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2015年1月9日

【施 光恒】創造性の生まれる場所

From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学准教授

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●月刊三橋最新号のテーマは「2015年の世界と日本」。
三橋貴明が解説する「2015年」が聞けるのは、1月10日まで。

https://www.youtube.com/watch?v=eQUSqYvie2s

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おっはようございま〜す (^_^)/

先日、知人から紹介してもらった本を読んでいました。芥川賞作家で禅宗の僧侶でもある玄侑宗久(げんゆう・そうきゅう)氏の『しあわせる力──禅的幸福論』(角川SSC新書、2010年)という本です。

そのなかに面白い話がありました。「幸せ」という言葉の意味についてです。

玄侑氏によれば、和語としての「しあわせ」の言葉の起こりは奈良時代で、「為合わせ」と書いたそうです。行為の「為」を「合わせる」わけですので、私がすることと、他の誰かがすることを合わせるというのが本来の意味だということです。

「他の誰か」というのは、当初は「天」でした。天のめぐり合わせが私に合うかどうか、それが「為合わせ」だったのです。

室町時代になると、「為合わせ」の「為」という字が「仕」に代わり、「仕合せ」と書かれることが多くなってきました。それに伴って意味も変わってきました。相手が天ではなく、「人」になってきたのです。

剣道などの試合を以前は「仕合」と書きました。自分と他の人の行為を合わせて、比べることが「仕合」(試合)です。

「しあわせ」も、「仕合」と似た意味で、互いの行為や意思がうまく合わさり調和した状態、人と人との関係がうまく行く状態を指すようになりました。そしてそれが現在の「幸せ」の意味につながったというのです。

このように玄侑氏によれば、個人主義的でゼロサム的な欧米の見方とは違い、人間関係を重視する日本では、他の人々とうまく調和した状態を「しあわせ」(仕合わせ)、つまり幸福だと考えてきたのだというのです。

「しあわせ」という言葉の語源には、これ以外の説もいくつかあるようですが、なかなか面白いですね。

社会心理学(文化心理学)の研究でも、日本人は、アメリカ人と比べて、幸福を、他者との調和的関係に見出す傾向が強いという結果が得られています。玄侑氏の解釈は、人間関係を重視する日本人の心のあり方に適っており、その点でとても興味深く感じます。
(^_^)

ところで、最近、気になった記事に次のものがあります。

「起業家教育──小中学校で 政府、来年度から全国拡大」
(『毎日新聞』2015年01月05日付)
http://mainichi.jp/select/news/20150105k0000m020071000c.html

この記事によれば、来年度から、政府は、小中学生を対象とした「起業家教育」の導入を全国の学校に促す取り組みを始めるそうです。それによって「チャレンジ精神や独創性に富んだ人材を育成し、アップルやグーグルのような世界を代表する企業に飛躍するベンチャーが育つ土壌づくりを目指す」とのことです。

なぜ「起業家教育」を進めるのかといえば、記事によれば、「日本での起業が低調なこと」が背景にあり、「起業が活発な米国ではアップルやグーグル、フェイスブックなどのベンチャーが急成長を遂げ、経済をけん引している」からだそうです。

こうした「起業家教育」推進だけでなく、ご存知のとおり、政府はここ数年、起業礼賛の政策を次々と打ち出しています。「開業率を英米並みの10%に引き上げることを目指す」とか、「有望な起業家候補に、2年間の生活費援助を行う」とか、「起業しやすくする『創業特区』に福岡市を指定する」などの政策です。

私は、最近の起業礼賛の政策には嫌な感じを覚えます。

(起業偏重の近年の風潮については以前にも、当メルマガで批判したことがあります。)
【施 光恒】もう特区にうんざり
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2014/03/21/se-35/
【施 光恒】「起業バンザイ!」のウラにあるもの
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2014/04/04/se-36/

起業礼賛の風潮への批判点は、上記の過去のメルマガ記事で書いたものも含めていくつもあるのですが、ここでは二つだけ。

一つは、言うまでもないことですが、不況の原因を取り違えていることです。当メルマガの読者にはすでに「釈迦に説法」で恐縮ですが、現在の日本経済は、デフレ脱却にいまだ至っていない状態です。デフレがますます深刻化しているといってもいいかもしれません。

不況の主要因は、賃金の低下や生活見通しの悪化のため、人々がお金を使わない(使えない)状況にあることです。つまり需要不足です。ですので、政府が、起業をあおったところで、モノはそう簡単には売れません。起業の大方の試みは失敗します。

不況から脱出できない主要因は、デフレ対策をきちんと打たない政府の経済政策の誤りですが、「起業バンザイ」政策は、これをごまかそうとしているように思えてなりません。

起業礼賛の裏には、「不況の原因は、アメリカなどの欧米諸国に比べて、起業家精神や独創性に乏しく、自律性に欠けた日本文化や日本の国民性のせいだ」といった具合に、日本文化や日本人を悪者にし、政策の失敗を糊塗している面がありますので、ますます嫌になります。

もう一つは、「起業バンザイ!」の発想の背後には、「アメリカかぶれ」というか、一種の「アメリカ人みたいになりたい」「アメリカみたいな社会にしたい」という時代遅れの願望があるという点です。

具体的に言えば「創造性」の見方が、アメリカ寄りに偏ってしまっています。

以前、評論家の山崎正和氏が、ドナルド・キーン氏に触れつつ、興味深いことを書いていました。日本と欧米の詩歌に対するとらえ方の違いです(山崎正和『室町記』朝日選書、1976年)。

欧米では、詩人や作家は、しばしば孤独で天才的な隠遁者です。

例えば、アメリカの著名な女流詩人エミリー・ディキンソンは半ば今でいう「ひきこもり」でしたし、『ライ麦畑でつかまえて』のJ・D・サリンジャーも長く隠遁していました。少し前のアメリカ映画に『小説家を見つけたら』(ショーン・コネリー主演、2000年)というのがありましたが、これにもひっそりと隠れ住んでいる小説家が出てきました。

欧米の考えだと、詩歌は、神の啓示を受けて作られるので、詩人や作家は、あまり人付き合いせず、隠遁していてもいいんですね。詩歌をはじめとする芸術は、啓示を受けた個人が作るという発想です。神を背負った個人が作るといってもいいかもしれません。

他方、キーン氏は驚きをもって書いているのですが、日本の伝統では、詩歌は常に、人と人との関わりのなかで生まれると考えられてきました。和歌も俳句も、歌会や句会といったかたちで他者との関わりのなかで作られるのが基本でした。人々が集まる社交の場で作られたのです。場の雰囲気や感情を共有し、人と人とが関わり、お互いに批評し合う中で、よりよき詩歌が生まれると想定されてきたのです。

山崎氏によれば、詩歌だけではなく、お茶にしてもお花にしても、日本の芸術は、社交の場で人をもてなす中で作られるものでした。

日本と欧米のこのような相違は、芸術観の相違であると同時に、人の創造性に対する見方の違いといってもよいでしょう。

欧米では、創造性を担うのはあくまで個人です。もともとは背景に神の啓示がありましたが、世俗化されてしまった現代では神はあまり意識されず、個人の独創性がそれを担うという発想です。

この見方は、ビジネスの場では、起業家に投影されます。独創的個人である起業家が天賦の才でもってブレイクスルーを起こすという見方です。

私は、日本には、基本的にこういう見方はあまりなじまないような気がします。それよりも、日本の場合は、ビジネスに関しても、よき人間関係がある職場を作り、その職場における「知の共有」「感覚の共有」を進めてこそ、新奇な、優れたものが生まれるという発想の方が自然ではないかと思います。(以下の本などは、この発想で日本企業の創造性を分析しています。野中郁次郎、竹内弘高『知識創造企業』東洋経済新報社、1996年)。

つまり、創造的革新を生み出すには、「個人の独創性」なるものに頼るのではなく、「知の共有」が進む良き職場を作ることが大切なのではないでしょうか。そこでの人と人との相互作用のなかから新しいものが生じるのです。創造性が生まれる場所は、人と人との間なのです。こういう見方のほうが日本人にはしっくりくるのではないかと思います。

最近のように、「起業!起業!!」、「シリコンバレーみたいに、アントンプレナーシップが必要だ!!」などと言い、「アメリカのように開業率を高めるぞ!」「日本版ジョブズや、ザッカーバーグ出てこい!」と叫ぶのは、かえって日本人が創造性を鍛え、発揮する場を損なっているように思います。結果的には、日本社会から新しいものを生み出す力を奪ってしまうのではないでしょうか。

先日、竹中平蔵氏は、正社員をなくし、全部非正規にすべきだ!というようないかにも人材派遣会社の会長さんらしい発言をしたそうですが、それでは、日本人が創造性を発揮する場をなくしてしまうことにつながるんじゃないかと危惧します。

多くの日本人は、人と人との良好な関係が保たれて、幸福感を感じます。愛着の持てる職場があり、切磋琢磨し、協力し、互いに頼りにし合う仲間がいて、創造力も発揮できるのです。非正規社員ばかりの職場では、人間関係も生じにくいですし、「知の共有」もなかなかなされないでしょう。ある程度の親しさや安心感がないと、互いに批評しあうことも覚束ないのが普通です。

今年は、新自由主義というへんなイデオロギーにたぶらかされず、「アメリカみたいになりたい」という時代遅れのこともいわず、己を良く知り、常識に根差した、まともな政治が行われる年になればよいなと思います。

長々と失礼しますた…
<(_ _)>

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【施 光恒】創造性の生まれる場所への4件のコメント

  1. 日本財布論、改め、日本連帯保証人論 より

    >個人主義的でゼロサム的「個人主義」というものは、その純粋なありかたにおいては、「ゼロサム思考」からもっとも縁遠い思想ではないでしょうか。個人主義者は他人とわが身をひきくらべて、くだらない優越感にひたったり、無意味は劣等感に打ちひしがれたりはしません。したがって、他人の利得を自分の損と見做すような他者志向的で浅ましい心性など生じる余地がない。まして、件の個人主義というものが「神の前にただひとり立つ」という(おそらくは)キリスト教的なバックグラウンドを持っているとなれば、なおさらでしょう。

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  2. 神奈川県skatou より

    今週の施先生のお話、日本の不況問題について、起業や個人礼賛のベクトルで解決するのは政治的失策の、とんちんかんな上塗りというご指摘、他のメディアではこんな言及あるのでしょうか?じつに勉強になります。もし日本的な創造性が社会でのやりとりから生まれるに適しているとすれば、さいきんの高度情報化社会、専門知識も現場知識もひろく共有されやすい現代においては、「海外と競争力がある」ような気もいたします。個性を活かすならそれこそ日本らしさ、ということで・・・ただ、会社のような目的的な組織においてそのような創造性を許すにはとうぜん経営的な保護、余裕が必要でしょうし、デフレでは当然望めません。また、和を協調しすぎると新奇なものへの抵抗という問題もあるのかもしれません。家族的経営かつ新進気鋭の許容という、矛盾しそうな、でも日本なら実現しそうなカタチというのが、現場からみえてくると楽しそうですね。#これからのポストデフレ(?)で浮かび上がる企業経営者はそういうカオしてるかも??となるとますます、会社において、そんな高度な人間関係の構築には、試行錯誤的な意味でかなりの時間が必要のはずであり、ますます「雇用自由化」「正社員の否定」という方向性には首をひねりたくなります。(人事交流や異動でたまにリフレッシュ、ってのはアリだと思いますが。。)

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  3. たかゆき より

    御意♪施さまの仰せのとおりかと存じます。新自由主義の方々からは僕の有する「季節感」に共鳴するものが全く感じられません「無季」あるいは「無機」彼らの「風景」を鷹羽狩行風に詠ませていただくと、、砂漠からウスバカゲロウが一羽ほどかな

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  4. 拓三 より

    アメリカかぶれの人々はアメリカの何を視てるんやろ。ボンボンが目にする社会だけで、判断しとんやろうけど。話は変わるが、大阪の橋下はアホやと思てるけど、唯一好感持てる所があるんや。それは自分の子供に「義務教育の間は、地域のコミニテイを大切に考えて、公立に行かせている」と昔発言しとった。(今は解らんけど)一部のエリート(本物)は特別な教育受けなあかんやろうけど、今の現状は、ただの格差教育やろ。同じ家庭水準、価値観、偏差値、同じ様な人間が子供の時から(親も)村社会作って生きていくんやから、自分のポジション以外の人間の事、解らんやろ。まあ、こんな話はよく在るけど、そやけど今の政治、経済学、視てたら、『一部の世界観で物事きめるな。ボケ。』と思う今日この頃です。

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