From 柴山桂太@滋賀大学准教授
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ウクライナ情勢について、思うところを2、3点ほど。
まず、この問題の背後には、ウクライナの厳しい経済事情があります。成長率はこの二年、ゼロに近い状態です。
(成長率のデータ)http://ecodb.net/country/UA/imf_growth.html
冷戦終結後、ウクライナは激しい経済崩壊に見舞われます。(1994年の成長率はなんとマイナス22.77%)。その後、2000年代に入って輸出主導の成長を達成しますが、リーマンショックによって再び墜落(2009年の成長率はマイナス14.8%)。
経済崩壊の後で、急激な上昇、そして再び落下というジェットコースターのような道のりを歩んできたわけです。
多くの新興国と同様、ウクライナも経常収支と財政収支の赤字、いわゆる「双子の赤字」に苦しんでいます。
(経常収支)http://ecodb.net/country/UA/imf_bca.html
(財政収支)http://ecodb.net/country/UA/imf_ggxcnl.html
国にお金がない状態ですから、対外債務もふくれあがります。報道によると、対外債務はGDPの約80%。外貨準備の10倍にも及んでいます。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM2704W_Y4A220C1EB1000/
EUやIMFが支援を申し出ていますが、当然、緊縮財政や社会保障プログラムの削減が条件となります。かりに支援を取り付けたとしても、経済が猛烈に引き締められますので、新政権がもたなくなる可能性が大です。親ロシア派が、「やっぱりロシアに頼るべきだった」と言いだし、再び政治情勢が混乱することになるでしょう。
もしウクライナが国家破産をすると、ウクライナ国債を大量に保有している欧州の金融機関に悪影響が出ます。天然ガスのパイプラインの問題もありますので、欧州としては軍事衝突のような事態は絶対に避けたいところだと思います。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM2300Z_T20C14A2FF8000/
ウクライナでいま起きているのは、これまでメルマガにも書いてきた、「危機の第三幕」を象徴する出来事です。経済危機がアメリカ、欧州ときて、新興国にまで波及すると、危機の次元が経済から政治や国際政治の次元に移行する、というのが私の見立てでした。とりわけウクライナのように、地政学的な緊張をはらんだ地域では、大国が介入してくる(せざるをえない)ので、危機の深刻さが一気に上昇します。
今回、軍事衝突は避けられるかもしれませんが、ウクライナの厳しい経済事情を考えると、かりにIMFによる支援を取り付けても、いずれ同じような問題が起きるものと思われます。経済危機に見舞われて、かつ地政学的な緊張をはらんだ新興国はほかにも多数あります。大国政治の緊迫度は、これから上がることはあっても、下がることはないでしょう。
したがって、米欧主導でウクライナを救済するのであれば、まずは欧州やIMFが融資条件は緩めるところから始めなければならないと思います。
もう一つ、ウクライナ問題で感じたことがあります。それは、S・ハンチントンの予測が的中しているのではないか、ということです。
ハンチントンが1993年に発表した「文明の衝突」は、冷戦後の世界情勢の見取り図として、一時期日本でも大きな話題となりました。冷戦によるイデオロギー対立が終わり、文化や文明をめぐる「アイデンティティ」(自分たちは何者であるか、という認識)の対立が、国際政治の大きな動力となる、という仮説です。
ハンチントンの文明分類が雑だったこと(世界が8つの文明に分かれる?)や、冷戦終結後の平和的な気分を乱すものであったこと、文化の違いを本質的な違いと捉えすぎているということなどの理由で、当時からずいぶん批判されていました。
それらの批判には、的を得たものもあります(私も、ハンチントンの文化・文明分類は雑だと思いますし、国際政治における経済要因を過小評価していると思います)が、将来予測という点だけを取り出すと、当たっているものが多いと言わざるを得ません。民族紛争の増加や、イスラームの過激派による大規模テロの予測などは、その最たるものと言えるでしょう。
ハンチントンは、予測を重視した学者で、本人も「理論の妥当性や有用性をはかる重要な試金石となるのは、そこから引き出される予測が他の理論に比べてどの程度正確か、という点だ」と述べていました。(『文明の衝突』)
ハンチントンは、今後の国際政治を予測する上で、「引き裂かれた国家」に注目すべきだと言っていました。国内外に文化・文明の「フォルトライン(断層線)」を抱え、2つの引力に引っ張られている国々です。そうした国家の典型としてハンチントンがあげたのが、ウクライナでした。ロシアと西欧の「フォルトライン」を国内に抱え込んでいるからです。
ウクライナだけではありません。ハンチントンはロシアも、「引き裂かれた国家」だと述べています。ほかにも、西欧とイスラームの交差点であるトルコや、アメリカと南米の交差点であるメキシコ、そしてロシア、中国、西欧、日本の影響力が交錯する朝鮮半島の動きにも、注目していました。また後には、アメリカの人種的分裂についても懸念を表明していました。(『分裂するアメリカ』)
ハンチントンの「文明の衝突」は、文明の衝突をあおるものというよりも、冷戦後の「アイデンティティ・ポリティクス」の復活という視点に基づく現実的な予測に力点が置かれていました。ハンチントンの理論には不満もありますが、彼の予測は、今の混乱を見る限り、当たっているのでは、と思わざるを得ません。
東アジアでも大国の対立が激しくなっていますが、ハンチントンの予測に従うなら、震源地となるのは朝鮮半島となるでしょう。北朝鮮の経済状態は相当深刻と思われます。
ウクライナで起きている事態と似たようなことが、これから東アジアで起きたとしても、決して不思議ではないのです。
PS
東アジアの悲惨な現実を知るなら、この動画が参考になるはずです。
「韓国経済の悲惨な現実」
http://www.youtube.com/watch?v=cJ5ZkH04hwE
「中国リスク再検証」
http://www.youtube.com/watch?v=IZ8B1f1g7Kc
【柴山桂太】引き裂かれた国家への2件のコメント
2014年3月7日 12:58 AM
金の切れ目が縁の切れ目と言いますが、マクロの話でも通用するんだなと思い、少し驚きました。
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2014年3月8日 6:27 PM
幾ら綺麗ごとを言っても、相容れないものは相容れないし、理解しあえない者は理解しあえない。人種、民族、宗教、宗派、帰属意識の違うものが、「国民」としてやっているはずもなく、結局はユーゴスラビアのように悲惨な流血惨事を経て、分裂していくことになるだろう。野生動物は、縄張りをもって棲み分け、無用な争いを避けることで、多様な生物の存在を可能にしてきた。人間も棲み分けの回復こそ、平和への道だと認識せよ。
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