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2013年5月14日

【藤井聡】公共事業の大問題

From 藤井聡

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この度,当方の研究室で,

「公益に資する適切な公共調達制度に関する研究」

なんていう論文をまとめました.

これは,去年の四回生の学生さんの卒論だったのですが,
その内容を,以下の様な格好で,コンパクトにまとめました.
http://transm.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/images/stories/PDF_1/Fujii/201304-201306/keikakugaku_yamakawa_48.pdf

「公共調達制度」なんていうと,少々わかりにくいかもしれませんが,要するに,「政府が何かする時に,業者を選ぶ制度」のことです.

もっとあっさり言うと,公共事業やる時に,どうやって建設業者を決めるか,という制度のことです.
(↑もちろん,政府が公共事業の場合には,ということですが)

で,なんでそんな制度について,京大の卒論で研究せなあかんのか...と言いますと,この制度がちゃんとしたものでないと,結局,国民が「大損」してしまうことになるからです.

で,この制度の話は,考えれば考えるほど,ややこしぃぃぃぃ話なのです.

ここ10年,20年くらいの間,よく言われてきたのは,
「とにかく,マーケット・メカニズムを導入すりゃぁ,世の中,うまくいんっすよ!」
っていう話でした.

が,考えてみれば,そんな訳はないことは,誰だって分かります.

マーケット・メカニズムが社会にとって「必要」であって,
「百害あって一利なし」なんてことは絶対にありませんが,
だからといって,なんもかんも,マーケット・メカニズムを導入すりゃぁうまくいくなら,
師弟関係にも,友人関係にも,親戚関係にも,家族関係にも,夫婦関係にも,親子関係にも,
ぜーーーんぶマーケットメカニズムだけをぶちこみゃぁ,いいわけですが,
そんなことは絶対ありえねぇぇぇなのは,皆さんよくご理解いただけると思います.

....ということで,かの「公共調達制度」についてもマーケットメカニズムを導入しちゃったら,やっぱ,いろんな問題が起こってきてしまったのです.

....で,これを説明するとまたややこしくなるので,簡単に言いますと,例えば...

「弱い建設業者が皆,潰れていく」
→そうなると,大地震とか大雪とかがあったとき,助けられる人が,
地域からいなくなって,結局,国民が損をする.
→それと同時に,地域経済が没落していって,結局,
東京とか大阪,名古屋の経済だけが潤うことになる.

「公共事業の質が劣化していく」
→そもそもマーケットメカニズムってのは,安いものを買う,というゴールデンルールを
重視する制度ですから,どうしても,質が劣化していく危惧が高まります.
(いわゆる,ダンピングってのも起こりますが,それは結局,
質の劣化,をもたらすことが,統計的にも明らかにされています)

...ってことで,「とにかく,マーケットメカニズムやってりゃいいんだ!」なんてのは,ちと(...というかソートー),まずい訳であります.

....なんてことは,最近特に議論されてきたのですが,そんなものは,実は,とっくの昔の明治時代でも問題になってるんです!!

....ってことを,論文にまとめたのが,上記の論文であります.

そもそも明治の頃,値段だけで業者を決めるっていう単純なルールだったので,今と全く同じ様な問題が巻き起こって,それから,大正時代,昭和時代と...いろいろな議論や試行錯誤を繰り返して,ついに,1940年,公共事業で,次のような「工業組合法」なるものが適用されるようになりました.

「1940年,建設業界も工業組合法が適用されることとなった.・・・組合が中小企業も含め,業界が組織化することにより,物資の配給や工事請負の斡旋を行うことができることとなった.つまり,組合によって仕事量の分配等が決定されつつ,談合屋等,それまでの談合による弊害を取り締まりも整備することによって,「公による配給統制」が確立された.
こうして,長年問題視されてきたダンピングや,不適格業者の入札参入の弊害が是正されるとともに,戦時体制が強化される中,物資供給の安定化が図られ,業界の統制の為に組合がその役割を担っていた.」

つまり,1940年,かの対戦直前に我が国は,
「マーケット(市場)の力」
を使うだけではなく,工業組合という
「オーガニゼーション(組織)の力」
を使った公共調達制度を,確立したわけであります.

明治時代から半世紀以上をへて,ようやくたどり着いた,
我が国の公共調達制度の最高到達点....なんてことも言えるかもしれません.

....が!!

戦争に負けて,せっかく七転八倒しながらつくりあげたこの制度もおじゃん.
さらにはそれとは真逆の発想の様々な法律が我が国にインストールされ,
再び日本国民の「オーガニゼーション(組織)の力」を,政府が正式に認めながら
業者を選定することが,ものすごく難しくなってしまったのです.

....ってことで,我が国は戦後,再び明治時代の,
混沌とした公共調達制度の時代へとまいもどってしまい,
今日の様な,大混乱時代を迎えている....という次第なわけであります.

いやぁ....歴史を学ぶってのは,ホンットに大切なことですねぇ(苦笑).

....で,これから,この公共調達制度の問題はどうすりゃいいのかってってのを,この論文ではまとめたわけです.

細かい事はさておいて,ポイントは,やはり,
「オーガニゼーション(組織)の力」
を,公式に活用する方途を探る,ということであります!

(#つまり,「組織を作ってもらって,その組織に発注しつつ,その組織の公正さを随時政府がチェックしていく,という考え方ですね.ただし,難しい公共事業については,プロポーサル方式で,ガンガン技術を査定する格好も併用することが得策です!」)

....ってことで是非とも,この公共調達制度に関しましても,制度設計のご担当(?)の方々には,
歴史を振り返りつつ,
現状の問題を分析しつつ,
未来に向かって適切な制度をつくっていく....
という当たり前の取り組みを進めて行ってもらいたい....と祈念せずにはおりません.

以上,ご紹介まで!

PS
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【藤井聡】公共事業の大問題への2件のコメント

  1. 亀畠 共見 より

     今更、過去にコメントさせていただきました。色んな方のネットをみていると、不安も沸きました。 日銀人事が変わり異次元金融緩和は期待が待たれるところかもしれません、に対して政府の財政出動は(公共工事悪代官印象によるものなのか)異次元と言えるまではいかないのでしょうね。 既成世論(メディア誘導戦略)を叩きのめしてバラバラに粉砕して、もうリングの上に立たせることの無いよう場外に放るしかないですね。 しなりにしなる強靭化のお仕事が継続維持されることを願いつつ筆を置きます。 追伸。鶴田さんと似た名前なので応援してます。

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  2. wak**755 より

    以前、三橋氏のブログに同様趣旨の書きコメ書きました。>恐竜は亡んだが、同時に地球上の生物も全滅!なんてことにならなければ良いですねぇ。現代世界は社会主義・国家社会主義[中露」と新自由主義[米欧(日・亜)国際資本]が両極化しつつ、不自然に共存しています。私は構造改革などの米国の圧力で破壊されつつありますが、上記の中庸とも言える日本式資本主義を少し見直すべきだと思います。江戸時代より日本には業界毎に問屋株仲間制度がありました。米・水油・蝋燭・酢・塩・酒・・・材木・瓦・石材・・・各業界の問屋株仲間は構成員の[自治]・内部規制で維持されていました。組合加入の商家の継承者の品行性情を組合としてチェックして道楽者や怠け者の若旦那等は跡取りから排除させました。値段は適正価格を組合で決め冥加金(間接税・消費税)を組合から幕府へ納税しました。この制度は形を変えながら明治以後も続き、1940年の国家総動員法の施行まで続きました。まぁ、現代で言えば談合の原型です。国家総動員法(国家社会主義)の下では国家指定の一業種一社の独占。新自由主義になっても「winner take all」でアメリカのウォールマートやべクテル社のように他社が全て潰れるまで安値攻勢を掛け最終的に一社独占になります。最近でも大手企業(製鉄・電力・化学・・・・・)には業種ごとに何とか御三家が有ったり、競合先同士でありながら大手ユーザーの仕切りで交歓会を催したりしていました。公共工事における田中角栄・小沢一郎等の「天の声」による収賄や人権団体・闇屋界の恫喝による註文恫喝などは論外ですが、これがベストと言えるシステムが見つからない以上、日本式資本主義の手法も見直されるべきだと思います。wak**755 2012-07-13 15:06:42 [コメントをする]

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