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2014年7月13日

【平松禎史】霧につつまれたハリネズミのつぶやき:第四話

From 平松禎史(アニメーター/演出家)

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●●マスコミが報じない不都合な真実とは
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_sv2.php

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◯オープニング
暑いですね。
書いている今は梅雨の只中で、台風8号が九州から上陸して日本列島を縦断しているところで、被害が出ないよう祈りつつ。

台風、大雨、大雪、地震、津波、火山の噴火… 二次的な土砂崩れ、農作物への影響などなど。
日本人にとって、民や国土を守ることとは、ほとんど自然災害からどうやって守るのか、ということでした。
「日本人、日本国民」という概念のない時代から、毎年・毎季節にやって来る「外敵」…厳しい自然…と向き合って、山の木々を増やしたり種類を工夫したり、河の流れを変えたり新しい支流を作ったり、猫の額のように小さな平地を整え、被害を最小にする取組みを数千年も続けてきたわけです。
「日本の自然」は元々今の形があったわけでなく、民を守り将来の子孫を守るため、より多くの実りを得るために日本人が数千年かけて改良し作り出したもの、なんですよね。
そんな風に生きてきた日本人にとって、自然そのものを表す八百万の神々は「おかげさま」と感謝する時の共通の財産なのだと思います。

様々なことで、修繕や改変によって普遍性…共通の財産…を得ることがあり得ます。

第四話『「フィンランドは目覚める」と「フィンランディア」』

◯Aパート
今回はクラシック音楽のお話です。(楽曲解釈については思いっきりボクの主観が入っていることをご了承下さいませ。)
ボクはフィンランドの作曲家ジャン・シベリウスが大好き。
好きな作曲家を三人挙げよと言われたら、シベリウス、ブルックナー、J.S.バッハと即答です。

フィンランドがロシア帝国の一部だった頃にシベリウスは作曲家になりました。
その中で、有名な音詩「フィンランディア」が生まれました。
「ダイ・ハード2」や「牧場の少女カトリ」で使われたことでも有名ですね。

まずは簡単にシベリウス登場までの流れを。
クラシック音楽には、神に捧げる音楽…宮廷音楽…革命の時代…民衆への浸透から広くヨーロッパへの拡大と民衆文化の逆流…私小説的な音楽… 20世紀までには大雑把にこのような流れがあります。

19世紀中頃から、皆さんも音楽教育で習ったことのある「国民楽派」という音楽が起こります。
帝国主義の時代、イギリス、フランス、ドイツ(プロイセン)、ロシアという強大な帝国の力によるグローバル化に危機感を覚えた国の人々は、自らのアイデンティティを確認し、表現しようとする気持ちが高まったのだろうと思います。
国民主義=ナショナリズムですね。

その音楽的な動きが「国民楽派」です。
有名どころでは、東欧のドヴォルザーク、スメタナ。ロシアのムソルグスキー、ボロディンなど「ロシア五人組」。北欧ではゲーゼ、ニルセン、ペッテション=ベリエルなどが活躍しました。

フィンランドの代表格はなんと言ってもジャン・シベリウスです。
日本が欧米と対峙するために成した明治維新の3年前、1865年生まれです。
来年はシベリウス生誕150周年にあたります。

_ _ _

フィンランドは、19世紀までに、スウェーデンと一体だった時代を経てロシア帝国に編入された経緯があります。
1849年に、言語学者のエリアス・リョンロート博士が口伝されていた民間伝承を「カレワラ」としてまとめて発刊したのを契機に、フィンランド人の愛国心が高まっていきます。
そして、1899年にロシアのニコライ2世の二月詔書にフィンランド自治権廃止宣言が含まれていたため、ついに暴動が発生するまでになりました。

この頃、「クッレルヴォ交響曲」、「レンミンケイネン組曲」、劇音楽「カレリア」などで頭角を現していたシベリウスは、ロシア当局によって弾圧されていた言論を守るために企画された音楽劇の依頼を受けます。
それが「報道の日のための音楽」です。
フィンランド語で”Musiikkia Sanomalehdiston p?ivien juhlan?yt?nt??n”
英語では”Press Celebrations Music”
日本語訳は「新聞社主催による歴史劇」「新聞祭典の催しの活人画のための音楽」「報道の日祝賀演奏会のための音楽」「新聞祭典の音楽」「愛国歴史劇」…いろいろあります。

音楽の実体がつかみにくいタイトルなので邦訳にも混乱が見られますね。
ロシア当局がフィンランド人の愛国心を警戒していたために、この音楽劇は度々演奏禁止されましたが、体制に抵抗する人々は様々なタイトルに変えて演奏し続けたのです
20世紀風に言えば「ロック」ですね。
隠れ蓑を纏いやすいように、特定のわかりやすいタイトルを付けなかったのだと思います。

この投稿では、シベリウスの音楽を熱心に録音しているBISレーベルの日本語訳に準じて「報道の日のための音楽」と記します。
比較的言いやすいですしね。

_ _ _

「報道の日のための音楽」は序曲と7つの音楽からなっています。
その終曲が、「フィンランドは目覚める」で、シベリウスの音楽で最も有名と言って良い音詩「フィンランディア」の原曲です。

◯中CM
「フィンランディア」の一般的な解説は、近年は「報道の日のための音楽」が知られるようになったためか、「戦争の悲惨さ」「平和を壊す戦争は怖いもの」という(まったくその通りではありますが)感傷的な一面に偏ったものは減っているように思います。
それでも、圧政からの開放がフィンランド国民の意志、行動で得られたもの、という認識がやや薄いかな?と思わざるを得ない感想も、ネット上を検索すると出てきます。
戦後教育では平和は元からあるもののように思いがちで、それを壊すのは外敵ではなくて「国家や政府」だと教えこまれてしまっています。

デンマークの作曲家カール・ニルセンが第一次世界大戦の最中に作曲した交響曲第4番には、作曲者自身が付けた「滅ぼし得ざるもの」というタイトルが付いています。
以前は「不滅」が流通していましたが、原語により忠実なのは「滅ぼし得ざるもの」だそうです。
両者は似ているようで違いますよね。
たとえば対象が「平和」だとしても「国家」だとしても、「滅びないもの(不滅)」と表現するか、「滅ぼすことができないもの(滅ぼし得ざるもの)」と表現するかでは、態度というか姿勢というか、込められた覚悟がまったく違います。

音楽をどう聴こうが聴き手の自由ですが、作曲者の意図が何だったのかを踏まえないのでは主観に偏ってしまうと思います。
特に19世紀後半から20世紀の音楽は、少なからず戦争や各国の置かれた政治的な状況が影を落としていますから、その国の歴史や事情を踏まえて聴いてみると、自分が持っている先入観や固定観念の枠を越えて、聴こえてくる音楽はもっと深々と響いてくると思います。

とはいえ、時が立つにつれ作曲者や発表された当時の受け取り方から離れて変化していくことは往々にしてあります。
言葉もそうですね。
そういうものかもしれませんが、時々生まれた当時や元々の意味を振り返ってみると新しい発見があります。

◯Bパート
「報道の日のための音楽」の終曲として書かれた「フィンランドは目覚める」とその翌年に演奏会用に編曲された現在聴かれている「フィンランディア」では、大きく異るところがあります。

実は、そこが今回のキモです。
実際に聴き比べていただくのが一番確実ですし、余計な説明もいらないのですが(「フィンランドは目覚める」は録音が非常に少ないので…)、がんばって文字で書いてみようと思います。

「フィンランディア」は物語性のある音楽です。
Tone poemとあるように、音による詩…「音詩」という音楽形式は、フランツ・リストが生み出したSymphonic Poem「交響詩」から連なるもので、例えば原作付きの映画やアニメのように元となる物語があったり、作曲者自身が物語を想定したものだったりします。
シベリウスの「音詩」は「カレワラ」に材をとったものが多いのですが、「フィンランディア」はフィンランドの歴史と国民の意志が主役の物語です。

原曲と編曲された現行版。二つの曲を言葉で表すとこうなると思います。
「フィンランドは目覚める」…祖国の歴史を踏まえ、独立を手にするために我々はどうするべきか?
「フィンランディア」…祖国の歴史を踏まえ、独立を手にして尚我々が忘れてはいけないものは何か?

「フィンランドは目覚める」の方は短期的で、多分に主観的です。
「フィンランディア」の方は長期的で、普遍性を持ち得る可能性があるように読めませんか?

_ _ _

「フィンランディア」の物語を場面ごとに書き表すと、おおむねこの通り。
・力による圧政が強まる。
・苦しみ悲観する人々。
・遠くから闘争する人々の(意志を象徴するものとしての)銃声が聞こえ、次第に広がり大きくなる。
・ついにフィンランド国民の闘争が始まる。
・「フィンランディア讃歌」我々が守りたいものとは何か。
・人々の闘争は決して折れることなく続く。
*圧政を退けて尚、将来も祖国を守りぬく決意。平和の祈り。

最初の形「フィンランドは目覚める」では「*」の場面がありません。
現在進行形の他人事でない状況を共有する締めくくりになっています。
たくさんの銃声のように聞こえる金管楽器の「タ タタタタ タタッタ!」が繰り返されて閉じるのです。
独立を勝ち取るまで闘う!という決意が強く現れています。

フィンランドの人々にある程度認知された後、シベリウスはより多くの人々に聴いてもらえるよう、演奏会で単発で演奏できるように編曲を施して「フィンランディア」を作りました。
ここで「*」の場面が加わります。
「フィンランディア讃歌」の静かなメロディが回帰して、金管楽器を中心に壮大に奏されて曲を閉じます。

この改変が「フィンランディア」をフィンランド人だけでなく、世界中の多くの人々の共感を得る音楽にしたのだと思います。

_ _ _

ここからは完全にボクの解釈で、曲をご存知でないと理解し辛いと思いますがどんどん行きます。
人々の闘争が始まる場面でティンパニが奏する山型を成す5つの音が、行進曲調の闘争場面に受け継がれて低音で繰り返されています。
現代風に言えば「リフ」のように。

シベリウスはティンパニを大気や大地の響きのように用いました。
太鼓は元々祈りの儀式から生まれているそうですから、人間の根源的なところに響くものとしてアフリカに始まって世界中で共有されていますね。
ティンパニ(太鼓)で示された5つの音、祈りの音、「大地のテーマ」に人々の生き様が乗っかっているように感じます。

ボクはこの5つの音を、勝手に「大地のテーマ」と呼んでいるんですが、現行版「フィンランディア」を締めくくる5つの音はこれに酷似しています。
「フィンランドは目覚める」では高揚感のある上昇音形に変形されていた「大地のテーマ」が、「フィンランディア」への編曲で、元の形に近づけられて締めくくられています。

瞬間的に高ぶった気持ちを鎮めて、もっともっと深いところへ刻み込もうとしているように聴こえます

_ _ _

フィンランド叙事詩「カレワラ」には天地創造の物語があります。要約するとこんな感じです。
イルマタル(大気の乙女)という処女が混沌の中を彷徨う中、風によって子を宿す。
何年お腹にいたのかわからないほど経って、鴨がイルマタルの膝に卵を産み、その卵が空や太陽や大地を造る。
そして、ようやくイルマタルの子、勇ましい詩人ヴァイナモイネンが生まれる。

…カレワラにはたくさんの英雄が出てきます。
ギリシャ神話との関連も指摘されますが、日本の八百万の神々とも似ているように思います。

民主主義は、神々と土地を大切にすることを第一として人々が協力しあって生きていく考え方に始祖があったそうです。
ギリシャ時代の話。

命を育む土地を大切に思う気持ちが太古の人々から受け継がれて、「大地のテーマ」は「フィンランドは目覚める」の闘争のテーマを支える通奏低音となりました。
その時代の人々が共有する闘争のテーマが勝っていた「フィンランドは目覚める」から編曲されて、「フィンランディア」では「讃歌」に続いて太古からの共有財産「大地のテーマ」が上位に来て締めくくる。
そう考えると、とても示唆的だと思います。

土地とそこに住む人々。
代々受け継がれる歴史、文化。

どこの国であれ大切なもので、維持継承しようとしなければ滅びかねないものです。不滅ではありません。
決して、交換したり、他方に合わせたり、世界共通にしようとか、あまつさえ力によって強要したりされたりしてはいけないものです

シベリウスの音詩「フィンランディア」はドラマティックな祈りの音楽で、現代の私たちにも様々な示唆を与えてくれる音楽なのです。

◯エンディング
癖、と言うのは「無くて七癖」とか言われるように、自分では無いと思っても人から見たらしっかり癖があるとわかるものだそうです。

作曲家の作風にも、どんな意味があるのかわからないけど、よく現れる癖のようなものがあります。
シベリウスでは、伴奏に後打ちで同じ音を繰り返す音形がよく出てきます。
「フィンランディア」でも闘争のシーンのシンバルや最後のフィンランディア讃歌の伴奏で弦楽器が「・タータータータ」と半拍ズレたリズムを繰り返します。

このリズムは、交響曲第7番のラストでは主役となって最も印象的で圧倒的な存在感を示します。
それがどういう意味なのか明確にはわかりませんが大好きです。
半拍うしろにズレているので前のめりな感じはない。むしろ手探り足探りで進んでいく感じが強い。
「これだ!」と割り切れない感覚が、(生誕から150年後になって)今の時代にも合うように思います。

ちょっとブルックナー風でもありますね。ともに影響を受けているワーグナー、そのずっと先輩のJ.S.バッハまで遡ることができそうです。

自分の絵や、演出は個性がないと思ってるんですが、人からは癖があると言われます。理屈でやっていないところは自分ではわからないんですよね。
手に染みこむまで見てきた大先輩の仕事を、いつの間にか受け継いでいるのかもしれません。だとしたら良いんですが…。
親の仕草をいつの間にか自分もやっていると人から言われて気が付くような感じでしょうか?

自然と受け継がれていくことに大切なことが潜んでいるんですね。

kiitos!

◯後CM1
最後までお読みいただきまして、ありがとうございます!

さかき漣先生とのコラボ企画、鋭意制作中!!
実は、これを書いてる途中で大きな進展がありました。
音楽方面なんですが、もうニヤニヤが止まりません。
プレッシャーがうなぎ登りです。土用の丑の日も間近!
お楽しみに!

◯後CM2
音楽や映画などの情報発信やイベント主催を活発に行っている「ロッキング・オン」が立ち上げたコラボTシャツブランド「Rockin’ star」から「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」のコラボTシャツシリーズが発売中。
アスカ・レイ・マリの3種ともイラストは私、平松禎史が描いております。
http://rockinstar.jp/products/248/
http://rockinstar.jp/products/212/
http://rockinstar.jp/products/268/

◯後CM3
シベリウスの殆どの音楽は、BISレーベルより発売の「シベリウス・エディション」で聴くことができます。
この全13巻69枚のBOXセットには、嬉しいことにオリジナルの輸入盤にも日本語の解説が付いているのです!
今回取り上げた「フィンランドは目覚める」は第8巻。音詩「フィンランディア」は第1巻に収録。
バラ売りもあります。
全て名曲揃いですよ!

◯おまけ
拙ブログ Tempo rubato :_http://ameblo.jp/tadashi-hiramatz/
FaceBookページ https://www.facebook.com/tempoprimohiramatz

PS
7月13日(日)テレビ朝日「サンデースクランブル」に三橋貴明が出演します。
(恐らく12時過ぎの登場です)
http://www.tv-asahi.co.jp/sundayscramble/

PPS
グローバル経済の優等生・韓国が陥った罠とは?
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_sv2.php

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【平松禎史】霧につつまれたハリネズミのつぶやき:第四話への3件のコメント

  1. kirihana より

    シベリウスのお話、とても勉強になりました。彼の音楽を聴いていると、その神秘的な北欧の風景とともに、同時代の、さまざまな国の挿絵画家の絵などが想起されてきます。イヴァン・ビリビンカール・ラーションテオドール・キッテルセンヨン・バウエル某チャンネルでは、日本の自然信仰は西欧と違って特別なんだといった言説をよく耳にしますが、それはとんでもない間違いです。彼らの自然に対する感覚もまた、日本人のそれと同様の繊細さを持ち合わせているように思います。

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  2. 平松禎史 より

    すみません。ウムラウト付きのフィンランド語が化けてしまいました。以後注意します。

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  3. poti より

    嗚呼、偉大なるかな北欧のかの国。知らざるものは音に聞け。勇者達の勲を。我は希うなり、彼方の如く己らを突き詰める意思を。世をうろつき、諸々の悪徳に飲まれるとも。願いを捨てず、未来を捨てず、理想を捨てず。終には果たし、勇名を語られる英雄を。我は忘れじ、マンネルヘイムの英名を。冬戦争の偉大さを。天地は人々を忘れ、富に淫するとも。我は見えざるを求め、かつ履行される事を願い続けよう。

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