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2015年6月4日

【島倉原】「景気回復」の危うい実態

From 島倉原@評論家

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●●三橋貴明が実践する経済ニュースを読む技術とは?
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_3m.php?ts=hp

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おはようございます。
最近の金融市場でとにかく目を引くのは、とどまるところを知らぬかのような中国株式の上昇です。
中国経済の実態などを踏まえると、通貨の切り下げか深刻なデフレを伴う大幅な調整がいずれ不可避で、そろそろクライマックスが近いのでは…などとつい思ってしまうのですが、むろん将来のことはわかりません。
果たして、どうなりますことやら。
http://www.bloomberg.com/quote/SHCOMP:IND/chart

さて、少々脱線いたしましたが、今回は、先週チャンネルAJERで行ったプレゼンテーション「実態なき経済成長の正体」にまつわる話題です。
↓当日のプレゼン資料、プレゼン内容についてはこちらをどうぞ。
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-93.html

先々週の5月20日、2015年1−3月期GDP統計の第1次速報値が発表されました。
経済成長率は、前期比年率ベースで実質2.4%、名目7.7%と、いずれも2四半期連続のプラスとなり、政府関係者からは、「堅調な個人消費を主な要因として、緩やかな景気回復が続いている」という趣旨の発言・声明が相次ぎました。
そして、国内マスメディアの報道も、そうしたニュアンスをそのまま引き継いだものになっています。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS20H48_Q5A520C1EA2000/

ところが、下記の表でも明らかなように(また、三橋貴明さんもブログで指摘しておられたように)、実質成長の7割以上は在庫の変動(減少幅の縮小)、名目成長の7割以上は輸入の減少によるものです。
http://on.fb.me/1J2wnVD
これらは、経済における「需要」の中心である個人消費の動きとは必ずしも連動しません。
在庫減少幅の縮小は、むしろ需要の最終地点である個人消費の停滞によって(つまりは、生産されたモノやサービスがさばけないことによって)生じることもありますし、輸入の減少に至っては、むしろ需要の不振と親和性が高い現象です(今回の場合は、「原油価格の大幅下落」という、海外要因の影響が強い事象によって生じています)。
実際、個人消費は消費増税後の落ち込みから回復基調にあるとはいえ、例えば前回増税のあった17年前と比べても決して順調な回復スピードとは言い難いですし、今回の名目個人消費に至っては、前期比マイナスを記録しています。
http://on.fb.me/1J2vBIe

つまり、今回の在庫減少幅縮小にしても、消費回復の鈍さを反映した「悪い経済成長」である危険性は多分にあるのです。
実際、今回議論の対象にはしなかったものの、直近の生産関連統計などを見ても、先行きの弱さをうかがわせる結果となっています。

にもかかわらず、政府広報からも国内マスメディア報道からも、そうしたニュアンスはなかなか伝わってきません。
拙ブログ記事の翌日に発表された政府の月例経済報告では、さすがに「このところ一部に弱さがみられるものの(、持ち直している)」という下方修正の表現が生産活動に関して盛り込まれましたが、個人消費に関してはむしろ「持ち直しの兆しがみられる」と前月より上方修正され、先行きについても「緩やかに回復していくことが期待される」との表現を維持しています。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei/2015/0527getsurei/main.pdf

上記の日経記事に至っては、文中では「0.6%(注:年率換算前の前期比実質成長率)の内訳をみると、在庫が0.5%、消費が0.2%プラスに働いた」と在庫投資によるかさ上げのインパクトを認めているにもかかわらず、タイトルは「消費浮上、景気を押し上げ」となっているし、冒頭で「国内総生産(GDP)速報値は、消費を軸に景気が緩やかに回復する姿を示した」と述べているから、何だか訳が分かりません。
あげくの果てには、「(消費拡大の)兆しはある。4月の売上高はスーパーが前年同月比6.4%増、主要コンビニエンスストア10社も同4.0%増だった」なんて述べていますが、消費増税の駆け込み需要の反動で落ち込んだ2014年4月と比較を持ち出して「拡大の兆し」はないでしょう(実際、上記出典の統計を使って計算してみると、2015年4月のスーパー売上高は「2013年4月比」で0.7%増〜年率換算0.3%増〜に過ぎず、アベノミクス開始以前の「2012年4月比」では何と1.3%減!!〜年率換算0.6%減〜という結果になるのです)。
今回の数字がむしろ景気の弱さを示していることをストレートに伝えた、下記の海外メディアによる報道とはあまりにも対照的です。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0O50LJ20150520?sp=true

こうした政府や国内マスメディアの姿勢には、「金融緩和と緊縮財政」というアベノミクスの失敗を覆い隠さんとする意図が見え隠れしているようにも思えます。
しかも、そうして取り繕っているうちに、いつの間にやらそれが真実であるかのように錯覚する、いわゆる思考停止状態に陥っている気配すら感じられます。
冒頭でご紹介した拙ブログ記事では「大本営発表」という表現を用いましたが、こうした空気が「破滅的な結末」に至らないことを祈るばかりです。
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-93.html

PS
大阪都構想、緊縮財政、TPP、成長戦略、、、
2015年上半期に起こった日本経済の大問題を三橋貴明が徹底解説。6/10まで
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_sv.php

<島倉原からのお知らせ>
↓破滅的な結末への流れを食い止めるには、まずは1人でも多くの国民が、日本経済の真実を知ることが不可欠ではないでしょうか。
http://amzn.to/1HF6UyO

↓拙著『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』の「あらすじ」をまとめてみました。既に手に取っていただいた方にも、そうでない方にも、何らかの参考になれば幸いです。
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-94.html

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【島倉原】「景気回復」の危うい実態への2件のコメント

  1. ギガゾーン より

    >そろそろクライマックスが近いのでは…などとつい思ってしまうのですが、 そう言えば柴山先生が以前崩壊を予測していたのは、今年辺りだったような記憶が‥‥クライマックス‥‥暗い最大‥‥闇に包まれていくのでしょうか?とは言っても私はシんだも同然の生活です。 

    返信

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  2. たかゆき より

    春紅葉か、、秋紅葉か、、、彼等には落葉寸前の紅葉が若葉になる前の紅葉色に見えるのでせう。。。そう見えているんですからこれは春紅葉ではなく秋紅葉だといくら言っても信じてはもらえないかと存じます。旧日本軍の弊害は陸軍大学や海軍大学の出身者であればどんなに無能であっても降格されることなく出世できたことかと。同じことが今の高級官僚にもいえるのではないでしょうか。むかし陸軍 いま財務とならぬように「笑う山」を眺めながら祈念いたしております。

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