From 藤井聡@京都大学大学院教授&内閣参謀参与
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https://www.youtube.com/user/mitsuhashipress/videos
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今回の総選挙は、「アベノミクス解散」と言われています。
「アベノミクス」と呼ばれるものは、第一(金融政策)、第二(財政政策)、第三(成長戦略)、の矢から構成されるものと言われていますが、政府が取り得る経済政策といえば、通常、この3つしかあり得ません。
なんといっても、「成長戦略」は、「経済成長を促す戦略」を意味するものですから、それは定義上、「政府が取り得る経済政策のうち、金融政策と財政政策を除いたもの全て」となるからです。
例えば、規制緩和や構造改革が成長戦略になり得るように、各種産業の振興・保護政策やインフラ整備なども、文字通りの「成長戦略」に含まれ得るものなのです。そもそも、ほとんど全ての国家における成長戦略とは、港や道路などのインフラ戦略や、新エネルギー開発などを意味しているのが実情です。
実際、政府が今年6月にとりまとめた「成長戦略」(日本再興戦略)には、リニア新幹線や高速道路などの整備もまた明記されています。
(※ http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/honbun2JP.pdfのP67)
したがって、( (X-A-B)にAとBをたせば、当然Xになりますから )、アベノミクスというものは、「経済政策」に他ならないわけです。
この意味において、総理が、
「この道しかない」
http://www.yomiuri.co.jp/election/shugiin/2014/news1/20141121-OYT1T50141.html?from=ytop_top
とおっしゃっているのは、100パーセント正しい、と筆者は考えます。なぜなら「この道=アベノミクスしかない!」という言葉は、「経済政策を行うしか無い!」とおっしゃっているに等しいからです。
したがって、「アベノミクスを否定する」ということは、「経済政策を行う事を否定する」に等しいわけであって、それは「デフレ不況をそのまま放置する」ことを意味しているのです。
そう考えますと、今日我が国はデフレ下にあり、かつ、消費増税によって深刻な経済インパクトが生じていることは誰の目にも明らかである以上、アベノミクス=経済政策をするか否かを論じていることそれ自身が、ナンセンスなのではないかと思えて参ります。
だとするなら、我々が今、論ずべきテーマは何かと言えば、アベノミクスの賛否ではなく、
「いかなるアベノミクス(経済政策)を行うのか?」
という一点に他ならないはずです。
そもそも、アベノミクスには、無限通りの異なった<アベノミクス>があります。
第三の矢の中身をどうするのか、だけでも、無限通りの<アベノミクス>があり得ます。あらゆる規制をぶっ潰していくタイプの<アベノミクス>もあれば、一つ一つの産業ごとに、適切な規制のかたちを考え是々非々で、強化、緩和、廃止、設置といった対応を図っていくというタイプの<アベノミクス>もあります。
外需獲得を中心に据えた<アベノミクス>もあれば、内需の育成を中心に据えた<アベノミクス>もあります。
成長戦略の根幹に国土計画を据えるのか、メタンハイドレートをはじめとした新エネルギー開発を据えるのかどうかによっても、全く異なったものとなります。
第二の矢に関しても、金額として2−3兆円程度にするのか、総理が2年前に決断された10兆円規模にするのか、はたまた故中川先生と麻生先生が調整された上で断行せんとした15兆円規模で打つのか、によって、全く異なった様相を呈することになります。
無論、第二の矢の財政を、何に使っていくのかによっても、<アベノミクス>はまた全然変わったものとなります。第三の矢で構想する各種項目(例えば、インフラや国土計画、エネルギー戦略など)に活用していくのか、それとも、子ども手当のような給付金を中心に活用していくのかによって、全く異なった形の<アベノミクス>ができあがることになるでしょう。
つまり、全国民の強烈な(潜在的な)願望であるところの「デフレ脱却」のためには、アベノミクスの是非を論ずること以上に、一体どの<アベノミクス>を進めるべきなのかを論ずることが必要なのです。
ついては我々日本国民は今回の総選挙にて、(比較的)適切な<アベノミクス>を論ずることができる候補者(および政党)を選び、(比較的)不適切な<アベノミクス>をイメージしている候補者(および政党)を排除していくことが必要なのではないかと思います。
日本国民がその判断において失敗することがあれば、消費税増税による深刻な経済被害を克服する事に失敗し、デフレ不況は放置され、日本国家はこれから衰弱の一途をたどることとなるでしょう。
ついては筆者は以上のような認識から、空疎な議論に日本国民の心が奪われてしまうような愚かしい状況を回避するために、そして、無限通り想定されうる<アベノミクス>の中から、最も効果的なデフレ脱却のためにあるべき<アベノミクス>のかたちを見いだす議論が活性化されることを祈念し、(ある新聞社さんの取材で)今回の解散は、
『デフレ脱却解散』
と命名することが適当ではないでしょうかと、お話いたしました。
http://www.sankei.com/west/print/141121/wst1411210068-c.html
だとすると、我々は、どのような<アベノミクス>を志向すべきなのでしょうか。。。。?
この点については、筆者は次のように考えます。
まず、第三の矢として、今、取り沙汰されている「構造改革」には、岩田日銀副総裁が明言しておられるように「デフレ促進効果」があります。
“構造改革は基本的には日本経済の総供給能力を拡大させるサプライサイド政策であり、それに見合う総需要がなければ、却ってデフレ圧力を生んでしまうという面もあります”
(https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2014/data/ko140603a1.pdfのP4)
それ以前に、第三の矢の論客である竹中平蔵氏も認めている通り、第三の矢の効果が、中長期的なものです。したがってそれは必然的に、今日の増税による深刻なリセッション(景気後退)インパクトを跳ね返すためには、活用できません。
(※ https://www.youtube.com/watch?v=EtxlX8cmt6U の5:10〜6:00頃。当方の上記意見に対して、竹中氏は「そうです。それは全くその通りです」とおっしゃっています)
だとすると、今年度から次年度にかけて、大至急なすべきアベノミクス施策は、第一と第二の矢しか残っていない、ということになります。
ただし、第一の矢は既に先日、「矢」というよりも「バズーカ」という水準でぶっ放されている状況です。そしてリフレ派の皆さんが常に主張しておられるように、そのデフレ脱却効果が生ずるとしても、そのためには「ラグ」があるそうでありますから、今、現時点において生じている増税インパクトに今年、来年という期間で対応していくために必要なアベノミクスは、残るもう一本の矢、「第二の矢」しか残されていないのではないかと、筆者には思えます。
そして、ここでは繰り返しませんが、第二の矢にデフレ脱却効果が存在することは(それに反対する学者先生達は日本では夥しい数に上りますが)、その定義からしてもデータからしても明白です。
http://blogos.com/article/92975/
・・・
以上の帰結は、筆者にとってみれば、もうこれ以上、議論を重ねるまでもなく、明々白々な自明の帰結ではないかと思われます。が、もちろん最終的なご判断は、政治家の皆様方、そして何より、国民の皆様方が下されるものであるという現実は如何ともし難いところなのですが……
いずれにしても、今回の総選挙において、
(1)適切な経済政策を論ずる多くの日本国民が立候補し、
(2)その上で多くの国民が適切な判断を下し、
(3)その結果として形成される与党内での議論が適正化され、
(4)それを通して国会での議論が健全化され、
(5)そしてそれら全てを踏まえながら、次期に誕生する新内閣にてデフレ脱却が叶う経済政策が(それが再びアベノミクスと呼ばれるものとなるなら、それをアベノミクスと呼称しつつ)精力的に展開されていきますことを……
心から祈念いたしたいと思います……
PS
日本経済は底割れへと向かうのか?
http://youtu.be/FYzYGcCtZpI
【藤井聡】一体、どの<アベノミクス>なのか?への9件のコメント
2014年11月25日 6:37 PM
アベノミクスとは、つまり安倍の経世観で御座いますから彼の現実の行動を見る限り、中身はロクでもないものなのだと思っておりますどのようなモデルであったとしても、それを用いる人間が愚物であれば機能しません
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2014年11月27日 5:41 PM
訂正いたします。総供給を下回った状物価が上がり↓総供給を下回った状態のままでも物価が上がり
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2014年11月28日 11:20 PM
「無限どおりの政策選択肢の中から効用を極大化する政策を選択する」ことは不可能ですから、これで主流派経済学が公理のような大前提として想定するホモエコノミクスは破綻します。極大化とか最適化と言う考え方は有限どおりの選択肢を前提として初めて成立するものです。 人間の認識能力と使用可能な時間からしても無限どおりどころか無数どおりの選択肢を認識することすら不可能ですから、「このくらいでいいか」という選択肢が発見されたらそれで良しとする以外にない。故ハーバ−ト サイモン博士が名づけたSATISFICING BEHAVIOR (SATISFICING=SATISFYING+SUFFICIENT)です。日本語でいう十分な満足化。このことは 故吉田民人先生がいみじくも指摘したように仮に均衡値がどこかに在しても それが満足値であるかどうかは全く別の問題であることを示しています ところが現在主流と看做されている経済学者さん達は均衡についてしか興味がないというか、限られた個数の変数間の均衡についてしか論文の大量生産は不可能なので、社会学でいう構造機能主義とか社会体系の機能的要件等の視点がまったく欠如しているのです。 そしてそれが新自由主義のイオデオロギーと結びつき、現体系下での勝ち組の論理を喧伝することになっているのだと思います。貨幣を弄くって円やす誘導したら、たとえ総需要が総供給を下回った状物価が上がり それでデフレ脱却。消費税増税しても、 消費が減退するなど考慮だにせずに掛け算で税収増になって財政均衡化するとか等等。家計や企業経営の機能的要件 そして国民経済全体の機能的要件を考慮に入れたら、予見仮説の精度はもっとあがるはずではないでしょうか。もちろん それだけでも相当複雑の論理構築が必要でしょうが、「なんてこった」と言う事態を極力さけるにはそれしかないでしょう。
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2014年11月30日 5:26 AM
●アベノミクスというものは、「経済政策」に他ならない●アベノミクスには、無限通りの異なった<アベノミクス>があるわたしの邪推が入ってるかもしれませんが、上記のことからみて、本日の記事は、「【アベノミクス】なる言葉・概念にはもはや固有の意味内容は存在しない」、言い換えると、「【アベノミクス】はかくかくしかじかの経済政策である、という具体的内容を含まない」という見立てに基づくものかなと解釈しました。 【アベノミクス】マイナス【経済政策】=無(Null) この数年間騒いできた「アベノミクス」についての死亡宣告であるとさえ感じました。
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2014年12月1日 11:17 AM
(最近何故か“官僚の反逆”を再読していました)=多数派=マクドナルド化=グローバル化=画一化=官僚制化=主流派経済理論=需要と供給は均衡するなんて考え方が根本にあるからいかんのだっ!…怒り心頭。心頭滅却。均衡を起こし、保たせるための政府じゃないんですかっ!いつまでも学者、企業家の理論に添ってるんじゃねぇよっ!すみません。支離滅裂なコメント。 考えると、昔は物が不足して貧相な生活でしたが、偏供給過剰の今は所得が不足して貧相なんですね。私は。だからって、金融界(ダム)にだけ流して(溜め込んで)どうすんだよっ!不満だけのコメントすみません。
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2014年12月1日 8:30 PM
怪我の功名。アベノミクスは今後リフレ論、すなわち金融政策中心で政策を考える事が出来らんようになったんちゃうか。高橋洋一が「増税で元に戻ったのだから、同じ事をもう一度やればいい」と言うとったんやから、もう一度15兆規模の予算組む事になるやろ。それに2年半後にまた増税するんやから、今回、財出を1年で縮小し財政の崖を作った事と増税が重なった事で最悪の結果が出たんやから、その反省をするならば、最低3年同額の財出せなあかん事になる。それに今回はリフレ派の便利グッツ『タイムラグ』が使う事が出来らんやろ。なんせ2年半後に増税決まってんやから。(効果が出るのに、2〜3年かかるのだそうです)口が裂けても「増税のせいだ」と言うわんでしょ。笑本当ならば長期計画で国土強靭化を推進せなあかんとこやけど、まだ今の段階では、デフレを確実に脱却するには『財政政策だ』と言う事を現実にそして国民に理解させる事が今の現状なんやろな。
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2014年12月3日 12:31 PM
>いかなるアベノミクス(経済政策)を行うのか? いかなる経済政策を念頭に(傾いて)話されていたのか、脳髄が感嘆にスキャンできると解かりやすいのですけど。とは言っても、脳髄は一個ではないですもんね。・・・数と力の論理になるのか?
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2014年12月4日 7:47 AM
ダルマさんが転んだ♪ダルマさんという名のアクノミクスが転んだのですから、、全てをfreeze動かせてはなりません。。。何もしないのも させないのも場合によっては最善の策かと存じます晋三とかいう悪に弄らせれば弄らせるほど悪くなるのは明白ここは何も決められない政治を大いに実行していただけるよう清き一票を行使する所存でございます。
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2014年12月6日 7:07 AM
>>一つ一つの産業ごとに、適切な規制のかたちを考え是々非々で、強化、緩和、廃止、設置といった対応を図っていくというタイプの<アベノミクス>もあります。この、この、バランス感なのどすわよ。アメ総理に求めておりまんのわ。
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