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2015年10月16日

【施 光恒】デフレ下で金を使わせる方法

From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

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●上海株バブルの真実!? 不況が原因??
●日本人が見なおすべき”株価”の読み方とは?
●中国人の爆買いに隠された心理状態?

詳しくはこちらの【無料】ビデオで…

https://youtu.be/iGKatGagXaY

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おっはようございま〜す(^_^)/

先日、地元・福岡の某テレビ局からコメントを求められました。福岡市が起業を応援するために開設した「スタートアップカフェ」が一周年を迎えるので、それについてコメントしてほしいということでした。

以前、このメルマガや新聞のコラムで、開業率アップを目標とする福岡市の試みについて、批判的意見を書いたことがありますので、そういう依頼が来たのでしょう。

現在、起業をあおり、開業率アップを図るというのが、行政のブームみたいですね。国も「成長戦略」の一環として開業率向上やベンチャー支援を目標の一つに挙げています。福岡市は、国家戦略特区構想に選ばれ、起業の多い街づくりを目指すということで「創業特区」を掲げています。具体的には、平成30年までに開業率13%(現在の倍)の達成を目指しています。

しかし私は、こうした国や福岡市の施策に疑問を感じています。

現在は、まだデフレ脱却にいたっていません。賃金の低下や雇用の不安定化のため、多くの人々は、将来の見通しが立たず、お金を安心して使えない状況にあります。そのため、需要不足が慢性化し、デフレ不況に陥っています。

実際、大企業でさえ、よい投資先を見つけ出せないため、利益を再投資せず、内部留保としてため込まざるを得ない状況です。ここ数年、日本企業の内部留保は、毎年、史上最高額を更新しています。

「企業の内部留保、最大313兆円−4―6月法人企業統計」(『日刊工業新聞』2014年9月2日付)
http://www.nikkan.co.jp/news/nkx1520140902abav.html

つまり大企業でさえ、国内市場の現状は、投資機会が見つけにくく、稼ぎにくいと判断しています。

それなのに、福岡市をはじめとする近年の行政は、「スタートアップ」「創業」「アントレプレナーシップ」「インキュベーション」「第二のゲイツ、ジョブズを目指せ!」などという意識高い系(?)の言葉をしばしばならべ、素人の起業をあおります。
ヾ(`・∀・_)ノ イノベーション!!

デフレ不況の市場で起業しても、おそらく多くは失敗に終わります。行政が不況のときに起業を奨励するのは少々無責任ではないでしょうか。事業に失敗し、借金を背負い途方に暮れる人を数多く生み出すわけですから。

意地悪にとらえれば、デフレ不況にもかかわらず、国や自治体が起業を奨励するのは、本来ならば、政府が財政を拡大し、適切な公共投資をしなければならないのに、新自由主義のドグマにとらわれているため、それをしないからかもしれません。

つまり、本来、政府が公共投資を行い、とにもかくにも景気回復をはかるべきなのに、そうせず、「スタートアップ」などの甘言を弄して、民間人(商売慣れしていない素人も少なくありません)に投資を肩代わりさせているわけです。なんかインチキくさいですよね。

そもそも、デフレ不況のときは、民間の企業や個人は、合理的に考えれば、お金をなるべく使おうとしません。タンス預金しておくことが一番合理的なのです。デフレのときに支出を増やし、経済を再び稼働させるきっかけを作る主体は政府しかありえません。

ですが、新自由主義は、「小さな政府」を標榜し、緊縮財政を旨としますので、不況時でも財政拡大による景気刺激策に消極的です。

その代り、新自由主義の影響下にある政府は、さまざまな、あまり真っ当ではない手法を使って民間に金を使わせようとします。

起業を礼賛し、「開業率」アップを目標として設定するという手法以外にも、いくつかあります。

例えば、デフレ不況下でも稼ぎやすい領域、つまりエネルギーや医療、食(農業)、教育、雇用(労働)などの国民生活の基盤にあたる領域の規制を緩和・撤廃することにより、ビジネスに開放するという手法です。

例えば、安倍首相は、こうした領域の「岩盤規制」を「私自身がドリルの刃になって打ち抜いていく」と繰り返し演説しています。

「「最大の挑戦は経済」=米投資家にアベノミクスPR−安倍首相」『時事ドットコム』(2015年9月29日配信)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201509/2015092900998

エネルギーや医療、食(農業)、教育、雇用(労働)などの領域は日常生活を送るのに必要不可欠なので、人々は、不況であってもお金を使います。したがって、この領域は、不況下であっても確実に稼げる、ビジネスの観点からすれば、大変オイシイ領域なのです。

新自由主義は、この領域を自由化し、民間(外資含む)からの投資を呼び込もうとします。しかし当然ながら、これもあまり真っ当な政策とは言えません。

エネルギーや医療、食(農業)、教育、雇用(労働)などの分野は、直接的に市場原理を導入することは望ましくないと長らく考えられてきた領域です。いわゆる「社会権的基本権」を人々に確保するために、市場原理に直接は任せず、政府が規制・監督するようにしようと徐々に定められてきた経緯があります。

そうした経緯を軽視し、ここを市場化してしまえば、国民生活の基盤が大きく揺らぐのはまず間違いありません。

デフレ下で一般の人々にお金を使わせる他の手法として、カジノの設置も挙げられます。

デフレ下では合理的な人はあまりお金をつかわないものですが、カジノのような中毒性のあるものであれば、合理的判断とは関係ありません。カジノでは、なかばギャンブル中毒と化した人々が多額の金を落としてくれます。

カジノというと抵抗も多いので「統合型リゾート」と最近では言うようですが、これもデフレ不況下で人々に金を使わせる、真っ当ではない手法にほかなりません。

年金積立金のような公金を株式市場に送り込み、株高を演出するというのも、民間人(この場合は株の売買ができる恵まれた層に限られますが)に金を使わせる手法の一つでしょう。

また、移民や外国人労働者を引き込むというのも、需要を増やす有力な方法だと言えます。

起業礼賛、社会的インフラの市場開放(「岩盤規制の打破」)、カジノの設置、年金積立金の株式市場への投入による株高の演出、移民や外国人労働者の受け入れなど、どれも無理がある、少々インチキくさい手法に思えます。人々の安定した生活を脅かし、中・長期的に見れば国民経済を毀損する恐れのある手法です。

デフレ不況下では、本来、政府以外の経済主体はお金を使わないのが一番合理的であるのに、それをごまかし、人々に金を使わせ、需要不足を強引に補うために、政府は、真っ当さを失いつつあるのではないでしょう。

こういうインチキくさい政策を用いるのではなく、やはり政府が公共投資や雇用対策をきちんと行い、社会的インフラの整備や補修をし、人々の生活の安定化を図りつつ、デフレギャップを埋める、そして個人や企業が合理的判断に基づき、安心して継続的に金を使おうという気になる環境を作る。そうした真っ当な道を歩むべきでしょう。

行政が、デフレ不況下にもかかわらず、素人をそそのかしてベンチャーの時代だからスタートアップカフェで人材マッチング!とか言っていたり、首相自らが国民の「社会権的基本権」の基盤を削るためのドリルになるゾ!とか演説したり、議員の多くがカジノは新しいエンターテイメント!とか口にしたりしているのを聞くと、なんか亡国のときが近づいてきているように感じます…
(-_-;)

長々と失礼しますた<(_ _)>

—メルマガ発行者よりおすすめ—

上海株バブルの真実… 不況が株価を引き上げる??
https://youtu.be/iGKatGagXaY

——————————

〈施 光恒からのお知らせ〉
●10月24日(土曜日) 13時〜14時半に、東京・新宿の朝日カルチャーセンターで拙著『英語化は愚民化』(集英社新書)関連の講座を開催します。
「英語化政策から考えるグローバル化と日本のナショナリティ」
ぜひお越しください。(詳しくは下記のリンク↓をご覧ください)
https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/6d887ac1-ca23-4669-5bb5-55b0a98561f3

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【施 光恒】デフレ下で金を使わせる方法への8件のコメント

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  2. ねこ より

    「乳用牛のベストパフォーマンスを実現するために」平成27年8月に出された識者会議のパンフレットです。これを見ても、以前より乳牛の供用期間が短縮していることが前文に書かれており、新生仔牛の死亡率が北海道で高く、その後も本州よりも北海道のほうが、若年での乳牛死亡率が高いことが資料グラフより読み取れます。本州の小さな酪農家を減らして、北海道などで大規模酪農家を奨励するという、行政方針があったようですが、既に一般社会にも、バター不足という悪影響が出ていることからも分かるように、その行政方針は、うまくいっていないと、思われます。生産地では、さらに悲惨と感じられることが、起こっているようです。関係者が、知恵を絞ってなんとかしなければいけないところで、上記のパンフレットも、そのひとつだと思います。

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  3. ねこ より

    輸入モンの浮足立ったボーイズビーアンビシャスより、これから日本人は、土の中の細菌のおかげといわれる大村先生を、お手本とするべきと思います。

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  4. ねこ より

    北海道酪農地帯で、農家が疲弊しているそうです。行政方針に従って、大規模化したところでも、思うほど収入が増えず、国の方針に従ったのが間違いだった、と言う酪農家が、意識高い人たちの中からも出ているようです。なかなか音をあげなさそうなプライド高い人たちの血を吐くような吐露が、見ていましても辛いです。今までより労働が増えて、農家の人々が疲弊して、地域の過疎が進んでいるということを、牛を診る獣医さんが書かれています。物言えぬ牛にしわ寄せが来て、牛の寿命が縮んでいるそうです。農家の人たちの命も削られると、その獣医さんは警告されています。現実離れしたアメリカンドリーミーなポパイ的スーパーマン願望の新自由主義に、軽率に行政住民とも乗ってしまった悪夢のようだと、思います。実際に、たくさん乳を出す牛を、スーパーカウ、と呼ぶそうです。それらは巡って、昨今のバター不足になっています。北海道はクラーク博士、札幌農学校北大から官民とも元々アメリカンびいき、動物も大きいことはいいことだ的、素地があったのも、その要因のひとつだと思います。これからは現実離れしたアメリカンドリーミーなどに目くらましされず、私たちは現実の足元をよく見ることが大事だと思います。

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  5. メイ より

     政治が率先して企業を煽るというのは、本当におかしなことですね。 こんな空気の中では、じっくり考える猶予が無いかのように錯覚して、流されるように起業する方が出て来てしまうかもしれませんね。 若者が「ぐずぐずしていたら置いて行かれて、チャンスを逃してしまうのではないか」というような焦りを感じてしまうのかもしれません。 「時流に乗り遅れてはいけない」という空気の中で、皆で一緒に間違った時流に乗る事もあると思います。 あるいは就職先が見つからず、いっそのこと企業に踏み切ろう、という方もいらっしゃるかもしれません。 でも、景気は良くなっていませんし、リスクは高い気が致します。失敗しても、誰も責任は取ってくれないですから。それどころか、大きな責任や借金を背負い込んで、残りの人生は返済に追われる事もあると思いますから、そういったリスクを想定せずに安易に賭けに出るのは危険な事ですね。 人に夢ばかりみせて、ワクワクを煽る政治家の方は、失礼かもしれませんが、やはり、無責任と言わなければならないのでは・・。

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  6. ななし より

     日本国は貨幣を発行している。発行した貨幣は市場に流れていない。つまり…どこかに「カネの墓場」があるんですよね?日銀がそうなんですか?円を発行するだけして、日銀に積んでおく…意味が解りません…。偉い人()には意味が解ってるんでしょうか?解ってなくっちゃ困りますよね。 人とカネに暇を出しておいて、何をしようっていうんでしょう?解らないです…。

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  7. エクサゾーン より

    >開業率アップを図るというのが、行政のブーム 反対に田舎(奇しくも福岡圏内)の街では既に大規模民間企業も比較的小さい規模のチェーン店は閉鎖の方向が見受けられます。効率化の波紋が拡がるばかりです。統廃合、雇用縮・減少の方向に突き進んでいます (これって公を民思考でぶっ壊す大阪都構想と同じモノ(デフレ助長)と思えてなりません)。その流れ(デフレ蔓延)の中で特区構想(あるいわ抗争)を進めることは、東京のみならぬ多極であろうともその地域毎の一極集中にしかならず、過疎地を更に過疎に推し進めることにしかならないのではないでしょうか。 地方財政的にはインフラの見直し的な雰囲気も見受けられ、地方だけで頑張ってもマクロ・政府が補正的なモノだけでは元の木阿弥になりそうな気がしてなりません。今日もおかずは、3切れの沢庵、にしようと思います。

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  8. 學天測 より

    う〜ん。東京五輪は東京だけですが、ラグビーワールドカップは日本全国で開催されますね。ラグビーが盛り上がってますので、そこに乗じて必要なものを作らんと世界に恥かくと脅すしかないような・・・。

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