

アニメの仕事、映像表現においては、この世の様々なことに疑問を持ち、観察し、しくみを調べたり、歴史をたどったりします。
アニメ表現においても「常識・先入観・固定観念」との戦いがあります。
そのモガキから観る人の心に響く表現が生まれる。

疑問を持つことは好奇心の現れだと思います。
疑問を持つのは批判ではなく、もっと知りたいから。
疑問を持たないのは無関心。
そこからは何も生み出されません。

私たちの生活をより良くするための政治。
それを阻害する最大の敵は無関心であり、瞬発的な気分の支配であり
敵を倒す最強の武器は疑問を持つ心だと思う。

◯後CM

『平松禎史 アニメーション画集』発売中。
http://amzn.asia/hetpEPD

2017年放送のTVアニメ『ユーリ!!! on ICE』の完全新作劇場版、制作決定!

2017年7月18日、月刊三橋&三橋経済塾の夏のシンポジウムに参加します。
http://members6.mitsuhashi-keizaijuku.jp/?p=1989

ボクのブログです。
http://ameblo.jp/tadashi-hiramatz/

関連記事

コラム

【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」:第丗五話

【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」:第丗四話への2件のコメント

  1. robin より

    我々、とか一人一人だと個々の主体性とか責任を感じるが皆だとそれ自体免罪符の役割を果たしそうだ、皆そう言ってるからそれが社会通念であり現実で事実なのだと。以前は司祭と信者の関係がここ100年くらいはマスコミと消費者の関係に代わったのかな?信仰にタブーがあるように消費者にもタブーがあるように思われる、冷たい事実より暖かい嘘を皆で信じること、そういう「常識」なのだろう、人間の狭い視野からすれば地面は平らなのだから大地が動く地動説なんか信じたら空に吸い込まれる、サカサマのパテマになってしまう、そんなの怖すぎて日常生活すら望めなくなる。嘘は国による統治や企業による支配に不可欠なのかな。嘘がないと求心力もなくなる、仮説や前提無しに論理を築くことは出来ない。でも支配体制を築く上では不動の嘘が求められるのだろう、でないと安心して競争も出来ない。考えるのは不安に耐える能力でもあると思う、でも欲しいものは我慢せず直ぐに買うのが善である消費者には難しいのか。

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

  2. 赤城 より

    また天動説は紀元前280年頃、アリスタルコスが唱えたもので、16世紀初頭にコペルニクスが再発見し発展させたものだそうで

    また天動説は  ではなく地動説では。

    日本は歴史がとても長い分、長所も短所も他の民族と大きく違ってかなり特殊でしかも極端にあると思います。
    敗戦と敗戦後は日本人の短所と弱点をアメリカやシナ朝鮮など隣国に存分に利用され発揮してしまっていると考えざるを得ません。冷静に自らを省みることができなくなった民族となって久しく、狡猾な強者や大勢の空気にただ流される日本人の大和民族の弱い部分がはっきりと現れています。赤子のような弱さや優しさ無垢さを尊ぶ美徳を日本は最悪の甘えであり弱点として克服する必要がありますがまあ無理だろうなと思ってしまう。
    現状あまりにひどすぎて諦め気味になる。
    隣国の狡猾な国家が狡猾な方法で戦略的に政策や情報操作や工作をあらゆる手段で組織で行って日本人を赤子のままに奴隷のままにしようとしているのに一体どうやってそれを改善できるのかなどと考えるのは仕方ないですね。

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です

名前

メールアドレス

ウェブサイト

コメント

メルマガ会員登録はこちら

週間ランキング

  1. 1

    1

    【小浜逸郎】高度大衆社会における統治の理想

  2. 2

    2

    【小浜逸郎】誰が実権を握り、日本を亡国に導いているか

  3. 3

    3

    【藤井聡】日本最強の提言書  〜「財政再建」のための、消費増...

  4. 4

    4

    【藤井聡】「財政健全化投資」こそが、財政再建のために必要であ...

  5. 5

    5

    【三橋貴明】平成病

  6. 6

    6

    【藤井聡】与党内部からも、「消費増税凍結」「PB目標撤回」を...

  7. 7

    7

    【三橋貴明】国民を守るための銃

  8. 8

    8

    【三橋貴明】皇統と財政(前編)

  9. 9

    9

    【三橋貴明】皇統と財政(後編)

  10. 10

    10

    【三橋貴明】忌まわしき税金

MORE

月間ランキング

  1. 1

    1

    【藤井聡】与党内部からも、「消費増税凍結」「PB目標撤回」を...

  2. 2

    2

    【藤井聡】「消費増税」すれば、「税収」が減ってしまいます。

  3. 3

    3

    【小浜逸郎】誰が実権を握り、日本を亡国に導いているか

  4. 4

    4

    【藤井聡】注意報:「財政規律」を巡る攻防でいま、「デマ」が横...

  5. 5

    5

    【藤井聡】いよいよ、「プライマリー・バランス」を巡る攻防が本...

MORE

最新記事

  1. アジア

    【三橋貴明】続 米朝首脳会談は開催されない

  2. 日本経済

    【藤井聡】「財政健全化投資」こそが、財政再建のために必...

  3. アジア

    【三橋貴明】忌まわしき税金

  4. 政治

    【三橋貴明】平成病

  5. アメリカ

    【三橋貴明】国民を守るための銃

  6. 政治

    【三橋貴明】皇統と財政(後編)

  7. 日本経済

    【三橋貴明】皇統と財政(前編)

  8. 政治

    【小浜逸郎】高度大衆社会における統治の理想

  9. 日本経済

    【藤井聡】日本最強の提言書  〜「財政再建」のための、...

  10. 政治

    【竹村公太郎】定点観測、新人研修

MORE

タグクラウド